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とある王女の恋物語  作者: 藍田 恵
第二章 王都にて
19/111

6

台所は女の城。


 お茶会が終わった後、食器を片付けながらケイトはふうっと溜息をついた。

「思わぬ伏兵がいたわね。これがエリーに対する評価にどうか影響しませんように」

 と、セレナはケイトの心の中を読んだかのように言う。

「まさかクレイはサラのイメージでエリーを見たりしないわよね」

 庭でマイリと昨日の遊びの続きをしているらしいサラを食堂の窓から見て、セレナはにやにやと笑った。

「その可能性の方が高いと思うわ。でも、別にいいじゃない。本物のエリーがここに来るんだから。全く違うってすぐに分かるわよ」

「やっぱりマイリにも婚約者だって言っておけば良かったのに」

 そう言ったのはジェスだ。パイ生地の残りを明日の軽食用に丁寧に纏めている。

「さっきの話だって、父さんの友人の息子に話すんだとしたら特に問題ない内容よね」

「大ありよ。どちらにしても成人した女性が自慢出来る類いの話じゃないわ。普通の女性は木登りなんてしないし、剣術も習ったりしない。それに、マイリに話してしまうとあの通りすぐに喋ってしまうからエリーにクレイの正体を隠し通せなくなるわ」

「それはそうだけど。それにしてもマイリってよく見ているわよね。で、サラってどうして剣の稽古を途中でやめちゃったの?」

「あー…。それは…」

 セレナは言いにくそうな表情になってケイトを見た。

「ケイト、言っても?」

「ここならいいんじゃない? 父さんいないし」

「どうしたの?」

 ジェスは興味津々で二人を見る。

「サラが上達しすぎて、稽古をつける相手がいなくなっちゃったの」

「え」

 ジェスは驚いてセレナを見た。

「父さんが面白半分で教えてたんだけど、笑い話じゃ済まないくらいにサラの腕が上がっちゃって。途中から、父さんすら押され気味になってたみたいなの」

「だって父さん、剣術は村で一番でしょう?」

「ええ。だから村ではもう教えられる人はいないから、もっと上達したいんだったら王都に行くしかなくなったの。母さんの親戚に頼めば師匠せんせいくらい紹介してもらえるんだけど、男の子ならともかく、女の子に剣を本格的に習わせるのもちょっと…って話になって、結局やめちゃったの」

「それでサラは自分が騎士だって精霊に言ったのね」

「そうよ。もともと剣は、エリーを守りたくて始めたことだし」

「どういうこと?」

 セレナとジェスはケイトを見る。

「あの二人、男の子のみならず女の子にも人気があったけど、そのせいでエリーに妬く女の子が多かったのよね。男の子はエリーに振り向いて貰いたくて色々構うし、女の子はそのせいで妬むしで…エリーはあの通りほんわかしているから深刻に受け止めることはなかったようだけど、サラはだいぶ気にしていたわ。もっとも、サラに憧れている女の子達の嫌がらせが一番陰湿だったみたいだから、サラが責任感じるのは仕方ないかもしれないけど」

「うわー怖い…。確かに、女の子の間でサラの人気って凄かったものね」

 セレナは軽く身震いする。

「そうなの?」

 ケイトの問いにジェスは頷く。

「成人式の日、正装姿のサラを見たい女の子達で神殿近くに人だかりが出来てたらしいもの。でも剣はいくら何でもやりすぎじゃない?」

「相手を追い払う程度のやり方を教えるだけで良かったのにね。父さんも息子がいたら剣術を教えようと思っていたみたいだから、ついサラに教えちゃったって感じかな。まぁ、ある程度の抑止力にはなるわよね。だけど、サラに手加減なしで負けた時は、相当落ち込んでいたそうよ」

「ケイト。私、その話知らないわ」

「この話は母さんから口止めされてたから」

 少し不満そうなセレナを宥めるケイトを見ながら少し考えるような表情になったジェスは、セレナが「まぁいいけど」と言った後にケイトに言う。

「…じゃあ、サラが本気になれば本当の騎士になるのも夢ではないかもね。フローラから授かった力もあることだし」

「そうかもしれないけど母さんが許さないわよ。サラも成人したから少しは女性らしく行儀見習いをしなくちゃ」

「いっそのこと、サラもエリーと一緒にお城で色々習わせてもらえればいいのになぁ」

 セレナの台詞に、食堂にいた3人全員が頷いた。


 部屋に戻ったクレイとデラは、お茶会のもてなしに満足して上機嫌になっていた。

「…しかし王子。王女は一体、どんな女性なんでしょう?」

 マイリが話した内容に一抹の不安を感じているデラが、ついにクレイに尋ねる。

「それを知る為にここに滞在しているんだ。明日には王女がここに来るだろうとケイトが言っていた」

「あのサラさんと仲が良かったってことは…って王子、何を?」

 荷物の中から剣を一振り取り出したクレイに、デラはぎょっとする。剣を抜き、やいばを眺める王子の目は真剣そのものだった。

「いくらこの国が平和だからって、武器も持たずに若い女性だけで旅をし、森の中で暮らしているなんて信じられない。不用心にも程がある。せめて護身用に、サラに剣を持たせようと思うんだ」

「それは私も賛成ですが…。ただ、この小屋は森の女王の庇護下ですから、流血沙汰は起こさない方がいいと思います」

「今はそういう事態ではないことを、お前だって知っているだろう。ここ数日の間に、森の勢力が変わるかもしれないんだ。何かあってからでは遅い。…この剣は重すぎるな。デラ、お前の練習用の剣があっただろう?」

「あれはがぼろぼろです」

「…では、間諜から軽めの剣を手に入れろ。王女がここに来ている間なら、城の中はいくらか動き易くなっている筈だ」

「分かりました」

「それから僕が王女やサラと話している時は、あのマイリという娘の相手をしてやってほしい」

「ですが、あんなに幼い子」

「デラ、お前は城の騎士になりたいんだろう。兄上達がもし女の子を授かったら、その子を守り、世話をすることがお前の役目になる。今から年下の女性に慣れておいて困ることはないさ」

 女性と言うより子供なのだが。

 デラはそう思ったが、口にはしなかった。

「…はい」

 窓の外の笑い声に二人はふと目をやる。

 くだんのサラとマイリが遊んでいる姿が見える。

「楽しそうだな」

 微笑んだ王子を見て、デラの心にはまた別の一抹の不安が沸き上がった。


サラとマイリは鬼ごっこのような遊びをしています。

だから遊びに参加しているエリーも、二人に鍛えられて相当な体力があると思われます。

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