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怪獣少女のいるところ  作者: 七志野代人
第三章 動き出す過去
35/49

金色の――

「……セリザワ」

 夕食の後片付けをしているときだった

「ん? どうした、ジュラ」

「……ちょっと二人で、お話ししたい」

「? ああ、分かった。それじゃ、今やってる洗い物が終わってから――って雰囲気じゃないよな」

「…………ん」

「そうか……。悪い、ジュリ、あとの片付け、頼めるか?」

「りょーかい。ボクだってたまには役に立ちたいしね」

「後で何か一つ言うこと聞いてやる」

「おや? 彼女にそんな事約束して、どうなっても知らないよ?」

 にやりとジュリが笑った。

「なに頼む気だ……」

「気にしない気にしなーい。ほらほら、行っといでー♪」

 ……まあ、無茶なことは言わないだろ。

「……行こう」

 ジュラが俺の袖をくいくいと引っ張る。

「あ、ああ」

 俺はジュラと一緒に夜の散歩に出かけた。


 ……


「…………」

「…………」

 お互いに無言。

 話を始めるタイミングを見失っていた。

 ………………つーかめっちゃ不安だ。何言われるんだろう?

 俺何かしたっけか? アレか? ジュラの目の前でイチャついたのがやっぱり駄目だったのか? くそっ、脳内会議が遅かったって言うのか!?

「……セリザワ」

「お、おう」

「……待っててって、言ったよね」

「…………小物屋さんの時のヤツか? あれって、どういう意味だったんだ?」

「そのままの意味。待ってて欲しい。わたしが……セリザワに見合う女の子になれるまで」

 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

「駄目…………?」

「……いや、ちょっと待ってくれ」

 ジュラが、そういう風に俺を見ていた? なんで?

 いや、そもそも、

「それ、ジュリは知っているのか?」

 そうだ。今の俺は彼女持ちだ。

 ジュリのことを無視してこの話は進められない。

「……お姉ちゃんは、応援してくれている」

「…………はい?」

「姉妹でギスギスしたくないから、二人共彼女で良い」

「…………ええー」

 何その超理論。なんかいろいろ吹っ飛んだわ。

「お前はそれで良いのか?」

「……ん」

「そうか……」

 はぁ…………最近、俺って鈍感なのかと思えるようになって来た。

 こうも縦続けに告白されると、逆に彼女達の好意に気が付けなかった自分が情けなくなってくる。

「なあ、ジュラ。どうして俺を?」

「一緒に居てくれるって言った。一緒に居てくれた。お姉ちゃんを助けてくれた。……理由、充分すぎる」

「まったく……そんなもんなんだな、感情っていうのは」

 女心なんて、判らないもんだけど、

「何時までも待つ。ありがとな、ジュラ。俺を好きでいてくれて」

「……ん」

 頷き、微笑む彼女は、夜の中、静かに咲く、名もなき花を思わせた。

「――ふーん、由人君、恋人が出来たんだ……。あ、でも、わたし以外いらないよね? だって、わたしは貴方に全部を捧げるんだもん、――他の女になんて……!」

 突然、夜を声が掻き乱す。

「久しぶりだねぇ、由人君」

 そう言って、現れたのは――

「ジュリ!?」

 金色の瞳のジュリだった。

「違うよ? わたしはディア。覚えてないんだ。まあ良いよ。すぐに思い出してくれるよね?」

「お前……怪獣か?」

「勿論。怪獣に決まってるでしょ?」

 なら、ここに居たはずだ。

 何故今になってこの少女は俺の前に姿を見せたんだ?

「まあ、わたしは今まで研究所に居たからね」

「研究所?」

 なぜだろう。

 その単語に酷く不吉なイメージを覚える。

「ドクターイクスの研究所。よく分からないところかもしれないけど、大丈夫。だってわたしも居るし、それに……」

 にたり、と彼女は笑った。

 ジュラが俺の服の裾を掴んだ。

「……大怪獣町の住民、全員連れて行くもの」

「なっ!?」

 ディアの一言に俺は自分の耳を疑った。

 連れて行く?

 みんなを?


 駄目だ。


 なぜか精神がそう叫んでいる。

 そして、それがどうしても正しいようにも――

 駄目だ、駄目だ、駄目だ!

「――駄目だ!」

「あら、どうして?」

「判らない、でも……今を変化させる必要なんて、ない」

「……へえ、そう」

 静かな口調。

 同時に彼女の口元が笑った。

 笑っているのに、酷く悪寒を感じさせる。

 ああ、それは、

「そんなに汚れちゃったんだ、由人君」

 その瞳に映る、理解できない狂気のせい――


「死んでよ、そんなの要らないから」

「セリザワ!」


 突き飛ばされた。

 ディアの瞳を見て脱力していた俺は、あっさりと小さなその重みでよろめいて、尻餅をつく。


 ドジュッ


 重くぬかるんだ様な音と共に、赤い、温かい液体が俺の顔に降りかかる。

「……ジュラ?」

「……ぅ、ぁ、せり、ざわ、だいじょ、ぶ?」

 ジュラの左胸の上部から、赤い何かが突き出している。

「あーあ、外しちゃった。でも……ゴミが一つ消えたね?」

 胸のど真ん中に風穴をぶち開けられ、そこに氷を詰められたような感覚。

 はぁはぁと荒い息を吐くジュラから目を離せない。

 庇ってくれた。

 庇われた。

「馬鹿野郎……っ」

 それは誰に向けた言葉だったろうか。

 いづれにせよ――

「――……ぶん殴られる覚悟は出来たか」

 コイツは赦さねぇ……っ!

……日常タグ外そうかな……

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