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英雄覇道!  作者: 空見鳥
2/5

レシウスvs河の主

7歳になった


「レシウスー?何処に行ったのー?」


母さんの呼ぶ声がする。

だが今その声に反応するわけにはいかない。

なぜなら今、俺は壮大な計画を実行中なのだ。


「んもう、何処に行ったのレシウスー!ご飯が冷めてしまうでしょー!」


なんとっ!?

ご飯とな!?

これは一時休憩を挟むべきではなかろうか。

カーミアの作るご飯は絶品なのだ、それを無下にするなどセル=ヴァンロードの名が廃るというものだ。

いやいや!このまま出て行っては計画が破綻してしまう!

なんせ今回の計画は一ヶ月前から組み立ててきたそれはそれは緻密かつ繊細なものなのだ、ご飯程度で白紙にするのは酷だ。

あーでも良い具合に腹が減ってきたなー。

カーミアの作るご飯が食いたいなー。


そんなこんなで決断を迷っているとターゲットが現れた。

とてもデカイ魚影が水面に映る。

河の主だ。

三年前、この家の前にある河で俺が発見した河の主。

角のような突起物が頭部から背に渡って生えており、その身の大きさは俺が縦に四人並んでも足らないくらいの巨大さ、鱗は直射日光を浴びて銀色に光り輝く。その獰猛さを伝えるに足る牙と強靭な肉体、尾ビレを一度動かすだけで水面が波打ち、主を狙って襲いくる天敵もいとも容易く水中に引きずりこむ。

まさにこの河と河周辺においての食物連鎖の頂点。


頂点……


その一言を想像しただけで身の毛が粟立つ。

小さい頃(今も小さい)から母さんに駄々をこねて読んでもらっていた英雄譚や勇者の御伽噺、その中で絶対現れるヒーローの敵、強大で全ての生命の頂点だからこそ出来る尊大な態度。

そんな化物たちを打ち倒す英雄や勇者!

子供心に憧れる。


「むふ…むふふっ、あの主はさしづめこの辺の生命を脅かす化物と言っても良いようなもの。俺があいつを倒せば俺は勇者と呼ばれるんだ!」


そう高らかに言いきってレシウスは駆けた。

鉄の刃が木の棒に添えられた愛剣と侍女のカーミアに作ってもらった特製の傷薬を持って、河の中にポツンと浮かんだように見える中洲に。




















「うぅわぁあーー!来るな来るな来るなーーーー!!」


そんな声を響かせながらレシウスは懸命に河を泳ぐ。

河の主なんて簡単に倒せるし。

そんな事を思っている時期が僕にもありました。

河の主、自分でそう呼んで起きながら気づきもしなかったよ。

中洲に向かうまでの使用経路、それは「河」

そう河なんだよママン。


「ぎょっぎょっぎょっ」


河の主が高笑いをしている。

とてつもなく巨体であるにも関わらず河の主は軽やかかつダイナミックに泳いで来る。

対する俺は…


「重いー!こんなに泳ぐのが辛いなんて思わなかったよ!服くらい抜いどくべきだったかな!?」


読んで字の如くもがいていた。

まさか母さんから5歳の誕生日に貰った愛剣がこんなとこで足を引っ張ってくるとは予想していなかった。


「うぅぉぉお!後少しだ、後少しで中洲だー!間に合ぶへぇっ!…ガバうぇぇ……」


あまりにも叫びながら泳ぎすぎたからか河の水が鼻に入ってきた。

鼻腔から喉に向けて流れ込んでくるのを体が骨髄反射で吐き出す。

故に一時の間息ができなくなり軽い呼吸困難を引き起こす。


(ああ、死んだ…)


冗談にならない言葉を思いながら死にたくないので必死に中洲を目指す。

そういえば死にたくないのに必死に頑張るってなにやらオカシイ気がしてならない。


「雑念が浮かぶってことはまだまだ頑張れる証拠だな!」


河の主が背を追いかけてきているが後1・2メートル程度で中洲だ。


(ふ、勝った!所詮は魚風情、陸に上がれば足場があるから踏ん張れる。そうなりゃこっちのもんだ!)


