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怪獣少女のいるところ  作者: 七志野代人
第三章 動き出す過去
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希望の行方 

 さて、うまくいくかどうか。

 吉と出るか、凶と出るか。

 俺は一つの賭けに出る。

 ジュリに元の体を作る。

 もう一度、笑えるようにする。

 その為に、俺は、命を懸ける。

 ジュラがジュリと一緒に笑えるように。

 皆がもう一度、心から笑えるように。

 

 ……


「全く、久しぶりに会えたと思えば、とんでもないことを言い出したわね……」

「文句はヨシトに頼むよ。ボクは反対したんだから」

 クインの呆れた表情に、ジュリは苦笑を返す。

 その腰には、ジュラがぎゅうぅうう~っと抱きついている。

 ジュリを見た途端、こうして抱きついてきたのだ。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん…………!」

 もう二度と放さないとでも言うかのように、必死に抱きついている。

「大丈夫だよ、ジュラ。また、一緒にいられる様にするから」

 ジュリは優しく、その頭を撫で続ける。

「ほら、ちゃんとここにいるでしょ? ボクは、もうジュラを置いて、どこにもいかないから。だから、ね? ジュラ、お手伝いをしてほしいんだ」

「…………ん。お姉ちゃんが、喜んでくれるなら」

 こくん、とジュラは頷いた。

「けど……、これだけは言いたい」

「何だい?」

「お帰り、お姉ちゃん」

「うん、ただいま、ジュラ」

 そこには、とても仲睦まじい姉妹の光景があった。

 その二人を見て、同じく微笑む二人組。

 バルハさんとフェルだ。

「……頑張ってくれてるね」

「……ええ。彼には、お礼を言わなくては」

「うん。取って置きのお礼をしよう」

 静かに頷きあい、二人はクスリと微笑んだ。


 ……


「とりあえず、大量のエネルギーが必要なんだ」

 ジュリは他のみんなに、元の体を復元する方法を話していた。

「細胞をボクの肉体にするためには、死んでもおかしくない量のエネルギーを使う。当然、そんな手段には出ないのが賢い選択だけど……」

「……セリザワがやるって言ったの?」

 ジュラの言葉に、ジュリは驚いた。

「よくわかったね。その通り、ヨシトがやるといって聞かなくてね」

「まあ、なんと言って言いくるめられたのか、わたし達は分かりませんが」

「そうじゃの。まあ、妾はかなり気になっておるが」

 ルモさんとシャラナのセリフに、ジュリは苦笑した。

「あはは……、まあ、気にしなくて大丈夫だよ」

「そんなに恥ずかしいことでも言われたの?」

 ジュリの反応に、クインは首をかしげる。

「……うん、まあ、ね」

 少し、ジュリが顔を赤らめる。

 言った当人も後々恥ずかしかったとだけ言っておこう。

「それで? 結局、どうやってエネルギーを送るの?」

 クインの質問。

「みんなの熱線や光線でエネルギーを吸収する。遠慮なく頼むよ」

「細胞の増殖中にもエネルギーを送るのですか?」

 今度はバルハさんだ。

「いや、さすがに体をもうひとつ作ってる間、さらに流入してくるエネルギーの統制は無理だから、あらかじめ、極限までエネルギーを溜め込む。その分で、肉体の構成は普通にいけるみたいだし」

