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捜索願が出ていたらしいです

予想外の発言がもたらされた時、驚く、戸惑う、呆然とする等々、反応は人それぞれ。

今回の私の場合は、これだろう。

ちょっとおっしゃっている意味わからないんですけどぉ!?



「リトネウィアを新生が捜してるって、何で?騒音問題?」


おい、マリエルこの野郎。呻きから復活したかと思えばそれか。本人目の前にしてよくその単語を放り投げるなちくしょい、本気で覚えてろ。


「……騒音って、いくらなんでも失礼過ぎると思うよマリエル」


困った様子で窘めるナヴァの言葉で二度目の「あっ」状態になっているが知らん知らん、勝手に慌てふためいておるが良いわ。因みにディルの騒音兵器扱いは定着済みってことですね。構いませんけれど。


「そこの馬鹿は放置しろ。どういうことだ、何で同期の新生がこいつを捜して回る。何かあるのか?」


お師匠さんの意見に同意でござる。空気読まない子は放置で説明お願いしますよ。

面倒事を疑って目を鋭くするボクとディルを見ながらにこにこ笑顔を保つナヴァが紡いだ回答は……。


「正確には同期の新生が家族とか集合地の担当天魔に頼んでなんだけれど。お礼が言いたいんだってさ、リトネウィア・レム・オルテンシアに」


ぽく、ぽく、ぽく、ときっかり三拍。


「は?」


は?


思わず紡いだ言葉は同じ一文字だったが、理解に苦しむディルと意味が分からない私では微妙にニュアンスが違った。

けれどそんな反応を同じタイミングで返したボクらの様子が面白かったのか、くすくすとさっきより笑いながらナヴァは説明を続けてくれる。


「恨み言が言いたいとか、そんなご遠慮願いたいものじゃなくて、本当に単純でとっても素直な目的だよ。ただありがとうが言いたいんだって」


あ、え?不穏なものでないのはわかったけれど、何でお礼なんて言われなきゃいけないのかさっぱりわからないのですが。


「僕たちが無事に誕生できたのは、ひどい奴から守ってくれた子がいたからなんだよ、って僕は聞いているんだけれど?」


何か言うことございますか?と疑問を浮かべたのがわかったのか、そんな感じに問うてくるナヴァにただただ瞬く。


「ナヴァ」


言葉のないボクの代わりに声を発してくれたのはディルで、名を呼ばれたナヴァはからかいも見えたかもしれないにこにこ笑顔を少し苦くして応じた。


「卵の子たちは皆あの暴言に曝されて直接のターゲットにされていた子も、そうじゃない子も疲弊していたんだよ。生きることへの希望が失われれば消滅する未来しかない。それを大樹から教わった子たちは皆、次は自分かもしれないって怯えてた」


うん。それは確かだ。あの野郎を追い払うことに成功した後、ちびっ子たちは皆お祭り騒ぎしてたもの。

ありがとうとお礼を言われたこともある。すごいと褒められてちょっといい気分だったのも否定はしない。

そんなちょっといい気分も、耐えきれずにいなくなってしまった子たちを思うと虚しいものに変わってしまうのだけれど。


「本来そんなことが起こらないように上位者が目を配るべきなんだけれど、問題大有りなことに機能していなくて、日々卵の子たちを脅かしていたそれが、おちびさんが大樹に実ってから大変化。最初の異音騒動の後かららしいんだけれど、あの担当失格者が仕事も碌にせず暴言を吐きに来るたび、おちびさんは率先してそいつを追い払っていたんだってさ」


「……追い払うって」


くすくすと思い出し笑いをしているナヴァから視線をボクへと落としたディルが、事実か否かを問うている様子だったのでこくりと肯定しておく。ついでにジェスチャーもつけよう。口をぱくぱくと開いて閉じて、その動作に合わせて口の横に持ってきた掌を押し出して開き、戻して閉じる。声を出していることを意味するその動作は、つまるところ例の心声もどきでござんすと示しているのだが……あ、伝わった。

音を思い出したのか実に嫌そうな顔になった。失敬ですなお師匠さん。


「そうそう、イルファ以外には表現し難い心声で、意味合い的には出て行けって感じなのかな?覚えてろ、なんていかにも小者らしい捨て台詞を残して去っていくものだからあの子たち皆強烈に覚えていたよ」


逞しい子らは笑ってましたからね。中にはもっとやれと煽るちょっと後々が大丈夫かと不安になること言った子もいましたよ。なんて情操教育に悪いのだと思いながら、一番最悪なのがあの野郎なのだからしょうがないのだと理由付けして目を逸らしましたとも。

