暖かい想い 前編
お風呂回前編です。前の投稿分が随分乱暴な展開になってしまったので、消去の上、別の話を投稿するという荒療治になってしまいました。
不快に思われたかたへ、こころより、お詫びを申し上げます。
セリザワは優しい。
優しいけど、怖かった。
でも、安心できる。
もう怖くない。
一緒にいてくれるって、言ってくれたから。だからもう、怖くないのだ。
シャーっとシャワーで浴室用の椅子を暖める。
ルモに一緒にお風呂に入る時の事はバッチリ聞いてあるのだ。
セリザワは、クインと戦って疲れているだろうから、しっかりお風呂で疲れをとってあげよう。
じゃないと、美味しいご飯も作って貰えないし、話しかけても貰えない。
私にとって、死活問題。
だと言うのに、セリザワは浴室に入ってこない。
「セリザワ……?」
不安になって、脱衣所を覗く。
セリザワは、服も脱いでいなかった。
……わたしとお風呂にはいるのは、そんなにイヤなのだろうか。
イヤだと思っているのに、無理矢理入って貰うのは、なんというか、申し訳ない。
けれど、わたしが好かれてる好かれてないは、そう言うこととは別問題だ。
嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。
いつも膝の上に乗るのはいけなかっただろうか。
それとも、熱線の事を、やっぱり怒っているだろうか。
いろいろと不安が浮かび、泣きそうになってしまう。
「……あー、ジュラ? ちゃんと洗って貰うから、そんな泣きそうな顔しないでくれ、な?」
「……ん」
頷く。
これで疑ってしまうのは、セリザワに悪いし、わたしだって好き好んで疑いたくない。
だけど、不安な事は不安なのだ。
約束はきっと守ってくれる。けれど、きっとだ。
絶対じゃない。
裏切られたくない。離れていって欲しくない。……ずっと、一緒にいたい。
イヤな記憶が甦る。
今よりずっと昔。
まだ、フツウの人間が小さかった頃。
一人の人間が好きだった。
お姉ちゃんとはぐれて、泣きじゃくるしかなかったわたし。
人間はわたしが怖かったようで、殺そうとした。
けれど、一人の人間が庇ってくれた。
セリザワよりも、ずっと大人の人間が、庇ってくれた。
「この個体は貴重な実験材料だ、殺すな!」
その頃、わたしは、人の言葉を知らなかったけど、それでも、守ってくれることがわかった。
それからは、たくさんの人間がわたしを見張っていたが、その人間は毎日わたしのところに来て、ご飯をくれた。
「異常はないか? 何か変化は有ったか?」
「はっ! 特には観測しておりません! ……しかし、よろしいのですか? 貴方のような方が、自ら怪獣に食事を運ぶなど……」
「ふふっ、こうやっていれば、この個体の警戒も解けるだろうさ。実験や解剖のとき、暴れられては堪らんよ」
けど、それから直ぐだった。
その人間は、あまりわたしのところに来なくなった。
かわらずご飯は貰えたが、寂しかった。
しばらく経って、久しぶりにその人間が来た。
「……殺せ。この個体はもう要らん。別の個体が手に入ったからな。……しかし、ディストラクション計画とは、芹沢め、普段は家族だなんだと府抜けたことを言いながら、なかなか面白いことを思い付く」
「ディストラクション計画ですか……、噂ですが、とてつもない、恐ろしい兵器と聞き及んでおりますが」
「全く違うさ。芹沢は、作り出したことを悪夢などとほざいていたが……、ふんっ、あれは最早一種の芸術だ。あれに単なる殺戮兵器以上の価値を見いだせないなら、私だったら自殺した方がマシだな」
「はぁ……、それほどの代物なのですか」
「ディストラクション計画の要――ゲノム・ディストラクション……。これと怪獣細胞があれば、全く新しい生物を作り出せると聞いたら、信じるか?」
