笑顔には種類がございます
忙しない、とは当人たちは思っていないのだろうけれど、見ているボクからすればその一言が出てくる。
広大とまではいかないだろうが十二分に広い室内のど真ん中にあるテーブルとソファを中心に円状に配置されるのは八名の天魔。それぞれに専用の機器が机に設置されており、彼らはそれを駆使して次々と報告されてくる情報を処理し、問題を解消していく。
コンソールパネルを叩く音が室内に響いているが、検定会場でパソコンのWord早打ちをなさっていらっしゃる皆々様方の鬼気迫る異様なタイピング音をテレビ画面越しにとはいえ聞いたことがある身からすれば静かなものだ。
というのもコンソールパネルがタッチ式のものとタイプ式のものと二種類あるからだろう。使い分けがあるのかもしれないが現時点ではさっぱりだ。
踊るように宙へと展開されては消えていく何らかの情報を遠目にぼんやりと眺める己の身がある場は室内の中央、そのソファの上である。
ちょこんとお行儀…良いつもりでうっかり落下などしないよう背もたれに背を預けている。記憶に残っていないがソファからの落下など一度で十分だ。
無様であっただろう床に抱擁する我が身を思い出して顔が歪むのがわかり、むにむにと小さな掌で頬を揉んだ。柔らかかった。
気を取り直して眺める場所は本来ボクが居ていい場所ではない。
ここは仕事を成すための執務室だ。
天魔の仕事はそれはそれは多い。冠婚葬祭、揺り籠から墓場までと何処かで聞いたキャッチフレーズを本気の本気で実践できるほどに仕事内容は細かい。仕事は分担、細分化され一つの事柄に多くの天魔が携わっているのでひしめくとまではいかないながらも室内の人口密度は必然高くなる。
その人数が少ないということは一人が受け持つ仕事量が多いということであり、同時にそれだけの責務が生じていることになる。つまり執務室にいる天魔の人数が少ないほどに取り扱う仕事内容はより高度なものとなっており、それを取り扱える天魔も能力の高い者たちとなる。
それを踏まえて現在地の室内の最大人数を数えよう。
設置されている机は八つ、最大人数は八名。天魔の人数は同人数なので天使四名悪魔四名の計八名。
余程の例外を除いて属性は四属性を偏りなく揃えることから考えて地水火風が各二名ずつ。
四属性の天魔がぴったりワンセットずつで揃っている執務室はここだけです。
四大。
四大天使、四大悪魔が集う場、それが四大室。
王、側近、四大と上から数えた方が速い高位者の執務室にどうして生まれて間もない新生がいるのかと申しますと、長いような短いようなお話になるのです。
それは両王に保護者であるイルファが御呼び出しを頂いた時まで遡る。
ひょんなことから恐れ多くも両王様方のお膝の上を体験した私はリフォルドの翼に難ありかも発言に対して両王がどういった対応をなさるのかを待っていた。魔王レイジェル様の膝上で。
「取りあえず、封印石の心配はしなくても大丈夫だと思っていいですか、レイジェル?」
心声タイムが終了したのか天王殿、ミカエル様が沈黙を破った。
「力の保有量がいまいち掴みきれないが私と大差あるまい。つまり封印石をつけたまま無理に法を行使しようとしない限り問題はない」
いえ、大問題が一言含まれておられますよレイジェル様。
「魔王であるあなたと同等であることを問題ないと言うのはどうかと思いますが、今回は敢えて無視させて頂きます」
溜息を吐きたそうな様子だがそれを飲み込んで話を続ける天王殿にボクが突っ込みを入れたいです。
どうして無視するんですか?そこ結構重要じゃないんですか?と。
しかしながら敢えてとついているため本当なら突っ込みを入れたいところだというのは理解する。
ではそれをしないのは何故か?
天王殿の碧眼が私を映し、私はじっとその眼を見返した。
「特異性を使えば例え心声が使えなくとも会話は可能ですが、先程なかなか手痛いのを頂いてしまいましたからね。出来ればこれ以上は遠慮したいところなんです」
ふぅと演出めいて吐かれた息だったけれどついさっき青褪めた姿を目撃しているために大丈夫だろうかと心配になる。いまだって十分顔色は青白いのだから。
しかし、手痛いのって何だ?
