↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある王女の恋物語  作者: 藍田 恵
第二章 王都にて
22/111

9

「ご馳走様でした! こんなに美味しい料理は初めてです!」

 やや不機嫌な様子で帰宅したデラが、食事を終えると見違えるように上機嫌になっていた。

 王子の従者なのにいきなり蚊帳の外に出されたのが相当ショックだったのだろう。また、入れ違いでエルマ王女と会えなかったのもその衝撃に拍車をかけたらしい。

 しかし香ばしく焼けたパンの匂いに激しい空腹を覚えたのか、デラは不機嫌でいるのもそこそこに食卓に着くと、息つく間もなく夕食を平らげた。

 本来ならデラを注意する立場である王子も、シチューを一口食べ始めてから、その後無言で食べ続けている。

「お代わりはいかが? デラ。たくさん食べてね」

「えっ…いいんですか?」

「もちろんよ。たくさん作ったから、遠慮せずに食べて。クレイもどう?」

「あっ…はい」

 デラほどではないにしても、クレイも遠慮していたのだろう。二人とも素直にセレナに皿を出した。

「今日はサラが手伝ってくれたのね。助かったわ」

 久々にマイリの相手をして疲れたらしいケイトが、サラに尊敬と感謝の目を向ける。

「今日はシチューなんだね、サラ」

 当のマイリも空になった小さめの皿を差し出して、セレナに渡した。

「そうよ。あと、ジェスがパンに香草を入れてくれたの。シチューに合うでしょう?」

「うん。美味しいよ!」

「私、サラが作るお肉料理って好き」

 ケイトも美味しそうにシチューを食べる。

「このシチュー、サラさんが作られたんですか?」

「作ったのはセレナよ」

「あら。でも味付けはサラでしょ」

 そう言ったセレナから渡された皿を受け取って、クレイもデラも感心したようにサラを見た。

「…このくらいならエリーだって作れるわよ」

「エルマ王女も料理を? それにしてもこれは美味しいよ、サラ」

 クレイにそう言われて、サラは慌てる。

「だから作ったのはセレナだって…」

 照れるサラを面白がって、セレナが笑う。

「もともとはサラが作るお肉料理をシチュー用にちょっと変えたものなのよ。美味しいでしょう?」

「はい」

 クレイもデラもセレナに同意してサラに微笑んだ。

「長の奥方は凄いですね。みなさん料理上手だ」

「…マイリだってもうすぐ作れるようになるもん」

 クレイの言葉に、ぷぅ、と膨れてしまったマイリに一同は笑う。

「まだナイフを持たせるわけにはいかないから、お菓子から作らせようかしら」

 ケイトはそう言ってジェスを見た。

「いいわよ。また木苺のパイを作るから、手伝ってくれる? マイリ」

「うん! じゃあサラ、明日木苺採りに行こ!」

 目をキラキラさせてサラを誘うマイリに、サラも思わず笑顔になった。

「ええ。私からも誘おうと思っていたのよ。エリーがジェスのパイをお城に持って帰りたいって言うから、たくさん採りましょうね」

「やったー! デラも一緒に行かない?」

「お…クレイ様、いいですか?」

 おずおずと尋ねるデラに、クレイは微笑む。

「いいよ。楽しんでおいで。サラ、デラをよろしく」

「いいわ」

 あっさり許可したクレイにもやもやしたものを感じながら、サラはぎごちない笑顔を作った。


 翌日分も見込んで作ったシチューは皆がお代わりしたせいで殆ど残らなかった。

「ああもう、お腹いっぱい」

「みんな、お客様につられて食べ過ぎよ」

 呻きながら食器を片付けるセレナにケイトは苦笑いする。

「やっぱり、お城で準備してもらう材料が良いからかしら。作り方は同じでも、美味しさが全然違うわ」

「そうかもね。大勢で食事しているっていうのもあると思うけど。…ところで今日、クレイとエリーはどんな感じだった?」

 台所に二人きりになってやっと、ケイトはセレナに尋ねた。

「クレイはエリーを散歩に誘ったから、どんな話をしたかは分からないけど…。でも、仲良く帰ってきたわよ。良い感じだったと思うわ」

「エリーはいい子だものね。まず嫌う男性はいないでしょう。で、サラはどうしてた?」

「美味しい料理を作るのに協力的だったわよ。少しむくれてたけど」

「それは仕方ないわね。いずれ慣れなくてはならないことだし。今はジェスが慰めてくれているみたい」

「…あのね、ケイト」

「何?」

 食器を片付け終えて一息つくために食堂の椅子に座ったセレナの隣に、ケイトも座る。

「私、この席に座ってサラとクレイを見てるじゃない?」

「そうね」

「最初、二人が並んだ時に何て言うか…しっくりくるな、と思ったのよね」

「何が?」

「お似合いだなって思ったのよ。ほら、髪の色とか瞳の色とか背丈とか」

 月光のような柔らかな色の金髪にはしばみ色の瞳のサラと、亜麻色の髪にとび色の瞳のクレイの姿を思い浮かべて頷きそうになったケイトは、はっとすると慌てて首を横に振った。

「何を言っているの、セレナ。クレイは王子なのよ」

「だからぁ」

 セレナは頬杖をついて空いた方の手でテーブルの上をとんとん叩く。

「サラはクレイを敵視しているところがあるけど、クレイがサラを見る目って、なんだか柔らかいと思わない?」

 それはケイトも気になっていたところだ。

「エリーの姉妹として気に入っているだけなら別にいいのよ。だから、クレイがエリーに会った後はサラに対する態度は徐々に変わってくるんだろうなー、と思っていたわ。でもクレイったら、サラに対する態度が全然変わらないの。今夜なんか、サラの新しい一面を知って嬉しそうに料理を絶賛したりして。私、しまったと思ったわ」

「セレナ…」

 ケイトはそれ以上の言葉が続かない。

「幸い、マイリが空気を変えてくれたから良かったものの…。今夜はマイリに色々救われたわ。あの子、デラだけ木苺狩りに誘ったでしょ。どうやらクレイをサラに近付けさせない気よ」

「まさか」

「マイリがフローラから授かった能力のこと、忘れたの?」

「覚えてるけど、まさかそこまで」

「意図的に、ではなく無意識でやっているとしたら?」

「……」

 ケイトは言葉を失う。マイリはエリーもサラも大好きだ。もしかしたらマイリは、サラを傷付けない為に…。いや、そう考えるのはまだ早い。第一、サラの気持ちを…。

 そう考えて、ケイトはふと思う。

 サラの気持ちは、どうなんだろう。

 クレイが自分に向ける眼差しに気付いているのだろうか?


ケイト達は頼めば馬車を手配してもらえます。

そうでなくても王城まで歩くことは大して苦ではありません。

今回はどうやら徒歩で往復したっぽいです。

エリーは勿論、従者(護衛)付きのお忍びの馬車で往復しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。