希望の行方
さて、うまくいくかどうか。
吉と出るか、凶と出るか。
俺は一つの賭けに出る。
ジュリに元の体を作る。
もう一度、笑えるようにする。
その為に、俺は、命を懸ける。
ジュラがジュリと一緒に笑えるように。
皆がもう一度、心から笑えるように。
……
「全く、久しぶりに会えたと思えば、とんでもないことを言い出したわね……」
「文句はヨシトに頼むよ。ボクは反対したんだから」
クインの呆れた表情に、ジュリは苦笑を返す。
その腰には、ジュラがぎゅうぅうう~っと抱きついている。
ジュリを見た途端、こうして抱きついてきたのだ。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん…………!」
もう二度と放さないとでも言うかのように、必死に抱きついている。
「大丈夫だよ、ジュラ。また、一緒にいられる様にするから」
ジュリは優しく、その頭を撫で続ける。
「ほら、ちゃんとここにいるでしょ? ボクは、もうジュラを置いて、どこにもいかないから。だから、ね? ジュラ、お手伝いをしてほしいんだ」
「…………ん。お姉ちゃんが、喜んでくれるなら」
こくん、とジュラは頷いた。
「けど……、これだけは言いたい」
「何だい?」
「お帰り、お姉ちゃん」
「うん、ただいま、ジュラ」
そこには、とても仲睦まじい姉妹の光景があった。
その二人を見て、同じく微笑む二人組。
バルハさんとフェルだ。
「……頑張ってくれてるね」
「……ええ。彼には、お礼を言わなくては」
「うん。取って置きのお礼をしよう」
静かに頷きあい、二人はクスリと微笑んだ。
……
「とりあえず、大量のエネルギーが必要なんだ」
ジュリは他のみんなに、元の体を復元する方法を話していた。
「細胞をボクの肉体にするためには、死んでもおかしくない量のエネルギーを使う。当然、そんな手段には出ないのが賢い選択だけど……」
「……セリザワがやるって言ったの?」
ジュラの言葉に、ジュリは驚いた。
「よくわかったね。その通り、ヨシトがやるといって聞かなくてね」
「まあ、なんと言って言いくるめられたのか、わたし達は分かりませんが」
「そうじゃの。まあ、妾はかなり気になっておるが」
ルモさんとシャラナのセリフに、ジュリは苦笑した。
「あはは……、まあ、気にしなくて大丈夫だよ」
「そんなに恥ずかしいことでも言われたの?」
ジュリの反応に、クインは首をかしげる。
「……うん、まあ、ね」
少し、ジュリが顔を赤らめる。
言った当人も後々恥ずかしかったとだけ言っておこう。
「それで? 結局、どうやってエネルギーを送るの?」
クインの質問。
「みんなの熱線や光線でエネルギーを吸収する。遠慮なく頼むよ」
「細胞の増殖中にもエネルギーを送るのですか?」
今度はバルハさんだ。
「いや、さすがに体をもうひとつ作ってる間、さらに流入してくるエネルギーの統制は無理だから、あらかじめ、極限までエネルギーを溜め込む。その分で、肉体の構成は普通にいけるみたいだし」
「それじゃ、今から始めるのかい?」
フェルがそれなら急ごうと言ってきた。
「ううん、エネルギーを吸収するのは今からやるけど、体を作るのは、自分家でやるよ。というか、ヨシトの体じゃないと、不可でまず無理なんだよ」
「分かりました、ジュリ。それでは、今すぐ行いましょう」
ルモさんから威圧感が発せられた。
見れば、その背中にアゲハ蝶のような、大きく、鮮やかな翅が広げられている。
ジュリが刀を抜く。
「行きます」
「OK」
ブワッと鱗粉が舞い、エメラルドの光が満たされる。
その光が、全てジュリの刀に吸い寄せられていく。
「……うん、良い調子だね」
力の流れ込む感覚を確かめ、ジュリは頷く。
「それでは、次はわたしが」
バルハさんが手を差し出す。
その手には、大きな火の玉が掲げられている。
まるで、小さな太陽のようだ。
それが放り投げられ、刀に吸収された。
「……よし、ジュラ、クイン、続けて頼むよ」
「いくわよぉ、引力光線!」
三条の光が放たれ、それを、ジュリは刀で受け止めた。
「……お姉ちゃん、がんばって」
ジュラの髪が発光し、熱線が撃ち出される。
刀は熱線を吸収し、その刀身が輝き出す。
「……OK、充分にエネルギーは溜まった。これでいけるよ」
ぶんっ、と刀を一振りし、刀を鞘に納める。
ふぅ、と息を吐き、エネルギーを体中に行き渡らせている。
「あたしもエネルギーを渡したかったけど、そういう技が無いんだよね……」
「妾も、自然に依存する能力じゃからの……」
フェルとシャラナは少し残念そうだった。
「それじゃ、自分の部屋に戻るよ」
「……わたしも、一緒に居ていい?」
ジュラがジュリを見上げ、少し不安そうに聞いてきた。
恐らく、邪魔になるかもしれないとか、要らんことを考えているのだろう。
「もちろん、一緒に居ていいよ。むしろ、一緒に居てくれたほうが、励みになるだろうし」
微笑み、ジュリはジュラの頭を撫でる。
「……ん、わかった」
こくりとジュラは頷き、きゅっと、ジュリの手を握った。
「…………全く、嬉しいもんだね」
その様子に、ジュリはさらに笑みを深くしていた。
……
「さて……と」
ジュリが、寝室で、ポツリと呟く。
ぐんっ、と体に感覚が戻っていく。
見れば、ジュリの体から、元の、俺の体へ戻ってきているのだ。
「……いきなり戻すなよ」
(ごめんね。まあ、こっちの方がエネルギーの消費は抑えられるから)
「そうだな。エネルギーは有り余ってるくらいのほうが、安心できるよな」
(……最後の確認だけど、本当にいいのかい?)
