よりにもよって
春川純麗は久しぶりに自分のした行動に戸惑いを覚えていた。
今日の私ときたら何かおかしいわ。それもこれも全部あの男のせいだわ。
彼女ー春川純麗は四季族が一つ、春川家の長女だ。彼女は特に四季族の生まれということ以外、魔術師の家計では普通の少女だった。春川家は祖母、母、父、兄、妹、そして私と五人家族で暮らしているので、男が生まれず、私が周りの男子の目線を気にしながら跡継ぎとして振る舞うといった漫画のようなことも起きなかったし、両親も優しいので、家族が厳しすぎてこの生活にうんざりしているなんてことはない。むしろこの生活は自分でも恵まれ過ぎていると思っている。
ーーーそれでもこの世界は四季族というものが存在する以上、身分の差というものは存在してしまうわけであって、なかなかそういう感情の溝のようなものは埋まらないわけである。そして、私はいつしかこんな世界が嫌いになった。そんな中、私はお父様にこんな質問をしたのだった。
「お父様、今のこの世界は間違っていると思いますか?
間違っているとしたら何が間違っているのでしょうか?
何より、お父様はこの世界を愛おしく思いますか?」
そして、春川純麗の父にして、春川家の現当主、春川一座はこう答えたのだった。
「いいか、純麗......
「!?」
目が覚めるとそこは大きな木の木陰だった。
私はこんな所で昼寝を.....。やはり今日の私は少しおかしい。しかもよりにもよって、あのころの夢を見るなんて。誰にも見られていないといいのだけれど。まあ、そんなことを気にしても仕方無いわよね。問題は決闘よ!なんで私は橘君なんかに申し込んでしまったのかしら。せっかく、先輩と手合わせできる機会だったのに。
指定闘技ーーこれは毎年、新入生代表が選んだ人とその選ばれた人が強制的に実剣や法剣、契具などを用いて実際の戦闘を行うというものだ。例年はその年の新入生代表が2、3年の生徒会の先輩を指名し、その実力で一年から生徒会入りするかどうかを決める趣旨も含まれている。というより、今は実力判断のほうが主な趣旨である。だからこそ、事前に決まっていないといえ個人的な理由で対戦相手を決めていいはずがない。
かといって、一度宣戦布告した相手に、「すいません。やっぱり対戦できませんでした。」なんて、言えないだよな~.......。
こんな憂鬱な気分になったのはいつ以来だろうか。間違うことこそあれど、誰かと意見が分かれることこそあれど、彼女は自分の正しいと思ったことは貫いてきた。だからこそ、ここまで葛藤してことがほとんどない。
しかも、今回はどう考えたって私が悪いんだよね....。今までの先輩の守ってきたジンクスのような伝統もちゃんと守らないとだめだよね。橘君には悪いけれど、しょうがないよね。それに、もうあんなことは絶対に繰り返したくは無いから。
「...........ってことだよ。指定闘技については分かった?」
「ああ、まあだいたいだけどな。それでさ、奏、やっぱり春川さんと俺が戦わなくちゃいけなくなったのって俺らのあの会話が原因だよな?」
「そうだね~。それ以外思いつかないけどね。」
奏はめちゃくちゃ楽しげに言ってきた。もう声が弾みすぎてて隠す肝さらさら無いようだ。彼女はあっと思いついたよなそぶりを見せると、それでも私達はそれだけでも叶翔はその限りじゃ、ないんじゃないのと追い打ちをかける。
「まあ、普通に考えればそうだろうな。それに叶翔は入学式ではあれほどの失敗をして、彼女の発表をことごとく失敗させたしな。それで相手が叶翔っていうのも納得が出来る。」
俺は返す言葉が無かった。全くもってその通りだからだ。
「それに彼女を保健室に送り届けてからすぐに帰って来なかったのも怪しいんだよな。もしかして、おまえ.....彼女を襲おうとしたところを見つかって、それで決闘なんて話になったんじゃないよな?」
なにかすごくあらぬ疑いをかけられている気がした。それに言っている秋だけじゃなく、奏の目も冷たい。まあ、俺は何もしていないしそんな疑いすぐに晴らせるんだけどな。
「そんなことするわけないだろ。会って間もない他人を......」
そんなとき彼女との会話のワンフレーズが頭に浮かび上がってくる。
それは彼女が悪夢にうなされていて様子を見ようとしたところで顔を近づけると彼女が起きて......こう言ったんだっけ、
「おまえ!今、私にキスをしようとしていただろ!私と戦え!そして死ね!私の唇を奪おうとした罪は重いぞ!」
なんで今になってこのことを思い出すんだよ.....まじで。
「あれ~~叶翔。なんで言葉に詰まったのかな?何も悪いことしてなければ言葉は詰まらないはずだよね。」
「おま...本当に、襲っちまったのか.....?」
奏は言葉ははぐらかせているように聞こえるが、二人とも目も、声音も真剣だ。これは結構まずい状況だ。
「襲ってもないし、悪いことも何もしてないよ!頼むから俺の話を信用して聞いてくれ!」
