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怪獣少女のいるところ  作者: 七志野代人
第三章 動き出す過去
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覚醒

 わーい、学校忙しくて、小説も進まないし、アニメも消化しきれなーい!

 目が覚めた。

 ゆっくり体が起き上がる。

 俺の体だったけど、今は違う。

 少し縮んだ背丈。

 すっかり美少女のそれになった顔。

 豊かに膨らんだ、形のいい胸。

 きゅっとしまったウエスト。

 柔らかな腰から足の絶妙なライン。

 まるっきり美少女だ。

(うん、うまくいったね)

(肉体の再構成とか……。怪獣細胞ってのは、優れものなんてレベルじゃねーよな)

(ま、怪獣自体が常識の範囲外なんだしね)

 そう言えばそうだった。

 外見美少女だったけど、あそこまでの巨大な生物がいる時点で、十二分に物理法則の範囲外じゃねーか。

 まあ、そもそもの話、細胞内に意識を残留させている時点で、物理法則は悲鳴をあげてるだろうけど。

(夢の中で話しかけられたときは、素直に驚いたぞ)

(どうにも君に語りかけるには、眠っている時じゃないとダメだったみたいだ)

 ジュリとは面識はなかった。

 眠っていたら、いきなり俺の夢に出てきたのが出会いだ。

 ……本当に驚いたよな。


 ……


「あー、あー、……、よし、そっちに聞こえてるかい?」

 ゆったりと眠っていた俺の精神は、一気に覚醒した。

 いや、聞きなれない声がいきなり聞こえたら、誰だって驚くだろ?

「誰だ!?」

「おおっ、聞こえてるみたいだね。それじゃ、ボク自身も行けるかな?」

 謎の声が、そう反応した次の瞬間、

「よっ、と」

 一人の少女が、空間から、滲み出るように現れた。

 長い、末端が銀色になった黒髪に、大人びた顔つき。

 綺麗な、青い瞳には輪とした光が宿っている。

 俺より少し背丈が低いが、女性としては十分長身だろう。

 豊かな、さわり心地の良さそうな胸と、きゅっとしまり、くびれているウエスト。

 極上の曲線美を描く、腰と足。

 ――女神だって降参してしまいそうな、美しすぎる裸身。

 しかし、俺はそれ以上に驚いた点があった。

 驚くほど似ていたのだ。

 つい先日まで、身近に居た、健気な少女に。

「ジュラ……?」

 思わず呟いてしまった。

「あははっ、やっぱり似てるのかな? ボクはジュリ。ジュラの姉さ。妹が迷惑かけてるみたいだね」

「ジュリ……、っ!? ジュリ!?」

 ジュリ。

 ジュラの姉で、少女型巨大怪獣唯一の犠牲者。

 俺の親父が行った、最低の行為で死んでしまった……ジュラと一緒に居れなくなってしまった少女。

「おっと、この格好はちょっと恥ずかしいな……」

 一瞬で、黒いタンクトップと、ジーンズというラフな格好になった。

 何故か左手には、日本刀が鞘に収まった状態で握られていた。

「はじめまして、かな? ヨシト」

「なんで俺の名前を……? いや、その前に、ジュラのお姉さんは親父の実験で死んだって……!」

「うん、ボクは死んだよ。君の言う通り、<ゲノム・ディストラクション>の実験でね」

「じゃあなんでっ……!」

 俺の目の前に、立っているんだ?

「まあ、ここは君の夢のなか。こういう非現実的なことがあっても不思議じゃないだろ? それに……」

 クスリと少女は笑う。

「ボク達はしぶとい精神の持ち主だからね。そう……、たとえば、君の体に使われた細胞から、今までの記憶や人格を復元してしまうくらいには、ね」

「細胞……? 俺の体に使われた……?」

 意味がわからない。

 俺の体に、目の前の彼女の細胞が使われている?