強い感情とかは確か天王殿の制御を超えて強制受信されることがある設定がなされていた気がするが、それらに該当することがあったということなのだろうか。
となるとタイミング的には私が見たあの蒼い世界のとばっちりの可能性がありそうだが確認するわけにもいかんだろう。アレは問題がある。でもってどう説明していいのかもわからない。
何故ならどうしてあんな風景が見えたのか、もしくは感じ取ったのかがさっぱりわからないからだ。
有力候補はボクの見る聞く特異性だが、制御どころの話ではない現時点での追究はやめておいた方が吉だ。暴走の未来が高確率で付いてくるとわかっていて無謀に走る馬鹿ではない。
「よって」
はっと思考に耽っていたのを天王殿の声に引き戻された。
「あなたの行動に制限を設けることで現時点での現状追究は一度終了としましょう。現在判明している問題点は大きく二つです。翼について、封印石について。封印石は着用状態で法を行使しない限り問題ないとレイジェルのお墨付きですので当座は凌げます。翼については口を使っての会話が成立出来るようになるまで保留です。万が一リフォルド君の指摘通りだとすれば周囲が碌でもない反応を示す可能性がありますからね。情報制限をかけられる場が必要です」
虐げられるで済めば御の字ですってことですよね。わかりたくないけれどわかります。
きっと合言葉は命大事に。
となると、肉声で話せるようになるまで個体差はあれど凡そ七日ほどの猶予ができたということですか。
…その時までに私も覚悟が必要ってことか。
そう考えるとこの時間猶予は長いのか短いのか判断に困る。
「イルファ」
「はいっ」
急に呼ばれた所為かやや語尾が震えて聞こえたイルファの声に胃がねじ切れるとまで言っていた緊張が思い出されて視線を動かす。
…直立不動の大変筋肉が強張っている姿勢でした。可哀想なくらいに大丈夫ではない。
「今後の方針を決定出来るまでリトネウィアの心身の安寧を守りなさい。これはオルテンシアに代わり守ると保護申請を申し出たイルファの責務と心得なさい」
家名家族のいない、生家のないひとりぼっちのオルテンシアであるボクを保護者として名乗り出たイルファが守る。
それは本来ならば念を押されることではない。でもそれが必要とされるほどに残念な保護者役が存在している現実があるということだ。
雲の上的存在である天王にそんな残念になるなよと圧力をかけられたイルファは緊張に追加された圧力で顔色を土気色にしてもおかしくない。
なのに、イルファは笑った。
余計な力などない自然さで、何処か挑戦的とも取れそうな笑みを天王殿へと向けた。
「はい、承知しております」
一瞬前と比べると別人ですかと問いたくなるほどに堂々としている様に僅かに間を置いた天王殿だったが、こちらも笑みを浮かべた。口角を上げて面白そうに。
「リトネウィア」
あ、はい。今度は私ですね。
さっと姿勢を正して聞く体勢を取る私に天王殿はにっこりと笑ってくださった。あまりの笑顔っぷりにちょっと背筋がぞわっとなった気がする。
うん。うっとりとかではなく、ぞわっ。お肌は見なくてもわかるチキン肌。
何故だ。
「あなたの状態が精確に把握出来ていないため現時点で一人きりにすることは許可出来ません。話が出来るようになるまでの間あなたには常時四大以上の高位者一名と行動を共にして貰います。基本的にはイルファが共にいることになるでしょうが必ずしもそうであるとは限りません。周囲の環境と状況に慣れるよう頑張りなさい」
えー、お話出来るまでの猶予期間中ひとりぼっち禁止令。恐れ多いが四大以上の高位者と必ず一緒に居てね。でもそれがイルファだとは限らないからそこのところよろしく。
反芻して最後の一つにうげっと唸りたくなった。
人見知りなのですが、と反射的に思考しかけて即座に浮かんだ言葉を放り捨てる。どうしたのかって?
「感情的になったところでレイジェルの封印石ですから多少無茶が利きます。高位者相手となれば緊張するかもしれませんが、頑張ってくださいね」
笑顔と言う名の脅しをかけられて反論できると言うのなら尊敬してやろう。
キミは素晴らしく無謀な奴だ。
私なら勝てない戦になど望まない。可能な限り回避する。只管に逃げまくる。
腰抜けと言いたければ言え、笑いたければ笑うがいい。命あっての物種、死して何を成せというのか、だ。
戦略的撤退は決して恥ずべきことではない。
回避できない時はどうするのかって?そんな時には魔法の言葉がある。
人生は諦めが肝心。
涙がちょちょぎれるくらいによろしい言葉だと思うよ。ええ、心の底から。
そういうわけで回想終了。しょっぱい思いまでお帰りするから強制終了。
要約してしまえば目を離すと危なっかしいから会話が成立できるようになるまで見張っとけ、でもって私には他者に慣れろってことですね。
アレか?卵の時寄って来る天魔を誰彼構わずディル曰く騒音兵器な心声もどきで排除しまくってたからなのか?人見知りが看破されていたうえでの頑張れ発言にしか聞こえませんでしたよ。
まあ確かにこの劇薬みたいな制御困難な力とその他諸々だものね。人見知りで味方に付いてくれるかもしれない希少な方々を自ら遠ざけるなんて愚か以外の何物でもないか。問題はわかっちゃいるけどな現実だ。
イルファはたぶんすり込みにも似た何かで平気。両王様方は醸し出されてた雰囲気だな。落ち着ける空気が堪らなかった。
で、それ以外がいまのところ全滅っぽいな。リフォルドはあの視線でやんわり言えば苦手意識が芽吹いてしまい、その他は一定距離外なら無意識に緊張し、一定距離内になれば身構え警戒逃走準備だ。
つーかそもそも何で私の人見知りはここまでひどい?