俺は保健室で会った事件の部分だけを話し、彼女が探す叶翔の話はしなかった。そこだけ話さなければばかえって怪しまれる気がするが、彼女のプライベートなことまでは俺に話す権利は無い。誰だって自分のプライベートなことを話されるのは嫌なはずだ。しかし、やはり二人は隠した部分を怪しいと思ったのか今度はそこも含めて疑われた。
「まあ、いいや。叶翔のこういう所は今に始まった訳じゃないしね。」
「そうだな。百歩譲ってそれが叶翔がいう事故だったとしても、それも引き金になったのは紛れもない事実だな。」
「いや、でも彼女と話す感じだとそんなことだけで振り回される人じゃ無いと思うんだよね。」
「うわー。叶翔さいてー。人の唇を奪おうとしといてそんなこと扱いだなんて。流石の私もかばいきれないわー。ごめんねー。それで早く戦って負けちゃえー。」
奏が用意されていた台本を棒読みで言うかのように罵詈雑言を並べていく。これは奏が割と本気で人を蔑むときにしかしないことだ。
「いや、何というか、奏さんゴメンナサイ。」
「んっ、よろしい。」
「いつも思うんだが、叶翔の自分がいけないのに相手を無意識で擁護するところはどんな思考回路があればそういう結論が出るんだ?」
「.......」
もちろん、答えられない。俺は変なことを言っている気はさらさら無いし、普通だと思っているだけれど、それだけじゃない。秋は要するに、おまえの頭の中どうなっているの?と聞いてくるのだ。そんなの答えるのは無理に決まっている。
「一つ言うとすれば、彼女には何か他に理由があるんじゃ無いかな。」
「じゃあ、なんだよ。彼女を何で信用しているかは俺には分かんないけどさ、他に理由なんてねーだろ。おまえがキスしようとしたか、俺らが彼女の悪口を言った。それしか考えられないだろ。特に俺らの話は決定打になったのは確実だしな。」
side 秋
俺(秋)が真面目な顔で言った。今までは会話の中で叶翔をいじったりもしたが、俺らの会話を聞いて春川が怒っていたのは事実だ。いや、俺の中ではほぼそれが原因だと思っていた。まあ、叶翔は見事にその前の春川との因縁のようなものも暴露したが。それでも、決闘の話はほぼ俺らの会話のせいだと俺は思っている。そして、この決闘を止めなければならないとも思っている。なにせ叶翔や奏も分かっているが、春川は相当な手練れだ。剣術においても、魔法戦に関しても。その彼女がもし感情的になり剣を振れば、一大事になりかねないのも事実。それに叶翔のことはあまり表向きな所に出したくないというのが俺の本音だ。特に戦闘、戦いにおいては叶翔はやるべきではない。というのも、叶翔は剣を振れない。握ることもままならないのだ。叶翔は剣を持とうとすると手が震えてしまうのだ。筋力が著しく劣っているわけではないらしいが、この理由は叶翔自信にも分からないらしい。しかし、叶翔が魔術戦において稀な才能を持っているのも事実である。この二人が戦えば面白い戦いになるはずだ.....。けれどそれで歯車一つ狂ってしまえば大きな代償を強いられるのも必至だ。春川は感情的になり、叶翔を必要以上に傷つければ心をきっと閉ざしてしまうだろう。叶翔は剣どころか大好きな魔術まで使えなくなり、研究すらままならないだろう。
だからこそ、この戦いはやるべきではない。
side 叶翔
幸いなことにホームルームが始まる30分前までは変更が可能なはずなので今から春川の所に行けばまだ間に合う。
「奏、叶翔。春川の所に謝りに行かないか?何があろうと原因は俺らにありそうだしさ。」
「そうだね。私もこのままは嫌だしね。」
「それが一番いいよな。」
そして俺たちは春川のもとへ向かった。三人で手分けして探すのも良いのだが、見つけて彼女に逃げられてしまえばそれまでなので、三人で探すことにした。しかし、結局春川さんは見つからず、ホームルームが始まってしまった。
秋はⅠ科、俺はⅡ科、奏はⅢ科。それぞれの学科は3クラスずつあり、今のご時世でもなかなかお目にかかれない、9クラスというなかなかに多いクラス数を誇る。これは流石に現在の、将来の魔術を担う魔術教育に力を入れている国立の学校と言うだけはある。(クラスの分かれ方はホームルームしか使わないが)
みんな違う学科に入ったので、ホームルームは必然的に別々になってしまうが、この学校は授業は講義方式なので授業で同じになることは少なくない。
秋と奏とはいつも一緒だったから、二人がいないと寂しいもんだな。確か俺の席は....。
結局、春川は見つからなかった。この時点で俺たちの決闘の話は決定してしまったのだが、それでも決闘の前に俺はどうしても春川に話さなければいけないと思った。それは俺が剣を握れないこともそうなのだが、俺たちは陰口に近いことをした。そのことは謝らなければいけないし、話の誤解も解かなければならない。
と、そこで席について考え事をしていると、クラスメイトの女子3人が寄ってくる。
「橘君。さっきの入学式で呼び出しされたのって橘君だよね?」
読んでいただきありがとうございます!今回は何となく変なところで終わってしまったのと、叶翔と秋の感情がごっちゃになったことが今回の心残りってところですかね.....。それでも今回はあまり間を開けずに投稿できたのは成長なのかな~(ただの思い込み。感想やアドバイス待ってます!では次回で!