煉の果てに――
超展開、発動!
ジュラの体温が下がっている。
血も止まらないし、骨にも当たっているかもしれない。
今すぐ病院に駆け込むのがどう考えても最善だ。
だが、そう簡単には話は進みそうにない。
「さーて、次は由人君だ」
そう言って嗤うディアは、先程とは違う姿だった。
紅い髪に、紅い四枚羽。左右非対称の二本角。
今まで見たどんな少女型怪獣よりも怪獣らしい姿だ。
「それが本当の姿か」
「……どうだろ? あちこちイジられちゃったから」
「…………」
イジられた、か。
恐らくさっき言ってた研究所とやらで、だろう。
……ますますきな臭い。
まあ、今はそれはどうでもいい。
アツイ。
怒りで頭が破裂しそうだ。
全身の血管を熱湯が巡っているような感覚。
理性も何もかも吹き飛びそうだ。
「……っ、流石は由人君。すごいエネルギー。それだけのエネルギーを、あの出来損ないみたいに補助に頼らなくても出来るんだ!」
「ああそうかよ……」
褒められたところでどうでもいい。
今はそんなこと、考えている場合じゃない。
「でも、それだけなら、わたしでもまだ勝てるかな?」
「うる、さい……っ!」
バチバチと俺の周りで空気が放電する。
俺の怒りに呼応して、エネルギーが外部に漏れる。
今はアイツをぶん殴りたいのをこらえて、今すぐジュラを病院に運ばなくては――
「っ!」
一気に駆け出す。
「逃げないでよ。今度はもっといっぱい遊ぶって、約束してくれたんだから」
今度は? 約束? なんの話だ? いいや、今はそれよりも。
ディアが回り込んでくる。
羽根がある分、アイツは道を気にせず移動できる。
この街の地理を知ってるなら、確実に回り込まれる。
「クソが!」
「あ、ひどいなぁ。女の子に向かってそんな事言うなんて……やっぱり、殺しちゃうより、縛って再教育かな?」
「うるせぇっ!」
勘に頼ってエネルギーを収束させ、熱線を放つ。
直撃。
「痛い、熱い……あぁ、由人君までわたしを……嫌だ、イヤだ、イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ!」
もうもうと立ち込める煙の中、熱線を受け止めたのだろうか?
少しだけ赤くなり蒸気を上げる右手をおさえて、ヒステリックにディアが叫ぶ。
「イヤ……イヤだよ…………絶対、認めない…………っ!」
ギロリと目つきが変わった。
「なんなんだ……!」
踏み込み、同時に距離を詰められる。
「うぉっ!」
早い!
紅い翼が閃きーー!
ザグッ
「がふっ!」
腹を貫かれ、
ザザザグッ!
更に四枚羽の残り全てが突き刺さった。ジュラを突き刺したのはこれか……!
しかも、何かが俺の中に流れ込む感触。
毒か!?
「あひひひはひゃははははっ! 由人君由人君由人君! ああ、もう、絶対放さない! 由人君がこんな事するのも、アイツラが汚すから、穢すから! ……消毒しなきゃ。…………あの女も、これで消えたのに、往生際の悪い……っっっ!」
あの女? 消えた? 何か引っかかる。何か――
――ゲノム·ディストラクション――
――ジュリは一度――
まさ、か――
さっき、俺の体に注入されたのは、
「ゲノム·ディストラクションか!?」
「あはっ、せーかい、由人君」
狂ったように、淫靡に、ディアは笑う。
同時に体がガクガクと制御を失っていく。
細胞が死んでいく。
体が動かなく――
ディアが動かない俺の体を抱きしめる。
翼さえもオレを愛おしそうに包む。
腹から流れる熱い血の感触。
内側から死んでいく体の感覚。
「あひひひ! これで、もうあんなことしないよね? あひひゃひゃひゃひゃ! 取り返したんだ! わたしの! 由人君を!」
ドクンッ
劫火が血管を疾走る。
何かの制御が俺の手から零れた。
瞬間終わっていく俺が息を吹き返した。
轟々と身体から焔の様なエネルギーが吹き上がり、力が手足に戻り、更に力強さを増していく!
