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怪獣少女のいるところ  作者: 七志野代人
第四章 今に目覚める
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五の幕

ストックなんて貯められません。これでも学生だもの。

 例えるなら、そう。

 何にもない空間で、意識だけはあるのに、それに連なる体の感覚だけが、ぶっつり途切れている様な……まあ、そんな感じだ。

 見えない、聞こえない、感じない。

 ……あれ? 俺、生きてるよな?


 ――ああ、お前は生きている。


 聞き覚えのある声。

 それが聞こえたことは不思議だが、違和感も疑問も感じない。

 ……だけど、身体が動かないんだが?


 ――そうだな。もう一人のお前が主導権を持っている。


 ……もう一人の俺?


 ――彼女と言ったほうが正確かもな。機械細胞本来の持ち主だ。


 ……機械細胞? どういう意味だ?


 ――お前は言うなれば、後から植えつけられたオリジナルのコピーだ。その前にあった意識は無意識下に沈み、眠っていた。


 ――だが、お前は一回死にかけて、結局、前の意識が覚醒し、肉体を変化させ、表に出て来たわけだ。


 ……死にかけた、って……、っ!? そ、そうだよ、ジュラは!? あいつは無事なのか!?


 ――無事さ。お前が助けたディアもな。今じゃ、随分と打ち解けているみたいじゃないか。


 ……そ――そう、か。良かった。

 本当に良かった。

 ジュラも、あの子も、救えた。救うことが出来た。


 ――なーに満足げにしてるんだよ。さっさと起きろ。


 ……起きる?


 ――言っただろ? お前はまだお前に目覚めていない。


 ……ああ、俺の身体を、前の意識が使ってるって話か。


 ――そうだ。そして、それじゃあ都合の悪い状況が今起こっている。


 ……都合が、悪い……?


 ――狂気襲来とでも言うべきか……。ま、あの子とは比べ物にはならない、混じりっ気なしの、純粋な、生まれたままの狂気。そんな代物が、お前の住んでいる町に手を出している。


 ……な――っ!?

 声の言い草に、衝撃が走った。


 ――ああ、あーいう手合いは、囲って薬打って肉便器ーなんて安直な手は使わないから安心しろ。いや、まー、肉体改造精神改造果ては死亡率百パーの実験なんかは躊躇なくやるだろうけどさー。うん、純潔を散らすって事は……あ、いや、最悪交配実験なんつーどこの同人誌かっていうネタに手を染めかねないな。そういうイヤラシイ目的なしで。


 瞬時に、感情が怒りで焼きついた。

 怒声が喉を震わせる。

 ……っざけんな! そんなことをさせてたまるか!


 ――俺に言うなよ、俺に。


 ――あいつを動かすのは、純粋に知りたいという欲求――知識欲だ。興味が向かないことにはひたすらに無頓着だ。それこそ生命倫理なんかにもな。逆に、知識欲が係わらなければ、びっくりするぐらい無欲で無害なんだよ。……絡んだ瞬間ああなんだけどよ。


 その様を想像しただけで、吐き気がこみ上げてくる。

 ……戻せよ。今すぐ俺を、元の身体に戻せっ!


 ――そうするために俺はここに居るんだよ。


 ――毒をもって毒は制すべきだからな。


 ……な、に?

 一瞬、思考が凍りついた。

 声はさらに追い討ちをかける。


 ――あの野郎も俺も、お前だって、おんなじ毒だって言いたいんだよ。


 ……笑えない、冗談だな……っ。


 ――俺は冗談は好きじゃない。……お前、親父のしたこと知ってるんだろ?


 ……――っ!?


 ――で、その親父の血がお前にも流れてるんだよ。知ってるか? 狂気ってのは、存在するから異常なんじゃぁない。……実行に移せちまって、初めて異常なんだよ。


 ……それは親父の話だろうが!


 ――ああ、そうさ。だが、その考え方の結晶がお前だよ。息子を生き返らせる? しかも、人間じゃないとしても、外見は人間の少女で、しかも仲の良い子を使って? ……これを狂気の沙汰以外の、なんて言うんだ?


 ……五月蝿い、五月蝿いっ! 俺は、俺はそんなこと――


 ――絶対にしない、か? ……お前、馬鹿なのか?


 ……なんだと……?


 ――訂正する。お前は馬鹿だ。さっき毒をもって毒を制すっつったばっかりだろうが。いいか? その足りない脳みそでよ〜く考えろ。


 ……ま、さか、まさか……!?


 ――毒は毒でしか制せない。お前がそれを認めないなら、お前は彼女達(大事なもの)を救えない。


 ……俺に、どうしろってんだよ……!


 ――狂え……なんては言わないが、まあ、本性表せとは言うな。


 ……本性……?


 ――ああ、お前なら、自分の性分くらい把握してるだろう? ……大切なものを救うために、守るために、自己の犠牲をためらわない。誰かを傷つけることさえ厭わない。


 ……――!?


 ――……この期に及んで気づかない振りか? もう飽き飽きだ。いい加減、目の前の真実から、目を逸らすのを止めろよ……


「……な!?」


 一気に意識が浮上する感覚。

 体の感覚が、ある。

 当たり前に感じていた物を、取り戻した。

 だがまだ違和感が残っている。

「久しぶり……とはいっても、これだって擬似的な肉体だ。本物じゃないんだが……文句はないだろ?」

「…………ああ。はじめまして、で良いんだよな。……

「ああ。はじめまして、だ」

 赤い瞳。

 白衣。

 相違点はそれだけだった。

 それ以外、本当に俺のまま、文字通り、瓜二つの俺がいた。

 何もない、明るいか暗いかも判らない空間に、浮かんでいるのか、立っているのかさえ判らないまま、俺がそこにいた。

「「……よう」」

 声が被さる。

 表情も被さる。

 紛れもなく、そこにいるのが俺だと理解出来てしまった。

「救いたいか?」

「……ああ」

 誰を、とは訪ねない。判りきっているのだ。俺も、目の前のコイツも――

「だったら教えてやる。躊躇うな。立ち止まって悩むな。それをした瞬間に、手前の大事なものは、手前の手から零れ落ちていく」

「……判った」

「まあ、そんなこと言っても、お前には突然には無理だろ」

 ……そこまでお見通し、か。

「あーあ、俺って言う人間は、どんなになろうと結局ヘタレかよ……」

 呆れた声。

 ぐいと胸倉を掴まれ、俺を睨みつける。

「……失ってからじゃ、遅いんだよ。……引っ張りだしてやる。だから、とっとと行け」

 そして俺を突き放す。

「じゃあな。絶対にあの子達を泣かすんじゃねーぞ?」

 そう言って笑う俺に、

「ああ。泣かせてたまるかよ」

 俺も笑って言い返した。

 そうだ。

 泣かせてたまるか。

 失ってたまるか。

 奪われてたまるか。

 絶対に放さない。

 汚させない。

 壊させない。

 ……それだけは、変わらない。

 変わらないんだ。

はい、デウスエクスマキナです。ギリシャ流、「夢オチ」的なアレです。困った時の女神さまです。

……まあ、意図してフラグは立てなかったのですけど。

劇中のもう一人の彼は、原案の時の芹沢君です。性格的には大分ドクターイクスに近いんですよね……彼。できれば書き上げて世に出したいんですけど、正直欝展開が過ぎるので、恐らく途中で音をあげるんですよね……。

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