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とある王女の恋物語  作者: 藍田 恵
第一章 娘たちの出発(たびだち)
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9

 最初の休憩の場所となった湖のほとりで、6人はそれぞれ寛ぐ。

 ケイトとセレナは地図を広げて行程を確認し、ジェスは馬に湖の水を飲ませ、サラとエリーとマイリは花冠に使う花を探して水辺を歩いていた。

「湖のそばの花は私が摘むから、エリーとマイリは道に近い方から選んできて」

 サラがそう言うと、マイリははぁい、と答えてエリーの手を引いた。

 サラはその後ろ姿を見送った後、馬に水を飲ませながら優しくその首を撫でているジェスを見た。

 ジェスは本当に動物が好きだ。

 嬉しそうに馬を撫でるジェスを、サラは暫く見つめる。

 ケイトの栗色の髪に太陽の光が射して、セレナと同じ髪の色に見える。

 ケイトとジェスとマイリは父親似の栗色の髪で、セレナは母親と同じくやや明るい金のかかった鳶色とびいろの髪をしている。

 サラの髪の色は母の祖父と同じらしいが、サラが生まれた時に曾祖父はもう亡くなっていたので、サラは曾祖父がどんな人だったか知らない。ただ、この薄い金色の髪のお陰で曾祖父も村ではかなり目立っていたと母は言っていた。

 それはサラも同じだ。

 村中の好奇の目に晒されているようで、サラはそれが少し居心地悪かった。

 だから自然と、草原や森の中や木の上で寛ぐようになったのかもしれない。

 唯一、輝くような美しい金髪のエリーと一緒にいる時だけが、サラが人中ひとなかで落ち着いていられる時だった。

「サラ。綺麗な花は見つかった?」

 ジェスから声をかけられて、サラは我に返る。

「うん。綺麗な花も可愛い花もいっぱいあるわ。ここ、素敵な湖よね」

「そうね」

「その…ジェス?」

「どうしたの?」

 もじもじするサラに、ジェスは不思議そうに首を傾げた。

「あの…馬、なんだけど。私も乗れるようになるかな」

「大丈夫。なれるわよ」

 ジェスからそう言われると、本当にそう思えてくるから不思議だ。

「少しずつ、教えてくれる?」

「もちろんいいわよ。優しくすれば馬も応えてくれるわ。触ってみる? 大人しい子よ」

 サラはジェスに言われた通り、恐る恐る馬に触れる。

 馬は相変わらず、大人しく水を飲み続けている。

「…ね? 怖くないでしょう」

「うん」

「サラ。あなた、御者台に乗りたいんでしょう」

「どうして分かったの?」

 驚くサラに、ジェスは笑う。

「ケイトと、サラもマイリみたいにこっちに乗りたがるだろうね、って話してたの。私もケイトもちょっとだけ馬車にも乗りたいから、どのあたりで交代しようか、って今ケイトとセレナで話し合っているのよ」

「…なんだぁ」

「次の休憩場所でお昼にする予定だから、その後になると思うけど」

「うん。ありがとう、ジェス」

「それから、馬を繋ぐ場所を探していた時に、あっちの木の影にも花が咲いているのを見たわ」

「行ってみる」

 サラはそう言ってジェスが示した木に向かった。

 そして、その木の根元に咲く花を見て、サラは目を見張った。

 あの花冠に使われていた花のひとつだ。

 ということは、この近くに妖精が花を摘みに来るということで…。

「サラ! 見て見て、このキレイなお花」

 興奮して駆けて来るマイリの声に振り向くと、その後をエリーも小走りで駆けて来るところだった。

「すごいでしょう、サラ。道からは見えないがわの木の影に、たくさん咲いていたのよ」

 二人は摘んできた花をサラに見せる。

 エリーとマイリが摘んできた花もやはり、あの花冠に使われていた花だった。

「早く編んであげて、サラ」

 ケイトとサラ以外は花冠を見ていないから、誰もこれが花冠に使われていた花だと気付かない。

 あの美しい花冠と同じ花を使って、似ても似つかない平凡な冠を編むのは気後れしてしまう。

 だけどマイリと約束したし…妖精達も、こんなに幼い子が喜ぶのだから同じ花を使うことを許してくれるだろう。

 サラは二人が摘んできた花と、自分の見つけてきた花でマイリに花冠を編んだ。

「出来たわ。どうぞ、可愛い王女様」

「うわー…キレイ…」

「すごく素敵だわ、サラ。これならサラが見た花冠にも負けないわ」

 エリーが褒めてくれるのは嬉しいけれど、あの花冠とは比べ物にならない代物だと思うとサラの返答も歯切れが悪くなる。

「…それはどうかなぁ」

「見て見て、サラ、エリー! 蝶々さんが寄ってきたよ!」

 そんなサラの気持ちをよそに、マイリは大はしゃぎだ。

「ありがとう、サラ。ケイト達にも見せてくるね」

 急に走り出したマイリの花冠を追うように、蝶もついて行く。

「喜んでくれて、良かった。…エリーには腕輪を編んであげるわ」

「ありがとう。でもこの花、あまり見ない花よね。なんていう名前なのかしら」

「エリー。実はこれ、私が見つけた花冠に使われていたのと同じ花なの。だから、妖精達の特別な花なのかもしれないわ」

「まぁ」

 エリーは驚いてサラを見る。

「摘んでしまって良かったのかしら?」

「少し楽しむくらいならいいと思うわ。あの花冠、見つけてくれたかなぁ」

「では、見つけて下さったのはあなた方だったのですね」

 背後からの聞き慣れない声に、サラとエリーは驚いて振り向いた。

 二人が背にしていた木の幹から、ぽうっと浮き出てきた白い光が揺らめくと、程なくそれは人の姿となった。

 まだ少女のような妖精は、その頭にサラが見つけた花冠を冠っている。

 突然の妖精の出現に驚いて口も聞けない二人を見て、妖精はにっこり笑った。

「わたくしの名はフローラと申します。春の花祭りの準備で急いでいた所、大切な花冠を落としてしまいました。人の行き来が多い場所ではわたくしの力はそう強くないので、なかなか見つけることが出来ずに困っておりましたが、この木が…」

 そう言って、フローラと名乗った妖精はすぐそばの木の幹に触れる。

「仲間の枝に、花冠が掛けてあると教えてくれたのです。本当に助かりました。この花冠はこの一帯の花の精霊達が一生懸命作ってくれたもの。あなたが今、あの小さな女の子に編んであげたように、心を込めて作ってくれたものだったのです。そして花祭りには欠かせない大切な王冠です。見つけて下さって、人の手に渡さないでいて下さって、本当にありがとうございました」

「花…の精の、女王様?」

「わたくしはまだ王女です。ですが、女王ははの力を借りることが出来ます。是非、お礼をさせて下さい」

 生まれて初めて会った妖精からの突然の申し出に、サラとエリーは思わずお互いの顔を見合わせた。


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