覚醒
わーい、学校忙しくて、小説も進まないし、アニメも消化しきれなーい!
目が覚めた。
ゆっくり体が起き上がる。
俺の体だったけど、今は違う。
少し縮んだ背丈。
すっかり美少女のそれになった顔。
豊かに膨らんだ、形のいい胸。
きゅっとしまったウエスト。
柔らかな腰から足の絶妙なライン。
まるっきり美少女だ。
(うん、うまくいったね)
(肉体の再構成とか……。怪獣細胞ってのは、優れものなんてレベルじゃねーよな)
(ま、怪獣自体が常識の範囲外なんだしね)
そう言えばそうだった。
外見美少女だったけど、あそこまでの巨大な生物がいる時点で、十二分に物理法則の範囲外じゃねーか。
まあ、そもそもの話、細胞内に意識を残留させている時点で、物理法則は悲鳴をあげてるだろうけど。
(夢の中で話しかけられたときは、素直に驚いたぞ)
(どうにも君に語りかけるには、眠っている時じゃないとダメだったみたいだ)
ジュリとは面識はなかった。
眠っていたら、いきなり俺の夢に出てきたのが出会いだ。
……本当に驚いたよな。
……
「あー、あー、……、よし、そっちに聞こえてるかい?」
ゆったりと眠っていた俺の精神は、一気に覚醒した。
いや、聞きなれない声がいきなり聞こえたら、誰だって驚くだろ?
「誰だ!?」
「おおっ、聞こえてるみたいだね。それじゃ、ボク自身も行けるかな?」
謎の声が、そう反応した次の瞬間、
「よっ、と」
一人の少女が、空間から、滲み出るように現れた。
長い、末端が銀色になった黒髪に、大人びた顔つき。
綺麗な、青い瞳には輪とした光が宿っている。
俺より少し背丈が低いが、女性としては十分長身だろう。
豊かな、さわり心地の良さそうな胸と、きゅっとしまり、くびれているウエスト。
極上の曲線美を描く、腰と足。
――女神だって降参してしまいそうな、美しすぎる裸身。
しかし、俺はそれ以上に驚いた点があった。
驚くほど似ていたのだ。
つい先日まで、身近に居た、健気な少女に。
「ジュラ……?」
思わず呟いてしまった。
「あははっ、やっぱり似てるのかな? ボクはジュリ。ジュラの姉さ。妹が迷惑かけてるみたいだね」
「ジュリ……、っ!? ジュリ!?」
ジュリ。
ジュラの姉で、少女型巨大怪獣唯一の犠牲者。
俺の親父が行った、最低の行為で死んでしまった……ジュラと一緒に居れなくなってしまった少女。
「おっと、この格好はちょっと恥ずかしいな……」
一瞬で、黒いタンクトップと、ジーンズというラフな格好になった。
何故か左手には、日本刀が鞘に収まった状態で握られていた。
「はじめまして、かな? ヨシト」
「なんで俺の名前を……? いや、その前に、ジュラのお姉さんは親父の実験で死んだって……!」
「うん、ボクは死んだよ。君の言う通り、<ゲノム・ディストラクション>の実験でね」
「じゃあなんでっ……!」
俺の目の前に、立っているんだ?
「まあ、ここは君の夢のなか。こういう非現実的なことがあっても不思議じゃないだろ? それに……」
クスリと少女は笑う。
「ボク達はしぶとい精神の持ち主だからね。そう……、たとえば、君の体に使われた細胞から、今までの記憶や人格を復元してしまうくらいには、ね」
「細胞……? 俺の体に使われた……?」
意味がわからない。
俺の体に、目の前の彼女の細胞が使われている?
「君は十数年前、事故に遭った。その時点で本当の君は死んでいる。代わりに、ボクの細胞が使われた肉体に、記憶と人格を移し変えたのさ」
「そんなことが……」
「出来ちゃうあたり、都合のいい体だよね。これも一重に、怪獣細胞の成せる技さ」
「……俺の体に、えーと……」
……なんて呼べば良いんだ?
「ボクも君を呼び捨てにしている。君もボクを呼び捨てにしてくれて良いよ。と、言うか、肉体に限って言えば、君とボクは同一人物だろう? 自分が自分の名前を言うのに、気負う必要はないよ」
「いや、そうは言われても……」
「うーん、それじゃ、ボクからお願いだ。名前で呼んでくれないかい?」
さすがに、断るわけにはいかないんだよな……。
「……ああ。わかったよ、ジュリ」
「ん、良いね。男の子に名前呼んでもらうの、夢だったんだよね」
「そうなのか?」
「ああ。ヒロアキには色々な話を聞いたから、ね。一応、人並みの知性も感情もあるわけだから、そういう、恋愛に憧れたりするのも、当たり前の話なんだよ」
ジュリは笑って話してくれているが……。
「ジュリは……親父のことは……」
「ヒロアキのこと? 怒ってない訳じゃないけどね、うーん、何て言えば良いんだろ……。……そうだね、ヨシトがいい人で、ジュラと一緒に居てくれたから、そんなに怒ってない、かな。まあ、ボクも仕方ない結果だったとは思ってるしね」
「だからって、親父も俺も、許されるもんじゃないだろ」
「そうだね、その通りだよ。でもね? 自分の息子を犠牲にしてまで誰かを救うなんて、出来てしまうほうがボクは怖いな。ボクには出来ない。普通は出来ないんだ。出来てしまっては駄目、なんだと思う」
「……だけど、その為に死んだのは……」
「ボクだね。後悔してない訳じゃないけど、ボクはこれでかまわないよ。ヨシトがジュラと一緒に居て、ジュラを笑顔にしてくれている。出来れば、一緒に笑っていれたら良いんだけど、それはもう無理でしょ?」
「そう……だな……」
「なら、これで良いよ」
にっこりとジュリは笑った。
「さて、いい加減、ボクが出てきた理由、話さないとね」
「ジュラがどうとか言ってたよな?」
「うん、そうだよ。ヨシトとジュラには仲良くしててほしいからね。仲直りのお手伝いがしたいのさ」
「仲直り?」
「そうだよ。まあ、ボクがちょっと話して、しっかり前を向いてくれればいいけど」
「……話す? 肉体がないんだろ?」
「まあ、そう言うわけだから体、貸してくれないかな? それなら、一応活動できるからね」
断る理由もないな。
「いや、別に構わないが……」
「ありがとう! 体はボクの姿にあわせて再調整して使わせてもらうね! ああ、ちゃんと元に戻すから、心配無用だよ」
それからしばらく、彼女と言葉を交わし続けた……
……
そんな訳で、俺はジュリに体を貸したわけである。
……本当にジュリの体になってるんだもんな。
最も、俺には意識と感覚の共有が有るだけで、基本的に主導権はジュリにある。
(うーん、他人の視点で、生活してる様子を見てる感じか?)
「あー、そんな具合だね。ボクも意識完全に覚醒してから、ずっと視点ヨシトと一緒だったしね」
……あれ? それって……、
(俺が風呂入ってた時とかも、トイレで唸ってた時も……!?)
「……ノーコメントで!」
あの、顔赤らめてそのコメントはもう答え言ってるよなぁ!
「ん? そうなると、……ボクの恥ずかしい姿も見られちゃうのかな?」
(おい、それマズいじゃねーか!)
「まあ、君になら見せてもいいけどね」
(……はい?)
ジュリは少し照れたように笑った。
その笑顔に、ジュラの顔が重なって見えて、
(…………)
無性に寂しいと思ってしまった。
遅れました。
理由は……前書きの通りです。