思い出せば微妙なやり取りに、はははと音だけで笑いたくなるボクと疑問がある程度解消されたのかつまりと口火を切ったディル。


「命の恩人であるこいつに助けられた天魔本人が礼を言いたいと思っているが、自力で調べるのはまだ無理なため、頼まれた家族や集合地の担当天魔が代理で捜している、と」


「そういうこと。ただね、名前が知りたくて大樹に聞いても個人名は呼ばないからわからない。本人に聞きたくても会話が成り立たなくてやっぱりわからない。だからおちびさんの名前を知らなかった新生位の子たちは名前の代わりに特徴で覚えていたんだ。それが心声の下手な子」


「………………」


さらっと笑顔で告げられた衝撃の事実に何かが胸のあたりにぐっさあぁっと突き刺さったよ、いま。

やめてお師匠さん。何も言わずに頭を撫でないで、目から塩辛い御水が出てきそう。


ふ、ふふふ、間違えたこと言われている訳じゃない。むしろ正しい認識だ同期のちびっ子さんたちよ。

だがしかし!豆腐メンタルは純粋すぎるが故のド直球な事実に貫かれて穴開きましたよちっくしょおぉおおぉいぃい!泣きてええぇぇええぇっ!

好きで下手っぴな訳じゃないやいっこれでも努力したんだいっそれでも改善しなかったんだいっ!

何がどう駄目でいけないのか大樹も困り果てた我が大欠陥に不名誉な呼び名が浸透していることを土下座して詫びて欲しいわっ本気で凹んだ!


「……ナヴァ、あまり笑ってやるな。かなり気にしてるみたいだ」


フォロー入りました。うぅうぅうぅぅ、お師匠さんやさしさが目に染みるっす。


「あらら、それはごめん。あの子たちがあまりに必死に訴えてくるから僕もその微妙な通り名に耳が慣れちゃって」


ううううぅうぅうぅうううぅうぅううぅうぅっ!


「……あ、はは……相当気にしてるみたいだね。本当にごめん。もう言わないように気をつけるから睨むのはやめにして可愛い顔に戻ってくれると嬉しいな」


おためごかしなんぞいらん!悪気はなくてもしばらくは一方的に恨むぞ!

むっすうぅと思い切り膨れて睨みつけているボクに困り果てているナヴァが苦く笑いながらディルへと助けを求めているが、お師匠さんに宥められようと私は誤魔化されんぞ。

どうにもならない事実を突きつけられることほどショックなことはないんだい!


「おとなしく平謝りしておけ。騒音兵器、睨みつけるのに満足したら話が進まないからやめろ。気兼ねなく知りたいことを聞けるのはあの過保護がいないいまだからだ。本来なら一日仕事にするが、お前の沈みきった様子を見て凹んでいたあの馬鹿が丸一日かけるとは思えん。時間は惜しめ」


なでなでとぎこちなさが取れてきた頭撫でと同時に与えられた思いがけぬ情報に、思い切り膨らませていた頬を萎める。お師匠さんのおっしゃる通り。

こんなに堂々と子供らしさを放り捨てて思考に走って行けるのは、この場にいるのが子供らしくないことをそのくらい扱いしたディルだからだ。疑うなと言われても、嫌われないと断言されても、それでも普通ではないボクに対するイルファの反応が恐いのだから保護者殿のいない現在はある意味都合がいい状況なのだ。

それも、もたらされようとしているのは自分のこと。知る必要も理由もあるのだからこれを逃す手はない。

すっと視線を上げて声のない応えを返したボクに、口角を持ち上げて頷いたディルは何も言わなかったけれど、それでいいと言われた気がして頬が緩んだ。

うん。結局宥められているとは思っても気が付かない。優先順位を考えて感情の整理をつけただけです。


「……取りあえず、もう一度謝らせてもらうよ。ごめんねリトネウィア、僕が浅慮だった」


そしてナヴァはナヴァで律儀に謝罪してくれるので、ふるふると首を横振りして頑張ってくれない表情筋の代わりに反応してくれる口角を持ち上げる。にこりに見えていればいいのだけれど。

