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マイリに指示された通りに茎を長めにして花を摘み、花を潰さないようにこわごわと花冠を編むデラに、マイリは自分だけが知っている竜の話をする。
話の内容はデラも聞いたことがあるようなものだったが、舞台が隣国の谷であることや美しい騎士と姫の描写の細かさに、普通の昔話にはない不思議な臨場感が生まれていることにデラは気付いた。
きっと長が末娘可愛さに、末娘が大好きなサラとエリーの姿を物語に投影出来るように話を作り替えたのだろう。
王様の為に騎士が竜の巣に向かう話より、お姫様を救う為に赴く方が女の子にとって刺激的で楽しい話になることは想像に難くない。
しかし森の女王の娘であるサラさんが騎士とは。病気のお姫様が二人いる話にしても良かっただろうにそうならなかったということは、それほどサラさんが腕白だったのか。
思わず笑みが零れたデラは、慌てて真面目な顔を取り繕った。
「デラ、上手だね」
「そうですか?」
感心したようにデラの手元を見つめるマイリの頭に、デラは小さく編み上がった花冠を載せる。
「やはりサラさんのようにはいきませんね。これでも器用な方だという自負はあったのですが」
「サラは特別上手なんだよ。それにサラの編んだ花冠はね、なかなか枯れないの」
そんな理由もあったのか、とデラは感心する。
「そうなんですか。私が編んだ花冠はどれだけもつのかな」
「戴冠式までは大丈夫。エリーに見せられるといいなぁ」
その言葉ではっと気が付き、デラは改めてマイリに向き直った。
「その戴冠式なんですが、マイリ。私達は戴冠式前に狩猟小屋を出発することになりました」
「えっ。どこかに行っちゃうの?」
「はい」
驚くマイリにデラは頷く。
「お別れは私も辛いですが、マイリ達も戴冠式が終わったら村へ帰るでしょう? 私達の滞在もマイリ達と同じくらいの予定だったのですが、少し早まりました」
「父さんと母さんに会ってもらいたかったのに…」
残念そうなマイリに、デラは穏やかな微笑みを崩さない。
「私も会いたかったです。でもマイリや皆さんを見ていたら、どういう方達なのかは想像できますよ。きっと、素晴らしいご両親ですね」
「うん。父さんも母さんも、デラのことをきっと好きになってくれると思う。戴冠式が終わったら、村にも遊びに来て欲しかったのに…」
クレイ様が長の知り合いの息子だという作り話をしているから、マイリはそのまま我々が村を訪れると思っていたらしい。国王命令とはいえ我々の滞在は村長が知ったら業腹だろうから、村に招待される可能性は限りなく低いのだが。
「マイリが大きくなったら是非、ワイルダー公国に遊びに来て下さい。きっとクレイ様が招待して下さいますよ」
手放しで喜んでくれると思っていたのにマイリの何処か腑に落ちなさそうな表情を見て、デラはマイリの様子を伺う。
「マイリ?」
「マイリは…クレイもデラも、もう少しリブシャ王国にいるって思ってたの。だってエリーはまだ、王女様になっていないでしょう?」
「戴冠式はまだですが、エルマ様は既に王女様ですよ」
「エリーはおうかんのけいやく、がまだだって言ってたよ」
「王冠の契約?」
「それが終わらないと王女様になれないんだって」
「戴冠式の後に行われるんですか?」
「よく分かんない。でもエリーはそう言ってたの。だから本当の王女様になったら、みんなで一緒にお祝いしようね、って言ってたから…クレイやデラも一緒にお祝いするんだと思ってた」
「そうでしたか…」
クレイ様がワイルダー公国の王子であるということをマイリに内緒のままにしておくのは心苦しいが、あと数日でマイリにも分かることだ。
城で我々の姿を見て、マイリはどう思うだろうか。
「…そろそろ帰りましょう、マイリ」
その先の想像に不快さを感じたデラはその思いを振り払うように立ち上がると、マイリに手を差し出した。
「うん」
マイリは差し出された手を摑み、屈託無く笑った。
次に会った時もこんな感じで笑ってくれるだろうか、とデラはふと不安になった。
クレイの太刀筋を早い段階で見極めていたサラは、自分の攻撃が全く歯が立たないことに苛立ちを感じていた。
クレイもサラの太刀筋は見極めている。だから無駄な動きは一切なく、サラの攻撃を利用して非常に分かり易い、重い反撃を仕掛けてくる。
今まで力任せに剣を振る者の相手をしたことがなかっただけに、その応戦にサラは苦労した。
クレイの剣は正確で、かつ重かった。クレイの言う通り、贈られた剣で戦っていたら刃を折られていただろう。近隣諸国の中ではワイルダー公国で鍛えられた剣が一番良い物とされていたから、武器だけという点をとってもリブシャ王国は劣勢に置かれていることが素人であるサラにも良く分かった。
「サラ、頑張って!」
ジェスの声がサラの耳に届き、サラは気を取り直す。
クレイは宣誓した通り、「手加減して」分かり易い攻撃しかしてこない。しかし力の方を手加減するつもりはなさそうだ。
剣の力を殺ぐことさえ出来れば、またはその力を利用することが出来れば少しだが勝算がある。
父さんと練習した時のことを思い出そう。子供の頃はもっと圧倒的な力の差があった。それでも時々勝つことが出来たのだ。あの時のことを思い出せば、何か…。
そう考えたサラは、クレイに数年前の父の姿を重ねる。クレイと父は背格好からして似ても似つかないけれど、剣士としての気迫は同じだ。
練習風景を思い出すと同時に、サラは父によく言われていたことも思い出す。
練習だと思って油断している時が一番危ない、と。
そしてあの時は相手を父ではなく、倒さねばならない相手と仮定して戦っていたことも思い出した。
ここにいるのはクレイではなく、クレイに良く似た、倒さねばならない相手。
サラは自分にそう言い聞かせ、大きく深呼吸した。




