土の匂い
家に帰ってきた。
「ただいま」
【あら、帰ったのね】
「さっき帰り道の本屋でサイン会があってさ、満月由美子に会ったよ」
【・・・そう。やっぱり近くにいたのね。何か特殊な気配がしたからそうじゃないかと思ってたの】
「へぇ、やっぱ分かるものなの?なんか他の人間と違うの?」
【そうね。人間で例えるならば一番近い感じとして匂いかしら。人間の匂いじゃなくて自然の大地のような土の匂いっていうのかしら。そんな感じね】
「あー、そういえば満月由美子って土地を移動してパワーもらってるとか言ってたよな。大地の力を借りてるみたいな?」
【そうね。彼女はきっと大地の力の影響を受けやすい特殊な体質なんじゃないかしら】
「でさ、なんか大きな力を俺から感じるって言っててさ。なんかアルの存在に少し気づいてたのかも。まあ気のせいかなとも言ってたけど」
【・・・・・あら、そう】
「まああんまり気にすることじゃないよな」
【・・・・・そうね。そんな事よりもあんた、今晩は何作るのよ】
「あなごの梅しそ巻きにしてみようかな」
【やるじゃないの。どんどんレパートリー増えてきてるじゃない】
「まあな。俺が本気出せばこんなものよ」
さっと料理して食べて大学のレポートを片付けた。
机の上をふと見ると、すっかり忘れていた劇団黒薔薇のチケットがあることに気が付いた。
「あっ・・・そういやこんなのもらったな。いつやるんだっけ」
今週の日曜日か。
チケット一枚だけだし、誰も誘えないから一人で行かないとな。
まあどうせ日曜も暇だし、行ってみてもいいか。
どうせ無料だし、少しは暇つぶしにはなるだろう。
そんなことを考えながら風呂に入って眠った。