暇な時に顔面ストレッチでもやろう。特にこの声が出ない間は表情が言語の代わりになるのだから。


「それで、名前の特定ができないからその特徴から捜すしかないが、お前も知っての通りこいつの情報は頭がおかしいレベルの難易度だ。普通に考えれば辿りようがない」


れ?お師匠さんよ、それ昨日リフォルドが凡そのあたりをつける方法を教えてくれましたよね。

その話をしないのは、確認がしたいからでしょうか。


「その通り。名前を知っている僕らが情報を得ようとして凍り付く規模の難易度だからほとんどの天魔が名前を調べる時点でお手上げ」


ひょいっと両手を持ち上げるナヴァに、私とディルが注目している部分はきっと同じところだと思われる。


「ほとんど、ね」

「      」


ふぅんと聞こえそうな調子でほぼほぼ同時に言葉を紡いだからか、ナヴァはくすくす笑いが止まらないようだ。


「中にはどうにか名前は確認できたって頑張った天魔もいて、それ以外は新生登録担当のところになだれ込んだ」


「知りたいのが名前だからか。大半が誕生した後自ら登録を行うから登録には最低限の情報制限しかかからない。ああ、そこでイルファの名前も見て聞いた訳か」


「代理登録者の名前も残るからね。それにディル程じゃないけれどイルファも新生に関わりを持つのは珍しいから登録時その場にいた全員がしっかり覚えていたよ。驚愕の髪を持つ新生の代理登録をした四大位ってさ」


えっと、新生登録ってのは確か人間でいうところの出生届と住民登録のことだ。基本的には誕生後に自分自身で登録を行うが、中にはボクみたいな誕生とほぼ同時に意識喪失とかで自力手続きができなくて誰かが代わりに行ってくれることもある。その代理登録をしてくれた天魔が誰なのかも記録として残る仕様である。


つまり、特徴での情報検索では名の重さ故に鬼畜扱いされるワードを求められる我が名前も、誕生時の登録を受け付けた場所であれば結構あっさり調べられると。

最低限の情報制限は恐らく、四大室への入室許可みたいに登録担当者に誰が何の為にとかの許可を貰えばいいのではないだろうか。もしくは通常の新生であればみたいな平均値の難易度ワードを求められるとか。

ふむ、登録を成している地に足を運ぶ労力を惜しまなければ、検索では不可能だった名前、さらに誰が代理登録したかも一緒に調べることができるわけね。


確かにそれなら楽に調べられるかもしれないが、ちょっと気になることがある。

仮に一日に十人の天魔が誕生したとして、その中から目的のボク一人をどうやって特定するのだろうか。

まさか特徴に心声が下手ですなんてある訳はないだろうから他の何かで特定するのだろうが……いつ孵ったとか身体的特徴、属性とかを知っているとは限らないのだからどうやってコイツですと特定するんだ?


あ、ちょい待ち、イルファが新生に関わるのが珍しいって言ったね。

そもそもボクはディルに騒音兵器と呼ばれるほど迷惑な音を喚き散らしていた問題児、ナヴァも異音騒動と言ったからにはその騒動解決の為に人員を派遣されているはずだ。

そしていまのところボクの心声もどきが通じたのはイルファだけ。そこから導き出されるのは騒動を収束するのに四大が駆り出されたということ。


つまり、その騒動と四大が出たという特徴的すぎる情報さえ知っていれば、「四大が代理登録した新生は誰ですか?」と担当天魔に問うだけでわかるってことではないのか?

仮に騒動を知らなかったとしても「最近変わった子が誕生しなかった?」とか聞けば四大のイルファが代理登録した子がいますよって芋づる式で判明するのではなかろうか。……後はもう「心声が下手な子孵りましたか?」でも分かりそうな気がする。ものすごくどうかと思うのですけれどね。


人の口に戸は立てられないって言葉思い出して、はははとか乾いた笑いを脳内で浮かべた私の存在は一旦脳内から締め出されたのか、四大地天魔の会話はガンガン進んでいるよ。


「名前がわかったら今度は礼を述べるために居場所の特定。ただしこちらの難易度は名前以上の鬼畜さだ。それで、登録時に関わりを持った天魔、その中でも代理登録を行ったイルファにあたりをつけ、この三日の難易度の変動を見て保護申請を出したのがイルファと特定された」


「正解、よくわかったね。僕なんて聞き込みしているとき実際に目の当たりにして盲点だったってがっくりきたのに」


「昨日終業後にリフォルドから情報提供で教えられた。なまじ二人を知っている所為で俺もその発想はなかった」


うん。やはりどうやって調べたのかを確かめたくて問いの形式を取ったんですねお師匠さん。

ただそれを知ることによって何がどう変わるのかがちょっと想像つかない。そもそもどうしてイルファに引き取られていると知れるのがまずいのかがわからないのだから想像を働かせようがない。

潜在能力こそあれど現状は心声すら扱えないボクなんかを引き取ったことが知れて何か意味があるのか?

