六の幕
ストックなにそれおいしいの?
勝てない。
そんな弱気が頭の中に蔓延しだしていた。
「――くっ!」
閃光。
閃光。
閃光。
連続で強烈な閃光がゼロに襲い掛かった。
「しつ――こいっ!」
全力で回避を続ける。
ジュラと似た顔で、しかし何も表情は浮かべぬまま、シンカと呼ばれた少女は、紫色の光線を放ち続けている。
先程からずっとこの調子だ。
まったく手応えを感じられない。
放たれ続ける光線を、ゼロもメーザーを放ち迎え撃つ。
しかし――
「くっ!」
「――」
火球が迫る。
バルハだ。
「正気に戻ってよ、バルハ……!」
悔しそうに呟くも、その声は、彼女の心には届かない。
更に火球が襲い掛かってくる。
そして光線も彼女の隙を撃ち抜くかのように、容赦なく放たれる。
「――こんのぉっ!」
ゼロは右腕を変形させる。
機械細胞は、そもそも怪獣細胞の特性を持つナノマシンを指す。
故に、急激に、常識では考えられない変形をその身一つで行うことができるのだ。
白銀に輝く六連装の砲身――巨大なガトリングが、彼女の右腕代わりに生えていた。
「あんまり使いたくはないんだけ――ど!」
少しのエネルギーに押さえ、威力を気絶かさせる程度に調整し――発砲。
青い光の弾丸が、光線と火球を迎え撃つ。
毎秒数百発の豪速で放たれたそれらは、破壊の暴風として火球や光線を蹴散らし、二人に向かって殺到する。
だが、
「――」
ギギギギギギギギギギギンッ
全て、バルハが変形した右手で弾き飛ばす。
「なっ!?」
「予防接種って名目で、何人かにはしっかりと機械細胞が投与されてるんだよ。いつもよりも、ちょっと過激になるかな?」
くつくつと笑いながら、ドクターイクスはそう言った。
まるで大鎌の刃の様な鍵爪を、ぎらぎらと輝かせ、バルハが迫る。
「どこまで、どこまでふざけてるの……!」
怒りに、思考が沸騰する。
ぎりっ、と歯をかみ締め、目の前で笑う男を睨む。
バルハの攻撃を後ろに飛び退ってかわし、砲身を向ける。
「――ごめんっ」
発砲――
ドンッ
「ぐ、ぁああっ!」
弾丸が放たれる瞬間、ガトリングの砲身がぐにゃりと曲がった。
「――」
「う、そ……でしょ……」
絶望に染まるゼロの声。
その視線の先に、
「――」
仮面をつけた、クインが居た。
彼女の一撃に、ガトリングは無残な鉄塊に変えられ、同時に最大の好機を逃してしまった。
その形態が維持できなくなり、ガトリングは元の少女の細い腕に戻ってしまう。
「切り札って言うのは、ここぞってタイミングで出さないとね」
にやにやと男が笑う。
「ほら、心を折ってあげなよ。そのまま、その子も奴隷にするからさ」
「――」
更に一撃。
思い切り蹴り飛ばされ、ゼロは一瞬息が止められた。
「ぐ、っ――!」
どさりと地面に倒れ付した彼女を、クインが無理やりに引き起こす。
クインがぐいとゼロを羽交い絞めにする。
同時にバルハが右手を構える。
「――」
「――」
「……ばる、は……。く、いん……」
痛みで意識が朦朧としているのか、虚ろな声を上げ、ゼロがバルハを見る。
無表情に、バルハが右手を振り上げ――
「させませんよ」
――その右手を、双剣が打ち据えた。
「――」
さらに、クインの仮面にも一撃が入る。
額を押さえるクインから、よろめきながらもゼロは脱し、双剣の主を見る。
「る、ルモ!」
「遅くなりました。大丈夫ですか、ゼロ?」
「う、うん……ルモ、その格好は……」
いつもの姿ではなく、その髪は硬質な白銀色に染まり、瞳は空と海の両方を混ぜ合わせたような深い青を湛え、蝶のような羽は、まるで繊細な銀細工のように煌いていた。
見慣れぬ銀の双剣を構え、彼女はゼロを庇うようにそこに立っていた。
「……わたしも、面白くないということですよ」
言うが早いか、再び攻撃しようとしたクインとバルハを吹き飛ばす。
「あなたには、この町に来たことを、手を出したことを、後悔させてあげます」
きっ、とドクターイクスを睨む。
「おお、怖い怖い」
おどけた声で、男は笑い、唇の端を持ち上げる。
「――勝てると思ってるのかい?」
紫色の光線。
それをルモは、しっかりと左の双剣で受け止める。
さらに、バルハとクインもそれにあわせて攻撃を始める。
ルモが前に出て、多くの攻撃を弾き、彼女を狙う、彼女が捌ききれない攻撃を、後ろのゼロが撃ち落す。
「数だけで押し切れるなんて、思わないでください!」
ルモが踏み込み、一気に加速する。
一気に三人を抜き、ドクターイクスの目前に迫る。
だが、
「甘いよ」
双剣を振り上げた彼女の胸辺りに、拳銃が照準していた。
「なっ!」
ダンッ
発砲音と共に、ルモがそのままバランスを崩し、地面を転がる。
「力、が……抜け……!」
「麻痺弾の威力は流石だね。まあ、こうなると暫くは動けないから、戦闘要員にはすぐに回せないかなー」
「く……っ!」
「さて、それじゃ、大人しく捕まってくれないかな?」
勝ちを確信したのだろうか。
大仰な態度でドクターイクスは笑う。
「さぁ……決断は早いほうがいいよ?」
ドクン
「い、いや……」
ゼロが怯えた表情で後ずさる。
一歩、目の前の男が笑みの下に狂気を湛え、近づいてくる。
「いや……いやぁ……」
ドクン
シンカが一気に近付いていく。
無機質な瞳が真っ直ぐに注がれる。
恐怖がゼロの心臓を凍てつかせる。
身体が強張り、息が詰まりそうになる。
「……たす、けて」
そのまま、心まで、一瞬で氷漬けにされたような気分。
誰も助けてくれないのを、頭で理解していても、それでも助けが欲しかった。
胸が熱くなる。
ワケのわからない感情に、感覚に、心臓が狂おしい熱さと、息苦しさ。
誰か、誰か――
「助けて……っ!」
ドンッッッ
熱さが、明確に、物理的な熱に転じた。
胸から火柱が上がる。
ゼロの目が、戸惑いに見開かれる。
「――え」
「悪い、長く暇を貰った」
どこか飄々とした声が彼女の耳に届く。
「待たせたな。後、始めまして」
少し笑みを浮かべ、紫の目の青年は彼女の横を駆け抜ける。
「ただ、話はここまでにしておこう――」
その右手には紫炎。
幾つもの頭を持つ龍の様に、その場にいた怪獣少女全てに襲い掛かった。
「――今は、目の前のクズを、どうにかしたい」
その目に常には浮かべぬ殺気を浮かべ、青年――芹沢由人がそこに居た。
主人公を特殊召還!
次回、クライマックス!