「怪獣細胞ですか? いや、まさか……しかし、出来るのですか?」
「理論上は、だが、可能性は有ると信じている。……おっと、長話が過ぎたな」
その人間は、銀色の銃を向けてきた。
他の人間の銃とは違う、小さいのに、禍々しさを感じる銃。
「ああ、どうせ殺すんだ。折角だし、実験台になってもらおう」
今更気が付いた。
その人間に宿っていた、余りにも大きい狂気に。
わたしは逃げた。
撃たれる前に逃げた。
怖くて、熱線を撃ちながら、走って逃げた。
怖くて怖くて怖くて。
逃げて逃げて逃げ続けた。
結局、何処かの洞穴に身を潜めて、そのまま、泣きながら、何日も膝を抱えていた。
それから色々なことがあって、わたしはこの町にいる。
そして、セリザワに会えた。
「ジュラー、入るぞー」
セリザワの声。
ハッと我に返り、返事をする。
「…………ん」
昨日今日と、セリザワには迷惑もかけてしまったし、嬉しいこともしてくれた。
だから、せめてものお礼にと、背中を流してあげようと思った。
昨日のカレーは美味しかったし、今日の朝は、手を握って、一緒に居てくれると言ってくれた。
今日、家に戻ったとき、ただいまって言った後、わたしを見て、なんだか嬉しそうだったから、わたしが一緒でも、嫌じゃないんだと思って、わたしも嬉しかった。
もっともっと一緒にいたいと思ったから、ちょっと恥ずかしかったけど一緒にいるって、宣言した。
今更だけど、顔から火が出そうだ。
あの宣言も恥ずかしかったし、体を洗う、なんてことを言ったのも、すごく恥ずかしい。
何より、今からセリザワと一緒にお風呂にはいるのだ。
昨日は平気だった。
けれども、今日――そう、今日の朝だ。
手を握って、ずっと一緒にいると言ってくれたときだ。
家族に対しての感覚とは、温かさとは、別の温かさが産まれてきた。
セリザワが笑ってくれると、胸がきゅっとして、なんだが暖かい気がして、とても嬉しくなる。
でも、セリザワが他の女の子と仲良くしていると、すごく不安になって、胸にぽっかり、大きな穴が空いたような気分になって、とても悲しくなる。寂しくなる。
……クインとセリザワの組み合わせは、想像してみると、とても絵になる。
…………それじゃあ、わたしは?
不安だ。
非常に不安だ。
なら、ちょっとでも、気を引いておこう。
セリザワがわたしをもっと好きになってくれるように。
ガラリと引き戸を開けて、セリザワが入ってきた。
腰にタオルを巻いている。
……一応、ネットの知識などで、男の象徴である(ピー)は知っているし、人間の男と女のすることも、その、まあ、……知っている。
だから、……一応、(ピー)くらいなら、してあげても良いと、思う。
流石に(ピー)はまだ早いけど。
ちなみにわたしはなにも巻いてない。
恥ずかしいけれども、セリザワなら、見せてもいい。
セリザワは真っ赤になって、こちらを凝視したままだ。
「…………流石に、恥ずかしい」
思わず、腕で胸を隠してしまう。
「す、すまん! あんまり綺麗だったから……」
綺麗と言われて、ますます顔の温度が上がってしまった。
「……でも、セリザワになら、見せてもいい」
「え?」
そういう風にこちらを見られると、もっと顔が赤くなってしまう。
でも、一緒にお風呂……。
「……座って。洗ってあげるから」
「あ、ああ」
こんなこと、絶対クインにはさせない。
一緒に住んでる、わたしだけの特権。
タオルに石鹸擦り付け、泡立てる。
それで、ごしごしとセリザワの背中を洗ってあげる。
「……セリザワ……気持ちいい?」
「ああ、ありがとうな、ジュラ」
「…………ん」
頷き、より丁寧にごしごしと背中を洗う。
