今日はとてもついてる気がする(;゜ロ゜)
「本当に痛かったーーー......あはははは........はあ」
強がり虚しく、最後にはため息が無意識にこぼれ落ちた。
さっきの俺の人生の1ページにも残りそうなあの衝撃的な事件はなんだったのだろうか。それを改めて冷静に考えようとするが、いやいやいや.........本当に何が起こったんだ!? そんな風に俺は心からの疑問を声にしていた。なんと言ったって、あの状況はたとえ俺に少しばかりの間違いがあったとしても、どうしようもなかった感じが拭えないし、いきなり美少女とぶつかるのだって漫画以外には天文学的確率なのだ。それ以降の出来事はもう当事者の俺でさえ曖昧にしか覚えていない。
「!?」
俺はなにかとんでもない発見に出くわしたかの様に一瞬体を強張らせた。もしかして俺は彼女のことを忘れていたけど、彼女は覚えていた俺に声をかけたのか。うん、普通に冷静に考えたら誰でもこの答えにたどり着くよな。
ーー俺は何も分かっていなかった。彼女の過去も、気持ちも。このときこれほどこの事態の答えを簡単に出してしまわなければあんなことは起こらなかったはずなのに。
「おい、叶翔。何があったんだ?」
俺が簡単な問題の答えが出たとき、ちょうど秋と奏が俺のもとへやってきた。
「・・・・・」
俺は何も言えなかった。確かに、彼女が怒った原因は俺にあるはずなのだが、それでも俺は彼女を知らなかったし、彼女の言っていることも分からなかった。そんな俺の無言の返事を察してか、それともただ本当に聞きたかっただけかは分からないが、奏が少し重くなった雰囲気を壊すように明るい声とともに聞いてきた。
「そ~れ~で~、あの超絶美少女にビンタされた気分は?」
「あのな、気分って。良いも悪いも痛くて最悪だよ。しかもあいつ、秋と同じ多分Ⅰ科の人間だ。」
「っ!」
そういった瞬間秋の表情が強張ったように豹変する。
「待て。なぜそう言える?」
「あいつ、俺のダッシュをすぐに追い越してきやがった。それに・・・」
「「それに?」」
俺の少し重苦しい言葉に二人が息を飲む。
「あいつのビンタがめちゃくちゃ痛かった!!あいつ多分本気で殴ってたぞ!!」
「またそれかよ、叶翔。」
「叶翔もつくづく女運があるというか、ないというか・・・だね。」
奏がまたちゃかしてくる。
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る。鳴った。鳴ってしまった。
このとき時計を確認するとちょうど9時になっていた。
入学式のある講堂に行くともう全ての式のおきまりである最初の挨拶はすでに終わっており、生徒会長が話をしていた。彼は秋園勝間。日本が誇る世界屈指の財閥、秋園家の次男であり、その整った容姿とこの学園の生徒会長を務め上げるだけの実力を持っている。まあ、言うまでも無くこの国のトップにのし上がるだろう人物だ。だがすごいのはこのような誰の書類にも載っていそうなことではないとすぐに感じた。なぜなら彼は完璧に俺たちに気づいたのだ。しかも俺たちは近くの席に着くまでは席の近くの人にすら気づかれなかった状況、つまり講堂内の誰一人として気づいていない中、入った瞬間に彼は俺たちを確実に見ていた。
そんな中俺は彼がうっすらと笑っていた様に感じてならなかった。
生徒会長のスピーチはまだ緊張している俺たちをほどよくほぐし、また新たな緊張感を持たせるなど新入生を鼓舞するような話題が練り込まれていて圧巻だった。もちろん終わった瞬間会場が拍手で包まれたのも束の間.....
えー1年生のⅡ科の橘君は至急、講堂裏へ来るようお願いします。繰り返します。1年...