人間であった時確かに人見知りはあったがそこまでびくびくしていた覚えはないはずだ。どちらかといえば張り付けた笑顔ではっはっはーと会話を流して立ち去る失礼と紙一重な感じ。
多少それ以上寄るな的意味合いも含まれていたと思うが極端な性別差はなかったような…あったような。
パーソナルスペースに入られるのは気を許したもの以外断固拒否。
女の子は触られるくらいは我慢できなくもない。過剰には逃げを打つ。
男は近くにいるのは別段気にしないが触られるのは身構え威嚇する可能性も。
ふむ、大して変わらないじゃないか。むしろあれだ、アレ。スキンシップを積極的に図らないお国柄とそうではないお国柄の差。親しくもない人との触れ合いとかマジ勘弁です状態。
あらあら不思議、腑に落ちた。解決。
人見知りそのものは何も解決していないが何がどうしてそうなるのかが理解できているのとそうでないのとは反応と対応と心境に大きな差が生じるのだ。わかってないと混乱が余計な感情を引きつれてきて最悪パニック起こしてしまいますからね。
その危機を回避できるか否かは大きい。感情的イコール暴走に直結しかねない現状を考えればなおのことそう思う。今現在はレイジェル様から貸し出されている封印石で事なきを得ているがそれだっていつまで続くかわかったものではない。
よって私はちょっとだけボクを褒めてもいいと思う。
グッジョブ、俺。
コロコロ変わる一人称?そんな瑣末事など気にしてはいけない。コレが私の平常だ。
人間の時から一分も変わりない、むしろ記憶を引き継いでいる以上変わりようがない。
精神的に大丈夫かどうかは自分が一番思っているのでたぶん恐らくきっと大丈夫だと思いたい希望的観測で深く考えてはいけないジャンル。君子危うきに近寄らず。
それ即ち、危ういってことさ!どんまい自分!
「何してるんだ」
客観視できたならだいぶ危ない思考の海へどんぶらこと流れて行っていた漂流精神が突如降ったお声で現実へと引き戻された。生還おめでとう。
不可解、そう取れる音を含んだ声と共にソファが沈む。上から降ったはずの声だが、発した本体はボクが座るソファに腰を下ろしていた。
ソファの中央にいるボクから距離を取り、端の方へ腰かけているのは彼のやさしい気遣いであるとわかる。
…表情が言葉通りに何してるんだとなっていてもね。
空色の青が冷めた色合いに見えます。被害妄想かもしれませんが寒い気がします。主に心が。
長い足を組みその上に肘をつくのはお行儀悪いのかもしれないが、さらにそこで頬杖首傾げポーズで視線をくださるのならば行儀作法なんてどうでもいい。ちょっとくらい視線が痛くても構わない。額縁にはめて飾れる素敵なスチル絵ありがとうございます。できればカメラで保存したいです。脳内だけじゃなくて現物で残したいところであります隊長。
違う方向に流れて行く思考に気が付くがこういうのは自分ではどうしようもないよね。おかげで淡々としたお声に再度引き戻されました。
「騒音を撒き散らしていないならそれでいいが」
ブレない騒音扱い、ひどい言い様ですよね。
「静かすぎると何やらかしてるのかと不吉になるな」
ひどい言い様!それも不安じゃなくて不吉って何だよ!禍々しい何かを発しているか引き寄せてるとかおっしゃりたいのかこんにゃろう!
いや確かに脳内妄想もとい脳内暴走は留まるところを知らないが瘴気を発生させるほどやばい思考を働かせた覚えはないしいまのところするつもりもその余裕もねえよ!
つーか妄想は二次元限定で三次元に持ち込む気はさらさらないわ!そのくらいの分別は一応ある!
なんて内心で熱く拳を握って叫んだところで伝わりませんし伝わったら伝わったで別の問題が生じるか、幼児虐待も真っ青レベルで何かが起こりそうなのでそろそろ胸の内だけでもおとなしくさせたいと思います。
はい?何で胸の内だけですかって?
はっはっはー、そんなの簡単なことですよ。この長大な思考と反する反射で行動しちゃう我が肉体は、キッと目を吊り上げて生意気にも不平不満を眼差しで訴えていたりするのです。
そしてそんな反応を返しているボクが面白いのか口角を持ち上げてやや意地悪な笑みを作っていらっしゃるこの悪魔様。
シィーフィール・アル・ディルリーフス。
恐れ多くも四大位を頂く地悪魔様である。あるが、下っ端も下っ端のわたくしは自分よりもはるかに高位であるディルに睨みを送りつけている。不敬どころの話ではないのだが、当の本人がどうしてかそれを楽しそうにしている節があるのだから不思議で仕方ない。本当に意味が分からない。
というのも基本無表情、言葉は辛辣、態度はドライで時折ファイアってわけのわからない解説貰ったんですよ。誰にって?頭はっちゃけた二人組ですが何か?聞いてもないのに答えてくれて案の定ディルにどつかれてましたよ。
で、言葉が辛辣は良くわかる。あえて突き刺さる選択ですよね。
態度がドライで時折ファイアってのは乾燥が過ぎて燃え上がると簡単に消火できないって解釈でよろしいのでしょうかね。それとも別の意味なのか?
