1ページ 勇者召喚
ふふふ
大魔王バール・リーザルは転生に成功した…
魔力もかつてのままである。奴に私の存在がバレたらひとたまりもないだろう。
しかし、大魔王には記憶がないようで、魔力のコントロールなどもしていない。
前世の記憶を戻さなければ問題は無い、と私はここに報告する。
ある戦神の報告書。
「あー疲れた」
そう口にするのは俺。大場直流。今はバイトが終わり、家に帰るところだ。もう少しで家に着く。
「明日からまた学校かー」
そう今日は夏休み最終日。夏休み中は一人暮らしの学費などを稼ぐ為にバイトしかしていない。と言っても高校1年生の俺は10時までしかバイトしていないのだけどね。
そう。俺はバイトしかしていない。課題?何それおいしいの?とりあえず家に帰って飯食って風呂入って歯磨いて寝よ。
―――そこは懐かしい場所だった。俺がかつていた世界の記憶。俺が大魔王バール・リーザルだった頃のもの。
俺は玉座に座っている。この玉座は………天空城の物か……?そして目の前に誰かいるな…?誰だ?そこにいるのは………。
―――帰ってきて、バール。あの世界には……貴方が必要なの。
君は……いや……お前は……イン―――
何だったんだ?今の夢は…?いや…今はそれはいい。それよりも…。
まずい。非常にまずいぞ。俺はなぜあの時すぐに寝てしまったんだ。課題?そんなものは終わっているはずがないだろう。
そんなことを考えても体は動き、時は進む。気付けばもう教室に着いてしまった。しかもいつも通り時間はギリギリだ。ふっ……課題をこれから……という訳にもいかないな。
などと俺が悟った顔でいると、不意に後ろから声をかけられた。
「おーい!すーぐーるー!!おはよー!!」
「ん?ああ、マサヨシか。おはようおはよう」
「なんか適当だな?なんかあったのか?」
スグルはすぐに何も書いていないプリントを見せる。それを見たマサヨシが突然真剣な顔になって俺にあるものを見せてきた。それは―――
「って、お前もやってねえのかよ!!!」
―――直流と同じ白紙のプリントだった。
「当たり前だろ?」
「無駄にいい顔でキメ顔すんじゃねえよ!!!」
「無駄には余計だろ!?」
二人で久しぶりの出会いの喜びとこれからの絶望を思い談笑していると、教室の扉が開き担任の陣川が入ってきた。下の名前は知らないしこの先覚えることはないだろう。なぜならこいつ、見た目はいいし仕事は出来るのだが、少し問題がある。
「全員席につけー。あーまためんどくさい日々が始まるのか―。憂鬱だあ………」
そう。極度のめんどくさがり屋なのだ。こいつのめんどくさがりは直ることはないだろう。絶対に。断言出来る。絶対にだ。
などとつまらないことを考えていると、床が光を放ち始めた。
ん?光り始めた?んん!?……これは魔法陣!?誰だこんな厨二チックなものを書いたやつは…!!しかも光るようにして!電気だってタダじゃないんだぞ!全く困ったやつもいたものだ。
教室が騒がしくなる。当然だ。教室の床に突如魔法陣的な何かが出てきたら普通は誰でも驚く。
教室を出ようとする者がいたがドアも窓も開かない。
そんな中ですぐスグルは床に触れる。誰も見ておらず、誰にも聞こえない程の声でスグルはスキルを発動する。
「収奪!!」
その後、光が強まりとても目を開けていられなかったので目を閉じた。徐々に光が弱まり、光が弱くなったので目を開ける。
するとそこには、数十人のローブを身にまとった者達と、いかにも王と言った感じのおじさんといかにも姫と言った感じの少女?がいた。
ここは……。
「皆様、私達の国を助けて頂けませんか?」
姫みたいな子の名は姫でカーミュラと言うらしい。その隣にいたおじさんは王様だった。王の名は……えーと…なんだっけ?
……とりあえず!カーミュラが言うには人類は今、魔物王、悪魔王、魔人王という三人の魔王に脅かされ過ごしているらしい。
自分達の世界の人間ではどうしようもないと悟り、俺達を呼び出すことにしたらしい。
「しかし、俺達は戦争などない平和な国から来たんだ。そんな力はない」
陣川がそう言う。当然の答えだ。それに対する姫の答えは…
「それに関しては問題ありません。世界線を超えた際に魂が強化され、それに伴い身体も強化されております。それに……異世界よりこられた方々は必ずオリジナルスキルというものをお持ちになられるのです」
へえ。そうなのか?でもその力が何か分からないんじゃ使いようがないよな?