利用価値すら見いだせそうにないんだが……。


むぅと最大の疑問にぶちあたったボクではないが、ナヴァも小首を傾げていた。

その表情は信じ難い、と表すのが適当だと思うが、何に対してのものだろうか。


「そういえば便乗するって連絡見たけれど、本当に本気なのリフォルド様?」


「新生位のガキを脅しておいて本気じゃなければただの屑だ」


あ、それですかと強めの疑う様子に納得した瞬間の辛辣発言。確かに端的かつ極端に言ってしまえばそんな様子になりますが、リフォルドにはとっても不名誉な誤解を招く説明ですね。ちょっとした悪意が見え隠れしている気がします。


「それはまた……なりふり構わずって感じだね」


いまの発言をどのように解釈して想像したのか問うてみたいが、笑顔をさげて遠い目になったところからあまりよろしい想像ではないんだろうな。想像内容を聞いたうえで正しく訂正は声のない身では難易度が高いので断念しよう。ディルの説明も間違っていなければ、なりふり構わずのナヴァの回答も間違えていないので問題はない。ええ、誤解を招ける言動を取った側近様に問題があるんですよ。


「閲覧禁止令に即死級アタックシールド付きワード、流石の情報特化でもお手上げだとさ」


「側近のリフォルド様がお手上げじゃあ四大位は詰んでいるんじゃないかなディル?」


うんうん、と説明内容の正当性に訂正しないのではなくできないのですよ残念なことに、なんて理由付けしてボクが自己弁護に励んでいる間に、遠い目から戻っては来たが貼り付け笑顔状態になっているナヴァ。

やはり情報特化のリフォルドがお手上げの名の重さは、ちょっとどうかと思いますよね。


「この上なく詰みだな。打開策は大樹からの忠告内容だが……、それで本格的に詰んだらお前の姉上様やレミィのお兄様を頼ることも考えなきゃならないだろうな」


「大掛かりなことになりそうだけれどそれが妥当だろうね。これはもう高位者の伝手がフル活用できる環境故にイルファだったのかもとか穿った考え方しそうだ」


否定はないとわかっていたのだろう。あっさりと話の方向性がずれたのに、ふぅっと一つ息を吐いただけで気持ちを切り替えたナヴァの表情は、貼り付け笑顔から冗談めかした軽いものになった。

が、それを聞いたディルが反するように苦い顔になる。いまのナヴァの発言の何がそんな御顔にさせましたかお師匠さん。私的には何でイルファがボクの心声もどきを聞き取れたのか不明な上、どうしてボクを引き取ろうと思ったのかがわからないとイルファ本人も言っていたから、そういう考え方もありかもしれないとか思いましたが、問題があるのですか?


「わからなくもないが、間違ってもイルファに言うな。無言で睨みつけられるか手が出て来るぞ」


ん?


「いきなり手なの!?僕の技量じゃ逆立ちしても回避できないよっ」


は?


「安心しろ、俺がそもそも無理だった。体術技能が俺以下のナヴァじゃ絶命したことにも気が付かない」


はい?!


「それの何処に安心する要素があるのさ!うっわあぁこの場にイルファがいなくて命拾いしたっ」


「言葉と態度には細心の注意を払えと忠告しておく。まあ、現状の俺ほど危険はないだろう」


「…………ああ、成程」


え、いやちょっと待たれよお二方!何がどうなっていきなり物騒な話になったのかが全く持って理解不能なのでございますがどういうことですか?いまの会話でどうして保護者殿がお怒りになるのかさっぱりですよお師匠さん。俺が無理っていうのは勘違いでなければ胸に指先ちょんっとな例の恐ろしい光景のことだと思うのですが、それが何故ナヴァに向かうの?ぽっくりにすら気が付けない技量差って我が保護者殿どれだけすごいのかちょっとどころか気になるよ。

安心要素が欠片もないディルの発言への突っ込みは適切だが、より気になるのは現状の我が身を案じるディルの発言ですよ。何?急用入ってお任せするしかなかったことがそんなに不服なのですか保護者殿は。


……ちょ、ちょっとほっとしている自分がいるぞ。人任せにするのが不満って事なら、迷惑しか発生させていないのにボクは必要なのかなとほんの少しだけ希望が持てるよチキンは。