「それじゃ、今から始めるのかい?」

 フェルがそれなら急ごうと言ってきた。

「ううん、エネルギーを吸収するのは今からやるけど、体を作るのは、自分家でやるよ。というか、ヨシトの体じゃないと、不可でまず無理なんだよ」

「分かりました、ジュリ。それでは、今すぐ行いましょう」

 ルモさんから威圧感が発せられた。

 見れば、その背中にアゲハ蝶のような、大きく、鮮やかな翅が広げられている。

 ジュリが刀を抜く。

「行きます」

「OK」

 ブワッと鱗粉が舞い、エメラルドの光が満たされる。

 その光が、全てジュリの刀に吸い寄せられていく。

「……うん、良い調子だね」

 力の流れ込む感覚を確かめ、ジュリは頷く。

「それでは、次はわたしが」

 バルハさんが手を差し出す。

 その手には、大きな火の玉が掲げられている。

 まるで、小さな太陽のようだ。

 それが放り投げられ、刀に吸収された。

「……よし、ジュラ、クイン、続けて頼むよ」

「いくわよぉ、引力光線!」

 三条の光が放たれ、それを、ジュリは刀で受け止めた。

「……お姉ちゃん、がんばって」

 ジュラの髪が発光し、熱線が撃ち出される。

 刀は熱線を吸収し、その刀身が輝き出す。

「……OK、充分にエネルギーは溜まった。これでいけるよ」

 ぶんっ、と刀を一振りし、刀を鞘に納める。

 ふぅ、と息を吐き、エネルギーを体中に行き渡らせている。

「あたしもエネルギーを渡したかったけど、そういう技が無いんだよね……」

「妾も、自然に依存する能力じゃからの……」

 フェルとシャラナは少し残念そうだった。

「それじゃ、自分の部屋に戻るよ」

「……わたしも、一緒に居ていい?」

 ジュラがジュリを見上げ、少し不安そうに聞いてきた。

 恐らく、邪魔になるかもしれないとか、要らんことを考えているのだろう。

「もちろん、一緒に居ていいよ。むしろ、一緒に居てくれたほうが、励みになるだろうし」

 微笑み、ジュリはジュラの頭を撫でる。

「……ん、わかった」

 こくりとジュラは頷き、きゅっと、ジュリの手を握った。

「…………全く、嬉しいもんだね」

 その様子に、ジュリはさらに笑みを深くしていた。


 ……


「さて……と」

 ジュリが、寝室で、ポツリと呟く。

 ぐんっ、と体に感覚が戻っていく。

 見れば、ジュリの体から、元の、俺の体へ戻ってきているのだ。

「……いきなり戻すなよ」

(ごめんね。まあ、こっちの方がエネルギーの消費は抑えられるから)

「そうだな。エネルギーは有り余ってるくらいのほうが、安心できるよな」

(……最後の確認だけど、本当にいいのかい?)

「成功させれば、なんにも問題はない。なら、やるさ」

(引き返すなら、今しかないよ?)

「引き返さねーよ。絶対成功して、絶対、この町で暮らせるようにしてやる」

(ふふっ、聞くだけ無駄だったよ。全く、君は……)

「お小言は後にしようぜ。今は、お前のために力を使いたい」

(……そう。分かった。集中しよう)

 手早く服を、下着も含め、全部脱ぐ。

 別に着替えるわけじゃない。

 衣服は、細胞を体外に生成する時に、邪魔でしかないそうだ。

 ちなみに、ジュラは部屋の扉の前で待機だ。

 ……さすがにこの格好は恥ずかしすぎる。

 服を畳んでおき、布団に寝転び、目を閉じる。

 睡眠中は、ほとんどエネルギーを消費しないらしい。

 それでも意識はしっかりさせておけるのが怪獣だ。

 そもそも突拍子もない計画。

 勝率は、一寸でもあげたいところなのだ。

「……ふぅ」

 息を吐き、同時に俺は、肉体を睡眠に移行させた。


 ……


 情報を抽出。

 ジュリの身体の情報を確認。

 怪獣細胞の設定を変更。

 順次上の条件で細胞を増殖。

 増殖した細胞で肉体を再構成。

 ……脳内はあふれでる情報を統制するため、文字通りの地獄と化した。

 全身から生成される細胞が徐々にジュリの肉体を形作っていく。

 精神をそれぞれの細胞に移行させ、放出。

 異常部位を修正。

 対策プログラムを細胞の生成に適用。

 エネルギーの損耗率を計算。

 エネルギー消費ペースを再計算。

 最適化し、適用。

 脳に規格外の負担がかかる。

 酷使された細胞が、悲鳴をあげ、激痛を訴える。

 全身から脂汗が吹き出す。

 心臓は狂おしいほど鼓動し、酸素を脳に供給し続けている。

 何度も意識が眩む。

 情報が眩む。

 それでも、


 負けて、堪るか――!


 声にならない雄叫びをあげ、俺は細胞をさらに活性化させていく。


 絶対に、諦めない。

 諦めて堪るか――!


 ……


 カーテンの隙間から、日差しが差し込んでいる。

 ゆっくり目を開けると、目の前には、裸で俺の上にうつ伏せで眠っている、末端が銀色の黒髪という、一風変わった髪色の少女。

 すうすうと寝息をたてる少女を見つめ、俺は心の中で安堵した。

(とりあえず、肉体の構築は成功したっぽいな)

 ……精神はどうだ?

 そっと揺り動かす。

 こちらも裸で汗ばんでるから、結構な密着具合だ。

 彼女の魅力的な柔らかさが、ダイレクトに全身に伝わってくるわけで。

 さすがに全身が、莫大なエネルギーの消費でくったくただし、そういう気にはならないが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいわけだ。

「……んぅぅ……」

 が、すこし唸ると、ジュリは俺の首に手を回してきた。

 そのままぎゅっと手に力を込め、俺の首元に顔を寄せてきた。

 さらに足も絡め、離れないようにしてきた。

「ちょっ……」

 何してるんだよ。

 そういおうと思ったけど。

「……ヨシトぉ…………んん……」

 何て呟いてたわけだ。

「……ったく」

 仕方ないか。

 頭を撫でてやり、呟く。

「おかえり、ジュリ」

 気付けば、俺はすこし微笑んでいた。  

 次回、多分怒濤の展開。

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