あなた方の人となりと性格が把握できてない所為で言葉のニュアンスが上手く掴みきれない。おかげで伝わりきれないところの座りが悪くてもぞもぞして気持ち悪い。
まあなんにせよ、時折ファイアの解釈に困る部位を除いて考えればディルは大層気難しく冷たい印象の御人になりますね。
その印象でいくと意地悪がくっついているが笑っているとわかる表情のディルは偽者と考えないといけないのでしょうか。もしくは頭大丈夫か?
口にした瞬間拳の一発は覚悟しないといけないコースだと思われますので実行不可能な現状にほんの少しだけ感謝。話せないことが役に立ったよ、よかったね。
思考がわかりやすく目の前の現実から逃避していますのは、いくらお綺麗でも笑みの種類が意地悪というよろしい予感がしない種類の所為です。
知ってるかい?神経質扱いされる血液型を所有している女性はどういうわけかM属性持ちが多いらしくてS属性持ちにいじられやすいらしいよ。自覚のあるなし問わずってところが腹立つと思わないかい?
さあ立ち上がるんだ、鈍器を手に。
やられてばかりと思うなよととびきりの目が笑っていない笑顔で逆襲するのだ!
ワタシMジョトチガウヨ!
「もう少しだけ待ってろ」
短く告げられた言葉に再びおかしな方向へと駆け出していた思考が一旦停止をかけられた。
「普段はのんびりしているがやる時はやる奴だ。今回は気掛かりもあることだからさっさと帰ってくる」
淡々とした語り口調なのに柔らかい響きを覚えたのはきっと気の所為じゃない。口元に浮かべていた意地悪は霧散し、代わりにあるのは先よりささやかではあるが微笑。意地悪よりささやかなのは突っ込みたいところだが、言葉を組み合わせれば何故その表情がボクへと向けられているのかがわかる。
だから…。
いまものすごく土下座したい。
誠心誠意を込めて地に額づいて額のみならず顔面よ地面にめり込めと言わんばかりの勢いで。
だってものすごく、ものすごーく気遣われているんですよ。生まれて少々の新生、それも騒音兵器とのたまわれた面倒極まりないだろうちび助相手に、同僚がおふざけ半分でも無表情の辛辣ドライと表現してしまう御方が、一言も発することができない故に何考えているのか様子を窺わなきゃわからないドちび相手に、距離を取ってくれているにも拘らずちょっぴり身構えているガキんちょ相手に、
「だからその不景気な面はやめろ。戻ってきたイルファに俺たちが絞められる」
言葉の選択はどうかと思われるがお気遣い頂けてるんですよ!
意地悪笑顔に「わーい不吉」と勝手に身構えて脳内暴走していた己を縊り殺してよろしいでしょうか?
本気で失礼しました。大変申し訳ありません。
まだまだ懺悔したりない気分ではございますが、まずは現在の事情を説明致しましょう。
天王殿にひとりぼっち禁止令を発令されてから、実は本日二日目になるのです。
なので、生まれてからは三日目。
四大でお仕事のあるイルファは聖魔殿を出てからボクを連れて四大室へと向かったのです。
この場所ならば常に四大以上の天魔一名と共に条件を満たしているのでボクが四大室にいることは両王からの命令と同義、問題ナッシングなのであります。
四大室到着時いらっしゃったのはマリエル、ディル、アシス、カラリナの四名で残りは現場直行組とのことで一先ず四名に今後しばらく四大室にボクが出入りすることを説明、残る三名にも心声と端末機器からの通信で説明を終えた。
事務処理という名のデスクワークに励む面々を中央のソファから眺めつつ、はいどうぞと渡されたちびっ子向け、とはいえど小学生でいえば低学年から高学年レベルの幅を持たせた本を与えられたボクは大興奮で本を読み耽った。子供向けでも所謂異世界の書物ですからね、面白くて…つい。
あ、会っていなかった四大の三名とも会えました。人となりが知れる程話はできていないので当てにならない第一印象と簡易設定の印象だけを脳内に書き留めておくことにした。
取りあえず、アシスとカラリナのような予想外な様子ではなさそうなのでほっと胸を撫で下ろした。
今後豹変しないことを願う。
で、現在四大室到着から二、三時間といったところか。
ん?誕生二日目の夜と三日目の朝はどうしたって?