「成功させれば、なんにも問題はない。なら、やるさ」
(引き返すなら、今しかないよ?)
「引き返さねーよ。絶対成功して、絶対、この町で暮らせるようにしてやる」
(ふふっ、聞くだけ無駄だったよ。全く、君は……)
「お小言は後にしようぜ。今は、お前のために力を使いたい」
(……そう。分かった。集中しよう)
手早く服を、下着も含め、全部脱ぐ。
別に着替えるわけじゃない。
衣服は、細胞を体外に生成する時に、邪魔でしかないそうだ。
ちなみに、ジュラは部屋の扉の前で待機だ。
……さすがにこの格好は恥ずかしすぎる。
服を畳んでおき、布団に寝転び、目を閉じる。
睡眠中は、ほとんどエネルギーを消費しないらしい。
それでも意識はしっかりさせておけるのが怪獣だ。
そもそも突拍子もない計画。
勝率は、一寸でもあげたいところなのだ。
「……ふぅ」
息を吐き、同時に俺は、肉体を睡眠に移行させた。
……
情報を抽出。
ジュリの身体の情報を確認。
怪獣細胞の設定を変更。
順次上の条件で細胞を増殖。
増殖した細胞で肉体を再構成。
……脳内はあふれでる情報を統制するため、文字通りの地獄と化した。
全身から生成される細胞が徐々にジュリの肉体を形作っていく。
精神をそれぞれの細胞に移行させ、放出。
異常部位を修正。
対策プログラムを細胞の生成に適用。
エネルギーの損耗率を計算。
エネルギー消費ペースを再計算。
最適化し、適用。
脳に規格外の負担がかかる。
酷使された細胞が、悲鳴をあげ、激痛を訴える。
全身から脂汗が吹き出す。
心臓は狂おしいほど鼓動し、酸素を脳に供給し続けている。
何度も意識が眩む。
情報が眩む。
それでも、
負けて、堪るか――!
声にならない雄叫びをあげ、俺は細胞をさらに活性化させていく。
絶対に、諦めない。
諦めて堪るか――!
……
カーテンの隙間から、日差しが差し込んでいる。
ゆっくり目を開けると、目の前には、裸で俺の上にうつ伏せで眠っている、末端が銀色の黒髪という、一風変わった髪色の少女。
すうすうと寝息をたてる少女を見つめ、俺は心の中で安堵した。
(とりあえず、肉体の構築は成功したっぽいな)
……精神はどうだ?
そっと揺り動かす。
こちらも裸で汗ばんでるから、結構な密着具合だ。
彼女の魅力的な柔らかさが、ダイレクトに全身に伝わってくるわけで。
さすがに全身が、莫大なエネルギーの消費でくったくただし、そういう気にはならないが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいわけだ。
「……んぅぅ……」
が、すこし唸ると、ジュリは俺の首に手を回してきた。
そのままぎゅっと手に力を込め、俺の首元に顔を寄せてきた。
さらに足も絡め、離れないようにしてきた。
「ちょっ……」
何してるんだよ。
そういおうと思ったけど。
「……ヨシトぉ…………んん……」
何て呟いてたわけだ。
「……ったく」
仕方ないか。
頭を撫でてやり、呟く。
「おかえり、ジュリ」
気付けば、俺はすこし微笑んでいた。
次回、多分怒濤の展開。




