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怪獣少女のいるところ  作者: 七志野代人
第四章 今に目覚める
37/49

過去、約束、悪意。現在、改変、喪失。

 胸糞注意。

 時系列がちょっとぐちゃぐちゃです。

 初めてあったとき、すごくどきどきした。

 だって初めて自分以外の子供を見たんだから。

「こんにちは」

「あ……、こ、こんにちは!」

 そう言って彼はにっこり笑った。

「なんていうの?」

「ふぇ?」

「名前教えて?」

「でぃ、ディア」

 つっかえながらも答えた。

「ディアちゃんっていうの?」

「うん…………。変な名前じゃ、ない?」

 自分でもいい名前だという自信がない。

「変わってるけど、変じゃないよ? 似合ってるもん!」

 けれど、彼は笑って首を振ってくれた。

 私は思わず確認してしまったが……

「そ、そうかな?」

「うん!」

 彼は力強く頷いた。

「……ありがと」

「どーいたしまして!」

 私の小さな声に彼は元気な声で返してくれた。

 嬉しかった。

「僕は由人! 芹沢由人!」

「よしと、君?」

「うん! よろしくね! ディアちゃん!」

「由人君……。……うん!」


 ……


「でね、うちの近くで猫がいてね?」

 彼はいろんなことを話してくれた。

 外に出たことの無いわたしには、とても面白い話。

「ねえ、ディアちゃん」

「ん?」

「君のこと、聞いてもいいかな?」

「え……?」

 わたしの事……?

「あ……、ごめん、イヤ……だった?」

「……ううん、いやじゃないよ。でも……」

 わたしは、何も知らない。

「わたし、何も話せないよ……」

「なんで?」

「だって、お外に出た事もないし……なんにも知らないから」

「研究所から出たこと無いの?」

 …………ない。ただの一度だって…………。

「……うん」

「じゃあ、一緒に外に出よう?」

「ふぇ?」

「お父さんに頼んで、お外に出れるようお願いしてみる!」

 笑いながら、彼はとんでもないことを言い出した。

「だ、だめだよ! わたし、怪獣だし……。……あ」

 ああっ! しまった! まだわたしが怪獣って教えてなかったのに……!

「怪獣……?」

「あ、あの、その…………実はわたし、怪獣……なの」

「…………あ! お父さんが言ってた子って、君だったんだ!」

「…………ふえ?」

 由人君は顔をぱーっと明るくした。

「お父さんが、今研究所に、シャラお姉ちゃんの他にも怪獣の子が居るって言ってたんだー! そっかー! うん! お父さんのお仕事もきっとうまく行くよ!」

「????」

 意味がわからない。

 驚かないの? シャラお姉ちゃん? お父さんのお仕事?

「えと……驚かないの?」

「え? 驚いてるよ?」

「そうなの?」

「うん」

 ……あんまりそう見えない。

「でもそれより嬉しいんだ」

「なんで?」

「僕とディアちゃんが仲良くなれたんだから、怪獣と人間も仲良くなれるってことだもん! お父さんのお仕事もうまく行くってこと!」

「????」

 やっぱり分からない。

「んと、僕のお父さんのお仕事は、怪獣と人間が仲良く生活できるようにする事なの」

「うん」

「だから、シャラお姉ちゃんともディアちゃんとも仲良く慣れたんだから、人間と怪獣もきっと仲良くなれるんだよ!」

「……………うん!」

 大体わかった!

 時間かかったけどわかった!

「由人君のお父さん喜ぶといいね!」

「うん!」

 二人でうなずきあっていると、大人の人が声をかけてきた。

「なんの話をしているんだい?」

「ふあっ!」

 ついびっくりして由人君の背中に隠れてしまった。

「お父さん!」

 由人君はその人に抱きついた。

「ディアちゃん、この人が僕のお父さんだよ!」

「ああ、この子がディアか。話には聞いてたけど、俺もあったことはなかったんだ。息子が随分楽しそうだ。仲良くしてくれて嬉しいよ。ありがとう」

「ひゃ、ひゃい!」

「緊張しなくていいよ。俺の仕事は由人から聞いたかい?」

「はい……」

「そうか。なら、知っての通り、俺の仕事は怪獣と人間が共存していけるようにする事だ。君みたいに、人に有効的に接してくれる怪獣がいるなら、それはとても嬉しいことなんだ」

「そうですか」

「うん。だから、君達とこうしてコミュニケーションが取れるのも非常に嬉しいよ」

「お父さん!」

「ん? どうしたんだ?」

「ディアちゃんを外に出して一緒に遊びたい!」

「ディアを? ……まあ、いい機会かもしれないな。分かった、上に申請してみるよ」

 由人君のお父さんは、少し難しそうな顔をしたあと、笑って頷きました。

 由人君も嬉しそうに笑ってくれます。

「よかったー! 一緒に外で遊べるね!」

「まあ、申請通してからだから、また今度に一緒に遊ぶことになるな。由人、そろそろ俺たちも帰ろう。母さんが待ってるぞ」

「あ……、うん。ごめん、ディアちゃん。また今度ね」

「…………うん」

 残念だけど、由人君はもう帰ってしまうようです。

「ばいばい、またね、ディアちゃん。今度は外でいっぱい遊ぼう」

「……っ、うんっ!」

 でも、約束してくれました。

 また、会える。

「またね、由人君!」


 ……


「お父さん、お仕事大変なんだね……」

 お父さんは同僚の人とお話しをしている。

 僕は一人で帰れるから、お父さんより先に帰ります。

(ディアちゃん、いい子だったな)