聞くな。ご飯はともかく就寝とお風呂について触れるな。リビングの羊さんに縋る私を慮ってくれ。
さあ気を取り直して誕生三日目です。
本日朝から四大室にいたのはマリエル、アシス、カラリナの三名。残り四名は昨日と同じく現場直行組。
今日はディルもそちらのようだ。
皆様方はデスクワーク、私はどうするかねとなった時に呼び出し発生。何処のどちら様かは知らないが火属性者にヘルプが入って丁度揃っていたイルファとアシスが外出されてしまいました。
そんなわけでひとりぼっち禁止より二日目にしていきなりイルファがいない四大室にお留守番となった人見知りは、構って貰ってもそれが逆に苦痛なため適度の距離を保持させるなんて身の程知れよわがままぷー状態でソファに鎮座しているのでございます。
心配してなのか落下しないようにしっかりとソファの上へボクを配置し、着ていた上着をボクにかけてからアシスと共に飛び立って行ったイルファ。
しっかりしているのか心配性の気があるのかとむず痒い心地で見送ったものです。
そうして四大室を空けるわけにはいかない居残り組となったマリエルとカラリナは冒頭に述べた様子で事務処理っぽいデスクワークをこなしていたのであります。
やることもない暇人はぼーっとその光景を見ていたのですが、ちょっと前に現場直行組だったディルが戻ってきてちらりとボクを視界に入れたがスルー。マリエルとカラリナの二人と何やらお話していらっしゃったご様子でした。
お話の内容?敢えて聞きませんよ。ここは仕事場、それも四大という高位者の仕事場だ。
人間ならば自宅であぶあぶきゃっきゃっと遊んでいる赤子扱いの新生如きが耳にしていい話ではない。
理解できる、できないに係わりなく、だ。
むしろわからない方がよろしいのだろうな。情報漏洩とか洒落にならん。
で、そのお話が終わったところが恐らく今現在なのでしょう。
自覚はありませんでしたが、どうやら不景気面と言われるほどしょんぼり顔になっているらしいです、我が顔。本当にひどい言い様だ。
もにもにと自覚のない表情を変化させようとして再び頬を揉んでみるが、そもそも自覚せずにそんな顔をしているのだからどうしようもないのではなかろうか、と表情の変化は諦めることにする。
それにしても、少々気にかかっているのですがねディルさんや。
ボクが不景気面していたらどうしてあなた方がイルファに絞められますの?意味が分かりません。
どつくとかではなく絞めるって単語が大変不穏。鶏の屠殺現場を想像してしまいましたよわたくし。
まだ出会って短いですがイルファってそんな手が出てくるような性格とちゃいますやろ?
普段はのんびりさんってあなた自身が言ったばかりですよって。ボクが不景気面していることが普段を放る事柄に繋がるとは到底思えませんです。はい。
「……逆にわかりにくい」
ぼそりと呟かれた一言に肩が揺れた。いや、ちみっこい体なので全身かも知れない。
心声は使えない、まだ喋れないので伝えたいときはいまのところ必死にジェスチャーか相手側に読み取って貰うしかない異文化コミュニケーション状態のボクの疑問が伝わるなんて思ってはいませんでしたが、これはない。
半眼で眉間に皺が寄りそうなご様子。
ボクが顔面の表情と相談している間に何が起きた。ささやかではあったがお気遣いスマイル何処に掻き消えたのだ。不機嫌ではなさそうだがその表情はなかなか堪えますぞディル。
あ、溜息は凹みますのでやめてくだされ。
「目は口ほどに物を言うの典型だなお前。色々駄々漏れ過ぎて逆にわかり辛い」
へ?
きょとんと何を言われたのかよくわからずに首を傾げたボクとそんなボクから視線を外しソファに深く凭れて天井を仰ぐ体勢になったディル。
何か思案しているのか空色の目は伏せられて、溜息とは異なり長く細く息を吐き出しているのだがどうしたのだろうか。聞いて見たいが具体的に聞く方法がないので諦めるしかないのだよね。不満だ。
「マリエル、茶」
「僕はお茶係じゃない」
伏せた目を開いたかと思えばそんな一言を発したディルに一拍も空けずに返したマリエル。
あまりの速さにディルからマリエルの座っている机へと目を向ければむすっとした顔が見て取れた。
おお、こちらもご不満。ちょっとだけ気が合いましたね。
「こっちの様子を窺うくらい暇ならお前以上に暇を持て余してる騒音兵器に茶の一杯でも振る舞え。ついでで俺にも振る舞え」
おおぅやっぱり騒音兵器なんですね、と遠い目になりそうだったがボクに茶を出すついでで自分にも茶を寄越せと言っているディルは私を出しにしているのか?それとも私を出しにしているように見せかけてしょんぼりな私を気遣ってくれているのか、どっちだ?
