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改訂版「勇者を殺せし者」  作者: 雪月花。鳳仙花。
1.剣聖が殺された日
1/6

1話「殺された剣聖」

 



 魔王討伐ゲーム。


 ――遥か昔から続く人類と魔王の存亡を賭け幾度となく繰り返されるデスゲーム。


 ――人類側が勝利するまで決して終わる事なき無情なゲーム。


 ――魔王討伐ゲームに挑み挑戦した勇者(さんかしゃ)で生きて帰った者はいない。




 現在までに既に40回もの魔王討伐ゲームを続けてきたが、未だ魔王討伐ゲームは続いている。



 そして今年、第41回魔王討伐ゲームの幕が上がろうとしていた。

今ではもう魔王討伐ゲームはどうせ勝てない、魔王強すぎ等と、諦めている者が多数派である。

幾度となく繰り返される度に人は慣れるのだ。そもそも参加しなければ関係ない。たとえゲームに勝利して未来に世界がどうこうなろうと今の自分達には関係ない。参加するだけ馬鹿げてる、等々、もはやゲームに無関心な者が世の大半を占めている。

 そんな世の中でも彼の考えは違った。少なくとも彼は自分の意志で勇者を目指した。無論、彼だけが自分の意志で勇者を目指した訳ではない、過去に挑戦した数多の勇者達もまた彼と同じ志を抱き散って逝ったからこその現在(いま)がある。ただ彼には力があった。過去のゲームの勇者達と比べてもかつて無い程に圧倒的な実力を誇るだけの力があった。


 ――彼は言った。

 ――俺が魔王討伐ゲームを終わらせる。


 その言葉に世界は人は次第に彼の言葉を信じ彼に

魅せられ、かつてのゲームとは違う賑わいで溢れていた。

 今回のゲームには彼、歴代最強と呼び声の高いスベルニア王国代表の勇者、剣聖ライセン・リリック、彼の評判はスベルニア王国に留まらず他国からも絶大な期待が寄せられていた。彼こそが、この呪われたデスゲームに終止符を討ってくれると人々は信じて疑う事はなかった。

 毎回恒例となっている死を覚悟をして魔王に挑む勇敢なる勇者達をせめて派手に送り出す宴も今回は特に盛大に行われ賑わいを見せていた。


 だが、そんな人々を嘲笑うかの様に第41回魔王討伐ゲーム開始直前にして剣聖ライセン・リリックは何者かに殺されてしまう。


 ――人々の儚き希望は潰え、まもなく過去最悪の形で第41回魔王討伐ゲームが幕を上げる。








 夜も深まり静寂が訪れる。月の輝きで青白く閑散とした広場を静かに照らしている。第41回魔王討伐ゲームに向けて宴の準備が進められ豪華に飾り付けられた広場は何処か儚さが感じられる。その広場を黒い髪を揺らし大きな黒い瞳は涙を潤ませ黒いコートを着た華奢な躰つきの少年が疾走していく。見た目は十六、十八歳位だろう。彼は、まるで何から逃れる様に必死な面持ちで広場を駆け抜けていく。彼の後ろには不気味な雰囲気を漂わせ厳ついた鎧で全身を覆い、いかにも動きにくそうな五人の兵士が彼を追いかけていた。このスベルニア王国内で鎧を着けているのはスベルニア王国軍の騎士団だけである。つまり彼はスベルニア国に追われていると言う事になる。


「ハァ、ハァハァ……くそっ。てか、なんで俺は騎士団に追われてるんだよ?」 


 額から溢れる汗をコートの袖で拭い、愚痴を零してみるが当然誰も答えてはくれない。そもそも彼には今のこの状況に全く身に覚えが無かった。夜中にいきなりドアを破壊し訪れた五人の兵士、彼らの手に握られていた鋭利な剣を見た瞬間に生命の危機を感じ窓から逃げ出し現在に至る。これまでの行いを振り返ってみても騎士団に追われるような事をした覚えはないと思う。分からないなら相手に聞いてみるかと、振り返り叫んだ。


「何なんだよ! あんた等はっ!?」

「…………」


 彼の叫び声だけが虚しく響き、再び、静寂が訪れる。彼を追う兵士達には無言に徹している訳がある。只でさえ全身に鎧と走り難い格好に兜で視界が悪い上に薄暗い夜道にも拘らず彼を追えているのは、一般人を相手に鍛え抜かれた自分達、騎士団と言う事も無論あるが、それよりも前方を逃走中の彼、理由は知らないが彼は大通りの舗装された通路の真ん中をひたすら走っている。正直、黒ずくめの彼に月明かりの乏しい横の林道の方へ逃げられると非常に追跡が困難になると予想される。故に無用な挑発などして彼に林道に逃げられでもしたら目も当てられない。

