後悔、決意
いつも否定されてきた。
誰からも、何からも、否定されていた。
「危険なんですよ、だから拘束しなければいけない」
「君の存在価値は細胞の情報源というだけだ……」
「きっと芹沢の息子も、君のことなんて覚えてないだろうねぇ?」
いつも何かを殺していた。
「アアア……」
赤い獣。
「君の細胞から作られた、子供みたいなものなのに、ためらいなく殺すね?」
そう言われても、何も感じなくなっていた。
自分の掌で、熱が失せていく感覚にも慣れてしまっていた。
ああ、
結局、わたしは、
……
「由人君……」
少女の姿になってしまった彼を抱える。
思い出してくれた。
「セリザワを……どうするの?」
「……ジュラ、だっけ? 彼の住んでたとことか、彼の面倒を見てた人の居るところ、知ってる?」
「?」
「由人君、そこに連れてくから」
一緒に、彼女を抱える。
「ごめんなさい、あなたに、最低のことをしたわ」
「……今は、セリザワを運ぶのが先」
「うん。……ありがとう」
「……ん」
……
「おや、随分遅かったね――誰だい? 君は?」
わたしを見て、ジュラとよく似た女性が首をかしげた。
「……お姉ちゃん」
「ジュラ? その服、どうしたの? その人は?」
「…………今は、セリザワを休ませたい」
「え? ヨシト? そういえば、彼はどこだい?」
……ああ、今は由人君は、女の子の姿になってるんだった。
「この子が由人君だよ」
「え?」
「お姉ちゃん、本当だから、早くセリザワを休ませないと」
「う、うん」
……
「なにこれ、ひどい熱じゃないか……!」
「由人君は、わたしたちのために、頑張りすぎ……なんだよ……」
「! 待って、あなたも……!」
「わたしなんてどうでも良い! ……今は……由人君を…………」
「…………うん」
……
なし崩しに、由人君の家にいることになった。
「いいの……?」
「信用できないけど、目は離せないし」
「……うん。そうだね……」
彼女が本気を出せば、今のわたしなんて歯が立つわけがない。
ジュラも完全に回復した。
わたしも調子が戻りつつある。
でも、まだ由人君は目を覚まさない。
何故だろう。
いや、答えは分かりきっている。
消耗が激しすぎたのだ。あの日、例えるなら、彼は体の中身をぐちゃぐちゃにされた上、それを焼かれたようなものだった。
生きていられること自体、奇跡みたいなものだった。
そう、結局は、
「……わたしの、せいだよね……」
彼は確かにわたしを救ってくれた。
でも、その替わりに彼は――
……
「ちょっ、由人が目を覚まさない!?」
「一大事じゃないか!」
「大丈夫、なんでしょうか……?」
「とりあえず、芹沢さんの状態は?」
「……知らぬまに、なにやら大事になっておるの」
クイン、フェル、バルハ、ルモ、シャラナ。
彼と関わりのある少女型怪獣が集まっていた。
もう一週間経った。
それでも、彼は目覚めない。
寝かされたままの彼の頭を、そっと撫でる。
いつ起きるのだろうか? それとも、もう二度と……
「……ん」
「あっ……!」
小さい声を漏らし、ゆっくりと彼が目を覚ます。
「んー、おはよー……あふ、ねむぅ……」
「よ、由人君!?」
「ヨシト!」
「セリザワ!」
思わず名前を呼ぶ。
けど、
「んぅ……? わたし、由人じゃないよ?」
「え?」
「だって、由人はまだ寝てるもん」
彼――彼女はそれを否定した。
「わたしはゼロ! 由人のお姉ちゃんみたいなものだよ!」
「……由人君、じゃないの……?」
「そうだよ」
また、目の前が真っ暗になった気がした。
「ごめん……ごめんね……由人君…………」
わたしのせいだ。
このまま、彼は目を覚まさないかもしれない。
「ごめんなさい……ごめんなさい……………………」
ああ、なんで。
彼は悪くないのに。
「ディア」
「……ジュリ……」
彼女は真っ直ぐにわたしを見つめていた。
「勝手に諦めないで。ヨシトは目を覚ます。絶対に。だから、あなたも下を向かないで」
強い言葉。
「…………」
「まだ、彼に責められたわけでもないだろう? なら、今は前を向いて、彼を目覚めさせる方法を考えよう」
信じている言葉。
「…………うん」
そうだ。
泣いてる暇なんてない。
彼を元に戻す方法を、目覚めさせる方法を、
「絶対、見つけよう――」
ゼロの目覚める少し前のお話です。
ディアは主人公がとっとと起きないせいで、ネガに……。
起きろよ主人公w




