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勇者召喚から始まる異世界冒険譚  作者: ディルフ
慎重の章
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4ページ 創造神と大魔王

遅くなってすみません………


 俺、大場直流の前世は異世界の大魔王。全ての命あるものを恐怖の底に突き落とし、神々に属する者達を滅ぼし尽くした。

 そう後世には伝わっているらしい。神話を聞く限り、正しいのは暗黒神を滅ぼした事。いや、喰らったことぐらいだ。


 あれは俺が生まれて1000万経った頃だった。あの頃の俺はまだ平和など望んではいなかった。だから、俺はあの時、天空城へと攻め入ったのだ。

 それこそが正しい俺にとって唯一の存在意義だと信じて。




 天空城に攻め入った俺は落胆していた。天空城にいる神々は精鋭揃いだと聞いていた。だが、いたのは取るに足らない雑兵ばかりだった。

 殴り飛ばした拳圧だけでその半数は消え去っていった。創造神も大した存在ではないのだろう。俺はそう高を括っていた。

 創造神―――インフェは攻撃をしてこなかった。ただただ防御結界を張り、俺の攻撃を受け続けた。

 俺が防御結界を貫けぬことを察したのは三日後だった。俺が攻撃の手を休めた時。インフェは俺に問いかけた。


「あなたは何を望む?」

「我が望むは破壊。全ての神々の破壊なり。我の存在の意義は破壊にあり」


 そう俺はただの機械のように命令された通りに動き、作戦の弊害になるものは破壊し尽くす。暗黒神とは自らの創造主であり、絶対。暗黒神の言ったことは全て正しい、命令を実行できなかったら自害も辞さないつもりでいた。

