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怪獣少女のいるところ  作者: 七志野代人
終わりなき未来(あす)
49/49

鏡夜

 アフター一本目がこれかよ!

 ……いちゃいちゃを楽しみにしていた皆様ごめんなさい。

 少しだけ散歩をしていた。

 正直、この町は人が少ない。

 名も知らぬ怪獣少女はまだ居るが、それでもこの町はがらんとした印象が強いのだ。

「……冷えるなー」

 越してから随分経つように思えるが、三月に引っ越してきて、今はまだ四月に入ったばかりである。

 ……体感じゃ、一年くらいなんだけどなー。

 まあ、それだけイベント目白押しだったよな。

 しかし、やっぱ夜は寒い。

 歩いているとそこまで気にならないが、こうやって不意に立ち止まると、文字通り身に染みるな。

「飲み物でも買いますか……」

 丁度自販機があったし、缶コーヒーを購入。

 寒々しい光に照らし出された、公園のベンチにどっかりと腰を落ち着け、ぐいと缶コーヒーを呷った。

 洒落っ気もへったくれもないが、そもそも俺は工業系の男所帯で過ごしてきたのだ。

 そんな大層な文化は身につけていない。

 ふぅ、と一息つき、空を仰いだ。

 青白い月が煌々と夜を照らす。

 それをぼんやりと俺は眺めて――


 ……


「――んぁ?」

 身体がミシミシと文句を言う。

 どうやらこんなところで居眠りしてしまったようだ。

「……〜〜〜〜っ、失敗した……。これ、絶対心配かけたよな……」

 額に手をやる。

 やっちまた。これ、めちゃくちゃ怒られるよ……。

「おー、起きたか」

「……は?」

 聞きなれた声が耳に届く。

 恐る恐る横を見てみると……


「よう、俺」


 赤い瞳。

 よれよれの白衣。

 いつしか出くわしたもう一人の俺が、俺の隣に座っていたのだ。

 あろうことか、手に持っている缶コーヒーまでもが一緒だった。

「……え? いや、……え?」

 ちょっと脳の処理が追いつかなかった。

「なんだ? 遂に頭が逝ったのか?」

「勝手にパッパラパーになったように言うな!」

 あまりの俺の言い草に、俺は思い切りツッコミを入れた。

「お、戻った戻った」

「ったく、なんでお前がこんなところに居るんだよ?」

「さあ、な? ああ、お前も死んだから、とかじゃないか? 俺だって死んでるわけだしさ」

「マジでやめろ。ぞっとしない」

「冗談だけどよぉ。まあ、なんだ。俺がここに居るのは、幽霊がお前と話をしたがった、くらいに思えばいいさ」

「そりゃまた随分テキトーだな」

「テキトーでいいだろ。面倒な考えごとに、時間をかけるのは好きじゃないんだ」

 そのセリフで、ピーンと来た。

「はっはーん。つまり、お前も上手く説明できないってわけか」

「そういうことだ」

「最初っからそう言えよ」

「なんか悔しかったからな。――いや、こんな話をするために出てきたんじゃなかったな」

「……何の用だよ?」

 それまでふざけた調子だったソイツの顔が、真面目な物になった。

「……全部無事に終わったか?」

「…………ああ」

 そうか、とアイツは呟き、ぐいとコーヒーを呷る。

「なら良かった。一応確認しとかないと不安なんだよ。これでも研究者だったからな」

「ん? お前そんな頭良かったのか?」

「あー、お前、そこまで頭良くなかったんだっけ?」

 ……微妙な沈黙が流れる。

「……余計なお世話だな」

 俺が少し棘のある声で言うと、アイツは少し肩をすくめた。

「ま、用途の違いだろ。お前だってその気になれば出来ないこともない……と思う」

「なんだよ、用途の違いって」

「俺はもとより軍用で、常人じゃ扱えない兵器を、息をするように扱えるようにこの頭の中身が造られた。対して、お前はどちらかと言えば死者の再現だ。俺もその用途があったが、どちらかと言えば戦闘特化だったし、人格や記憶の再現もおざなりだったよ」

