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怪獣少女のいるところ  作者: 七志野代人
第二章 決意と絆
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暖かい想い 前編

 お風呂回前編です。前の投稿分が随分乱暴な展開になってしまったので、消去の上、別の話を投稿するという荒療治になってしまいました。

 不快に思われたかたへ、こころより、お詫びを申し上げます。

 セリザワは優しい。

 優しいけど、怖かった。

 でも、安心できる。

 もう怖くない。

 一緒にいてくれるって、言ってくれたから。だからもう、怖くないのだ。

 シャーっとシャワーで浴室用の椅子を暖める。

 ルモに一緒にお風呂に入る時の事はバッチリ聞いてあるのだ。

 セリザワは、クインと戦って疲れているだろうから、しっかりお風呂で疲れをとってあげよう。

 じゃないと、美味しいご飯も作って貰えないし、話しかけても貰えない。

 私にとって、死活問題。

 だと言うのに、セリザワは浴室に入ってこない。

「セリザワ……?」

 不安になって、脱衣所を覗く。

 セリザワは、服も脱いでいなかった。

 ……わたしとお風呂にはいるのは、そんなにイヤなのだろうか。

 イヤだと思っているのに、無理矢理入って貰うのは、なんというか、申し訳ない。

 けれど、わたしが好かれてる好かれてないは、そう言うこととは別問題だ。

 嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。

 いつも膝の上に乗るのはいけなかっただろうか。

 それとも、熱線の事を、やっぱり怒っているだろうか。

 いろいろと不安が浮かび、泣きそうになってしまう。

「……あー、ジュラ? ちゃんと洗って貰うから、そんな泣きそうな顔しないでくれ、な?」

「……ん」

 頷く。

 これで疑ってしまうのは、セリザワに悪いし、わたしだって好き好んで疑いたくない。

 だけど、不安な事は不安なのだ。

 約束はきっと守ってくれる。けれど、きっとだ。

 絶対じゃない。

 裏切られたくない。離れていって欲しくない。……ずっと、一緒にいたい。

 イヤな記憶が甦る。

 今よりずっと昔。

 まだ、フツウの人間が小さかった頃。

 一人の人間が好きだった。

 お姉ちゃんとはぐれて、泣きじゃくるしかなかったわたし。

 人間はわたしが怖かったようで、殺そうとした。

 けれど、一人の人間が庇ってくれた。

 セリザワよりも、ずっと大人の人間が、庇ってくれた。

「この個体は貴重な実験材料だ、殺すな!」

 その頃、わたしは、人の言葉を知らなかったけど、それでも、守ってくれることがわかった。

 それからは、たくさんの人間がわたしを見張っていたが、その人間は毎日わたしのところに来て、ご飯をくれた。

「異常はないか? 何か変化は有ったか?」

「はっ! 特には観測しておりません! ……しかし、よろしいのですか? 貴方のような方が、自ら怪獣に食事を運ぶなど……」

「ふふっ、こうやっていれば、この個体の警戒も解けるだろうさ。実験や解剖のとき、暴れられては堪らんよ」

 けど、それから直ぐだった。

 その人間は、あまりわたしのところに来なくなった。

 かわらずご飯は貰えたが、寂しかった。

 しばらく経って、久しぶりにその人間が来た。

「……殺せ。この個体はもう要らん。別の個体が手に入ったからな。……しかし、ディストラクション計画とは、芹沢め、普段は家族だなんだと府抜けたことを言いながら、なかなか面白いことを思い付く」

「ディストラクション計画ですか……、噂ですが、とてつもない、恐ろしい兵器と聞き及んでおりますが」

「全く違うさ。芹沢は、作り出したことを悪夢などとほざいていたが……、ふんっ、あれは最早一種の芸術だ。あれに単なる殺戮兵器以上の価値を見いだせないなら、私だったら自殺した方がマシだな」