でもうわあ~って顔で同意を返したナヴァを見るに、よくわからない怖い疑問が出てきそうなのには蓋をしますね。世の中には突き詰めたりせず、知らない方が幸せなことって結構あるのです。


しかしまあ、深々溜息と苦い笑いの対比なので深刻なのは理解した。なのでもしも保護者殿が理不尽な理由でお二方にぷんすかするならば、不肖リトネウィア、猫の手以下でしょうがお手伝いしますぞ。

とか妙な決心しているボクに悩ましそうな二人が気付いている様子はありませんがね。


「釈明の為の時間稼ぎを頼みたいところなんだがな、俺は」


「してあげたいのはやまやまだけれど、場合によっては不可能としか答えられないかな。反応速度を求めるならレミィに最大限の努力と協力を願わないと」


「あの気分屋をやる気にさせるのは骨が折れるんだが」


「案外本気のイルファと手合せなら乗り気になるかもしれないけれど……、前回のお怒り時には流石のレミィもひいていたから厳しいかな」


何故何どうしてを本当に問いたい。おっかしいなあ、イルファってそんな怒りっぽい性格だったか?

火属性者はどちらかといえば沸点低めかもなんて曖昧設定しかした覚えないし、むしろ属性での性格より戦闘型での性格の方が合致している気がする。近接格闘型は何かに依存執着したり喧嘩っ早い御人が多い印象だもの。う~む、どうしてもやさしい笑顔のお兄さん印象しかないぞイルファ。


「ナヴァの姉上様なら対抗できるか?」


さっきもちらと出て来ていたが、そこに発想が行くのはちょっとどころか結構必死な様子に思えるのですが……大丈夫ですかお師匠さん?


「どうだろう?確かにうちの姉さんは速度では有利かもしれないけれど、そもそもレミィより気まぐれだよ?興味を引けなければ法外な貢ぎ物がいるから頼むとすればレミィのお兄様の方が適任だと思うよ僕は」


「前側近の司令塔、あの方の防御を抜くのは厳しいものがあるからな。どうにもならない時には五割病覚悟で駆け込むか」


「こっちもなりふり構えない状況だね。幸運を祈るよ」


「祈るくらいなら助けろ薄情者」


「いやいやいやいや、できることとできないことがあるから」


うん。これは想像もつかないけれど必死に違いない。曲者揃いの設定している前側近のリーダーに助けを求めようかなんて必死以外の何ものでもない。大丈夫じゃないよね、ボクにできることはないのでしょうか。

こんなドちびでも凹みに凹んだのを摘み上げてくださった恩返しをしようという気概は持っていますよお師匠さん。


「あのさあ二人とも」


強制的に傍観者行きになっていたマリエルがしばらく振りに口を開いたのにボクも含んだ三対の視線が向かう。しゃがみ込んだ体勢のまま頬杖をついて同僚二人を見上げたマリエルは、


「ものすごーく脱線してるけれど、リトネウィアを捜してる新生位とその家族は保護者をイルファと知って次はどうするの?お礼が言いたいからって四大室に直接押しかけてはこないと思うけれど、そうなるとシェネレスの家に押しかける可能性があるってこと?それは結構まずいと思うんだけれど僕は」


まともなこと言った。おお、話をまさかの軌道修正とかファインプレーですね空気を読まない風天使。

でもシェネレスのお家に押しかけがまずいのは何故?大挙してくる、なんて大事ではないでしょうに。

膝に手を当てて立ち上がったマリエルは記憶をたどっているのか視線を上へと向けて呟く。


「確かシェネレスの家って外敵排除の結界なかったと思うんだけれど、僕の記憶違い?」


外敵排除とはまた物騒な響きだこと。でも問われた二人ともそれぞれ視線を何処かに放り投げて難しい顔になっているから重要度高いことなのだろうな。


「確か一度提案した時に他の家族の個別認証がすぐにはできないからってやんわり断られた。四大位が暮らす場所としては驚くほど手薄な自宅だから危ないって促してもこう……何でここでそれって突っ込みたくなるけれど、放っておけって聞こえそうな圧がかけられて説得諦めたんだよね。ディル、いまもないの?」


あちゃ~と頭を押さえたナヴァの確認に、渋い御顔になったディル。もうこれが答えですね。


「気休め程度の防壁に識別の結界は敷いてあるが、外敵排除はない。あの家で強固な結界敷いてるのは混沌とした素材倉庫だけだ。あれだけは個人認証と属性識別に目くらましまでつけてイルファ以外が入れないようにしてある」


