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とある王女の恋物語  作者: 藍田 恵
第二章 王都にて
18/111

5

 クレイとデラがセレナに案内されて食堂に着くと、セレナ以外の娘達全員が着席していた。

 長の娘達はみな美しく、華やかな空気で溢れている。

 こうして見ると、なかなか壮観だ。

 普段から若い女性に接する機会が皆無に近い二人は、女性だらけの光景に圧倒された。

「…後宮というのは、こういう雰囲気なのかな」

「クレイ様。不謹慎すぎます」

 小さく呟いたクレイの言葉をしっかりと聞き取っていたデラは、主を小声で諌めた。

「クレイはこっち。デラはこっちね」

 マイリにそれぞれの椅子を引かれて、男性二人はテーブルの端の席に向かい合わせのようにして座る。

 クレイの隣はサラ、デラの隣はマイリだった。

「サラ。気分はどうだい?」

「もう平気よ」

 極力クレイの目を見ないようにしてサラは事務的に答える。

「それは良かった」

「良かったですね」

 クレイとデラにそれぞれそう言われ、サラは二人が心配してくれていたことに驚いた。

 そういえば自分の事でいっぱいいっぱいで、みんなが心配することなんか考えもしなかった。

 余計な心配をかけてしまった。

「…ありがとう」

 半ば仮病だっただけに、サラはなんだか悪いことをしてしまったような気分になった。

「あら」

 斜め向かいに座ったセレナが驚いてサラを見る。

「どうしたの?」

「いえ、ううん。何でもない」

「変なの、セレナ」

 反対側の隣に座るジェスから切り分けられたパイの皿を受け取って、サラはそれをクレイに渡す。

「ジェスの作ったパイは、村でも一番って言われているのよ。どうぞ」

「ありがとう」

 一人一人のカップにお茶を注いでくれたケイトにも同じように礼を言って、クレイはパイを一口食べた。

「…どう?」

 固唾を飲んで見詰めていたジェスが、緊張に耐えられずクレイに訊く。

「これは…本当に美味い。デラ、食べてみろ」

「はい。…あ、本当だ。ジェスさん、一人でこれを?」

「ええ。二人のお口に合って良かったわ。作ったのは私だけど、木苺はサラがいつも食べ頃のものを摘んできてくれるのよ」

「この木苺って、我が国では高級品なんですよねぇ。贅沢ですね、クレイ様」

「そうだな」

「そうなの? 森にたくさんあるのに」

 サラは不思議そうに客人を見る。

「ああ。この国は豊かで本当に羨ましいよ。僕の国も美しいと思っていたけれど、この国の美しさは別格だ。緑が豊かで、空気も水も綺麗だ。君達が普通だと思っていることが、どんなに素晴らしいことなのか…多分、他の国に行ってみないと、その素晴らしさは分からないと思う」

「私達、ここに来るまでは村から一歩も出たことがなかったの。だから、王都ここのきらびやかさに驚いているんだけど…私はやっぱり森の美しさの方が好きだわ。村を出たり、よその国に行ってみたいという気持ちもないの。ケイトや他のみんなはそうでもないみたいだけど」

「サラは森に入り浸りだものね」

 ジェスは苦笑する。

「私達はもう少しお城に滞在させてもらってもいいかな、と思っていたけどサラが落ち着かなくて。それに、サラがお城にずっといたらエリーも新しい環境に馴染むのに時間がかかるだろうから、という判断でこちらにすぐに移ったのよ」

「私のせいだったの?」

「そうよ。あとはエリーの為」

「お二人は仲が良いんですね」

 デラが感心したように言う。

「エリーとサラは双子みたいに育ったのよ」

 セレナがそう言うと、ケイトやジェスも懐かしそうに頷いた。

「可愛かったなぁ。子犬みたいにいつもじゃれ合ってて」

「よしてよ、ケイト」

「あら。いいじゃない。本当のことだもの」

 心なしか赤くなったサラを見て、クレイはぷっと笑った。

「昔の話よ。もう成人しているんだから。私はともかく、エリーは立派なお姫様なんだから」

「エリーのことが自慢なんだね」

「そうよ」

 サラは照れ隠しにパイをもぐもぐ食べ、お茶を飲んだ。そんなサラを楽しそうに眺めているクレイに、マイリは身を乗り出して尋ねた。

「ねぇ、クレイ」

「何だい、マイリ」

「マイリ、他の国にも行ってみたい。ワイルダー公国ってどんなところ?」

「この国ほど自然が豊かではないけど、いい国だよ。君達が僕の国に来てくれた時は案内するよ」

「いいの?」

 マイリは目を輝かせるとケイトを見た。

「ケイト、行ってもいい?」

「父さんがいいって言ったらね」

「やったあ!」

 長に反対されるであろうことを、これっぽっちも考えていないマイリに一同は苦笑する。

 ケイトはやれやれ、と溜息を吐くと、クレイとデラに質問した。

「ワイルダー公国の人達って傭兵のイメージがこちらでは強いんだけど、やっぱりみんな武芸に秀でているの?」

 クレイはデラをちらりと見る。デラはその意味に気付いて、クレイの代わりに答えた。

「そうですね。荒くれ者が多いですから、武芸、とまでは言えないでしょうが」

「デラは騎士を目指しているんでしょう?」

「そうです。王…いえ、主君に仕えていずれは立派な騎士になりたいと」

「ねえねえ、騎士ってお姫様を守る人でしょう?」

 ケイトとデラの会話に突然マイリが割って入る。

「…まあ、そういう場合もありますが」

「サラも騎士なんだよ! エリーの運命を切り開いたの」

「え」

 デラとクレイは驚いてサラを見た。

 目の前のたおやかな女性と騎士のイメージがまるで重ならないからだ。

「マイリ、ちょっと意味が違うわ」

「どうして? セレナ見てたんでしょう。マイリは見てないけど、サラは戦ったんだよね!」

「えーと、それは…。騎士っていうのは本来、力の強さで戦うものなの。剣や槍を使ってね。普通、女の人は戦ったりしないでしょう?」

「えー…でも、サラは父さんから剣を習ってたよね」

「そうなんですか? サラさん」

 デラはますます驚いてサラを見た。

「えーと…ほんのちょっとだけ」

「そういえばそんなこともあったわね。よく覚えていたわね、マイリ」

 ケイトが感心してそう言うと、マイリは嬉しそうに胸を張った。

「だって、マイリはサラみたいになりたいんだもん。木登りだって上手くなりたいし…」

「マイリ」

 慌てたセレナに口を塞がれ、マイリはセレナの掌の中でもぐもぐと喋った。

「今、木登りって言いました?」

 不審そうにサラを見るデラと、可笑しくてたまらないといった表情で笑いを噛み殺しているクレイを見て、成人している娘達全員はがっくりと項垂れた。

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