終わりの始まり
ローファンタジーにスルツモリダッタノニ!
ここは天空城。この世界のどこよりも神に近く、どこよりも悪魔に遠い場所。
この世界の共通認識ではそうなっている。どの種族の子供や大人。老人に至るまでもが知っている事実。いや、それも今では過去のこと。
その神聖なる城の玉座に腰を下ろすのはこの世界を恐怖に陥れた、悪逆非道な大魔王バール・リーザル。
この玉座には本来ならば腰を下ろすことができない悪魔。城に入るだけならば、悪魔であっても問題は無い。しかし、玉座には座ることができない。
彼がこの椅子に座ることが出来る理由。それは、彼がこの世界の世界樹を喰らったから。いや、正確には聖と魔。両方の力を秘めている世界樹からその力を奪い去ったのだ。その結果。聖の力を取り込んだ彼はその足で天空城に攻め込み、天空城を護っていた天使達と神の一柱を滅ぼした。
彼は玉座から立ち上がり、少し上を見つめて考え事をした後、何処かに転移した。
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ここは人族の国、アーラック王国の南西にある森、グロウズ大森林。その奥深くにある小屋の前に彼は姿を表した。扉を開き、中に入ると、白髪に黒目の男が椅子に座っていた。
「………来たか…」
「……待たせたな」
彼は男の前に立ち、目を閉じる。そんな彼を見上げて男は口を開く。
「…異世界からこの世界に来て70年も経ってしまった。お前と会ったのは俺がこっちに来てから5年経った頃だったか?」
「…ああ。俺が気紛れで戦場に行った時だったな」
「俺とお前は世界の平和を望んでいた。王国から伝えられたお前の情報とお前の願いが全く違うから俺は驚いたもんだ」
男は70年前にアーラック王国に異世界から召喚された勇者。名前は新藤真。異世界から召喚された身であっても、勇者はこの世界の平和を望んだ。その為に剣を振るい、魔族を殺した。殺した魔族の数千倍の人々を救い、勇者は人族達の希望となった。
勇者は人々の為に剣を振るい続け、その果てに辿り着いたのは裏切りだった。アーラック王国に裏切られ、国を追放された。大きくなりすぎた勇者の力を恐れてのことだ。
それでも勇者は人族を守り、導く事をやめなかった。そんな中、1つの戦場で大魔王と出会った。彼らは激しくぶつかりあった。先に膝をついたのは勇者だった。
そんな勇者を見て、大魔王は問いかけた。「お前は世界の平和を望むのか」と。勇者は答えた。「当たり前だ」と。その後、彼らは互いに世界の為に動き始めた。
「……我が友よ。この力をお前に託そう。俺は見ての通り、歳をとりすぎちまった。この巨大な力を今じゃ押さえつけるので精一杯だ。この力でお前が何をしようとも俺はお前を恨まないと誓おう」
「収奪」
「それで俺の力が使えるはずだ。俺の固有能力である吸収を使え」
「……吸収」
大魔王は勇者を吸収した。収奪だけでは奪えない勇者の力の全てを取り込んだ。彼はさっきまで使われていた椅子をしばらく見つめたあと、天空城へと転移した。
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玉座に転移した彼は天空城の周りにいる気配を感じ取った。天空城の外に転移、そのまま三柱の神と、多くの天使達と向かい合った。
「ああ!愚かなる大魔王よ。悔い改めると言うのならば楽に消滅させてやろう」
「ここにはおめえ以外にはいねえみてーだな?そんな状況で俺達三柱の神に勝てるか?」
「降参しても恥ずべきことではないわよ?むしろ褒めてあげたくなっちゃうなあ!!」
「………」
彼は自分の愛剣を呼び出す。その名は破滅剣カタストロフ。それは彼が嘗て創った魔剣の1つだったものが彼の魔力を浴びて魔剣のその先へと進化したもの。それは前方の三柱の神に向ける。
「!総員よけよ!あの攻撃は―――――」
その言葉が最後まで語られることはなかった。ただ、神の一柱が破滅剣の脅威に気付き、注意を呼びかけた時に彼の声が聞こえた。
「滅ぼせ。カタストロフ」
破滅剣から闇の力が溢れ出す。闇の力を神と天使達に向けて解放。前方にいた者達は全て消え去っていた。それを見た天使達は、神が滅ぼされたのを見て、彼方へ逃げて行った。
彼は玉座の前に転移し、玉座に座り思考を巡らせる。
「……この体と、この神々の天空城を片付けねばな。……全力の力を使うのは生まれて初めて、か」
彼は玉座から立ち上がり目を閉じる。そして魔力を解放していく。溢れ出し、周囲に散っていこうとする魔力を自分の周りに凝縮する。
「ぐぐぐ…ぬううう……」
凝縮された圧倒的な魔力を感知した神々や天使達が天空城に突入する。そして、玉座の間に飛び込み、大魔王の姿を目にする。大魔王はニヤリと笑い、神々が声を出すよりも先に叫ぶ。
「終局大魔法!!!スタートオブエンド!!!」
凝縮した魔力を全て解き放つ。それは彼と神々と天使と天空城の全てを飲み込み、消滅させた。大魔王は目を閉じる。晴れ晴れとした笑顔のまま。
しかし、彼は目を開けた。そこは明るく前が見えない場所だった。眩しさに顔を顰めていると、影が差し、なんとか目を開けることが出来た。
彼の目に飛び込んで来たのは人族の女。その人族の女はこう口にした。
「はーい!私があなたのママでちゅよー。ほら!パパ!泣いてないでこっちに来て!もう!……すぐるちゃん。元気に生まれてくれてありがとうね」
彼は微かに微笑み、静かに目を閉じた。
なかなか良い滑り出し?