「戦闘用、ねぇ……ずいぶん物騒な」

「信じられないってことはないだろ?」

「前の変身モドキの情報があるからな」

「気に入ってくれたようで何よりだ」

「……気に入ったってワケじゃ、ないんだけどよ」

 溜息を一つ吐く。

 コイツに貰ったあの形態への情報。

 今思い返せば、随分とヤバい代物だった。

 ……それを、いくら屑とは言え、躊躇うことなく人間に使えてしまったことに、やはり戸惑いを感じる。

「俺、やっぱヘタレなのかね……」

「……前は、ああ言ったけどよ。やっぱお前、ヘタレくらいで丁度いいんだよ」

「はぁ?」

「息するように人を殺す。そんなのは、この町ではいらねーだろ?」

 目の前の俺がそういって笑う。

「……お前、そういうのが必要な時、あったのか?」

「……あったな。それ以外でも、そこそこ汚いことはしてきたし」

「住んでる世界が違うな。お前」

 それは文字通りの意味でもあった。

 そもそも、コイツはこの世界の住民ではない。

 とっくに気がついていた。

 コイツは、この世界とよく似た、しかし、もっと冷たい世界の住民だったのだ。

「顔も性格も似たり寄ったりなのになー」

 ……俺は、軽い調子で笑うコイツに、一つだけ聞きたいことがあった。

「……お前さ、死んでるんだよな?」

「ああ」

「向こうにも、ジュラって居たのか?」

「ああ」

「……幸せに生きているのか?」

「…………死んだよ。俺が殺したようなもんだった」

「――っ」

 覚悟はしていた。

 そんな気もしていた。

 だけど、いざ本当にコイツの口からその言葉を聞くと、脳が沸騰しそうになった。

「俺は後悔はしていない。あれ以上は、あの時の俺じゃどうしようもなかったからな」

「……なんで彼女は、お前の世界で死んだんだ?」

「……こっちの世界でもあっただろ? ……ウルティオンだよ。あれとの相性が悪かったらしい。縮小には成功したが、徐々に細胞が劣化し、死んでいった。……最初は、あんなに元気だったのによ」

「おい、ちょっと待てよ……! それ、ここにいるみんなが打たれてるんだぞ……!?」

「安心しろ。ここではそんなことは起きない。あの薬は、効果が同じで名前が一緒ってだけの代物だ。由来が違いすぎる」

「由来……?」

「〈ゲノム・ディストラクション〉。……それが向こうでのウルティオンの原料だった」

「な……っ!?」

 〈ゲノム・ディストラクション〉。

 それは、俺達にとって、最も忌々しい薬の名前だった。

「何でそんなものから――」

「あれの本質は遺伝子操作だった。それをめちゃくちゃなものにして逃れようのない死を与える。そういう用途の代物だ」

 遺伝子操作。そのワードで、一つの仮説が浮かび上がった。

「……まさか」

「察したか? 怪獣細胞の遺伝子を操作して、強制的に縮小する……それが、俺達の世界のウルティオンの原理だった」

「…………」

「非人道的、生命倫理に反する……腐るほど反論は湧いてきたさ。けれど、それでも俺はこの薬を開発した。……薬がしっかりその性能を発揮すれば、今まで殺すしかなかった怪獣たちを殺さずに済む。そう思ってたからな」

「……でも、それでも、そっちの世界のジュラは……」

「…………元々兵器だったこともあって、遺伝子操作が強引なものだったっていうのが、その時の見解だ。殺すものを捕獲用に調整しても、結果として効力が強すぎて、毒にしかならなかったってワケだ」