「あーアレ。中身を思えば当然の処置だけれど、そこじゃないよね必要なのは」


「ああ」

「うん」


はあっと三人同時に溜息を吐かれてますよ保護者殿。どうやらあの広いお家の防犯対策に多大な難ありのご様子ですぞ。話題の始まりがシェネレスの家に押しかけて来るかもしれない新生位の家族さん方からの外敵排除結界という不穏さしか聞こえない流れですけれど。


「僕らは多少事情を知ってるからね。あんまり干渉するとそれこそ逆鱗に触れる可能性があったから半ば諦めてたけれど、リトネウィアがいるんだからどうにかして貰わなきゃ。それとも現状見るに案外リトネウィアの為ってつけば自発的に動きそうだったりする?」


そこでどうしてボクが出て来るのか是非とも理由を教えて頂きたいのですがマリエル。


「どうだか。全くないとは言わないが大丈夫とも言えない」


「ただ妥協点を見つけなければ問題があるのは確か。うーん難題にぶつかったねこれは」


……置いてけぼり感が半端ないでやんすお師匠さん。いじいじしてもいいですか?

床にのの字を書きたいところですが、抱き上げて頂けている現在の場所では不可能なので羊さんをもふもふして拗ねてもいいですか?


何となく、危ないから気をつけようよはわかるんだけれどね。要は本当にいるのかどうか知らないけれど、お礼に押しかけて来るかもしれないらしいその中に、イルファに対して良い感情を持っていない不届き者が便乗してやって来るかもしれないことを警戒していると思うのだよね。

ほら、よくあるではないか、人ごみに紛れてぶつかったふりしてサクッと刺し殺し的なお話。ああいうの。

ただすんごく気になるのが、ボクがいるからどうにかしないといけないって表現。

これを聞く限りだとイルファ個人への害ではなくて、ボクを引き取ったイルファに害、もしくはボク自身への害を心配されているとも取れるんだよ。


確かに昨日ボクの鬼畜過ぎる情報閲覧をしている相手に……リフォルドが情報閲覧失敗してくたばればいいとか言われるようなこの野郎がいるらしいとは聞いたけれど、歩くことどころか話すことすらできないドちびの何が気に食わなくて危険視されるのかが理解できん。

もしや卵の時にごちゃごちゃと何言ってんのか訳わからなかった連中を騒音排除したから、よくもやってくれやがったなとお礼参りとかですか?なんという逆恨み、呆れてものも言えないね。

阿呆らしいと白けた目をしていたら何か視線を感じて、そちらを向けば赤桃色とぶつかりましたね。

え、何?


「ちょーっと僕の情報と合致するかどうかをおちびさんに確認したいところなんだけれど、封印石もあるし心声はまだ不得手、孵ってまだ四日目だから話すのも無理。でも話を理解しているみたいだから試してもいいかな?」


にこぉーっと笑っているのが企んでいる顔に見えてちょっと身を引きかけたが、問われていることは気になるから、秘儀、小首を傾げる。御用事なあに?

そんな反応を返したボクに一つ瞬いたナヴァはどうしてか困ったような笑みを浮かべたので、反対方向に首を傾げて再度疑問表示する。何事ですか?


「お仕事、では話が早くて助かるけれど、まだ孵ってたった四日の子なのになって考えると複雑な気持ちになってさ。うちの妹なんて最初の一週間くらいは家の中をふらふら飛び回っては何処かにぶつかって泣き叫ぶから、ちょっとはおとなしくしてくれって自分の体と妹の体を紐で結びつけて行動制限までしたよ。凄く不満だったらしくてぽかぽか叩かれた」


ほ、微笑ましいのか微妙なお話ですね。正真正銘のおちびさん相手が大変なのはわかるけれど、自分と結んじゃいましたか。それは色々な物事に興味津々なちびっ子はいきたい場所に行けずさぞやご不満だったことでしょう。

微妙な顔をしているとこれにも困った笑みを浮かべられるから、どうしていいやら私も困っていいかな、ナヴァ。


「特異性持ちは大樹に他の子たちより気をつけろって注意される分ちょっとだけ警戒心とか危険察知をする為に思考の成長が早い。でも、先輩から注意を一つ」


そういえばナヴァは特異性持ちでしたねと知って聞いた情報を思い出していると、ぴっと人差し指を立てて何処か悪戯に見える表情を浮かべられた。


「焦ると転ぶよ、リトネウィア。心だけが先にって走って行っても体が追い付いてくれない。無理を続けるとどうしても苦しくなって、恐いことに一度は力を暴走させちゃうんだよ」


……それはもしかしなくとも実体験ですか先輩。暴走させちゃったんですか先輩。あの爆心地映像みたいなガッツのあることを成し遂げちゃったんですか先輩。すごいですね、尊敬してもいいですか?