言葉と表情はツンツンしていらっしゃるが、イルファが気配り屋と称したのがわかる程度に行動の端々がまめまめしいのだよこの御人。
むぐぐと何やら悩んだマリエルはどう感じたのだろうか。
「清涼感のある茶なら何でもいいが柑橘系は却下だ」
「自分が休憩したいだけだろディル!」
茶葉の種類なのだろう申し付けで悩んでいたマリエルは結論が出たのか、立ち上がって指を指して叫んだ。
人に指を指してはいけません。悪魔でもいけないと私は思います。かといって掌で示すのは言葉との差異があってどうかと思うので敢えて見逃す方向でいきたいと思います。
しかし、柑橘系は却下ってディルの好みの問題なのか?嫌いなのだろうか。ってことは自分の休憩で茶が欲しいのでボクは出しにされたと結論が出るのだが…。
ディルの反応はどうなのだろうかと視線を向けると、天井向きだった首をマリエルへと向けているディルの目は呆れの色を乗せていた。
「…」
「うっ、ぐ」
「…」
「ううぅ」
…じとりとねめつけられている状態で沈黙中、マリエルが呻いている。
これたぶん心声会話中なんだろうな。呻いている様子からマリエルの方が分が悪い、と。
はあ、と大きな溜息を吐いてゆっくりと瞬きをした空色。
「茶」
「…か、畏まりまして」
改められた短い一言に威圧が混ざっていたことをここに証言致したいと思います。
自席から休憩室へとぼとぼ向かうマリエルを視線で追っていると、遠ざかる足音と別の近付く足音に気が付く。目を向ければ本を手にしたカラリナがボクの座っている対面側に腰を下ろしていた。
ただ、表情は申し訳なさそうに眉尻下げた片仮名ハの字。こっちはこっちでどうしたんだ?
「騒音兵器」
はいはい何でしょうか?とディルに呼ばれたと認識して振り返った自分、問題あると思う。
ソファに凭れた状態から再び足組み頬杖姿勢になったディル。
あ、いま気が付いたがその体勢だと視線の位置がボクの目線に近いんだ。…いい人、じゃなくていい悪魔。
「昨日の様子で読む方が大丈夫なのはわかった。書く方がどうか知りたいところなんだが、どの程度自力で行動できる?」
初めてディルに意見を問われた気がする。気の所為かな?
そしてそんな意図があって幅を持たせた本だったんですね。というかよく見てますねディル。
騒音兵器の由来のおかげでてっきり嫌われているのだと思っていましたが実はそうでもなかったりするのでしょうか。
ああ、自力での行動でしたね。
御覧の通り座れます。
掌にぎにぎできますが握力は期待しないでください。本を持ち上げる腕力もありませんでした。
精々ソファの上に置いて貰った本のページを捲れる程度です。一人で何かを持ったことありません。
食事は流動食というかスープを頂いていますがイルファの膝上でカップを口元までスタンバイして頂いております故我がお手々はカップに添えて傾き調整をしているだけにござる。
箸より重いものどころか箸すら持ったことございませんわよ、ですね。
因みに立ち上がることも可能ですが自力でできるのは上半身を起こすところまで、イルファに万歳しろと言われてごく短い時間成功を収めただけにすぎませぬ。移動?イルファが抱き上げて運んでくださいます。
「……」
考えることしばし、ものすごく駄目なことに気が付いた。特に運んで貰うことに抵抗を覚えていないところに問題大有りだ。何様のつもりだ私。
「……いい、何となく予想がついた」
ずぅんと項垂れそうになったボクから何を予想したのか返答はいらぬと言われてしまった。
身振り手振りのジェスチャーで返答しようと思っていたのですがと足元に落ちた視線を持ち上げディルを見たが、見なきゃ良かったと後悔した。
「馬鹿かあいつ」
極寒。
おかしい、ディルは地属性だ。どうして物理的に外気に影響を与えて寒いと感じさせてしまう水属性者のような寒さを感じる現象が起きているのだ。
いやいや冷静になるんだリトネウィア。これは実際の体感ではなくそう感じると脳が錯覚しているだけだ。無駄に逞しい妄想脳の産物だ。
具体的には空色の青が寒色としての温度を、何処かを睨みつけたお怒りのご様子から漫画や小説で怒る時の描写によくあるブリザード背景を、舌打ちは…苛立ち具合を示してくれていますよね。
以上を統合、想像してできあがった疑似極寒。そうに違いない。
というか誰に怒っていらっしゃるのでございましょうかディルさんや。
美しい顔は基本無表情にお怒りの凄みが加わったおかげで迫力がえらいことになってます。
視線がボクに向かっていないことからお怒りの相手が自分でないことはわかりましたが発せられている竦み上がり効果が付加されたお怒り空気にその事実が塗り潰されてしまいそうです。
たすけてー。
「ディル、流石に怒りを抑えないと意図せずおちびさんを怯えさせてますよ」
やめたげて発言ありがとうございますカラリナ。
でもキミどうしてボクのことおちびさんと呼ぶのでしょうか。アシスはおちびちゃんでしたね。
小さいのは否定できないのでしませんが少々引っかかります。
「そりゃ悪かったな」
本日何度目かの溜息で不穏過ぎる空気を払拭するディル。
溜息、多いですね。スマイル大事よ?言える雰囲気じゃないので自重しますが。
「ねぇ、いま何怒ってたの?」
カチャカチャと音を立てながら小走りで戻ってきたマリエルの表情は先程のカラリナと同じハの字眉。
不穏な空気は休憩室まで漂ったのですか?それとも所謂気配を読むというやつですか?
