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改訂版「勇者を殺せし者」  作者: 雪月花。鳳仙花。
1.剣聖が殺された日
3/6

3話「主犯と共犯者」

 




 状況的に考えて、ラウルはもう何も出来ないと考えていた。自分が無実にも拘らず、自分が犯人だと決められ、あと三時間もすれば処刑されてしまう。そんな状況で一体何が出来ると言うのか、しかし彼女は言う『諦めるの?』と、まるでその程度で諦めるのと言わんばかりの言動。徐々にラウルは苛立ちを募らせていく。


「貴女にとっては他人事でしかない! 追われているのは俺で、処刑されるのも俺…… そう貴女には所詮他人事に過ぎない。だから気安くそんな事が言える……もう俺には何をする事も出来ない、どうせ殺される運命なんだ……」


 自暴自棄なラウルを見下してラズメリアは静かに腰の剣を抜き、その抜き身の黒い刀身をラウルの眼前に向けて鋭く突き出していた。そして淡々とラウルに告げる。


「……そう。なら死になさい」


 ラウルに向けた剣に力を入れようとしたその瞬間、ふとラズメリアの脳裏に浮かんだライセンと最後に交わした言葉。


『俺はもう時期殺される。だから頼む。ラズ、俺の代わりにあいつ、ラウルを頼む』

『嫌よ。面倒』

『一生のお願いだ。頼む! お前になら安心して任せられる……気がする。いや、お前しかいない』

『一生って、あんた。はぁ。未来が詠めるなら回避とかすればいいでしょ』

『無理だな。俺は俺より強い奴との戦いを楽しみにしてたんだ。それに、勝てないと判っていようが関係ない。その程度の事で俺は諦めたくない。だから頼む、あいつが気がかりで戦いに集中出来なくて敵わん』

『はぁー。あっそう。面倒臭わね……わかったわよ』

『……すまない。頼んだぜ、ラズ。これで憂い無く全力で挑めるぜ』


 空を切り地面に静かに黒い剣が落ちる。ラズメリアの身体は震え、ラウルの背中にもたれ掛かる様に崩れ落ちた。


「……あいつ……なにが憂い無く戦えるよ! 結局殺されてんじゃ意味ないじゃない! なんかムカついてきた」


 突然の出来事にラウルは何が何だかわからない様子。ただ背中から感じるラズメリアの様子は泣いている様に感じていた。


「あ、あの……」

「うっさい、あんたもあんたでなんなのよ! こっちはあんたを助けて騎士団多分クビよ、いや絶対クビなのよ。わかる? どうするのよ? これからの生活費とか、家のローンとか、それと積み立ててた年金とか? あぁ、老後が不安だわぁ」

「……えっと……あ」


 ラウルは無意識で「あんた何歳だよ」と言いかけ、慌ててそのツッコミを胸にしまい込み、振り返って見ると、そこには半泣きのラズメリアの顔があり「なによ?」と目が合う。

 不意に爽やかな風が辺を駆け抜け、木々が揺れ騒ぎ出す。


「なんで、そこまでして俺を助けてくれたんですか?」

「……どっかの馬鹿に頼まれたからよ」


 ラウルは納得した様な表情で立ち上がり、ラズメリアに手を差し伸べる。突然差し伸べられた手にラズメリアは戸惑った様子でラウルを見る。


「よく考えたら俺を助けた時点でラズさんも共犯者ですね。人類の希望、ライセン・リリックを殺した犯人を庇った。俺達は人類の敵って所ですかね」

「急に、あんた。なに? どうしたの? まっ。そうね、どっかの馬鹿のおかげで私も人類の敵って扱いになってるわね、多分」


 ラウルの手を取りラズメリアも立ち上がり、ミニスカートの埃を両手で払う。


「で、主犯のあんたはこれからどうするの?」

「そうですね……俺は真犯人を捜します」

「そう。でも今は逃げるわよ。時間がないの、走りながら説明するわ」



 ラウルは、はいと頷き二人は走り出す。地平線は茜色に染まり、もう夜明けは近い。









 その後しばらく、王都スベルニア中層区の騎士団支部、その正面入口の前には鼻から直線に長く伸びるヒゲが特徴的な男が、苛立った様子で部下の報告を手でヒゲをなぞりながら聞いていた。部下である兵士はヒゲの男に跪き緊張した面持ちで報告を終える。


「フン。つまり貴様はラズメリアの乱入で目標を逃したと?」

「はっ、はい。ザギル隊長の命令を遂行できずに申し訳ありません」

「まあいい……さっさと気絶してる部下を回収し、準備を整えろ。吾輩も出る」


 兵士は隊長に敬礼をして急ぎその場から立ち去っていく。その仕草はまるで隊長から逃れるように感じられた。

 ザギル隊長はそんな兵士の様子を特に気にする様子もなくヒゲを弄っていた。正面入口の扉が開き、一人の派手な化粧をした肌の黒い女の姿があった。髪の色は青く、露出の激しい格好に、背中のマントには大きくⅪと描かれている事から女もまた騎士団隊長の一人だと言う事がわかる。女は何処か嬉しそうな笑みを含み、緩やかな階段を降りザギルに近づいていく。


「あらぁ? 随分部下に優しくなったのね? そんな事はどうでもいいのだけれど。それよりも今、貴方の部下がとても面白い事を言ってたわね」


 ザギルは近づいてくる女から漂う香水の臭いに嫌気がするがヒゲを弄り、気分を紛らわせているそんな印象で女に無言で視線を向ける。女の笑顔にザギルは寒気が感じた。


「あの小娘。ピンクの吸血姫きゅうけつき)って言ったかしら? わたしって、あの娘の事、大ッ嫌いなのよ。それが、なぁに? あの小娘ったら敵になってくれたって言うじゃない? アハハッハ。私もまぜなさい、ザギル」

「……好きにするがよい」


 そう言ってザギルは女と反対に騎士団支部に向けて階段を上り出す。二人が階段で交差しすれ違う。


「ええ。好きにさせてもらうわぁ。それで貴方には、あの娘の行き先が分るのかしら?」

「吾輩の予想では中層四区西側ゲートを通る筈だ」

「あぁ。あの魔物が現れたってとこね。でもあそこは絶壁よねぇ。いくらあの小娘でもあそこから外に逃げるのは無理なんじゃないの?」

「確かに無理だが、ラズメリアはあそこに現れたのが飛行系の魔物であったとも絶壁だとも知らぬ筈。なら、ラズメリアの性格から噂を頼りに一応確認する」

「ふうん。流石、同じ部隊に所属していただけあって詳しいわねぇ。その判断、期待させてもわうわよ」


 それだけ言い終わるとザギルは騎士団支部の建物の中へ入っていった。一人取り残された女は不気味に笑っていた。










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