後少し、後もうすこ…

その瞬間、俺はいったい何が起こったのか分からなかった。

後少しで、もう1メートルもないほど近くまで来たのに、伸ばした手は中洲に届かなかった。

俺は知らなかった。

中洲の周りの水の速さは異常なほど早くなることを。

やろうと思えば7歳児程度の泳ぎなんて河の主なら簡単に追いついたことを。

俺は見てしまった。

見えてしまったんだ。

急な流れの強さに負けて溺れて行く最中、河の主が嗤っていたことを。


(クッソ…やられた……)


ゴポゴポゴポゴポ……












やられた。

本当にあいつは強大だ。

ただ強靭な肉体を持っているだけではなく、長く生きた主としての賢しさを兼ね備えていた。

たぶん直ぐにやられるであろう。

この河の深さはさほど深いというわけではない。

それでも10メートルは下らない。


今俺はその河底にいる。

すぐ近くにはヤツに喰われたであろうモノたちの骨が沈んでいる。

魚たちの骨から亀、蜥蜴、鳥など多種多様だ。少ないが人間のような骨や何の骨か分からない物まである。

そんな中で縄を発見した。

たぶん主を釣ろうとしたのだろう。

無惨に噛み切られている。

その縄を借用して足を固定する。

どうせ愛剣のおかげで浮くのには時間がかかる、そんな事をしている間に主に噛み殺されるのがオチだろう。

ならばこの場で討ち取ろう。

殺そうとしているのだ、殺されても何も言えはしないだろう。

それでも死んでくれてやる気はない。

簡単だ、殺される前にあいつを殺せばそれで良い。

この辺はヤツの喰い場なのだろう。

具合が良いことに他の魚やモンスターなどは存在しない。邪魔者はいない。


(さあ、ここからだ。ここから俺は成り上がって行くぞ。ここから俺の伝説が始まるんだ!)


服を脱いで無駄な摩擦を無くす。

背の小さな俺には上段はあまり意味がない、なので愛剣を下段に構える。

抗う気が俺にまだあることを知った上でヤツは真正面から来る。


ニヤリ…


無意識のうちに口角が上がる。

強敵がその自らの強さに対する驕りから俺という獲物に対して負けるはずがないと油断して来る。

自分で思っていながら悲しくなるが俺は弱い。

たぶん後数年は主に挑むのは早かっただろう。

ここにきてそのことを理解するも時すでに遅し。

なら、死なないようにしよう。

生きて母さんとカーミアと一緒に昼ご飯を食べれたら俺の勝ちだ。

その程度なら弱者(おれ)でも出来るだろう。


(ははっ…、母さんに怒られるな〜)


生きて帰らないと母さんに怒られる、うんとっても怖いな!


ザバザバザバ


そんな音を鳴らしながら河の主がやって来る、真正面から。

あとほんの数秒であの口が俺の体を噛み切る。

そう思うと堪らずションベンが漏れそうになる、つうか漏らしt(((

黄色い線が周りを巡る。

あと少し(無理だ耐えられない)いや耐えるんだ(目の前にいる!)まだ届かない!(もう…)まだ……


主が口を開いて襲ってきた。


今だ!


(ぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!)


心の内で発声しながら下段から逆袈裟斬りをお見舞いする。

瞬間気づいた…


(……待ち過ぎた、間に合わない…)


また俺は忘れていた、ここが河の中であることを。

空気を吸うことが出来ないので体はダルく重い、そして水圧があるから剣先が重くなる。

この二つのおかげで計算が合わない。

あの主の獰猛な牙が目の前にある。


(ああ、死んだ…)


今日2度目の言葉が脳裏をよぎる。


ザシュッ













死んだ…のか?

いや、死んだにしては痛みがなかったし体は重いぞ。

息が苦しいのは何故だ?

何故か手の位置がオカシイ、振り抜いている。

目を開けてみよう。


(!?)


ガボボッ


驚いた、あまりにもビックリしたので貴重な空気が口からこぼれてしまった。

目の前には主がいた。

脳まで至っていそうなほど食い込んだ愛剣も見える。

オカシイ、今も俺は愛剣を握りしめているはずだ。

そう思って手を見てみるとそこには半ばから折れた木の棒が握られていた。


(これは…斬ったということか?しかし、何故だ……。こいつは完璧に俺を捉えていた、急停止でもしないかぎりあの速さなら俺は負けていたはず………)


訳が分からなかった。

しかし考え込んでいる暇なかった、何故なら肺が痛みをもって訴えてきたから、空気をよこせと。

思考することは後回しして即座に上に上がることにする。

足を固定していた縄で主を縛り、せっかく母さんがくれた愛剣を重いからということで底に置いて浮上する。


(ああ…とりあえず腹が減ったなー……)


水面向かって泳ぎながら緊張の糸が緩んだからかカーミアの絶品ご飯を恋しく思うのだった。




こうして俺の伝説の1ページは幕を閉じたのだった。

なお、陸に上がって母さんたちに河の主を見せようと思い持って行ったらカーミアに嫌そうな顔をされ、母さんに「レシウス、すっごくクサイわよ」と言われた。

主が急停止をかけたのはそのせいだったのかどうかは知れない。

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