「な、なに⁉」
「放し、やがれっ!」
湧き出す力そのままに、ディアを振り払う。
「なに……? 何なの……? なんでそんなエネルギー量が?」
戸惑う声を無視し、エネルギーを収束させていく。
「嘘……、そんなエネルギー、制御できるはずがないのに……なんで……? ……まさか……制御していないの?」
全身が焼け焦げ、その都度再生していくかの様な感覚。
髪が体から立ち上る熱気に煽がれて揺れる。
最早右手が炎を上げ、形を崩していっている。
それでも込められていくエネルギーは、更に輝きを増していく。
「だめ、由人君が壊れちゃう……」
そのセリフを聴いて、疑問が口から零れる。
「…………は」
「え?」
「お前は、なんで俺を知っている……?」
「…………思い出してくれない、か」
「だから……」
「……もう、いいよ。自分でも、何したいのかわからない」
「は?」
その一言を呟き、ディアの瞳から光が消えた。
「一緒に、死んで?」
「っ!」
とっさに距離を取るが、間に合わない。
紅い羽が閃き、
一枚が俺の胸を切り裂き、
一枚が心臓を貫き、
残りの二枚足を縫い止めた。
同時に流れ込むゲノム·ディストラクション。
細胞が更に死滅していく。
「このまま肉体が死ねば、エネルギーは大爆発を起こす……。さあ、一緒に死のう?」
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああっ!」
溶ける、融ける、熔ける!
死んだ細胞が焦げていく。
痛みと同時に情報が流れ込む。
なんだ、これ……!?
――わたし、うまれちゃだめだったのかな?
――ううん、ありがとう。
――こんどはもっとあそぼう? もっとおはなししよう?
――じゃあね、由人君。
知ってる?
知っていた?
――キィイイイイイッ
――ガッ
ああ、そういうことか。
死んだのがあの日。
忘れていたあの日。
ああ、会ってたんだ。知ってたんだ。
ごめん
でも、今は――
「 」
声には出せなかった。
ただ、右手を心臓に叩きつける。
紅い羽が焼け落ちる。
心臓が力を取り戻す。
「……ぁ」
すとん、とディアがへたり込む。
「ごめん」
焼け崩れていく体を引きずり、俺はジュラの元へ歩む。
「ジュラ……」
「あ……、せり、ざ……?」
「ごめん、俺はもう、これしか出来そうにない」
俺はこのまま死んでしまうだろう。
溢れ出るエネルギーは暴走し、体を内側から焼いている。
ジュラも、このままでは死んでしまう。
だから、
「……まってあげられなくて、ごめんな」
虚ろに輝く瞳が少しだけ見開かれる。
そう、一言だけ謝って、唇を重ねた。
――エネルギーを操作。
――ジュラの怪獣細胞に最適化。
――活性剤としてエネルギーをジュラに譲渡。
「…………ん」
「……っ」
唇を離す。
「……せりざわ…………、一緒に、いて?」
「……………………ごめん」
ゆっくりとへたり込むディアのもとに歩み寄る。
「…………約束」
「……うん」
「…………守れそうに、ない」
「……思い出した?」
「ああ」
「わたしも、思い出したよ」
「………………」
ぽろりと、涙が零れた。
「ごめんね……由人君…………っ」
「…………大丈夫」
――肉体の機能が約半分が停止。
――非常事態と状況を認定。
――機装形態へ移行。
何かが、切り替わる――
「…………え?」
「俺、死んじゃったから、だからってわけじゃないけど、約束、今の今まで忘れてたから…………おあいこってことで」
「……うん」
「あ、でも、ジュラには謝ってくれ。あの子は何も悪くない」
「わかってるよ、それくらい」
「…………そうか…………、悪い、ディア」
「ん?」
「ちょっと眠くなった。あと……たの、む…………………」
「由人君?」
「……………………」
「……お疲れ様、由人君。今は、休んでて? 大丈夫…………ちゃんと……償うよ…………」
――本体の衰弱を確認。
――一時的に人格を改変。負荷を軽減。
――全行程終了。起動。
如何でしたでしょうか?
一旦主人公は退場(?)です。
自分としては長いプロローグを書き終えた気分です。
それでは、これからも怪獣少女をお願いします。