絶対真似したくないけれど。


「だから、あれこれ考えないで周りに目一杯迷惑をかけて我が儘を言う。これは子供にしか許されない特権だからね。いまの内に色々やらないと損だよ」


どう考えても貴方様もディルと同じく私を子供扱いで見ていませんね。明らかに子供相手に出て来る言葉じゃない。異端であろう私を否定しないのはとてもありがたいが、ちょっと複雑にもなるこの心境をどう処理していいのか困る。


「散々迷惑かけられたし時には本気で叱り飛ばしたりもしたけれど、大変だったその分、可愛いとも思うし大切だとも思うんだよ。あんな生意気な妹でもね」


くすりと笑ったその顔は、とてもやさしくていいお兄ちゃんなんだろうなと思うと微笑ましくもあった。

おかしいな、ナヴァの方がどう考えても年上なのに微笑ましいなんてさ。


「だから、ちょっと我が儘になってみない?」


ごめんなさいよ先輩、言われている意味がちょっとわかりかねる。説明求む。


「心声も肉声も駄目。会話は一方的にしか進まなくて上手く読み取って貰えたとしても全部じゃないから不満は何処かに燻るでしょう?気になる話があっても聞くことができないのも不満だと思うから、提案」


にっこり笑顔には注意が必要なのだけれど、ちょっと期待してもいいですか?おっしゃられた通りに不満があるのは否定の仕様がない事実なのです!

その提案、すっごく気になる!


「ナヴァ、お前新手の詐欺師みたいに見えるぞ」


冷静な第三者、ディルの一言が妙に()まって聞こえてしまった。どうしよう。


「やめてくれないかなディル。そう言われると幼気な幼子を唆している駄目な大人にしか見えないからさ」


「自覚があるならいいか。それで?こいつに何を仕込む気だ」


「その表現もやめよう。僕は別に危ない趣味嗜好なんて持っていないし、そもそもどう足掻いても瞬殺される未来しか見えないイルファ相手に喧嘩を売る気は微塵もないよ」


「で?何をさせたいんだ」


「…………」


お、お師匠さん可哀想なのでやめたげてください。楽しんでいるご様子でもからかっているご様子でもない基本表情での発言ってことは、ごく普通に言っているってことですよね。

もしかしなくても自覚なしのドS様ですかお師匠さん。


「うん、君はそういう人だよねディル。知っているからいいよ。はい、これ」


ああ、ナヴァの方が諦めちゃうレベルなんですね。そうなんですね。

……ところで、そのずぼっと亜空間からの物品取り出し、慣れないから宣言して欲しいです。


「通信端末をどうしろと?」


ディルの疑問の声にナヴァの手に乗る取り出されたものへと改めて視線を送る。

うむ、これは以前リフォルドが初亜空間取り出しをしてくれちゃった時に見たブツですな。


「文字は読めるけれど文字を書くには手も小さいし力も足りなさそうだから難しい。だったら、文字を打つだけでいい端末を使えば会話が成立するでしょうってこと」


おぅ、目から鱗。そっか、文字は読めるんだから書くことができなくても端末を使えばタイピングでの文章作成は可能だよ確かに。作った文章を読んで貰えれば機械の中と声での会話は成立する。

すごいっすね先輩っ自分感動したっす!


「おおー、ナヴァ冴えてるね」


「そうか……別に機器の扱いを教えなきゃ触れない訳じゃなかったな。気が付かなかった」


マリエルとディルの二人も頭になかったらしい。ボクも全部の機能を把握してからじゃなきゃ触ってはいけないものだと思っていたもの。必要な部分だけに留めれば問題ないのにね。盲点だ。


