二の幕
(この、感覚――!)
ディアは自分の肌が泡立つのを感じた。
早朝の豪音にたたきおこされ、そして気づいたのだ。
(ドクターイクス? この街に来ているの⁉)
ドクターイクス。
彼女に非道な実験を行った張本人だ。
(一体、何をする気なの……?)
彼がこの町で、町の住人に害のないことをするとは思えない。
そう、きっと何かがもう始まっている――
……
「ぐ、あぁ…………」
「…………」
ボロボロになったドアはうずくまっていた。
無言で少女は腕を向ける。
腕から掌に至るまで、あちこちに刻まれた傷口が、燃えるような光を灯し、それが禍々しい紫色に転じていく。
「素晴らしいだろう?」
気付けば、一人の男が立っていた。
「ぼくの最高傑作だ。まあ、暫定的なものに過ぎないけどね」
「な……なん、だ? …………な、に、……を……」
「質問かな? 生憎、君に返答する必要性がないな」
にこりと男は笑い、
命じた。
「――シンカ、殺せ」
「…………」
少女の腕の輝きが強さを増していく。
(ああ、まずいかも……)
ドアの頭に諦念がよぎった。
だが、
天は彼女を見捨ててはいない。
「そこを、離れなさい!」
瞬間、太陽のような火球が炸裂する。
「おっと!」
「…………」
見れば、青髪の少女がこちらに掌を向けていた。
「本気で怒らせていただきますよ?」
静かな怒気と共に、掌の炎が揺らめく。
「バルハ姉を怒らせちゃったか……。まあ、因果応報、諦めてボコボコにされるといいよ」
フェルも翼を広げ、戦闘態勢に入る。
「あたしも、割と怒ってるんだしねー」
二人から発せられる強力な威圧。
しかし男は動じない。
「そう。なら好きにすればいい。もっとも――」
にたり。
男の顔が歪んだ。
「勝てるなら、だけどね」
「…………」
閃光が奔った。
シンカと呼ばれた少女の手から放たれた光線だ。
「くっ!」
「これ、あたし達を追尾してる⁉」
「…………」
バルハは火球で応戦、フェルは飛行して回避しようとするが、捌ききれない。
「きゃっ!」
「うわっ!」
二人の体が地面に転がった。
そこへ、更に光線が撃ち込まれていく。
「それくらいにしておけ。こいつらには使い道がある」
男の一言にシンカは光線を撃つのをやめる。
「…………」
「よしよし、いい子だ。さて――」
男の笑みが、さらに深く歪む。
「――連れて行け。後で手を加える。……暫くは、楽しみは事欠かないな」
「――――待て!」
声が響く。
「貴様……ここを妾の町と知っての狼藉か?」
一人の少女が爛々と怒りを瞳に宿し、男を見据えた。
海や空のような青い髪を、唸る風になびかせ、威風堂々の雰囲気と大地が煮え立つような怒気と共に、男に問う。
「……さて? ここは政府の管理区域だ。あなたには関係ないでしょう」
「減らず口は程々にせい。……今すぐこの町から手を引け。これがただ一回貴様に与える機会じゃ。無下にするというのなら――」
怒気が炎を上げるように苛烈さを増した。
暗雲が空を覆い隠し、風が吹き、雷鳴が轟いた。
「――この護国竜王が相手になろうぞ!」
青い髪を金色に輝かせ、シャラナが吠えた。