個人的には後者の方が楽しいです。
「イルファの馬鹿さ加減に呆れただけだ。茶を寄越せ」
おーっと、怒りの矛先ってイルファだったのですか。…何故?
まさかボクの怠惰な体たらくは保護者に責任ありって方向性ですか?全くないとは言いませんがそれに甘えた本人に非がございましょう。もしもそうならご容赦頂きたい。
とか思っている目の前ではトレイの上に乗せられているティーカップをディルに渡しているマリエルと受け取るディルの姿が展開中。
「イルファがディルに何かしたの?いつ?」
「間接的に現在進行形だ」
「マリエル、それ以上の追究はやめた方が吉です」
眉間に皺を寄せたディルを見たカラリナがにこりと笑いながらマリエルへと制止をかける。
うん。ボクもそれが正解だと思います。
「よくわからないけどそうした方がいいのはわかった。カーリィもどうぞ」
「ありがとうございます」
あ、ちょっとだけ喫茶店の店員さんとお客の和やかな風景に見えた。ちょっとだけだけど。
「こいつのも寄越せ」
すっと伸ばされたディルの手、指が長くてお綺麗な手ですねと眺めているが、実はさっきから皆様が動かれる度に距離が縮まったり開いたりで身を小さくさせています。
生まれて三日、初めましてからも三日、でもまだ…厳しいかな。
「……ディルが渡すの?」
「現在までの間を振り返れ。もう一度発言権を与えてやるが何か言いたいことはあるか?」
大丈夫?と顔に書いてあったマリエルにどうしてかディルは威圧を込めた微笑を向けた。
そういうスマイルは求めてない。笑顔違いです。やり直しを求めたい。
むしろどうしてそうなった?いつ何時ディルの不興を買ったのだマリエル。
「す、すみません。お任せ致します」
あらら見事なハの字眉。何があったか知らないが、どんまい。
そうしてマリエルが差し出したティーカップは、ディルとカラリナが受け取ったものより小さめのちょっと可愛らしいサイズだ。ディルがこいつの、と表現したしお茶要求した時にボクにもと言ってたからこれはたぶん恐らくボク用なのだろう。
ん?現状見るとボクの方がおまけじゃないか?…いやまあ、この際どっちでもいいか。
「いいか騒音兵器」
はい何でしょうか。もうその呼び方には諦めがつきました。
「お前でも持てるだろう重みと温度だが、多少なり熱い。びびるのはいいが動くな、零れる。俺はお前に危害を加えるつもりはない。その意図は理解できるな?」
手に持ったティーカップがあるからか足組み頬杖体勢ではないので視線の位置は高いけれど、見上げる空色は視線を態々下げてくれた時と同じで…明確な意思表示ができない私を気遣い窺うもの。
だから、小さく縮まっていた体を伸ばし、しっかりと一つ首肯を返す。
あなたは私を傷つけない。
真っ直ぐに見返した空色が僅かに緩み、口角が少し上がる。
「それでいい」
淡々としている中にも柔らかさを感じるのは浮かんだささやかでもわかる微笑の所為ですかね。
つられてボクの口角も上がっている気がする。
「膝上は安定に欠けるからソファに置くが、気をつけろよ」
こくりと首肯を返せばソーサーの上に乗せられたティーカップがボクの直ぐ傍のソファにそっと置かれた。
言葉は淡々としているのに動作はそっとだったのが何とも言えない。ディルはやさしい悪魔だ。
まあ、わかってはいてもすぐに体は応じてくれないのでどうしてもまだ固まるが、それでも身を竦めるまでいかなかったのは進歩だろう。
勝手にびびって迷惑かけているのに気遣ってくれるやさしい悪魔さん。
「 」
音にはまだできないのだが、こういうのは気持ちが大事。口パクで申し訳ないと思いつつ、伝わるかどうかもわからないのに口にした短い単語。
見上げた空色は一つ瞬いて、細められた。
「どういたしまして」
だだだ誰か私にカメラを授けてください!!い、いまこの瞬間を切り取ってくれ!!
基本無表情と、辛辣にドライで時折ファイアと言われた御人のしっかりはっきり笑顔とか希少で貴重なものを永久保存してくれえぇーーーーっ!!