 彼はそんな兵士達の思惑など知る由もなく、ただ走るのを止めた瞬間に訳も分からぬまま全てが終わる。そんな恐怖心が彼の心を突き動かし走り続けていた。



 無言に徹し彼を追う五人の兵士が所属している部隊、その隊長であるザギルの命令を承け兵士達は、ただの一般人である彼を朝の七時までに王城まで連行しなくてはならない。彼が何者で何をした等は知らないし知る必要もない。ただの一般人だろうが関係ない、彼を捕らえなくては自分達の命が危うくなる。これはもうザギル隊長の部下となった不運を呪うしかない。今はまだ追えているが一向に差が縮まる気配がなくこのまま逃げられるのではと、兵士達のリーダー格に当たる兵士は一抹の不安を感じ始めていた矢先、逃げる彼に異変が生じていた。

 逃げ続ける彼の身体は限界を超え、意識が朦朧とし視界は歪み額からは滝の様に滲む汗が地面こぼれ落ち鉛の様に動かなく姿勢を維持できずにその場に大の字でうつ伏せに崩れ落ち、徐々に薄れていく意識の中で月が静かに佇んでいた。

 彼が突然倒れ五人の兵士は安堵した様子で倒れた彼の元へ向かう。


「……ハァハァ、手間取らせやがって」

「……だよね。正直、僕も結構ヤバかった」

「だな。しかし、こいつ最後まで直進していたな」

「我思う。彼には彼の騎士道があったのだろう」

「そうか? ただの馬鹿だと思うが…… まぁ、いい。時間がない、さっさとこいつを運ぶぞ」




 広場から少し離れた場所には異様に発達した木々が堂々と不規則にそびえ立ち、その中でも一際大きな大樹の上から彼と兵士の様子を一部始終を観察していた一人の女性の姿があった。見た目の年齢は十九、二十前後で可愛らしい顔立ちをしている。彼女は枝になっている手のひらより少し大きな林檎を掴み、林檎を手のひらで転がし感触を確かめ気怠げに溜息を吐き。「仕方ない、か」と独り言を洩らし立ち上がると同時にそよ風が吹き、彼女の色素の薄いピンク色の長い髪が揺れる、その姿は幻想的で妖艶な雰囲気が感じられる。木の幹を蹴り、前方に映る枝から枝へ華麗な動きで飛び移る。まさに閃光の様な速さで見る見る内に兵士達の上空に到達し、意識の無い彼を担ぎ運ぼうとしている一人の兵士の肩に着地と同時に兜ごとその兵士を蹴り飛ばす。突如顔面を強打された兵士の身体は数メートルほど飛ばされ宴の為に仮設されていた屋台に激突し激しい効果音と共に気絶した。

 唐突に現れた彼女と彼女の華奢な身体からはとても想像できない程の破壊力を目の当たりにした残りの兵士達はド肝を抜かれ、ただ唖然としていた。彼女はそんな兵士の事など全く気にした素振りもなく地面に降り立ち「着地成功」と独り言を洩らし、身体を伸ばしていた。

 突然の出来事に言葉を失くす兵士達だったが、その中でただ一人、彼だけは彼女の姿を確認するや何の躊躇いもなく彼女に向かいアタックをかけていた。


「好きです。結婚して下さい。ラズメリア様」


 両手を広げ突進してくる兵士を重心をずらし反転しギリギリで避け、その勢いで回し蹴りで吹っ飛ばしていた。その一連の動きには暴力的な感じはなく優雅に映り美しく感じられる。彼女に蹴り飛ばされた彼もまた数メートルほど飛ばされ違う仮設屋台に衝突し兜が外れ気絶していたが、その顔はとても満足そうな笑みを浮かべていた。


「……今の何? まあ、いいや」

「…………」


 残された三人の兵士は立て続けに起こる出来事に何が何だか分からずに呆然としていたが、一人の兵士が彼女に向けて武器を構える。

 彼は先の告白した兵士の言動、そして彼女の着ている格好、赤を基調とした十二人のみが着ることが許されるスベルニア騎士団隊長用の制服であり、胸元にはⅥの刺繍がされている事から彼女がスベルニア騎士団第六部隊隊長ラズメリア・ハーネットであり勝ち目がないと理解していた。だが彼には思うところがあり、リーダー格の兵士を庇う様に前に出る。


「我思う。ラズメリア・ハーネット隊長とお見受けした。相手にとって不足なし! 此処は我が引受けた。リーダーはどうか生きてくだされ」


 もう一人の兵士も彼の意図を察した様にリーダー格の兵士を庇う様に前に立ち前に立ち武器を構える。


「抜け駆けなしだぜ相棒。さっ、此処は俺達二人に任せてリーダーだけでも生きてザギル隊長に報告を頼みます」


 リーダー格の兵士は二人の兵士に感動し「うっうぅ」と兜の奥に隠れた瞳を潤ませ「任せろ、死ぬなよ」と残し泣きながら撤退して行った。


 ――しかしこの時、リーダー格の兵士は、二人の兵士には別の思惑がある事をまだ知らない。







此処まで読んで頂きありがとうございます。

これは私が過去に書いた「勇者を殺せし者」を元にほぼ全て書き直した感じです。

引き続き読んで頂ければ幸いです。

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