金色の――
「……セリザワ」
夕食の後片付けをしているときだった
「ん? どうした、ジュラ」
「……ちょっと二人で、お話ししたい」
「? ああ、分かった。それじゃ、今やってる洗い物が終わってから――って雰囲気じゃないよな」
「…………ん」
「そうか……。悪い、ジュリ、あとの片付け、頼めるか?」
「りょーかい。ボクだってたまには役に立ちたいしね」
「後で何か一つ言うこと聞いてやる」
「おや? 彼女にそんな事約束して、どうなっても知らないよ?」
にやりとジュリが笑った。
「なに頼む気だ……」
「気にしない気にしなーい。ほらほら、行っといでー♪」
……まあ、無茶なことは言わないだろ。
「……行こう」
ジュラが俺の袖をくいくいと引っ張る。
「あ、ああ」
俺はジュラと一緒に夜の散歩に出かけた。
……
「…………」
「…………」
お互いに無言。
話を始めるタイミングを見失っていた。
………………つーかめっちゃ不安だ。何言われるんだろう?
俺何かしたっけか? アレか? ジュラの目の前でイチャついたのがやっぱり駄目だったのか? くそっ、脳内会議が遅かったって言うのか!?
「……セリザワ」
「お、おう」
「……待っててって、言ったよね」
「…………小物屋さんの時のヤツか? あれって、どういう意味だったんだ?」
「そのままの意味。待ってて欲しい。わたしが……セリザワに見合う女の子になれるまで」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
「駄目…………?」
「……いや、ちょっと待ってくれ」
ジュラが、そういう風に俺を見ていた? なんで?
いや、そもそも、
「それ、ジュリは知っているのか?」
そうだ。今の俺は彼女持ちだ。
ジュリのことを無視してこの話は進められない。
「……お姉ちゃんは、応援してくれている」
「…………はい?」
「姉妹でギスギスしたくないから、二人共彼女で良い」
「…………ええー」
何その超理論。なんかいろいろ吹っ飛んだわ。
「お前はそれで良いのか?」
「……ん」
「そうか……」
はぁ…………最近、俺って鈍感なのかと思えるようになって来た。
こうも縦続けに告白されると、逆に彼女達の好意に気が付けなかった自分が情けなくなってくる。
「なあ、ジュラ。どうして俺を?」
「一緒に居てくれるって言った。一緒に居てくれた。お姉ちゃんを助けてくれた。……理由、充分すぎる」
「まったく……そんなもんなんだな、感情っていうのは」
女心なんて、判らないもんだけど、
「何時までも待つ。ありがとな、ジュラ。俺を好きでいてくれて」
「……ん」
頷き、微笑む彼女は、夜の中、静かに咲く、名もなき花を思わせた。
「――ふーん、由人君、恋人が出来たんだ……。あ、でも、わたし以外いらないよね? だって、わたしは貴方に全部を捧げるんだもん、――他の女になんて……!」
突然、夜を声が掻き乱す。
「久しぶりだねぇ、由人君」
そう言って、現れたのは――
「ジュリ!?」
金色の瞳のジュリだった。
「違うよ? わたしはディア。覚えてないんだ。まあ良いよ。すぐに思い出してくれるよね?」
「お前……怪獣か?」
「勿論。怪獣に決まってるでしょ?」
なら、ここに居たはずだ。
何故今になってこの少女は俺の前に姿を見せたんだ?
「まあ、わたしは今まで研究所に居たからね」
「研究所?」
なぜだろう。
その単語に酷く不吉なイメージを覚える。
「ドクターイクスの研究所。よく分からないところかもしれないけど、大丈夫。だってわたしも居るし、それに……」
にたり、と彼女は笑った。
ジュラが俺の服の裾を掴んだ。
「……大怪獣町の住民、全員連れて行くもの」
「なっ!?」
ディアの一言に俺は自分の耳を疑った。
連れて行く?
みんなを?
駄目だ。
なぜか精神がそう叫んでいる。
そして、それがどうしても正しいようにも――
駄目だ、駄目だ、駄目だ!
「――駄目だ!」
「あら、どうして?」
「判らない、でも……今を変化させる必要なんて、ない」
「……へえ、そう」
静かな口調。
同時に彼女の口元が笑った。
笑っているのに、酷く悪寒を感じさせる。
ああ、それは、
「そんなに汚れちゃったんだ、由人君」
その瞳に映る、理解できない狂気のせい――
「死んでよ、そんなの要らないから」
「セリザワ!」
突き飛ばされた。
ディアの瞳を見て脱力していた俺は、あっさりと小さなその重みでよろめいて、尻餅をつく。
ドジュッ
重くぬかるんだ様な音と共に、赤い、温かい液体が俺の顔に降りかかる。
「……ジュラ?」
「……ぅ、ぁ、せり、ざわ、だいじょ、ぶ?」
ジュラの左胸の上部から、赤い何かが突き出している。
「あーあ、外しちゃった。でも……ゴミが一つ消えたね?」
胸のど真ん中に風穴をぶち開けられ、そこに氷を詰められたような感覚。
はぁはぁと荒い息を吐くジュラから目を離せない。
庇ってくれた。
庇われた。
「馬鹿野郎……っ」
それは誰に向けた言葉だったろうか。
いづれにせよ――
「――……ぶん殴られる覚悟は出来たか」
コイツは赦さねぇ……っ!
……日常タグ外そうかな……