ざばーっとお湯をかける。
汗を長し、綺麗になった背中。
大きくて逞しい……、
…………。
ぴとり。
「…………ん」
「……あのー、ジュラさん?」
「……っ!」
しまった、背中についつい抱きついてしまった。
ついと目をそらし、
「……不可抗力」
とだけ言っておく。
……恥ずかしい。
でも、暖かかった。
思い出すとほわほわするくらいだ。
いや、この感触は後でたっぷり思い出すとして。
「…………次は前」
「……おう」
ゆっくりと、セリザワの前にたつ。
腕をとり、優しくさするように、丹念に洗っていく。
もう片方も同様に。
そして、改めて、正面からセリザワを見つめる。
セリザワは真っ赤になった顔のまま、まっすぐにこちらを見つめ返していた。
「……ん、失礼する」
ゆっくりそこまで厚くない胸板に手を伸ばすが…………いかんせん、距離があるせいで、わたしの体格じゃ、手を目一杯伸ばさなくては、セリザワに届かない。
少し足を動かしてもらう。
「……あの、ジュラさん?」
「…………問題ない」
セリザワの足の間に入らせてもらう。
……近づくなら、折角なので密着させてもらった。
寄り添うようにタオルで洗っていく。
顔が真っ赤になってるのがよーくわかる。
見づらいポジションで良かった。
「…………もう少し、強くする?」
「……ああ、頼む」
「…………ん」
ごしごしと、少し強めに擦る。
「……ありがとうな、ジュラ」
唐突に、セリザワが呟いた。
顔をあげ、答える。
「……ん、セリザワは一緒にいるって言ってくれた。だから、これくらい、当然」
顔の距離が近い。
二人揃って顔が赤かった。
「…………だから、気にしなくていい」
目を伏せる。
もう体の前は洗い終わってしまった。
となってしまうと、残るのは、
「…………後は、下」
そう言い、タオルを取ろうとすると、
「……ジュラ、ストップ」
「…………ん」
「そこは自分でやるからさ。攻守交代しねーか?」
「……?」
「俺も洗ってやるよ。つっても、体洗うのは流石にあれだから、まあ、頭だけだけど」
「…………ん」
頭だけ………………ちょっと残念。
でも、セリザワに洗ってもらえる……。嬉しい。
「ほら、座ってくれ」
「……ん!」
ちょこんと、セリザワの立ち上がった後の椅子に座る。
……暖かい。セリザワのぬくもり。
シャンプーを泡立てた、セリザワの指が触れる。
心地よい指圧。
「……気持ちいい」
「そうか」
「ありがとう、セリザワ」
「どういたしまして、だな」
本当に心地いい。
お姉ちゃんと一緒にいるときみたいに、安心できる。
セリザワの指が、いろんなところを刺激して、気持ちいい。
ちょっとだけ、ワガママを言ってみる。
「…………ん、もうちょっと強くていい」
「ああ、分かった」
少し、セリザワの指が強くなった。
ん、これはこれで気持ちいい。
しばらくその感触を楽しむ。
……出来れば、体も洗って欲しかった。
まあ、このワガママは次に頼もう。
だって、セリザワとは、もっとずっとお風呂に入れるから。
「じゃ、流すぞ」
泡が入らないよう、ぎゅっと目を閉じていたが、さらにぎゅーっと力を入れる。
ざばーっとお湯がかけられ、泡が流れた。
「じゃ、後は自分達で洗おうな」
「……ん」
少し残念だけど、一所に入ってもらっているだけ、嬉しいのだ。
お利口にしておこう。
そうすれば、またお願い事を聞いてもらえると思うから。
……もっとセリザワに、可愛がってもらいたいな。
お風呂回後編は、主人公視点に戻ります。
前回の様に後悔しないよう、物語を書いていく所存です。
怪獣少女の物語、是非とも最後までお付き合い頂けたら、作者にとってこれ以上ない幸せでございます。