「あああああaaaaaaa!!!!!!」
完璧に忘れてた。入学式にこの朱雀学園ならではなのかは分からないが、毎年、法剣と呼ばれる魔法戦闘用の武器を収めるのだが俺はその剣を収める役だった。すぐに入ってきた扉から音を立てずに出るなんてことを忘れて席から飛び出していき、後ろから秋や奏以外の笑い声も聞こえたがそのときはそれどころじゃなかった。
「なんか今日は落ち着く暇もねえな。まあ、半分以上俺のせいだからどうしようもないんだけどな。はあぁ~。」
思わずため息が漏れる。
俺は今置かれている状況の割に以外と落ち着いていた。もちろんちゃんと急ぐように走っていたけど。やっぱりあの子のことが気になりすぎる。まあ、思わぬ形で入学早々に美少女と巡り会えたのは良かったが、出会い方が朝の場合はちょっと特殊過ぎる。いや、かなりか。こんな全く別のことを考えていると、先生らしき人がドアの前に立っている。割と若めの先生だった。
「お、やっときたか。こういうイベント事で1年生で遅れたのは俺の知っている限り初めてだ。初の1年生おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
俺は内心めっちゃ怒られなくて良かったー。なんて思いながら先生のギャグのような注意に戸惑った。
「普通すいませんだろ。ありがとうございますって、おまえ面白いな。」
「すいません。」
「まあ、俺に迷惑かけるにはどうでも良いんだがな。中のやつにも一応誠意っぽいのを見せて謝っとけ。お堅い先生もいるもんでな。」
「分かりました。ありがとうございます。」
俺の返答だけを見れば分かるのだがどうにもコミュ症の返事にしか聞こえないのが本音だった。あの先生と話すときはとことん振り回されるのだけは覚えておかないと。
ドアから入り色々な先生に謝罪をした。本当に先生は色々だった。本当に。
この人先生なのかと疑問を持つぐらいに超マッチョ、超引っ込み思案、超緊張でかちかち、超堅そうでめがね掛けて.....以下略。
と、この朱雀学園はとても多くのジャンルの魔法や科学など多様性に富んだ学校ということは知っていたが、先生すら面白いくらいにバリエーションに富んでいるとは思わなかった。
謝罪が済むと、講堂のステージ脇にいる先生に呼ばれ一通りの説明を受けた。
「こんな感じで進めてほしいのだけどだいだい段取りはわかったかしら?」
「はい。なんとか。」
俺は少し疲れていた前に出ることの緊張もあるがそれだけじゃなく、思いがけない先生の謝罪周りが想像以上に疲れを及ぼしていた。幸い、この女の先生は話していて疲れるような人ではなく、この人はさっきの男の先生よりも二まわりほど若く、俺と年も近いだろうし、しゃべり方も非常に和やかな人だ。先生は俺の疲れを悟ったようで、
「その様子だと三笠先生に振り回されたようね。それにさっきの謝罪なんて絶対に三笠先生のいたずらだと思うのだけれど。毎年のことだから、どの先生ももう何も言わなくなったけれど。」
「え!?そうなんですか。じゃあ、俺は.....」
見渡して、先生らしき人には全員に謝った情景がフラッシュバックする。恥ずかしい。俺は頭を抱えて、そのシーンを消そうとするがなかなか頭から離れていかない。
「ぷはははぁぁ。君相当面白いリアクション取るね。その様子だとさんざんからかわれてもおかしくないかもね。」
この先生も式の最中ということを忘れているんじゃないだろうかと思えるほどに笑っていた。先生が年相応のかわいい笑みを突然こぼしたので少しだけ先生も怖い人だけじゃないななんて思いつつ、
「どうしたの?ずっと私のこと見つめて。もしかして私に惚れちゃった~?いいよ~、生徒と先生の関係もこの学校の多様性重視、寛容という両義名文でなんとかなるし。けど、私を口説き落とせるならの話だけどね♪」
「ちょっ、先生何言っているんですか!」
先生のいきなりの爆弾発言に俺は度肝を抜かれた。あまりにも突拍子のないことを言い出し、ましてこの学校の校訓のようなものを両義名文と言い払った。
「嘘よ。本当に、君はからかいがいがあるはね。毎回面白い反応をしてくれるもの。」
「いや、先生たちのいたずらが度を越しているだけですよ。」
「ただ....」
「ただ?」
「少しはおきれいですよ、とか、僕にはもったいないですくらい言えないと、もてないわよ。」
「僕にはまだ無理ですね。そんな言葉を使えるようになるには。でも、本当だったらいいのに、とは思いましたけどね。」
俺はただ思ったことを言っただけなのだが、先生はいきなり黙ってしまった。何だろうと思い先生に声を掛けようとすると先生の顔は真っ赤になっていて、先生の何か地雷を踏んでしまったなと思いつつ大丈夫か聞こうとすると、先生はとっさに思いついたように、
「あ、忘れてた!橘君、早く行って。」
「いけない。俺も忘れてた。先生ありがとうございます。」
そして俺は法剣を持ってステージから飛び出したが、まだ新入生の挨拶が終わっていなかった。そう、俺の出番は新入生代表の挨拶が終わってから法剣を持って前へ出て学園長にこの剣を渡す予定だった。
戻ろうかと一度躊躇したが、もうステージ上に出ててしまった以上仕方が無い。ここは胸を張って前へ出るべきだと思い、今挨拶をしている新入生代表のもとへ行かなければ。
なんとかうまくミスをカバー出来たのでいくらか自信がついた気がした。ただ今日はどうにもついていない日だということを俺は忘れていた。気が付いた頃にはもう遅かったけど。
「え!!なんで.....
奏と秋は叶翔の出番を楽しみにしていた。今度は何をやらかしてくれるんだろうかと。そんなとき、
「おい、奏、新入生代表の子って、もしかして」
「あーあ、叶翔ってこういう所が本当についているよねw」
二人の視線の先には叶翔の言う綺麗な<彼女>と法剣を持っている叶翔がいた。
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