「二人とも自分より下の弟妹がいないからさ。その点妹の面倒見ていた僕の方が有利だ」


「背後で潰れてる弟持ちの戯けものに少し分けてやれ」


どやっとまではいかないやや照れになったナヴァへ後方を示したディルの冷たいお声といったら……。

親指で示されたその方向を見たナヴァの表情、一気に引きつりましたよ。


「あ、はは……ねえ、まだ潰れているんだけれど、どれくらいの力でやったのさディル」


勇気のある問いに、一呼吸分だけ考える間を空けてお師匠さんは答えました。


「臓物にそれなりの痛手を感じるくらいか?」


何でもないようにさらっと。


「急いで治癒してマリエル!」


「了解!」


即座に指示行動。ナヴァとマリエルのげって表情に知らない方が幸せな背後を振り返らなくて本当に良かったとアシスには悪いが思わずにはいられない。


「……半日放置してれば起き上がれる程度には回復する予定なんだが」


ぼそっと怖いことお言いでないよお師匠さん。不注意から紙で指を切っちゃったよ程度なら数秒から遅くても一分くらいで治る人間にはない高い自然治癒能力を持っている天魔が、半日かからなきゃ起き上がることすらできない状態にまで追い込んでたんですか貴方様は……。何それちょー恐いんですけど。

臓物に痛手ってそれ最悪は内臓破裂ってことですやん。死にますってそれ。


「何か言いたそうだな、試しに打ってみるか?」


アシスの救護に向かったナヴァがすれ違いざまに放り投げていった通信端末を差し出しますかお師匠様。

ええ、やります。ちょっと待ってくださいね、文字の配列確認するので。

えーっと、いまディルが押した部分が電源で……ん、文字数は異なるがパソコンのキーボードと大して変わらない感じだな。

幼児だからかそれとも天使体スペックだからかは知らないが、瞬間記憶に近い頭が便利ですよ。


「文字を打つだけだからな……これでいいだろう。ほら」


通信端末なので誰かに連絡を取る為の機能が主ですからね、これは。現在表示されている空中画面はメモ書き画面でいいのでしょうね。覚えておきます。

ではでは、ちんまいお手々を指先まで最大限に広げてあげちゃいますよ。

はあーっ、ぽちぽちぽちっとぽ…ちぃっとな。キーの間隔が広くてちまい手では非常に打ちにくい。

人差し指、頑張れ。


< 四大火悪魔殿、生きていらっしゃるのでしょうか? >


それにしても、漢字圏じゃないから変換しなくてもいいって楽だったのね。

生憎それしか知らない生き物だったので新発見ですよ。


「名前、忘れたか?」


ぽちっと最後の一文字を打っていたらそんなこと聞かれてびくっとなりましたが、そうですよね。

打っている場所がやや角度はあれどディルの目の前でもあるからのろのろタイピング程度打ってる途中で読めるし推測もできるよ。


< アシェリス・モルガナ・コンツェシーザ、四大火悪魔様、です >


「……俺は?」


んん?何か不機嫌な感じがするんですがこれ如何に?私は何かやらかしたのか?


< シィーフィール・アル・ディルリーフス、四大地悪魔様、です >


「……」


あ、理由不明だけれどこの文面不評だ。眉間に一本線は嫌でやんすお師匠さん。


「お前の保護者は?」


うう、なんだか入力するのが恐くなってきたですよう。しなければしないで怖い気がするのでポチポチしますけれどね。

おかしいな、会話に飢えていたので念願叶ったのとちゃいますのか現状況は。ちょっぴり……塩辛いよ。


< イルファ・ソル・フライトシェネレス、四大火天使さん、です >


「そうなるのか」


ううん?一本線消えた。え、何?様とさんしか差がないんですけれどそれの何がいけないのかちっともわかんないでございますですお師匠さん。

だってわたくし間違いなくこの場の最底辺天使、生まれて四日の新生位ですよ。

心の中でどう呼んでいようと外に向けて出すならば、様付けしなきゃいくらなんでも不敬極まりないですよものすんごい年長者様方。


どうしていいのかびくびくしながら顔色を窺っていると、見慣れた名前が表示されている画面を見ていたディルがふむと、何かに納得するように小さく頷いた。

それの何に反応したのかぞくっと背筋に寒気が生じたのは気の所為じゃない。


「正直に答えろ騒音兵器、俺の名前をどう呼んでる?」


ボクの視界に入るように掲げられた美しい人差し指と親指の姿が、少々前の痛みを鮮明に思い出させて思わず頬を庇ったのに、笑うお師匠さんがとっても背筋にブリザードです!

逃げ場は当然ないですよっ抱き上げてくれているこの御方を何処の何方と心得るっ?


「ほら、打て」


ひ、ひいいぃいぃいぃいぃいいいいぃいいっっ!!

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