気にしたら負け
テクテクテクテクと侍女のカーミアと一緒に街に向けて歩いております。
「なあなあカーミア?」
「はい何でございましょうレシウス様」
「その〜、いい加減手を離してはくれませんかね?」
家を出てからずっと俺はカーミアに手を握られているのでだんだん手汗が酷くなってきていた。
あと身長差の関係で手の位置が頭と同じ高さにあるので意外と疲れるのだ。
「嫌でございます。そんなことよりレシウス様ご覧ください、アレがこの辺で一番近い街である"ヴィヴィス"でございます」
え?ちょっと待ってカーミアさん?
今ものすごく自然に俺の提案を拒否しました?
そんでもって無かったことにするために話を変えたりしました?
あれれ〜?
俺の提案を拒否したカーミアは逃げられないようにするためか先程より強く手を握ってきた。
7歳児と言えど男の端くれ、美人さんにそんなことされたらドキがムネムネ…じゃなくて胸がドキドキしてしまいますよ!
嗚呼神よ、このような状況を味合わせていただき感謝いたしますぅ〜!
据え膳食わぬは男の恥、男レシウス齢7つとまだまだ短き人生しか歩んでおりませんが、これより大人になりま……
「……様?…ウス様どうかなさいましたか?聞こえておりますかレシウス様ー?」
「…ぅえ?あ、ああ大丈夫だよカーミア」
「そうでございますか。では最初からまた説明させていただきますね」
そう言って微笑を浮かべるカーミア。
どうやら思考に耽っている間に説明してくれていたようだ、また説明してくれるようで助かる。
おほん、と手を口元にやって軽く咳ばらいをした後カーミアが説明を話し出した。
「まずここの街の名前はヴィヴィスと言います。ヴィヴィスは魔法国家デヴォイファーロの中では中くらいの規模でございます。首都カオンから西に位置します。
ヴィヴィスの事で押さえておくべき点は三つ。
一つは入り組んだ路。元々小さな村が開拓と建物の増強を繰り返して出来た街なので計算された街づくりはされておりません。なので路が迷路のようになっており、初めてこの街に寄ったという冒険者や旅人の迷子が沢山おります。レシウス様もそうならないようにしてください。
一つ、教会の連中とは出来るだけ関わらないこと。この国デヴォイファーロは魔の神カオンファーロを国教としており、この街にもその教会がございます。まあ国教なので国の中で布教などはしておりませんが彼らはとても自尊心が高い者たちですので何かと文句を言ってきます。レシウス様も負けず嫌いなところがございますので面倒にならないように関わらないようにしてください。
最後の一つ、奴隷商があります。これはあまりレシウス様には関係ないかと思われますので簡単に説明しておきます。デヴォイファーロでは奴隷制があることは前に教えましたよね?この街でも奴隷を扱う店があります。と言ってもそこらの子供などを奴隷にするわけではございませんのでご安心してください。奴隷は奴隷商に売られた人間と囚人で、街中にいるのは買われた奴隷です。買われた奴隷は買った主人の物なので無闇矢鱈に助けようなどとはしないようにしてください。
これらの点を押さえておけばこの街は安全ですので安心してお友達をお探しください」
へー迷路ね〜。
迷路ってアレだよね、スタートポイントから出てゴールに向かって進んでいる間にスタートポイントにすら戻ることが出来なくなって泣くヤツだよね。
母さんが言っていたことが正しいならダンジョンってのもそーいう感じのヤツがあったりするらしい。
つまりこの街は擬似ダンジョンか!
迷路を進んで出来るだけ敵(教会の連中)に会わずにトラップ(子供の奴隷)にも騙されずに宝(友達)を手に入れなければならないわけだ。
ふふふ、心躍るじゃないか!
「うん、分かったよカーミア。ありがとうね!それじゃ母さんのこともあるしココで一旦お別れだね!」
「はいレシウス様、この街では六刻経てば教会の鐘が鳴りますので鐘が鳴り次第門の近くにいてください、お迎えにあがりますので」
「うん、分かったよ!」
そう言って門まで駆けていく、ふとカーミアが帰りは走って帰ることを思い出しどれくらいの速さなのか確かめるつもりで振り返ってみた。
あまり曲がり道の少ない道を歩いて来たはずなのだがもうカーミアの姿は見当たらなかった。
(気にしたら負け、気にしたら負けなんだ。うん、きっとそうだ)
そう考えることにして門をくぐった。