「おやおや見ましたかマリエル、ディルの笑顔ですよ」
「うん、久しぶりに見たね。そっかー、リトネウィアのこと嫌いじゃないんだね。よかったぁ」
にこにこにこにことカラリナとマリエルから笑顔が振る舞われているのを見て、ディルの笑顔はあっさり平常の基本無表情へと戻りました。
ああ、本当に希少で貴重。消えるの早いっす。
「ディルは嫌いな相手を気遣う真似はしませんよ。そうでしょう?」
笑いながらディルへと問いかけるカラリナは自信満々って感じですが、問いの中身の所為で私ちょっとそわそわしていいですか?
「…そこまで暇じゃない」
はいでもいいえでもないけれど、嫌われてないと本人の口から聞けたのにひゃっほいと喜べないのは表情の変化なし、淡々としている声にも変化なしのおかげで本当に?と問いたくなるご様子の所為ですね。
勿論再度の問いなどしません。何だか睨まれそうなので。そんな自虐趣味はない。Mチガウ。
でも、問わなくてもにこにこ顔のマリエルとカラリナを見ていると大丈夫だろうなと思う。
あ、二人のにこにこ顔に不服なのかディルの眉間に皺が。
「ボクもお邪魔しまーす」
にこにこ顔のままディルの対面へとカラリナ側のソファ背面をぐるりと回って座ったマリエルの行動は、きっとボク側を回ると…と気を遣わせたからですね。申し訳ない。
「お前は働け」
「ひどいっさっきまで働いてたよ!一区切りはついたよ!」
「そうだな。無駄に働いてたな。しなきゃいけないこと放置して」
「ぐふっ」
「あ~それは僕の耳にも痛いですね」
「一番の馬鹿がまだ残ってるがな」
展開されているやり取りを耳にしながらありがたく頂戴したお茶に手を伸ばす。
取っ手に指をかけて、空いている手でカップを包むようにホールド。うむ、持てる温度。
そっと持ち上げるが……ちょっと重い。でも持てないわけじゃない。急ぐ必要ないんだからボク頑張るよ!
「?」
なんてゆっくり持ち上げていたらひんやりした空気がティーカップの下から感じられて重みが軽減された。
というか明らかに軽くなった。中身の量に変動はないのに何故?そして急にひんやりって何ぞ?
疑問に首を傾げていたらディルから溜息が降ってきた。え、何事?
「…誰よりお前に甘い加護精霊が手を貸してるんだ。いいから飲め。まともな料理は作らないが茶はそれなりのものを入れるぞマリエルは」
「一言が随分余計だよディル」
「事実だろ」
「否定できないから余計だって言ってんの!」
「うるさい、茶ぐらい静かに飲め」
「僕が入れたのに!あぁもぉー理不尽だよ本当にぃ」
ティーカップが軽くなった理由より目の前のコントが気になったのは仕方のないことだよね。
あ、お茶おいしい。清涼感のあるお茶ってどんなのかなと思ってたけれど確かに。でもミントみたいな鼻に抜ける感じではない。
うーん、これも未知の味になるのかな?でもおいしい。これ好き。
「カーリィ、イルファが出てからどのくらい経った?」
ちびちびとお茶を頂いていると気になる発言がディルから出てきて視線を上げる。
「そろそろ三時間ですね。ちょっと待ってください」
立ち上がったカラリナは自席へと歩を進め、機器を開いた。カタカタと音が聞こえるのでキーボードの方だ。
「追加報告が出てますね。調査から討伐に切り替わってますが…コレ相手は植物みたいですよ。除草作業というところですね」
「…除草作業」
植物の討伐って何だ?食虫植物みたいな動く系なのか?それとも魔物とかのもっとアグレッシブな奴なのか?大丈夫なのかソレ?
疑問と不安が過るのだが、ディルが何処か遠い目をしたのも気になる。除草作業に何か思うことがあるのだろうか。
「アシスとイルファの二人が出て手間取るの?」
「場所と耐性の問題でしょう。暴れまわることのない代わりに地中深くへ根を張っていて除去に手間がかかるみたいなので…下手するともう二、三時間は戻って来ないかもしれませんね。戻ってきたらご愁傷様が必要な件です」
本当に除草作業っぽいが…カラリナも言い様がちょっと。戻ってきたらご愁傷様が必要ってどうなの?
お疲れ様の代わりってこと?
「あらら、危険はないけれどってことか」
「時間がかかるなら都合がいい。騒音兵器」
はいっ何ですか?お声がかかるとは思わなくてちょっと吃驚したよ。というか気になる発言聞こえた気がするよ。
「イルファが戻るまでに一つできることを増やせ。時間は少なくとも二時間はある」
…ん?どういうこと?
ティーカップをテーブルに置き、足組み頬杖体勢で視線を合わせてくれた空色が、どういうわけか背筋へぞわっと感を与えてくれて良くない方向でのデジャヴュ。
恐る恐る首を傾げてもう一回を要求するとディルは口角を持ち上げた。
効果音は、にやり。
「安心しろ。文字を書くより簡単なことだ」
溜息よりスマイルと思いましたが、一つ注意書きをつけたいと思います。
スマイルはスマイルでも意地悪な笑みはノーサンキューで!