「…………」

「だが、こっちの世界のウルティオンは違う」

「……何がどう違うんだ」

「ディアを知っているだろう?」

「……ああ」

「あの子は異常だ。最初から小さい怪獣だったんだからな」

「何……?」

「ん? 気がついてなかったのか?」

「い、いや……そうか、最初にあった時には、まだウルティオンが開発される前だった……」

「あの細胞を解析して、縮小に関係する部分を抜き出し、それを薬の形にしたもの。それがこちらの世界のウルティオンだ」

「ディアの細胞から作られたってことか?」

「ああ。元が怪獣細胞由来だから、障害も何も起こらないまま、ただ縮小だけを行う。……安全性も文句なしだ」

「そう、だったのか……」

 ディア。

 ドクターイクスにより、悲惨な改造を行われた怪獣少女。

 彼女のお陰で、今のこの町が……。

「……お前は、この町でこのまま生き続けるんだろ?」

「ああ」

「なら、容赦の無さ、なんて物騒なもの、持ってる必要はないだろ?」

「……ああ」

「もし万が一、またこういうことがあるなら……その時は、俺を頼れ。いつでも出てきてやる」

 アイツは目の前でそう笑った。

「なんで、そこまでしてくれるんだ?」

 そこだけが少し疑問だった。

 思わず、それを口に出してしまう。

「……たとえ別な世界だとしても、あの子が笑ってくれるから」

「それで、お前は満足なのか?」

 何を当たり前なことを、と彼は笑った。

「そうじゃなきゃ、誰が好き好んでこんな面倒ごとに首突っ込むんだ?」

「……そうかよ」

 溜息一つ。

 やはり、こいつは住む世界が違うな。

「お前がそれでいいんだったら、俺は何も言うことはないな」

「そういうことだ。……そろそろ、俺は帰るよ」

 どこへ、とは聞かない。

 聞いたって意味がない。

「そうか」

「んじゃ、そういうわけだ。頼られないことを祈っとくぜ」

「おう」

 アイツはベンチから立ち上がり、ひらひらと手を振って、夜の闇に溶けるように去っていった。

 あれだけ目立ちそうな白衣も、もうどこにも見えない。

「……ありがとよ、俺」

 それだけ言って、俺も立ち上がった――


 ……


「――んぁ?」

 身体がミシミシと文句を言う。

 どうやらこんなところで居眠りしてしまったようだ。

「……〜〜〜〜っ、失敗した……。これ、絶対心配かけたよな……」

 額に手をやる。

 やっちまた。これ、めちゃくちゃ怒られるよ……。

「ん、やっと起きた」

「うわぁっ!?」

 顔を上げると、ジュラがいた。

「な、なんだ、ジュラか」

「……おはよう、セリザワ」

「悪い、散歩途中に休憩してたら、眠っちまったみたいだ」

「ん、身体、大分冷えてる。お姉ちゃん達も心配して探している」

「あー……。ちゃんと謝らないとな……」

「……丁度みんな来た」

「え?」

 ジュラの言うとおり、確かに全員公園に来てるな……。

「ジュラ! ヨシト見つかった!?」

「あ、由人君!」

「あー! こんな所で寝てるー!」

「よしと見つけたー!」

「……見つけた」

 ジュリ、ディア、ゼロ、シンカ、キリ。

 ……みんな揃って探してくれたのか。

「すまん、一休みするだけのつもりが、随分寝ちまってた――」

「今度から気をつけてね? これでも心配するんだから」

「由人君、体冷えちゃってませんか?」

「由人ー! お姉ちゃんに心配かけるんじゃないわよ、ほんっとにもー!」

「よしとよしとー! 早く帰ろ、一緒に寝よー!」

「……食後の運動も、程ほどに」

「――頼む、一人一人喋ってくれ」

 この人数で一斉に喋られると、聖徳太子でもなんでもない俺にはちょっと聞き取れない。

「……とにかく、帰る」

 そう言って、ジュラが俺の手を引っ張る。

「そうだな」

 俺もそれに頷き、家のほうへ足を向ける。

「帰ろう、俺達の家に」

 誰かが、ベンチの横で笑っているような気がした。

 アフター一本目。

 まさかのダブル芹沢の会話でした。

 ただ、この回で、本編では語られなかった様々な事実を語れました。

 作者的にはすっげー満足です!

 多分赤由人君|(別世界の芹沢)は続投します!

 時々顔を出すと思うので、彼ともども、怪獣少女、よろしくお願いします。

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