四神祭
投稿遅くなって申し訳ないです!
1人取り残された叶翔は残りの時間をぼーっと過ごすのもありかなと考えるが、すぐにそれを捨ててデバイスを再び起動させる。
調べるのは四神祭ーー正しくは四神魔術攻防戦舞祭だ、についてだ。叶翔でも名前は知っているというより、この国では知らない人はいないであろうが、その細かなところまでは知らなかった。
何も無い空間に浮いているように映るホロウウィンドウに打ち込むのも面倒なので、声で「四神祭 詳細」と言うと、デバイスがその声を聞き取り、検索をかけた。
口コミやらレビューやら選手の評価やらサイトによって様々な種類のものがあり、それぞれタイトルが独特の個性を持ったものがズラリと画面に並んでいる。これなら人々をなんとなく見ていこうかなとクリックさせて、自分のサイトの閲覧数が増えるわけだ。
現に叶翔の指もそれらのサイトにつられそうになる。
いけない、いけない、と意識を若干指に入れつつ、検索の欄の一番上にある他のサイトに比べて、文字のフォントが一回り大きくなっているそのサイトーー公式と書かれている、をクリックする。
すると、いきなりサイトが立ち上がった瞬間、設定されているのであろう動画が始まる。しかも、とてつもない大音量で。慌てながらも動画を一旦止め、音は自分以外には聞こえていないことを思い出す。デバイスは音も画面も使用者にしか見聞き出来ない設定もあるが、周りの人々にも共有させて、見聞き出来てしまう機能もある。今の設定は後者の方だったので良かったが、前者の方であれば、映像はともかくとして、音が大音量がこの憩いの庭に響いてしまうことになる。もしそうなったら、本当に迷惑以外の何物でも無いだろう。
そうして、設定で音量をある程度下げてから、映像を再び再生させると去年の四神祭の白熱したシーンだろうか、火花や魔術が飛び交う中の鍔迫り合いのシーンが複数写り、最後にかっこいいロゴの四神祭と書かれたシーンで締めくくられる。
そして、その映像がフェードアウトしていくと、概要やルール説明、制度といった見出しがあるサイトのトップが映し出される。
ひとまず、どこから見て良いか分からない叶翔は一番上の欄にある概要をタップすると今度はズラッと並べられた文字の多さに驚く。その長文の中の四神祭の歴史などを読み流しながら、大事なところだけを読んでいくとこんな感じだった。
四神祭は魔術の発展のために学生のみで行われる四学園合同の体育祭のようなもので、魔術を用いて陣地をとりあったり、またはこの学園では闘技と呼ばれるような形式の戦い方など様々な競技に分かれて戦うらしい。
叶翔が分かったのはここまでだった。というより、やたら文章が長いくせに重要なことが書かれてなさ過ぎるのだ。その後もなんとなくだが、読み流すようにして長く書かれた文章を追っていく。別に予選にでようと腹が決まったわけでも何でもない。ただ、分からないまま流されるのはそれはそれで癪なのだ。誰かの思い通りに動いていると思えば思うほど、その思い通りに動かされる自分にが嫌いになっていくのだ。だからせめて思い通りに動かされていたとしても、そこに自分の意思が伴っていなくてはならなかった。
土曜日の出来事だってそうだ。俺のこの胸の中にある純白の剣。これすらもあの黒パーカーの女は俺が持っていると知っていて、あの絶体絶命の状況を無理矢理作り、剣を再び顕現させ、さらには俺の知らない記憶まで呼び起こさせた。多分全てが彼女の思い通りなのだろう。本当に癪だ。だけど、そこにはちゃんと俺の純麗を救いたいという願いがあった。祈りがあった。彼女が俺の心の奥底にあるロウソクに祈りという灯りを灯した。
だが、同時に俺は純麗を救えたのだろうか?そんな単純な疑問を抱く。もちろん命は救えた。今、俺も彼女も元気にこうやって学園に登校出来ているが、問題はそこじゃない。俺が彼女から託された祈りは........ 「何だっけ?」口に出しても聞いてみるが、その問いに答えるものはいない。あの時ふと感じた感覚、いや衝動というべきか。俺の心を強く揺さぶった"あの光"に込められたのは間違いなく純麗の心そのままだった。彼女に確認もしていないが、それだけは自信を持って言えるし、証拠はなくとも、確信はある。
「純麗はあの時なんて祈ったんだろうか.........まあ、それは直接本人に聞けばいいか。」
あの、純白の剣を持っている感触を思い出しながら、右手を軽く握ったり開いたりしてみる。
あれは見たことのない剣だった。ただ、なんとなくだが知らないとは思わず、むしろ握った瞬間に懐かしさすら覚えた。その理由を知っているのはあの剣と黒パーカーの女くらいだろうか。剣は教えてくれたが、その記憶を俺自身が理解出来なかった。今も俺の中に蠢くようにして、その記憶が燻っているが、活用どころか、俺のモノにすらなっていない。このままなら知らない多言語の本を持ち歩いてるままと同じようなものだ。だからこそ、今はあの黒パーカーの女をすぐにでも見つけ出し、俺の純白の剣から得た記憶と俺の理解を合致させなければならない。そして、奴を見つけ出すには黒夜の白刃、それが何なのかを突き詰めなければならないだろう。黒夜の白刃、一体なんなんだ..........
刹那、純白の剣を右手に持った俺であろう人ともう一人パーカーのフードを深々を被っている”女の子”との会話の情景が映し出される。
ーー途端にそこにはいない現実の叶翔の呼吸が早まっていく。
どこか焦らせるような、かき立てるようなそんな感覚。
”女の子”が何かを話しているが、その声は叶翔の元までは届かない。「頼む!その声を届かせてくれ!」必死に現実から叫ぶが”女の子”までは届かない。そして、今度は、
ーー呼吸は収まるどころか、さらにその激しさを増していく。
さっきの感覚とはまた違う、今度はなぜそうしてまで”女の子”を声を聞きたいのか、声を届けたいのか、すら分からない自分に困惑する。ただひたすら、届かない声の代わりに今度は思い切り手を届かせようとするが、その手と彼女の距離は全く変わらない。いや、世界が変えようと近づけようとしていない。そんな感じがする。
そして、またまた場面は移り変わり、今度は.....
そこで、不運か幸運か分からないが、頬の激痛で目を覚ます。
目の前には寝る前に開いていた四神祭の公式サイトと”女の子”、ではなく禊が写る。
「ん....あれ、禊?何やって......ていうかいったっっっっっっ!!」
すぐさま叶翔は頬に手を当てて、かばうようにして優しく添える。
「もう、何でいきなり頬を叩くんだよ.....」
しかし、相変わらず禊からの答えはない。
寝起きで重い腰をなんとか起こすと、叶翔の目線の先には涙ぐんで赤くなった禊がいた。
えっと、この状況はいったい........
思考を巡らせるが、寝ていて意識がなかったこともあり、全く検討も付かない。
「せっかく追いかけてきてあげたのに、なんでいきなり胸を触るのよ......」
「え...................................................。」絶句とはこういうことを言うのだろうか。
ちょっと待った。まじか。えっと.......どうしよう。本当に何をするべきか分からなくなる。頭を整理しようにもその整理しようという思考が俺の頭を飛び交い、余計に混乱を招く。
禊は顔を背けているので、その表情までは分からないが、耳は赤くなっている。
「えっと、その、ごめん。決して意図的じゃないんだ。」
「それで?もう言い残すことはないわよね?」