「手に入れた力は目を閉じ、意識することでどのような名前、能力なのか知ることができます。良ければ教えてくださると非常に助かります」
よし、意識を………
『武器創造』
武器を創造することが出来る。しかし、作る物についてある程度知らなければならない。
便利そうな能力だけどある程度ってどの程度だ?……わからないな。っと、皆律儀に報告しにいってるな。俺も行くか。
「おい!スグル!おーい!」
「ん?マサヨシか。どうした?」
「お前どんなスキルだ!?」
「武器創造だけど……」
「俺のはな!『戦神』ってスキルだぜ!!戦いに特化してるみたいだ!」
あー。確かにこいつには考え事とかは無理そうだしな。殴った方が早いとか言いそうだ。
詳しい話しは明日ということになり、一人一部屋与えられた部屋で眠ることになった。
……さてと。そろそろ部屋を出よう。王城を探索だ!ただ探索するだけじゃない。召喚の時に床にあった術式には洗脳の術式が巧妙に隠されていた。俺が見つけなきゃ誰も気付かなかったぞ、多分。
だから収奪で洗脳の術式だけ抜き取った。そして、それについて今から探りに行くのだ
隠密の技などはあちらの世界で手に入れているので、問題は無い。
それにしてもこの城は相変わらず広いなー。ん?なんかあの部屋…明かりがついている……?そして、少し強い魔力を感じるな…ちょっと見てみるか。
「アルズ様。どうやら彼らに洗脳の術式は作動していないようです」
「……何故だ?発動した際には洗脳の術式は確かに組み込まれていた。しかし、消える際には洗脳の術式は存在していなかった…ということか?」
「異世界の者達は皆特別な力を有しているとのこと、それで防がれたのでは?」
「いや、見たところそんなものの存在は知らないようだった。使えるはずがない」
「……王に伝えていないこの作戦の失敗は痛いですね」
「……ああ。だが、まだ諦める訳にはいかない。俺は……俺は必ず……!」
……あれはこいつら二人の仕業か。しかし、一体なぜだ?
……今は考えてもわからないな…情報が少なすぎる。部屋に戻るか……。
―――!?不意に邪悪な魔力を感じた。なんだかよくない奴が来たみたいだな…。この魔力ははおそらく……。
「おい、誰だお前」
俺が後ろから声をかけると、全く隠れる気もないような“悪魔”が振り返った。
「ん?お前ここの人間か?おー!よかったよかった。よければ今日召喚された異世界人について教えてくれないか?」
そんな言葉を投げかけてくるのはスーツのようなものに身を包んだ肌黒の男。簡単に後ろを取られ、後ろから声をかけられてなお、男は余裕を崩さない。自分の実力にそれほど自信があるのだろう。
その男には人間にないものが3つ。
「……悪魔か」
「お!よくわかったな!その通りだ!だが惜しい…」
角。黒い翼。尻尾。そしてその3つがついている種族は1つ。悪魔。悪魔王の配下であり人間の天敵。それが惜しいということは…。
「ただの悪魔族か」
「ただの…だと!?貴様はいったい何者だ!?」
「まあ、俺も前世は全ての魔王を束ねる悪魔の王だったからな」
「面白いこと言うな?そんなのはまるで大昔の大魔王じゃねえか」
「……バール・リーザルか?」
「……なぜその名を知っている。それは魔に連なる者たちしか知らぬはずだぞ?」
「本人だからな」
「な、なめた口を聞きやがってぇええええ!その名を名乗ることは絶対に許されない!!!」
「すぐにキレるなって。カルシウムが足りてないんじゃないか…?」
悪魔族の男は怒りを叫びながら、拳に魔力を込めて殴りかかってくる。普通の人間はこれで肉片と化すだろう。だが…。
「な、なぜ受け止めることができる!?お前からは全く魔力を感じな―――!?」
「やっと気付いたか愚か者め。俺の魔力を感じることが出来ない、その時点で貴様の負けだ」
そう。この世界では生き物は誰でも魔力を持っている。魔力を持っている限り、魔力を感じることが出来るのだ。しかし、自分より魔力の扱いが上の者の魔力は抑えられていれば感じることはできない。
「…魔力の扱いがどれほど上手くても戦闘技術が低ければ意味は無い!!!」
「……貴様まだ気付かないのか?」
「…何?」
「魔力を纏ったお前の拳を俺はどうやって受け止めている?」
「――!?ぐっ…!」
「そういうことだ」
それは、身体的な魔力の扱いが上であることを意味する言葉だった。
「まさか、戦闘技術も俺より…上……!?!!?」
「その通りだ」
「そ、そんなバ、カなぁあ…」
「受け取れ」
俺は城下町の外に悪魔族の男をその場から蹴り飛ばす。どんなに魔力があろうとも、その使い方がなっていなければ意味は無い。
「がぁああ……ぐ…くっそぉおおおお!俺が!この悪魔王十傑衆の序列1位である俺がぁあああ!!」
「喚くな。見苦しいぞ。だが仕方はない。俺は元大魔王だ」
「うぅぅぅうぉおおおおおお!俺の全てをかけて!貴様だけは消し飛ばすぅううううう!かぁああ………!!!!」
悪魔族の男は全ての魔力を解き放ち、大魔術を放つ準備を始める。しかし、俺はこの程度問題ない。
「収奪」
「!?!!?!??」
悪魔族の男の周り。いや、悪魔族の男から魔力の反応がなくなった。
「何。驚くことはない。お前から魔力を奪い去った迄だ」
「な、なななぁぁあああ!?!!?」
「ふむ。お前が使おうとしたのはこの魔法だろう?」
「!?」
悪魔族の男が放った魔力と同じ大きさで魔法の発動準備が整っていく。
「お前の魔力。その身に返してやろう」
左手を天にかざし、魔力を放つ。
「ダークインフェルノ」
天に向かって行った黒炎は渦を描きながら悪魔族に向かう。
「ぐがががぎごがぁあぎゃざじゃぁぁあああああ!?!!?!!」
人族が闇魔法を使ったことに驚く暇もなく、悪魔族の男は絶叫を上げながら闇に呑まれていった。
俺は明日に備えるべく、王城へと足を向けた。
ふう、大変だったあ