「はぁ……、それほどの代物なのですか」

「ディストラクション計画の要――ゲノム・ディストラクション……。これと怪獣細胞があれば、全く新しい生物を作り出せると聞いたら、信じるか?」

「怪獣細胞ですか? いや、まさか……しかし、出来るのですか?」

「理論上は、だが、可能性は有ると信じている。……おっと、長話が過ぎたな」

 その人間は、銀色の銃を向けてきた。

 他の人間の銃とは違う、小さいのに、禍々しさを感じる銃。

「ああ、どうせ殺すんだ。折角だし、実験台になってもらおう」

 今更気が付いた。

 その人間に宿っていた、余りにも大きい狂気に。

 わたしは逃げた。

 撃たれる前に逃げた。

 怖くて、熱線を撃ちながら、走って逃げた。

 怖くて怖くて怖くて。

 逃げて逃げて逃げ続けた。

 結局、何処かの洞穴に身を潜めて、そのまま、泣きながら、何日も膝を抱えていた。

 それから色々なことがあって、わたしはこの町にいる。

 そして、セリザワに会えた。

「ジュラー、入るぞー」

 セリザワの声。

 ハッと我に返り、返事をする。

「…………ん」

 昨日今日と、セリザワには迷惑もかけてしまったし、嬉しいこともしてくれた。

 だから、せめてものお礼にと、背中を流してあげようと思った。

 昨日のカレーは美味しかったし、今日の朝は、手を握って、一緒に居てくれると言ってくれた。

 今日、家に戻ったとき、ただいまって言った後、わたしを見て、なんだか嬉しそうだったから、わたしが一緒でも、嫌じゃないんだと思って、わたしも嬉しかった。

 もっともっと一緒にいたいと思ったから、ちょっと恥ずかしかったけど一緒にいるって、宣言した。

 今更だけど、顔から火が出そうだ。 

 あの宣言も恥ずかしかったし、体を洗う、なんてことを言ったのも、すごく恥ずかしい。

 何より、今からセリザワと一緒にお風呂にはいるのだ。 

 昨日は平気だった。

 けれども、今日――そう、今日の朝だ。

 手を握って、ずっと一緒にいると言ってくれたときだ。

 家族に対しての感覚とは、温かさとは、別の温かさが産まれてきた。 

 セリザワが笑ってくれると、胸がきゅっとして、なんだが暖かい気がして、とても嬉しくなる。

 でも、セリザワが他の女の子と仲良くしていると、すごく不安になって、胸にぽっかり、大きな穴が空いたような気分になって、とても悲しくなる。寂しくなる。

 ……クインとセリザワの組み合わせは、想像してみると、とても絵になる。

 …………それじゃあ、わたしは?

