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Myth&Magic→俺は穏やかな学園生活を送りたいんですけど!  作者: 大川暗弓
テンプレな学園生活の始まり方
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己と”  ”の声

 超引っ込み思案な先生の絶叫にも似たエールから数分後、俺は指定闘技の準備をするため闘技場の準備室に向かっていた。例の先生と一緒に。


 「先生、いきなりで悪いんですが、先生の名前教えてもらっていいですか?先生のことを呼ぶのに流石に不便ですし、担任の名前を知らないのは流石になぁと思いまして。」


 俺が言うなり先生はびくっと背筋を震わせて、その通りに読んでいただろう紙を取り出すした。そして俺のことを一瞥した後、紙にもう一度視線を戻し、すぐに今にも涙がこぼれそうな、うるっとした瞳をもう一度こちらに向けると、弱々しい声で聞いてきた。


 「わ.......わたし.........自己紹介.............していなかった......?」


 「はい。」


 正直そんな目線を向けられ、え?うそ?みたいな感じで質問されても困るのだが、まあキッパリと答える以外俺には、いい答え方が浮かばなかった。多分こういう所がもてないんだろうな、俺って。


 「まあ、過ぎたことを考えても仕方がないんでせめて、俺にだけでも教えてくれませんか?先生が良いなら、先生が言わなくてもいいように後で俺がクラスメイトに先生の名前を教えておくので。」


 「それは...私の....せいだから...........私に....話させて....あと......わたしの.........名前は......唐取アゲハ。わたしのことは.........名字..でもいいし.........名前呼びでも.......いいから。」


 「あ-、はい。なんかよく分からない程の友達的な感覚になってますけど、先生なのでアゲハ先生ってことで。」

 

 結局こんな自己紹介まがいの話を先生としていただけで準備室まで着いてしまった。


 「あの、アゲハ先生。二つほどお願いがあるんですけど。」


 俺がこう言っただけで、先生はたじろぐ。大人になってもこんな可愛い反応が出来るなんて、なんてうぶなのだなんて思いつつ、俺は今すぐ最優先でしなければいけないことを心に留める。


 「.....なんでしょうか?」


 「闘技開始の時刻までにここに戻ってくれば、どこか別の場所で体を動かしても良いのでしょうか?」


 「それは.....構いませんけど.....。ちゃんと.....開始の時刻までに.......戻ってきてくださいね。」


 「それともう一つなんですけど...........」

 




 そして、あと10分で決闘が始まる。俺はというと、決闘前の心構えは完璧、体もしっかり伸ばしたし、やることはやった。そう、やった.........んだ。なのに、どうしてこうなった。


 ーーーーーーー俺は校舎内で迷っていた。


 「まじで、この学校の校舎広すぎだろ!慣れてくれば良いんだろうけど、新入生の生徒を泣かせるような設計にしているんじゃないか?これ。」


 もちろん、そんな設計にしているはずはないが、迷いやすい設計というのも事実である。この学園は国立の魔法学園なのである。地理的に制圧されにくくしたり、様々な実験施設があるのは、いた仕方の無いことである。機密資料もあるだろうし、もしこの学園が占領されようものなら、国の軟弱さが証明されるようなものである。とはいえ、この学園はある程度のテロリストを押さえるだけの力を持つ生徒がいるのも事実で、将来的にそういった勢力に対抗するために、戦闘科こと1科があるのだから。 


 「もう時間が無い!本当にどうしよう.......。」


 本当に時間が無いのである。それでもなお、余計なことを考えられていたのは俺の才能の一種だと思っている。俺だけは。


 「おい、叶翔!」


 入学したてで俺のことをこんな名前呼びする男は一人しかいない。いやー、秋ってまじで天使w


 「お前、こんなとこでいったい何やってたんだよ?とりあえず走るぞ。話は走りながらだ。」


 



 私、春川純麗はここ数年、体験しとこともないほどに、落ち着くことが出来なかった。こんなにも、もやもやした気持ちは久しぶりだ。理由はきっと橘叶翔のことだろう。彼は違うと言ったし、私もそうだと分かっていたはずなのに、どうしても橘君を彼に重ねてしまう。もちろん、橘君は次席だとしても、私のような特殊な立場では無いだろうし、私に対するイメージはきっと”怪物”という、一般的なものなのだろう。だけど、どうしてか、それがどうにも私は気にくわなかった。こんな気持ちで戦いに挑んではいけないことなど分かってはいるが、どうしようも無い。そんな時、純麗の気持ちをかき消すような明るい実況の声が入ってきた。


 「そろそろかな。」


 実況のように明るい声では無いが、それでも声を出してやる気を入れる。

 準備室から抜けて、闘技館に入った瞬間、大きな声援が飛び込んでくる。しかし、空はまだ雲に覆われてもやもやしたものがひしめき合っていた。



「それでは、これから新入生代表の指定闘技を始めます!会場の生徒のみんな、新たな時代を目にする準備はいいか!?」


 この言葉で会場が歓声の渦に包まれる。すごい盛り上がりだ。この学校では戦いはそう珍しくも無いが、形式としての闘技と呼ばれる形の戦いはそう多く見られるものでは無い。だからこそ、この歓声なのだ。それにこれは一年生を無理矢理この学園の雰囲気に慣れさせ、取り込む二、三年生の歓迎の意味も含まれている。騒いでる奴らに限ってそんなことは1ミリも考えていないだろうが。