 ―――――創造神インフェと出会うまでは。


「あなたにとっての正義とは何?」

「正義とは暗黒神ダークマー様なり。それ以外に正義などない。あの御方こそ神の中の神」

「……悲しい人。世界を知らないのね。狭い世界でしか生きられない悲しい人。暗黒神ダークマーは…創るべきではなかった」

「なに……?」

「闇を創らなければ光のみの世界を創ることが出来た。私は過ちを犯してしまった」

「………光あるところに闇は生まれる。貴様のやったことは闇の誕生を早めたに過ぎん。貴様が創らずとも我らは誕生した」

「………慰めてくるの?」

「それは違う。我はただ事実を述べたのみだ」

「……それでも……それでもありがとう。感謝する」


 インフェはそう俺に微笑んだ。敵に礼を言うなど此奴はどうかしている。ダークマー様が見限る理由もよくわかる。

 そう思ったのだが………同時に俺はインフェに対しての戦意や敵意などを無くした。

 何故だかはわからないがその時の俺はインフェの言葉に耳を傾けた。インフェとはたくさんの言葉を交わし、気がついた時には友となった。

 しかし、インフェと友でいられる時間はあまりにも少なかった。

 インフェの部下の1人が俺達が仲良さそうに話しているのを見てしまったんだ。まあ、結界なんか何も張っていなかったんだからそれも当たり前のことなんだけどな。

 そんなことすら忘れてしまうくらいに楽しかったんだ。

 そのあとは一瞬だった。


「インフェ様が、バール・リーザルと密談をなさっている!まさか……インフェ様は我々を裏切った……の…か?」

「そんなことあるはずが………」

「いや、しかし……」


 神々達は初めは信じていなかったが、目撃者の神の証言により、噂だったものはやがて真実となった。

 そして、何も知らない俺とインフェの最後の日はやってくる。


「バール?…どうしたの?震えている?」

「いや…な。なんだか嫌な予感がするのだ」

「大魔王の嫌な予感なんてこわい」

「創造神がよく言う」

「ふふふ」


 俺と創造神は完全に打ち解けていた。それもそうだ。飲まず食わず寝ずにでも活動出来る俺達はひたすらに語り合った。

 そして俺はインフェから常識と感情をもらい。インフェは俺から他人の温もりを思い出した。

 10年の間もそんな幸せな時間が続き、俺達は互いが敵同士であったことも忘れた。

 ―――永遠に思えたその時間は唐突に終わりを告げた。

 神々が玉座の間―――俺とインフェがいた場所―――の扉を開け放ったのだ。インフェが最初に創った十二柱のうちでも最上位の二柱、全能神のオーバと全知神のロート。


「あ!オーバ!ロート!丁度いいところにきて――――え?」


 何が起こったのかわからなかった。理解もしたくなかった。無防備に近付いたインフェの胸を全能神が貫いたのだ。

 全く予想すらしていなかった。俺は体が動かなかった。


「おいおい、ロート本当にインフェ様が大魔王と話してたぞ?でも、こんなことしていいのか?」

「な……なん…で?オー…バ?ロート…?」

「……インフェ様。私の知識の中には裏切り者には死。という言葉がございます」


 俺はその時になって漸く動けた。オーバの手を引きちぎり、インフェを奪い去る、その手を強く握りながら叫んだ。


「インフェ…!!インフェ…!!」

「……神核…を…潰…され…ちゃ……った…」

「すぐに治す…!任せておけ!俺は大魔王だ」

「ダメなの……神核を……潰され…た…ら…死んで……しまう…の…」


 俺は何も言葉が見つからなかった。初めて出来た友は自らの死を受け入れていたのだ。俺はひたすらに回復魔法をかけ続けた。崩れゆく体へ、無言にひたすらに。自らの死を受け入れた友のそれを、止める言葉を俺は持たなかった。


「バール……どうか…どう……か…彼らを……許し…てあげ…て……?これ…は…勘……違い…な…の…。神でも……間違え…ちゃう…の…。だから…どうか……ど…う…か……」


 インフェはそれ以来目を開けなかった。俺はインフェを抱きしめた。


「おい、ロート。この大魔王どうする?」

「八つ裂きにしろ。………それにしても愚かな女だ」

「……なん…だと?全知神よ、貴様…今なんと?」

「愚かな女だと言った。魔の者と手を取り合うだと…?そんな愚かなことがあるか!?貴様らは滅ぼすべき者達だ!」

「き……貴様………貴様等……一体何様のつもりだぁあああ!!!」


 俺は魔力を全て解放した。全力での戦いではなく、自らの怒りに身を委ねた破壊。


「我、暴力を知り、汝、友愛を知る」


 怒りに身を任せ、俺は神々達に最大最凶の技をぶつける。


「これは……まずいですね………オーバ!他の神々達もです!全力で魔力障壁を張りなさい!」


 全知神のロートが逸早く危険性に気付き叫ぶ。


「我、争いを望み、汝、平和を願う」


 俺は怒りでまともな思考は消えていたが、この技から守るため、インフェに魔力障壁を張った。


「世界に救いは訪れず、闇に包まれる。それを示すはこの一撃」


 ―――何故だ。何故インフェがこんな目に。彼女は何故、何故信じていた者に……ああ……なんだこの気持ちは……なんなんだこの気持ちは!!!!!


「ダークネスフィアーワールド!!」


 俺の右腕から闇が解き放たれる。それは神々達を包み込みそれらを消し去った。闇に呑まれる直前に全知神が何かを言っていた。


「……バ、バカな!!大魔王にこんな力があるなどという報告は……!!!!ま…まさか破壊し―――」


 その先は消えたあとで何も聞こえなかった。

 インフェの遺体は自らで作った迷宮の奥深くに安置した。もちろん守りの魔法を張って。

 その後、俺は暗黒神ダークマーの元へと戻った。奴は俺を笑顔で迎えた。


「よくやった!我が息子よ!素晴らしい!素晴らしいぞ!!!」

「………収奪プランダー


 俺は暗黒神ダークマーの神核を抜き取った。


「な……ぜ…!?」

「何故?何故だと?貴様がそれを問うか!!それはこちらの台詞だ!!貴様何故!!何故俺にあんな命令を降した?貴様があんな命令を降さなければ俺は……俺はこんな気持ちに合わずにすんだんだぁあああ!!!何故、なぜぇええぇぇええええ!!」


 それは最早八つ当たりだと自分でもわかっていた。神核を潰し、暗黒神の体と共に神核の欠片を焼き払った。

 そのあとはかなりの時間が経ち、怒りもなくなり、俺はいつしかインフェと同じように平和を望むようになっていた。彼女のなせなかった夢を。

 …平和とは本当に難しいものだよ…インフェ。

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