 不安だ。

 非常に不安だ。

 なら、ちょっとでも、気を引いておこう。

 セリザワがわたしをもっと好きになってくれるように。

 ガラリと引き戸を開けて、セリザワが入ってきた。

 腰にタオルを巻いている。

 ……一応、ネットの知識などで、男の象徴である(ピー)は知っているし、人間の男と女のすることも、その、まあ、……知っている。

 だから、……一応、(ピー)くらいなら、してあげても良いと、思う。

 流石に(ピー)はまだ早いけど。

 ちなみにわたしはなにも巻いてない。

 恥ずかしいけれども、セリザワなら、見せてもいい。

 セリザワは真っ赤になって、こちらを凝視したままだ。

「…………流石に、恥ずかしい」

 思わず、腕で胸を隠してしまう。

「す、すまん! あんまり綺麗だったから……」

 綺麗と言われて、ますます顔の温度が上がってしまった。

「……でも、セリザワになら、見せてもいい」

「え?」

 そういう風にこちらを見られると、もっと顔が赤くなってしまう。

 でも、一緒にお風呂……。

「……座って。洗ってあげるから」

「あ、ああ」

 こんなこと、絶対クインにはさせない。

 一緒に住んでる、わたしだけの特権。

 タオルに石鹸擦り付け、泡立てる。

 それで、ごしごしとセリザワの背中を洗ってあげる。

「……セリザワ……気持ちいい?」

「ああ、ありがとうな、ジュラ」

「…………ん」

 頷き、より丁寧にごしごしと背中を洗う。

 ざばーっとお湯をかける。

 汗を長し、綺麗になった背中。

 大きくて逞しい……、

 …………。

 ぴとり。

「…………ん」

「……あのー、ジュラさん?」

「……っ!」

 しまった、背中についつい抱きついてしまった。

 ついと目をそらし、

「……不可抗力」

 とだけ言っておく。

 ……恥ずかしい。

 でも、暖かかった。

 思い出すとほわほわするくらいだ。

 いや、この感触は後でたっぷり思い出すとして。

「…………次は前」

「……おう」

 ゆっくりと、セリザワの前にたつ。

 腕をとり、優しくさするように、丹念に洗っていく。

 もう片方も同様に。

 そして、改めて、正面からセリザワを見つめる。

 セリザワは真っ赤になった顔のまま、まっすぐにこちらを見つめ返していた。

「……ん、失礼する」

 ゆっくりそこまで厚くない胸板に手を伸ばすが…………いかんせん、距離があるせいで、わたしの体格じゃ、手を目一杯伸ばさなくては、セリザワに届かない。

 少し足を動かしてもらう。

「……あの、ジュラさん?」

「…………問題ない」

 セリザワの足の間に入らせてもらう。

 ……近づくなら、折角なので密着させてもらった。

 寄り添うようにタオルで洗っていく。

 顔が真っ赤になってるのがよーくわかる。

 見づらいポジションで良かった。

「…………もう少し、強くする?」

「……ああ、頼む」

「…………ん」

 ごしごしと、少し強めに擦る。

「……ありがとうな、ジュラ」

 唐突に、セリザワが呟いた。

 顔をあげ、答える。

「……ん、セリザワは一緒にいるって言ってくれた。だから、これくらい、当然」

 顔の距離が近い。

 二人揃って顔が赤かった。

「…………だから、気にしなくていい」

 目を伏せる。

 もう体の前は洗い終わってしまった。

 となってしまうと、残るのは、

「…………後は、下」

 そう言い、タオルを取ろうとすると、

「……ジュラ、ストップ」

「…………ん」

「そこは自分でやるからさ。攻守交代しねーか?」

「……?」

「俺も洗ってやるよ。つっても、体洗うのは流石にあれだから、まあ、頭だけだけど」

「…………ん」

 頭だけ………………ちょっと残念。 

 でも、セリザワに洗ってもらえる……。嬉しい。

「ほら、座ってくれ」

「……ん!」

 ちょこんと、セリザワの立ち上がった後の椅子に座る。

 ……暖かい。セリザワのぬくもり。

 シャンプーを泡立てた、セリザワの指が触れる。 

 心地よい指圧。

「……気持ちいい」

「そうか」

「ありがとう、セリザワ」

「どういたしまして、だな」

 本当に心地いい。

 お姉ちゃんと一緒にいるときみたいに、安心できる。

 セリザワの指が、いろんなところを刺激して、気持ちいい。

 ちょっとだけ、ワガママを言ってみる。

「…………ん、もうちょっと強くていい」

「ああ、分かった」

 少し、セリザワの指が強くなった。

 ん、これはこれで気持ちいい。

 しばらくその感触を楽しむ。

 ……出来れば、体も洗って欲しかった。

 まあ、このワガママは次に頼もう。

 だって、セリザワとは、もっとずっとお風呂に入れるから。 

「じゃ、流すぞ」

 泡が入らないよう、ぎゅっと目を閉じていたが、さらにぎゅーっと力を入れる。

 ざばーっとお湯がかけられ、泡が流れた。

「じゃ、後は自分達で洗おうな」

「……ん」

 少し残念だけど、一所に入ってもらっているだけ、嬉しいのだ。

 お利口にしておこう。

 そうすれば、またお願い事を聞いてもらえると思うから。

 ……もっとセリザワに、可愛がってもらいたいな。

 お風呂回後編は、主人公視点に戻ります。

 前回の様に後悔しないよう、物語を書いていく所存です。

 怪獣少女の物語、是非とも最後までお付き合い頂けたら、作者にとってこれ以上ない幸せでございます。

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