本番に向けて
大学の講義へと行った。
茜ちゃんが話しかけてきた。
「大下君、おはよう」
「おはよう」
「演劇サークルの本番終わったんでしょ?また次の公演もあるの?」
「次は新人公演なんだよ」
「へぇ、新人公演って事は大下君も出るの?」
「・・・あみだくじでね。俺が主役に決まっちゃったんだ」
「ええー、ほんと強運だね」
「いやー、プレッシャーが凄いよ・・・。しかも恋愛物だし」
「ええー、気になるー。公演観に行ってみようかな」
「まあ下手くそな演技になるだろうけど、興味あったら観にきてよ」
そんな会話をした。
アルも観に来るって言ってたし、茜ちゃんまで・・・。
これは下手くそな演技をしたらバカにされる。
頑張って練習しないと・・・。
大学が終わり、練習場へと向かった。
「よう、主役の大下君。来たな。台詞は覚えてきたかい?」
渡辺さんが話しかけてきた。
「はい。完璧に覚えてきました・・・と言いたいところですが、まだ」
「主役なんだし、台詞は早く覚えるように。毎日トイレやお風呂にも台本持っていって早く覚えね。台本はボロボロになるまで使い込むんだ」
「は、はい」
「それじゃ、台本見ながらでいいから最初のところ、少しやってみようか。アカネと出会うシーンだ」
同じくアカネ役の同じ新人の女の子が、台詞を言う。
「その本、銀のライオンと星。好きなの?」
「うん、子供の頃、母さんに読んでもらった事は覚えてるんだ。俺、母さん小さい頃に亡くしてるから」
「そっか・・・」
「はい、ストップー。大下君。俺、母さん小さい頃に亡くしてるからって言い方なんだけど、もうちょっと間が欲しいね。それから切ない感じも出してね。もう一回いこうか」
「その本、銀のライオンと星。好きなの?」
「うん、子供の頃、母さんに読んでもらった事は覚えてるんだ。・・・俺、母さん小さい頃に亡くしてるから」
「はい、いいよー。大下君、なかなか飲み込みが早いね。いいね。後は台詞覚えてきてくれるともっといい」
「は、はい」
練習が終わり、帰ってきた。
やっぱり台詞は早く覚えた方がいいよな。
よし・・・
「ただいま。アル。台詞覚えるの手伝ってくれよ」
【あら、やる気じゃない。あんた精霊に台詞覚えるの手伝ってもらえるだなんて光栄に思いなさいよ】
「ありがたや、ありがたやー。頼む」
俺は台詞を必死に覚えようと頑張った。
「えっ・・・。白血病・・・?そんな。治るんですか?」
「俺さ、お前と話してると・・・何だっけ・・・」
バチンッ!!
「痛ぇええ!!!あああ!!!!何だっけ」
【俺さ、お前と話してると自然体でいれるっていうか、なんか楽しいよ。でしょ】
「ああ、そっか。もう一回」
アルによるスパルタ静電気暗記術で、強引に頭の中に台詞を叩きこんでいく。
こんな台詞の覚え方をする役者は、もちろん世界に俺一人だろう。
大学が終わってサークルで練習して、帰ったらアルと台詞の確認。
こんな生活を繰り返して日々は過ぎていった。




