......面倒くさい人
俺、こと橘叶翔は今まさに困惑していた。
いきなり新しい学校で今までの仲の良かった秋と奏と離ればなれになってしまったので、自分のクラスになじめるかどうかは新入生にとってはどの年代でも大きな問題だろう。
俺はⅡ科だけど、秋はⅠ科だし、奏はⅢ科でそのクラスに行くまでに遠いしな....。それにこんな呆然と考えてる状況じゃないだよな。
俺は決して極度の人見知りで誰に声を掛けようかと迷うというほど、人見知りではない。それは俺自身でも分かっていることだ。しかし、たった今俺は誰に声を掛ければいいか迷っていた。
なぜなら、俺はほとんどのクラスメイトに囲まれて質問攻めにあっていたからだ。
最初はみんな膠着状態という感じでお互い声を掛けずらかったが、それはクラスでもともと知り合いなのかは分からないが仲の良さそうな女子三人に崩された。それからはクラスのみんなというみんなが俺の方にダムの崩壊するような勢いでなだれて込んできた。もちろん、多くの人が来たので、質問の量も多く、誰がどの質問をしたのか、質問の答えを考える時間さえ与えてくれず、答えようととすると誰がどの質問をしたのか分からないので、答えられない始末だ。
ーーああ、そうだ。クラスメイトたちを大根だと思って答えれば何もかも上手くいくはずだ。
ふとこんな思考がよぎるほどに俺の思考はパニックに陥っていた。
このクラスの人たちと仲良くなりたかったのはもちろんのこと、誰かに話しかけに行く必要が無い以上、役得だと思うのは当然だと思うが、思うけど......それでもこんなことなら自分から話しかけに行く方がましだというのが俺の本音だ。そして、今まさに俺はどこぞの漫画やドラマで出てくる超イケメンor超美人転校生の気分を体験していた。
本当なら、うらやましい転校生の状況がこれほどまで壮絶だったとはおまえらも想像以上に苦労しているんだな......。
俺が自分のどうでもいい嘆きに思いを馳せていると、やっと女子生徒の一人が助け船を出してくれた。
「ちょーと、みんな。そろそろホームルーム始まるから先生も来るし、席に着いた方がいいよ。」
その声音は相手を不快にさせない程度に強いもので、みんなその言葉で我に返ったのか、「また、後でね~」なんて言葉を返しながら、自分の席に戻っていった。助け船を出してくれた女子生徒はクラスメイトが各々の席に戻っていくのを確認すると俺に向かってかは分からないが、軽くウィンクして隣の席に座った。みんなさっきのことで緊張が解けたのか少し周りの人と雑談している人が増えた気がした。俺はというとさっき助けてもらったことを考えていた。
「ほんとに、女子のウィンクって破壊力抜群だな......」
そんなことを口にすると隣の女子には聞こえていたのか、少し紅潮している顔を潜めながら俺の肩をとんとんと叩いてきた。
「ちょっとだけ調子に乗ってやっちゃったんだから、あまり口にしないでよね。」
その口調は俺を諫めるより、本当に恥ずかしかったようだ。彼女の照れている様は可愛かった。ほんとうに。銀髪の肩に付くか付かないか分からない内側にふわりとはねたボブのようなショートカットの髪に、それほど高くない身長に、しっかりと頼れる姉のような雰囲気がある。その人が恥ずかしがっているとなるとギャップ萌えではないが、可愛く見えてくる。いや、もともと顔が整っているのは言うまでも無くだが。
この学校は由緒正しいこともあって、(関係があるか分からないが)顔が整っている人が多い。俺だって立派な男だ。彼女たちとお近づきになれるかどうかは別として、彼女たちと学校生活を送れるのは嬉しい。
「ごめん、ごめん。いきなりやられると破壊力抜群だったもんでつい、な?」
「まあ、ほとんど私がいけないから気にしなくてもいいよ。そういえば、自己紹介がまだだったね。私の名前は空端禊よ。よろしくね、橘君。」
彼女はそう言って同時に手を差し出してくる。綺麗な手だと思った。もちろん、絆創膏が巻いてあったり、傷が所々にあるので、すらっとした傷一つ無い人形のような手とは言えないが、家事、主には料理をしていないとそんな傷は付かないだろう。あくまでも俺の考え方に過ぎないのだが、そのような手は何もしていない手よりよっぽど綺麗だと思う。
ーまあ、普段から何も料理しない俺が口を出せることでは無いのだが。
「ああ、よろしく。空端さん。俺の名前は、もう知っているとは思うけど、橘叶翔。」
彼女が手を差し出してくるので、自分からもが手を差し出して握手をし、自己紹介をした。
「こうして同じクラスになったことだし、名前構わないわよ。気軽に禊って呼んでよ。まあ、それはそれとして、かなり時間があったのにぎりぎりに入ってきたけど何かあったの?」
禊さんは名前呼びのことが想像以上に恥ずかしかったのか、俺に有無を言わせる間もなくすぐに話を切り替えた。
「あー、そうだな.......。何かあったっていえば嘘になるんだけど、ちょっとした捜し物ならぬ探し人を。」
「ふふっ。何それ。人捜しをそんな言い方する人初めて見たよ。」
特にやましいことも無いのだが、少し隠したいことのあるせいでどうにも歯切れの悪い答えになったしまった。それがどうにも禊にちょっとした疑問を持たせたようで、口元に手を当てて、気持ち声を小さくして聞いてきた。
「もしかしてそれってさ、橘君と春川さんの指定闘技の噂のことと何か関係している?」
「!?.......。まあ、ほとんどそのことかな。」
あまりにも俺の考えていたことをずばりと当ててきたので柄にも無く驚いてしまった。まあ、出会って当日に柄とかは関係は無いと思うが。
「じゃあ、やっぱりその噂って.....?」
「たぶん本当。」
俺は短く答えた。出来ればそのことについてはあまり触れてほしくなかったのだが、彼女は意外にも話を切り込んできた。
「実は.....というほどの秘密にするような話でもないんだけどね、あの後に色々と春川さんと俺を含めた俺の中学時代の友人との間にちょっとしたいざこざがあって、戦うことはもう取り消せないみたいだから、せめて謝るか、最低限の誤解の払拭だけでも出来たら良いと思って、春川さんを時間ぎりぎりまで探したんだけど見つからなくてな。まあ、正直なところ何も進展せずに時間が無駄になっただけだけどね。」
今まで分かってはいたが、春川さんに誤解させたままの今の状態や彼女を探して時間を無駄にしたことを口にしただけでも悲壮感のようなものがじわじわと込み上げてくる。禊さんは俺のそんな心情を悟ってか優しい言葉を掛けてくれる.....