 とても可愛い子だった。

 怪獣なだけあって、変わった髪色だった。

 きれいな桜色だった。

(触ってみたいな……って、失礼だよね…………)

 まあ、下心抜きでも遊びたいな。

 みんな、仲良くしていける。

 人同士でも難しい。

 怪獣と人間なら、きっともっと難しい。

 でも、不可能(ゼロ)なんてないはずだから。

(…………お父さんの受け売りだけど)

 それでもそのとおりだと思う。

 だから、次会う時は、シャラお姉ちゃんも、ディアちゃんも、他の怪獣の子も、みんなと一緒で――





















































































































































 ドンッ


 意識が一瞬吹き飛んだ。

 

 遅れて熱さが迫ってきた。

 

 視界が赤い。

 目線を移し、自分を見てみる。

 手足が変な風になっている。

 曲がんない方に曲がって、動かなくて、熱いような冷たいような感覚がする。


 また、車の、お、と――


 ドンッ


 ……


『仕事はどんな感じだい?』

 男に連絡が入った。

「しっかり車で二度轢いた。確かに死んだ」

『おー、ありがとう。これであの腑抜けもやる気出すでしょー』

 依頼主の軽口が鬱陶しい。

「…………子供殺すのに、大金叩くな」

『えー、助かんだからいいじゃーん』

「…………ああ、そうかい」

『んじゃ、金はちゃんと振り込んどくから、あとはお互い他人で』

「あいよ」

 静かに、男は車を降りた。


 ……


「……………………正気か、お前」

 その男の言葉に、芹沢広明は敵意を向けた。

「至って正気さ。判断するのは君次第だ。どうする? あの子を犠牲にすれば、君の子は帰ってくる。僕らの研究も進む。良い事づく目じゃないか」

「………………クソ野郎」

 その男の言葉が、真実であることが彼をより苛立たせる。

「甘んじてその評価を受けよう。僕の研究をすすめるためだ」

「……………………」

 男が笑んだ。

 同時に、広明の結論も、苦々しいものになっていた。

 そして、犠牲になる少女へ、謝罪の呟きを、彼は零した。

「…………………………………………………………すまない、ジュリ」


 ……


 怪獣細胞の暴走。

 腹が貫かれ、ズタズタになった臓物が血と一緒に腹から零れていく。

「………………じね、な、い……お、れ、は、つぐわな、け、れ……ば」

「ああ、実に悲劇的だ」

 代価は何だったのだろうか。

 嗤う男の話。

 犠牲にしてしまった少女は、今俺自身に牙を剝いた。

「………………………………よ……し………………、……と」

 かろうじて漏れた呟きは、借り物の身体で生き返った、未だ眠る息子の名前だった――


 ……


 結局、由人君はずっと来なかった。

 寂しいけど、待ってる。

 あれから何だかだんだん慌ただしくなった。

「…………由人君」

 何度も採血された。

 何度も検査された。

 不安が大きくなる。

「彼に会いたいのかい?」

 そう男の人は笑った。

 酷く、嫌な笑い方だった。

「合わせてあげよう。この注射を、受けてくれたらね?」

「…………………………はい」

 怖い。

 でも、由人君に会えるなら。

「いい子だねぇ……ほんと、いい子だ」


 ……


「あ、ぐ、ぎゃあああああああああああああっっっっっっ!」

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 全身が焼け爛れていくようで、脳が沸騰するようで、

 壊れる。

 壊れる。

 壊れる!

「頑張れー。生き残らないと、由人君に会えないよ?」

 そう言われたら、意地でも生き残ってしまう。

 会いたい。

 逢いたい。

 遭いたい。

 合いたい。

 あいたい。

 アイタイ。

「く、ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっっっっ!」

 ああ、もうわたしの出してた声じゃない。

 壊れてく。

 変わってく。

 約束、忘れたくない。

「ほら、もう少しだ」

 声が囁く。

 心臓が狂う。

 血が割れる。

 骨が熔ける。

 肉が泡立つ。

 変わっていくのが――気持ちいい?

「っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!」

 もう声も出ない。

 ただ、体は意味の分からない熱さと快楽に苛まれていくだけ。

 ああ、わたしは――





































































































 ――もう、消えてしまうんだ。


 ……


 何もかもが分からない。

 ただ、酷く眠たい。

 体が死に向かっているからだろうか?


 ジュラ、


 ただ一言だけでいい。

 なのに思い出せない。

 

 ジュラ、


 おれは――

 過去の出来事、今起こっている出来事です。

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