一の幕
ゼロは怪獣細胞の改造版、機械細胞の意識である。
その上から芹沢由人の意識が上書きされており、結果ゼロは普段眠っているのだ。
だから目が覚めた今、思い切り遊ぶのだ。
「だーきーつーくーなー!」
……遊ぶ予定、だったのだ。
だというのに!
「なんでみんなわたしを抱きしめるのよ!」
「なんでだろう? 無性にムラムラしちゃうのよね!」
「意味わかんない!」
クインが一番ひどい。
他のメンツも似たりよったりだが、彼女が一番だ。
その彼女の言い分が意味のわからないものだった。
「発情でもないんだから、勘弁してよ!」
「無理よ! なんだか無理やり発情した気分だわ!」
「わたし女なんだけど!」
「男だったじゃない!」
「知らないわよ!」
「取り敢えずスリスリさせなさい!」
「いーやー!」
知ったことではないのだ。
抱きつかれるのが嫌なのである。
動きづらいし、出歩けないのが嫌なのである。
というか、街の中あちこち見て回る時、ついてこられるのも嫌なのである。
「まったく……」
憤慨しながら、膝の上にジュラをのせ頭を撫でる。
「……なんでわたし?」
「あなたが唯一の癒やしよ、ジュラ」
「…………? ……うん」
「素直でよろしい」
そのまま二人でぼんやりしていた。
特にしたい事もなくなってきたのである。
「…………結局、そんなにやりたい事があったわけでもなかったのねー」
「?」
「わたしのことよ。なんか、燃え尽きちゃったみたい」
「……きっと、なにも知らないから、そう思うだけ」
「うーん、そうかな?」
「多分」
「ふうん……まあ、確かにわたしはなんにも知らないわね。由人の顔も、見たことないし」
「……そうなの?」
「当たり前じゃない。わたしが眠ってるときにあいつが起きてるんだもの。見れるわけ無いでしょ?」
「セリザワの顔、見たい?」
「……どうだろ」
「判らない?」
「…………ええ」
「ん…………いろいろ知ってから、決められればいい」
「……そう、ね。………………って、なんでジュラのほうが年上面してるのよ!」
「……………………経験の差?」
「ちょっ、経験って何よ! あ、なんで降りるのよ! 待ちなさいってー!」
……
(知らないことだらけ……ね)
布団の中。
芹沢由人が使っていたものにくるまり、ゼロは思考を奔らせた。
(当たり前じゃない。わたしが目を覚ましていたのなんて、ほんの一週間くらいだったんだから)
直ぐに眠った。
そして目覚めた。
(ちょっとくらい、楽しんだって、文句ないでしょ?)
嘘をついている。
だからかどうかは判らない。
ただ、
少し、胸が痛かった。
(……………………寝たく、ないな)
……
轟音が響く。
早朝の空気が、剣呑なものに切り替わった。
「っ! 何⁉」
何もわからない。
ただ、一つだけわかった。
きっと、なにか大事な物が終わったのだ。