「色々と入学早々大変だね。きっと叶翔君がイベント気質なんだろうね。本当に心中お察しするよ~。まあ、見つからないならどうしようも無いね。」
ごめん、撤回。禊さん自分でも気づいていない感じの小悪魔気質あるわ。彼女は一切悪気は無いだろうが、ちょっと軽い感じや妙に心に痛い事実をずばっと突いてくるあたりが余計にその人の精神的ダメージを増幅させる。
そんなこんなでこれからやっていく隣人の人と話をしていると教室のドアが開く。
そこから入ってくるのは一人のスーツをビシッと着こなし、背筋をこれでもかと言うくらい伸ばし、この学園に相応しき圧倒的なまでの存在感を帯びた・・・・・・?
ーーーと俺の予想していた先生なぞ入ってくるわけ無かった。
まあ、思い出してほしい(第二話のこと)。この学校は自由性に富んだ学校だと言うことを。そして、先生のキャラまでもが、よりどりみどりだったと言うことに。
それ、すなわち.......俺のクラス、4組ではスーツは慣れていないんですといわんばかりの雰囲気を醸しだして、背筋をおびえる猫のようにビクビクと振るわせながら丸め、圧倒的なまでの小物感を帯びた、超引っ込み思案な先生があてがわれてしまった。
「.....えーと、.....みなさん.........入学おめでと....ざいますぅ..........これから......みなさんには..............それぞれ....目標や..............叶えて........がんばっ.......下さい.......」
先生が教卓の上に置いてあるだろう紙を無事読み終えると、クラス内で拍手が起こった。なんだろう俺も感動してきた。それにしても、先生が言葉を話しているとき、いきなりクラスが一つになったと感じたのはよもや俺の一人じゃあるまい。このクラスの温かさが俺にはむずがゆく、儚げに感じた。いきなりクラスの生徒から熱い眼差しによる応援される教師はどうなのかと。そもそもこれから3年間この先生の心臓持つのかな?大丈夫かな?と。
俺がこんなことを考えている最中にも拍手は止み、先生がなにやら話しているが全くもって聞こえない。クラスのみんなこそ頑張って聞こうとしているが彼らの耳に届いているかは定かではない。いや、隣の園花さんに関しては俺と同じ距離感なのだから、明らかに聞こえていないだろう。しかし、彼女はしっかりと先生の方を向いて聞いている。まあ、その目は優しいものの、それは可愛い物を愛でる目であって、人の話を真剣に聞いている人の目では無かったが。こんな余計なことを考えていた俺はすぐに後悔した。この10年ちょっとの中の人生で人の話を聞かないことで一番後悔したかも知れない出来事だった。まあ、たった10年ちょっとだけど。
「......せっかく.......機会............なので..........最後...............私から...............みなさん....に............エールを..............
頑張って!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
瞬間、雷鳴にも似た怒号にも近いほどの大声が教室中に鳴り響いた。つまり、めっちゃうるさかった。クラスメイトたちは先生のいきなりの大声に驚き、もはや目の色が失われている人までいた。もう、ほんと、何だよこの学校。特色強すぎやしませんかね?
「.........では.......終わりますぅ..............あと....橘君は..........すぐに.............指定闘技の..................準備を.......一緒に来て。」
瞬間、今まで先生の大声に驚いていた雰囲気が一転し、俺の指定闘技の噂が本当だったことを確信した生徒の驚愕の雰囲気にクラスが包まれた。俺と、その雰囲気を撥ねのけようつつ、立ち上がろうとする俺を楽しそうに見る、唯一噂の真実を知っていたーーー禊さん以外で。
読んでいただきありがとうございました!それにしても今回はなんとも言えない話だった気がしますが、そこは目をつぶっていただきたいところです。うん。と、いいましても書くのが久しぶり過ぎて細かい設定とか忘れちゃったんですよねw まあ、忙しかったという言い訳でなんとかならないというか,なんかね....。何はともあれ夏休み中に一話出来ただけでもよしとします!(自分の中でw)
最後に感想や指摘など待ってます!