「君は十数年前、事故に遭った。その時点で本当の君は死んでいる。代わりに、ボクの細胞が使われた肉体に、記憶と人格を移し変えたのさ」

「そんなことが……」

「出来ちゃうあたり、都合のいい体だよね。これも一重に、怪獣細胞の成せる技さ」

「……俺の体に、えーと……」

 ……なんて呼べば良いんだ?

「ボクも君を呼び捨てにしている。君もボクを呼び捨てにしてくれて良いよ。と、言うか、肉体に限って言えば、君とボクは同一人物だろう? 自分が自分の名前を言うのに、気負う必要はないよ」

「いや、そうは言われても……」

「うーん、それじゃ、ボクからお願いだ。名前で呼んでくれないかい?」

 さすがに、断るわけにはいかないんだよな……。

「……ああ。わかったよ、ジュリ」

「ん、良いね。男の子に名前呼んでもらうの、夢だったんだよね」

「そうなのか?」

「ああ。ヒロアキには色々な話を聞いたから、ね。一応、人並みの知性も感情もあるわけだから、そういう、恋愛に憧れたりするのも、当たり前の話なんだよ」

 ジュリは笑って話してくれているが……。

「ジュリは……親父のことは……」

「ヒロアキのこと? 怒ってない訳じゃないけどね、うーん、何て言えば良いんだろ……。……そうだね、ヨシトがいい人で、ジュラと一緒に居てくれたから、そんなに怒ってない、かな。まあ、ボクも仕方ない結果だったとは思ってるしね」

「だからって、親父も俺も、許されるもんじゃないだろ」

「そうだね、その通りだよ。でもね? 自分の息子を犠牲にしてまで誰かを救うなんて、出来てしまうほうがボクは怖いな。ボクには出来ない。普通は出来ないんだ。出来てしまっては駄目、なんだと思う」

「……だけど、その為に死んだのは……」

「ボクだね。後悔してない訳じゃないけど、ボクはこれでかまわないよ。ヨシトがジュラと一緒に居て、ジュラを笑顔にしてくれている。出来れば、一緒に笑っていれたら良いんだけど、それはもう無理でしょ?」

「そう……だな……」

「なら、これで良いよ」

 にっこりとジュリは笑った。

「さて、いい加減、ボクが出てきた理由、話さないとね」

「ジュラがどうとか言ってたよな?」

「うん、そうだよ。ヨシトとジュラには仲良くしててほしいからね。仲直りのお手伝いがしたいのさ」

「仲直り?」

「そうだよ。まあ、ボクがちょっと話して、しっかり前を向いてくれればいいけど」

「……話す? 肉体がないんだろ?」

「まあ、そう言うわけだから体、貸してくれないかな? それなら、一応活動できるからね」

 断る理由もないな。

「いや、別に構わないが……」

「ありがとう! 体はボクの姿にあわせて再調整して使わせてもらうね! ああ、ちゃんと元に戻すから、心配無用だよ」

 それからしばらく、彼女と言葉を交わし続けた……


 ……


 そんな訳で、俺はジュリに体を貸したわけである。

 ……本当にジュリの体になってるんだもんな。

 最も、俺には意識と感覚の共有が有るだけで、基本的に主導権はジュリにある。

(うーん、他人の視点で、生活してる様子を見てる感じか?) 

「あー、そんな具合だね。ボクも意識完全に覚醒してから、ずっと視点ヨシトと一緒だったしね」

 ……あれ? それって……、

(俺が風呂入ってた時とかも、トイレで唸ってた時も……!?)

「……ノーコメントで!」

 あの、顔赤らめてそのコメントはもう答え言ってるよなぁ!

「ん? そうなると、……ボクの恥ずかしい姿も見られちゃうのかな?」

(おい、それマズいじゃねーか!)

「まあ、君になら見せてもいいけどね」

(……はい?)

 ジュリは少し照れたように笑った。

 その笑顔に、ジュラの顔が重なって見えて、

(…………)

 無性に寂しいと思ってしまった。

 遅れました。

 理由は……前書きの通りです。

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