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怪獣少女のいるところ  作者: 七志野代人
第二章 決意と絆
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懺悔、混乱、拒絶、そして決意

 さて、第二章、クライマックス突入です。

 今日も今日で、シャラナの家の手伝いだ。

 シャラナの家のこと手伝うのも、随分慣れた気がする。

 と、言っても、一週間くらいしか働いていないのだが。

 いつもは、昼は練習もかねて昼食を作り、シャラナとジュラと一緒に食べ、夕方に引き上げ、ジュラと一緒にゆっくりするのが日課だ。 

 だが、今日はレストランによっていく。

 バルハさんとフェルが、「大事な話がある」と言ってきた。

 パッと思い付くことはないけど、まあどう間違っても告白なんかじゃないのは確かで。

 首をかしげながらも、ジュラの手を引き、レストランへ。

 今日はシャラナの発狂具合に拍車がかかり、その相手をしていたジュラはくたくたになっている。

 今も、俺と手を繋いでいるが、軽くうとうとしているくらいだ。

 うーん、これ、大丈夫か?

 レストランの扉を開ける。

 明かりのついた店内。

 けれども、そこに漂う空気は、どこか重く、暗いと感じる。

 ……自然と、俺も真剣になる。 

 なるしかないのだ。

 察してしまった。

 これから話される内容は、ふざけ半分で聞いて良いものじゃない。

 ……ジュラが眠そうにしているのは、しょうがないな。うん、しょうがない。

「来たね。芹沢君」

「フェル」

「すいません、急にお呼び立てして……。どうぞ、お座りください」

「バルハさん……。ありがとうございます」

「……いえ」

 やはり、バルハさんの顔に翳りが見える。

 それが、今日はよりいっそう強く見える。

 フェルがお冷やを出してくれた。

 俺の隣に座ったジュラが、それを飲んで、シャキッとした。

 目が覚めたようだ。

「では……話させて頂きますね?」

 バルハさんが、俺たちの様子を確認し、切り出してきた。

「話と言うのは?」

「……あなたの……お父さんのことです」

「……親父?」

「はい。広明さんのこと、この町の皆は、よく知っています」

「どういう……?」

「……この町ができる前、ウルティオンの開発以前、芹沢広明博士は、わたしたちとのコミュニケーションをしていました」

「少女型巨大怪獣と?」

「彼は、わたしたちの登場以前から、シャラナとはなかがよかったそうです。ですから、わたしたちとも意思の疎通はできるはずだと」

「親父が……そんなことを……」

「結果、ジュリさんが広明さんと友人のような関係になりました」

 初耳だった。

 というか、親父が研究者だったらしいのは知っていたけど、それでも、そんな大きな事を研究しているのは知らなかった。

「……わたしたちとも、ある程度面識があります。ですが、ある時期から、全くジュリさんと広明さんは、姿を見せなくなりました」

「……っ」

 ぞくり。

 背筋に嫌な冷たさが走った。

「……ジュリさんは……、広明さんの計画の……実験材料にされていたんです」

「――っ!?」

 ガツンッ、と不意打ちをもらった見たいに衝撃が走る。

 それじゃあ、ジュリさんが死んだのは、死んだのは――………………っ、

 嫌だ、聴きたくない。

 信じていた父親がそんなヒドいことしてたなんて、そんなのは――

「実験的な、試作ウルティオンの投与実験。また、体細胞の採取。これくらいなら、まだマシでした。反応は見られたものの、効果は示されなかった試作ウルティオンに代わり、提示されたのは……<ゲノム・ディストラクション>の実験……そう大義名分の掲げられた、殺処分です」

「……殺処分……? そんな、何でですか!?」

「巨大怪獣を生かしたままにしておくのは、膨大な予算がかかります。それこそ、数百億ではきかない予算が。ですから、実験も兼ねた殺処分という判断が下されるのは……ウルティオンの無い当時、妥当な判断とも言えるでしょう」

「だからって……、だからって、予算がかかるからといって、今まで実験に散々付き合わせてきたのに……そんな……っ!」

「そもそもの前提が違います。彼らにとって、わたしたちは人の形をした害獣……もしくは、興味深い実験材料です。損失を嘆くことはあっても、一人の罪の無い少女が死んだことを嘆く者は、ほとんど居ないでしょう」

「……ふざけています……っ、心ある人間にやることじゃない……、命相手に、やっていいことじゃ……っ」

「……その舵を取っていたのは、あなたの父親です」

「っ、それ、は……」

「あなたが憤ったことは、あなたのお父さんが主導で行われてきました。その事を知っておいて欲しかった」

「…………俺は、……笑っている資格なんて無い。そういう訳ですか」

「いいえ……。あなたは、ジュラと一緒にいて、笑顔にしてくれた。資格なら、十二分に有ります。……ただ」

 チラリと、バルハさんがジュラに目をやる。

 ジュラは、少し震える瞳で俺を見つめている。

「……ただ、謝ってあげてください。ジュラに。広明さんが謝れなかった分を」

「……分かりました」

「セリ……ザワ……?」

 ジュラが不安に揺れる瞳で俺を見つめる。

 ふ、と軽く息を吐き、覚悟を決める。

 親父がとんでもない奴だった。

 それでも俺は憎まない。

 憎めないし、憎みたくない。

 俺の中では、無茶苦茶いい人だったから。

 でも、罪は罪だ。

 それなら、謝れない親父の代わりに、俺が償う。

 ……嫌われるか、ひどけりゃ完全に仇敵認定だろうけど、それでもだ。

 償わなきゃ、俺も納得しない。

「ジュラ……、すまない。……親父が、お前の姉ちゃんに最低な事をした。謝ったって許されることじゃない。けれど……、謝らせてくれ。……本当に、ごめん」

「……っ、……セリザワ……、……で、も…………、お姉ちゃん…………人間が……、……っ……………………っっっ」

 返答は、混乱と光だった。

 ジュラの髪の末端が、蒼白い燐光を放っている。

「ジュラっ!?」

 その目に浮かぶのは、疑問と葛藤。


 ドシャァアアアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!


 閃光が膨れ上がり、破壊の嵐を呼び起こす。

 咄嗟に両手をつきだし、全力でそれを吸収し封印する。

 何とか、被害を出さないことに成功した。

「ジュラ……」

 ぜえぜえと肩で息をしつつ、ジュラを見つめる。

「……セリザワ、…………ごめんなさい」

 立ち上がり、走っていく。

 レストランから飛び出し、あっという間に夜の闇に消えてしまった。

「…………やっぱり、こうなりますよね」

「……わたしのこと、恨みますか?」

 バルハさんの問いに、苦笑ぎみに俺は答える。

「ちょっとだけ恨みます。今、わざわざ教えなくてもって思いますし、何より、知りたくなかったし」

「でも、いつか知るかもしれない以上、このタイミングでも良かった。……かな?」

 フェルが俺の言葉を引き継ぐ。

「ジュラはきっとルモのところに行っただろうね。まあ、取り敢えず心配はいらない。問題は、芹沢君。君がどうするかだよ」

「……追っかける」

「追いかけて、どうする?」

「勿論、前みたいに一緒に暮らす。家族なんだし、当然だろ?」

 せっかく家族が増えたんだ。

 また一緒に暮らせるように頑張ろう。

 そう静かに決意した。

 この話から、色々と変化していきます。

 次回はジュラ視点になる……はず。

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