その子はなついた。
遅くなりました。
これが第一話と言っても過言じゃないです。
一つだけ言わせてもらおう。
「俺が一体何をした……?」
絶望的な気分で、その一言を吐き出した俺――芹沢由人は、走り去っていく車を、恨めしげに睨んでいた。
降ろされた場所のすぐそばには、
「マジで大怪獣町なんだ……」
ようこそ大怪獣町へ。
そうでかでかと書かれた看板があった。
大怪獣町。
かつて世界中に大きな爪痕をのこした、少女型巨大怪獣。
それらを縮小し、管理するための町がここなのだ。
はっきり言って、ものすごく不安だ。
いや、女の子の見た目してたって、怪獣ですよ?
怪しい獣と書いて怪獣ですよ?
ただの健全な男子高校生としては、食われやしないかとビクビクもんだっての。
というか、ここに送り込まれた時点で、完全に人間扱いじゃねーし。
怪獣扱い。それも、厳密に言えば少女型巨大怪獣扱い。
……あのー、
俺男っすよ!? それ以前に、俺人間のはずですよ!?
ちょっとだけ平均より高い身長で、少しだけ貧弱って言われそうな体格(要するにヒョロい)。日本人だし黒髪。目付きが少しだけ悪いのが特徴な、特徴のない顔。ただ、なぜか目だけ青色だけど、別にハーフとかじゃない。
外見的には、怪獣要素はゼロだと思う。
精神面も至って健全。工業系高校に普通に合格できるくらいの頭脳。勉強は面倒くさいし、エロいことにだって興味はある。
どう考えても、ごくごく普通だ。
身体的能力。確かに運動は、部活やってるわけではないけど誰にも負けないし、怪我や病気なんてしたことないけど、特筆するようなことじゃない。
うん、怪獣扱いに文句しか出ないな。
だって俺、ただの高校生だ。
しかし、残念ながら、俺にここへ引っ越せと言ったのは、この国だ。
さすがに、国に逆らうなんて、一介の高校生であるこの俺ができる道理もない。
結局ため息吐きまくりながら、俺は大怪獣町に引っ越してきたわけである。
もう一度だけ言おう。
「俺が一体何をした……?」
「…………新しい人?」
唐突に、声をかけられた。
振り替えると、少女が一人。
長い黒髪。しかし、髪の毛の末端部分は色が抜けたように、銀色になっている。
大人びているような、幼さを感じるような、不思議に整った顔に――俺と同じ色の目。
華奢な体つきに、低めの背丈。
着ているのは、白いノースリーブのワンピース。
見たところ、十二~十三歳くらいか?
(――この子が、怪獣?)
「…………新しく来た人?」
繰り返される。
急いで答える。
「あ、ああ、うん。……芹沢、芹沢由人っていう」
「……ん。わたしはジュラ」
「はぁ……」
「んと、セリ、ザワ? あなたも、怪獣……?」
「……どうだろ? 俺は、自分が怪獣だとは思えないけど」
「でも、あんまり人の臭いっぽくない」
「は?」
「わたしと、似てる臭い」
「……さいですか」
俺が同じ臭いがするって……。
うーん、臭い、ねえ……。
どうなんだ、それ、と悩み唸っていると、
「……ん、あったかい」
抱きつかれた。
俺の肩にも背が届かない女の子に、ぎゅーっと抱きつかれた。
胸の感触とかは薄いけど、けれど、ぬくもりと女の子の柔らかい感触が、ダイレクトに伝わってくる。
「落ち着く」
心なしか、すこしほんわかした……正確にはちょっと眠そうな顔をしてらっしゃる。
「いやいやいや! 落ち着く……じゃないって! 急に抱きつかないでよ!」
ヤバいから! 主に俺の理性的な意味で!
「なんで?」
よほど気に入ったのか、頬擦りしている。
俺の胸の下辺りは枕か何かか。
「いやなんでって……その、恥ずかしいしさ……」
……理性がヤバいなんて言えないよねー。