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嘘と真実の救済メモリー  作者: 詩杏
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麻衣都

僕が誘拐されて、どれくらいの時が流れたのだろう。ここに来てから、何人の人が殺されていったのだろう。最初の方に閉じ込められた人は、ここに連れて来られてもしばらくは冷静でいられるんだ。後になると、段々冷静でいられなくなる。なんでだと思う? 最初は血も死体もあまりないの。けれど、後になるにつれて血も死体も増えていくでしょ? だから皆びっくりするんだ。皆ね、女が再び現れると怯え出して、叫び声を上げながら殺されていく。必死に命乞いをする人もいたよ。けどね、そんなの何の意味もないよ。ここに連れてこられたら死ぬまで逃げられない。女の機嫌を損ねたんだもん。反省として女に殺されなきゃいけないんだって。身勝手な話だよね。僕もずっと同じ事考えてた。

 女と全く同じ顔をしている僕を女と間違えて罵声を浴びせてきた人もいたよ。なんのつもりだ。ここから出せってね。女が再び現れると、目を丸くして僕と女を交互に見るの。そして、また先程まで僕に言っていた事と同じ事を繰り返し叫び続ける。ここに閉じ込められた時、僕も全く同じ事を言ったよ。何回も。君達を逃がせる事ができるのならそうしたい。僕も逃げ出したい。もしできるなら…。

慣れって怖いね。今まで何人も殺されていっている。最初は本当に気が狂いそうになった。目の前で殺人が繰り広げられている光景を眺めながら、何度も嘔吐を繰り返した。血の臭いと嘔吐の臭い。ひどいものだった。殺されていく人は、耳を塞ぎたくなるような断末魔を響かせる。僕も同じように叫び続けた。なのに何でだろ。途中から何も思わなくなった。いくら叫んでも何も変わらないって諦めたのかな。また人が殺される。今日はどんな死に方だろう。そんな事を冷静に考えるようになっていた。もう僕に人間としての心はないのかもしれない。

 そんなある日、また新しい人が来た。初めは誰かはわからなかった。僕に考える力なんて残っていなかったんだもん。確認する気にもならなかった。どうせまた殺される。今までと何も変わらない。

その人は、拘束されると、血を流しながら僕の名前を呼んだ。僕を女と間違えなかったのは驚いたよ。

「大谷隆治だ」

聞き覚えのある名前。懐かしい名前。

 僕は隆治の顔を見た。昔の面影をしっかり残しつつ、しっかりと大人になった隆治がいた。

 懐かしい…。そんな思い出に浸っていたが、悲しい現実に気がついた。隆治がここにいるという事は、隆治は梨花に捕まったという事。隆治もいずれ殺される。

 逃げて…! そう言いたい。しかし、うまく声が出ない。ひどく掠れた声で唸るように呟く。

「あの女は何者なんだよ」

隆治はそう言った。僕と全く同じ顔に整形した女。

「あいつは…あいつは…」

お兄ちゃんと昔付き合っていた森下梨花。整形して今度こそお兄ちゃんを手に入れるために時間をかけて準備して再び現れた女。

 そう言いたいのに、何故か体がひどく震える。尋常じゃない恐怖に襲えわれる。目から溢れ出る涙を拭う事すらできない。

 隆治逃げて…。けど…お兄ちゃんを助けて…お願いだから…。

 今流している涙の意味は一体何? 今の状況に恐怖しているから? 幼馴染が殺されるという未来に悲しんで? お兄ちゃんを守ることができない自分の無力さに絶望して? もう何もわからない。


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