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とある王女の恋物語  作者: 藍田 恵
第一章 娘たちの出発(たびだち)
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地理と歴史の時間です。

 リブシャ王国は、穏やかな気候と豊かな自然の恵みを受けた美しい国だ。

 国の領土のほとんどは森で占められているので人間が暮らせる土地は決して広くはなかったが、森の恩恵と肥沃な土壌のお陰で食糧に困ることはない。

 概して国民の気性は穏やかで平和だった。

 近隣の国々から羨まれるほどの豊かさは、当然のように食糧や富に乏しい国に狙われる理由になる。

 だが国境が森や断崖絶壁という自然が作る好条件と、太古からリブシャ王国の王を敬う森の女王に守られて、民は幸せに暮らしていた。


 近隣の友好国であるワイルダー公国は、戦いに秀でた国だった。リブシャ王国からの要請があれば、穏やかな気性の民に代わって、侵略を狙う敵国の警備に当たることもある。

 しかし戦を繰り返してきた民の住む土地は、度重なる戦ですっかり荒れ、作物がほとんど育たなくなっていた。そのため、ワイルダー公国はリブシャ王国を守る代わりに、リブシャ王国の滋味溢れる作物を受け取っていた。


 森続きのワイルダー公国とは違い、リブシャ王国とは崖で遮られているハーヴィス王国は、ワイルダー公国と同様で痩せた土地に作物を作らなければならない国であったにも拘らず、リブシャ王国と友好を結ぶことを是としなかった。

 崖を隔てただけなのにこれほどの生活の落差を見せつけられ、いつしか隣国に対する憧れは長い時を経て憎悪に変わっていた。

 冬になると凍てついてしまう土地のせいで、春になっても植物はなかなか育たず、民は飢えに苦しむ。

 鉱山資源のお陰でワイルダー公国のように武力に頼らずとも富を築くことは出来たが、民の努力をもってしても、金貨を使って作物が実る土地へと変えていくことは困難だった。


 リブシャ王国の国王夫妻に皇女が生まれたことを知った両国が考えたことは、実は全く同じことであった。

 リブシャ王国では、男女に拘らず第一子が国を継ぐことになっている。

 王女が誕生したということは、国から王子を差し出すことを意味した。

 婚姻によって、ワイルダー公国は同盟を一層強固なものにしようとした。食糧援助はこの国にとって死活問題であったからだ。

 一方、ハーヴィス王国はリブシャ王国の土地と食糧を確保した上で、王女を我が国の思いのままに操ろうと目論んだ。今までずっと目障りだったワイルダー公国と、リブシャ王国との国交を断ち切る絶好の機会でもある。


 それぞれの王に命じられて王女の求婚に訪れた名代は、しかし王女に会うことは叶わなかった。

「せっかくの来訪だが、姫は成人するまで誰にも会わせない。よって、どのような約束事も今は無理だ。話があるのなら、成人した姫の戴冠式で聞くとしよう」

「しかし王よ…。我々は自国の王に何と伝えれば良いのか」

 名代たちは必死になって王に食い下がった。

「我が国の占星術師が、幼い姫を誰にも引き合わせてはならぬと告げたのだ。この国の占星術師の発言は絶対だ。それが解らぬ王達ではあるまい」

 リブシャ国王は高らかにそう宣言した。食糧を制することが出来る故に絶対的な権力を持つ王の宣言に、隣国の使者はおとなしく従うしかなかった。


 報告を受けた王達は、それならば、と姫の戴冠式に向けて準備を始めることにした。

 リブシャ国王の次の世継ぎに期待をかけても良かったが、ただでさえ側室を持たない王と、なかなか子を授からなかった王妃の第二子が女の子である保証はどこにもない。

 王子の誕生など、差し出せる余分な王女などいない両国には何の意味も持たなかった。

とりあえず、これで説明はひと段落のハズ…。

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