 「まず、右手側から登場するのは!あの四季族の生まれ、春川家の長女にして、誰もがすれ違い様振り返るその容姿!そして何より一年生にして契授けいじゅ:イザナミを持つ 春川純麗選手だ!」


 実況の声とともに春川純麗ゲートから出て、その姿を現す。その瞬間会場はすさまじい歓声に包まれる。

 だが、そんな歓声を遮るように実況が連絡を伝える。


 「え-。橘選手ですが、ただいま準備室に着きましたので、もうしばらくお待ちください。」


 会場はすぐに冷たい空気が漂った。否、春川純麗の登場の熱狂による熱い空気が凍り付いた。それは誰の意思も介在しない出来事だった。ーーたった一人、春川純麗を除いては。そう、彼女が熱気に湧いた会場の空気を一瞬で凍り付かせたのだ。もちろん彼女は会場を静めようと意図的に起こしたのではない。ただ、彼女は無意識で会場を静めたのだ。彼女自身もそのことに気づかずに。実況ですら、そのことはたやすく理解できた。いや、理解出来なかった。一瞬の一人の少女の雰囲気が変わっただけで、ただ思考が止まったのだ。そんなこと理解しようと、出来るものではない。

 この静寂は橘叶翔が現れるまで破られることはなく、空の雲だけが時間の流れにそって流れていた。



 ありえない。ありえない。ありえない......。

 なぜ彼は時間通りに現れなかったのか。この指定闘技は毎年行われている由緒正しき物だ。だから、それを乱すことは許されない。先生は気にしなくていいと言ってくれたが、私はこの指定闘技を先輩との手合わせに使うという、半ばジンクスのようになっていたものを破ってしまったことと、理由はあれど、私の頭に血が上ってしまっただけで指定闘技の相手を決めてしまったという少し罪悪感を感じていた。だからこそ、彼がどれほどの実力を持ち合わせているかは分からないが、私が勝とうと負けようと全力をかけて戦うことでそれを償う形で払おうとしていたのだ。なのに......

 ーーーこれが八つ当たりなのは分かっている。だめだって分かってる。

 ーーー私は嫌なのに、怪物呼ばわりしてくるやつらが悪い。

 ーーーだから、彼を倒すんだ。やつらと同じ怪物呼ばわりした彼を。

 ーーー本当は知っている。彼の実力など、たかが知れていることを。この戦いが一方的になることも。

 ーーー私は何も悪くない。私は全て正しいんだ。力ある物がこの世界のルールなのだから。


 彼女は正しかった。ただ、一つだけ徹底的に間違っていた。


 瞬間、彼女の心が悲鳴を上げ、声にならない悲鳴が憎しみに変わった。

 


  「おっと、いきなり橘選手が現れました。」


 叶翔の登場によって純麗による静寂が破られた。その歓声は彼女ほどでは無いが、それでも十分なほどの大きさだった。


 「橘叶翔、理由は聞かない。もう聞いてもどうしようもないから。だから、早くして。」


 その言葉は呆れや怒りのようなものは含まれておらず、実に淡々としたものだった。


 「待って、春川さん。その前に話しておかないといけないことがあるんだけど。」


 「早く。」


 そういって、術応剣を突きだしてきた。それに目が本気だ。それだけで、この戦いの意気込みが分かる。だけど、そこには透き通った彼女の綺麗な目に曇りが生じているように見えた。


 「分かったけど、もう準備は出来てるよ。」


 「何よそれ。私をなめているの?」


 「そんな訳ないよ。春川さんの強いのは重々承知だよ。だけど俺は剣が持てなくてね。」


 「じゃあ、なんで戦わないといけないⅠ科に入ったのよ?」


 「俺は入ったのはⅡ科だよ。」


 「!?」


 彼女だけじゃなく、会場全体がどよめいた。無理もないはずだ。入試試験はⅠ科、Ⅱ科は同じ物で、Ⅲ科は全く違う物なので、入試試験の1位、つまり新入生代表はⅠ科かⅡ科から出されるのだが、Ⅰ科にはそこからさらに体術などの試験の点数が追加されるので、普通Ⅱ科の人がⅠ科の上位の人を抜くことは不可能に近いのだ。


 「それで、あなたはこの戦いを止める気?」


 「そんな訳。ここに立っている以上覚悟は出来ている。」


 瞬間彼女が心なしかほほえんだように見える。


 「じゃあ、早く始めましょう。」

 

 彼がⅡ科だったのは正直に驚いた。だけど、それならさらに都合が良い。これで負けは無くなった。

 そっと右手を軽く握り、胸に当てる。

 瞬間、声が聞こえる。私にしか聞こえない声、イザナミの声が。

 

 ーーー汝の光を示せ。

 

 軽く握った手を伸ばし、胸の中で答えに答えるように手を開いていく。


 ーーー我の光はここに。仇なすを討つ勾玉となれ。


 砂のように光が落ち、その光を微かに帯びながら幾多の勾玉が形成される。これこそが春川純麗の契約するイザナミの授具けいぐ八尺瓊勾玉やさかにのまがたま

 戦いの火蓋は落とされた。

お読みいただきありがとうございました!最近は忙しくてなかなか書く時間が無くて大変ですが、頑張ります!アニメとかもたまってるから見ないと......。やることいっぱいで大変ですw 感想や指摘いただけると励みになりますのでお願いします!

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