忍者・星丸、忍犬コロタ
小さな忍者の男の子、星丸は、山で真っ白な子犬をひろいました。名前はコロタです。
星丸は、自分の住む忍者の里にコロタをつれて帰りたかったのですが、それはできません。忍者がいっしょに暮らす犬は、忍犬という忍者の手伝いができる犬だけです。
「コロタが忍犬になれば、ぼくたち、ずっといっしょにいられるんだ。コロタ、忍犬になれるように修行する?」
「わん」
コロタは、うれしそうに、しっぽをふりました。
その日から、コロタは星丸に教わって、たくさん修行をしました。
今では、星丸の口笛の合図もわかります。星丸から離れずに、木の枝から枝に飛び移ることもできます。コロタが気配を消せば、星丸にも見つかりません。
そんなある日、忍者の里で、大変なことがおこりました。
忍者の里で一番えらい、お頭の家から、大切な巻物がなくなったのです。
大人の忍者は大騒ぎです。
「だからね、コロタが巻物を見つけたら、みんな、コロタが忍者の里に住むのを許してくれると思うんだ」
「わん」
元気になくと、コロタは自分の巣穴から、巻物をくわえてきました。その巻物こそ、お頭のいえからなくなった、大切な巻物です。
星丸は、コロタがやったと知って、おどろきました。
「どうして、そんなことしたの? コロタ?」
悲しい顔で星丸がきくと、コロタも元気をなくして、こたえました。
「くぅん、くぅん、わぅわうーん」
「そう…さみしかったから、こっそり忍者の里に来たの……。においが混ざって、ぼくの家がわからなくて、お頭の家に入っちゃったんだ……。でも、巻物がめずらしかったからって、とっちゃダメだよ。ね?」
星丸はコロタを、ぎゅっと抱きしめました。
「だけど…ごめんね。ぼくがコロタに、さみしい思いさせたから……ごめんね」
「くぅん、くぅん」
コロタは、星丸の顔をペロペロなめました。
しばらく、そうしていると、星丸は元気が出て、まだ悲しそうな目をしているコロタに言いました。
「ぼくが、お頭に巻物を返してくるよ。ちゃんと謝ってくるから、コロタは心配しないでいいよ」
コロタを山に残して、星丸は、ものすごい速さで忍者の里に帰りました。
コロタがやったと知られたら、コロタが怒られて、叩かれて、もう会えないほど遠くに捨てられちゃう!
お頭に巻物を返した星丸は、怖いけど、泣きそうなのを我慢して謝りました。
「お頭、ごめんなさい。ぼくが巻物をとりました」
「わしは、星丸が、そのようなことをする子ではないと知っておる。本当のことを話してみよ」
「本当に、ぼくが巻物をとったんです!」
「わん!」
山から追いかけてきたコロタが、星丸のところに走ってきました。
「コロタ! ダメだよ。なんで来たの!」
「くぅん、くぅん」
コロタは、星丸にむかってなきました。その次に、お頭にむかって、
「わぅわぅわうーん、わん。わぅわん、わん」
コロタの話を聞いて、お頭は、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、と笑って言いました。
「そうか、そうか。コロタが巻物を持ち出したのか」
「ぼくがコロタを忍犬にしようとしたから、こんなことになっちゃったんです! ぼくが、いけないんです! コロタを遠くに捨てないで! ぼくを叱って!」
星丸は涙をこぼしながら、コロタを抱きしめました。
コロタを守ろうとする星丸に、お頭は優しく言いました。
「お頭であるわしの家から、大切な巻物を持ち出せたコロタは、とてもすごい忍犬だ。そのコロタを、遠くに捨てたりはせんぞ」
「それじゃあ……」
「これからは、星丸がコロタに、この忍者の里で、ほかの忍犬と力をあわせることを教えていくのじゃぞ」
「は……はい!」
返事をすると、星丸は涙をふきました。それから、コロタに明るく話しかけました。
「コロタ、これからは、ぼくのお家がコロタのお家だよ」
星丸とコロタは、忍者の里で、立派な忍者と忍犬になりました。
(おわり)