第四話
「は?」
運良く白い閃光の斜線上にいなかったプレイヤー達は突然の光景に呆けた顔をする。白い閃光で半分以上のプレイヤーが光の粒となり死んだ。その事にプレイヤー達は動きを止めてしまったのだ。
もう敵は目の前にいるというのに。
「気を抜くな!来るぞ!」
すぐに我を取り戻したソレイユは動きを止めたプレイヤー達へ向けて叫ぶ。カズヤはそれで我を取り戻し、武器を構えた。
「カナデ!レイン!」
「おう!」
「分かってる!」
カナデとレインもカズヤに寄り、武器を構えた。
殆どのプレイヤー達はソレイユの声により、慌てて武器を構え直すが、咄嗟に構えることが出来なかった者達がいた。魔王はそれ見逃さず突進する。
「避けろ!」
そうソレイユが叫ぶが、一歩遅かった。
「え?う、うわあぁぁ!?」
魔王の突進を避けることもままならず、何人かが吹き飛んでいく。すると空中で光の粒となり、キラキラとエフェクトだけを残して消えた。
「な!?」
カズヤは声が出なかった。
さっきの閃光といい、突進といい、プレイヤー達は一撃で遣られている。上位プレイヤーのHPを一撃で吹き飛ばす攻撃などありえる筈がない。しかし現実にはプレイヤー達は死に、戦闘が始まって30秒も経たない内にメンバーの半分以上が殺られている。つまりはこの戦い、攻撃を受けてはならないことになる。
そんなので勝てるのか、カズヤはゴクリと喉を鳴らした。
一方、今回のリーダーであるソレイユは焦っていた。レイドのメンバーは半分以上が死に、既に十人程しか残っていない。この状況で魔王に勝つのは絶望的だ。しかし、ボ
《ボス出現エリア》に入ってしまっている以上退避する事は出来ない。
やるしかない。この状況を打破するにはもう魔王を倒し、クリアするしかないのだ。
そこまで考えて、ソレイユは魔王に向け、走り出した。集団戦闘において指揮を取るリーダーが一人で敵に突っ込むのはあり得ない事だが、今の状況で指示を出してもそれが機能しないことはソレイユには分かっていた。まずは自ら魔王に攻撃を当て、士気を少しでも上げなければならない。
ソレイユは背中から自分の身の丈程の大剣を抜くと、魔王に向けて振り下ろした。その大きさには見合わないスピードで振り下ろされる大剣に突進直後の魔王は避ける事が出来ず、肩から腰にかけて切り裂かれた。魔王の身体に赤いダメージエフェクトが走り、魔王のHPバーが少しだけ後退する。しかし、それにソレイユは思わず舌打ちした。あれほど、直接自分の攻撃を当てたのに、HPは数ミリしか動いていない。全体で見れば、数パーセントといったところだ。
最後にとんだ化け物を用意しやがった、ソレイユはこのゲームを開発した奴らに悪態を吐きながら、振り下ろした剣を引き寄せる。
魔王は切られた事に怒り、ソレイユの方を向く。
「ガアァァ!!」
魔王はソレイユに向けてゴリラの様な太い腕を横に振る。ソレイユは腰を落としそれを避けると、横に一閃した。魔王に赤いダメージエフェクトが走る。が、魔王はそれを無視し、再度腕を振った。
「っ!......」
ソレイユは咄嗟に大剣を盾にして、魔王の攻撃を防ぐ。
「ぐぅ!?」
しかし魔王の力が大きく上回り、ソレイユは吹き飛ばされる。
「ソレイユさん!」
それを見てカナデはソレイユのもとへと駆け寄る。ソレイユのHPは大きく削れていたが、咄嗟のガードのお陰か三割程残っていた。カナデはその事に胸を撫で下ろし、ポーションを渡す。ソレイユはそれを受け取り、素早く喉に流し込んだ。
そのソレイユの横を二人のプレイヤーが駆け抜ける。
「行くぞ!」
「おう!」
カナデがソレイユのもとへと走ったのを見たカズヤとレインも同時に走り出した。二人は武器を抜き、魔王との距離を詰める。
「はあぁぁ!!」
「オラァッ!!」
カズヤは二振りの刀を振り、魔王を切り裂く。魔王はそのまま走り去るカズヤに向けて拳をくりだすが、そこにレインのハンマーが打ち込まれ、魔王の拳はカズヤから逸れる。
カズヤは魔王が拳を引き戻す前に方向転換し、再度魔王を切りつけた。
それを見たソレイユはHPが回復したのを確認すると、他のプレイヤー達に指示を出す。ソレイユが初め先頭に立ったお陰か、士気は上がりプレイヤー達も動き出す。
戦いはまだ始まったばかりだ。