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とある王女の恋物語  作者: 藍田 恵
第二章 王都にて
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4

「サラ。気分はどう? もし良くなってたら、一緒にお茶にしましょう」

 サラがベッドで横になっていると、ジェスがサラを呼びに来た。

 サラとジェスは一緒の部屋で寝ている。ジェスは自分のベッドの上に座ると、体調が悪いと言うよりは不貞腐れているだけのような様子のサラを見た。

「…セレナから聞いた? 王子様がエリーの婚約者だってこと」

「うん」

「複雑でしょうけど、エリーの為には良い話だと思うの。良さそうな人だし」

「…そうね。王子って、ジェスと同い年なのよね」

「そうみたいね。あ、そう言えばここに滞在している間、クレイ王子のことは呼び捨てにするようにってデラから頼まれたわ」

「どうして」

「一応お忍びだし、自国の出身の傭兵に見つかるのもまずいらしいの。はっきり言われた訳ではないけれど、お国の事情があるみたい」

「ふうん」

 サラはそう言うと、体をごろりと反転させてジェスを見る。

「エリーが誰かと婚約することは別に構わないけど…。ただ」

「ただ?」

「エリーは相手を選ぶことも出来ないのね」

「選ぶことは出来るんじゃない? エリーはこの国を出ることはないんだから。候補は王子様に限られているかもしれないけど」

「そっか…。でも、そんな大事なことを私達の方が先に知って、騙すように隠すのは嫌だなぁ。エリーにとって、とても大切なことなのに」

「…そうね。それからマイリにも気付かれないようにしなきゃね。あの子、新しいお客様に興味津々だから、しばらく私達のことは放って置いてくれそうだけど」

「あの男の子…デラって言ったっけ。いくつくらい?」

「12歳ですって。今は騎士になる為に修行中。だからかしら。とてもしっかりしていて、礼儀正しいわ」

「村には騎士になる男の子なんていないものね。じゃあ、王子様も騎士ってことになってるの?」

「大きな怪我をして、もう殆ど治ったんだけどまだ療養中ってことにしようって、ケイトが」

「よく思いつくわね、そんなこと。父さんがどうやって騎士と知り合うのよ」

「隣国の知り合いの息子が騎士になったってことにするそうよ。で、娘ばかりで不用心だから、療養を兼ねて用心棒代わりに滞在してもらうことにしたってことで」

「療養中なのに用心棒?」

 サラは可笑しくなってふふっと笑う。

「エリーが不審に思わなければいいけど。でも仕方ないからそういうことにしておくわ」

 ジェスもサラにつられて笑う。

「どう? 少しは気分、良くなった?」

「うん」

「じゃあ行きましょ。それにしても、あなたが王子様に抱えられて入って来た時はびっくりしたわ。本当に真っ青な顔をしていたから。でもああいう時、男の人がいてくれると助かるなぁ、って思っちゃった」

 ジェスはそう言って立ち上がる。

「ええ、まぁ…そうね」

 のろのろと起き上がったサラは、湖での出来事はしばらく誰にも言わないでおこう、と心に決めた。


 自分達にてがわれた部屋で荷を解き、一息つくと、クレイの頭の中には今朝の光景が鮮やかに甦ってきた。

 思い出したのはサラが人魚のように泳いでいる姿でもなく、一糸纏わず湖から出てきた姿でもなく、楽しそうに歌いながら服を着ている姿でもない。

 自分の頬を叩く直前の、怒りに燃えるはしばみ色の瞳だ。

 あんなに綺麗な色の瞳を初めて見た。

「王子、どうしたんです? ニヤニヤして」

 デラにそう言われて、無意識に左頬を押さえていたクレイは笑った。

「いや。まさか湖で見た娘にここで会うとは思ってもみなくてね」

「確かに綺麗な娘さんでしたね。ご気分が悪かったようですが、もう良くなられたんでしょうか」

「どうかな。熱はないようだったが」

 そう言って、サラを抱き上げた時の感触を思い出す。軽かったが、間違いなく人間の女性の重みだった。

 抱き上げたら消えてしまうのではないかという不安も、サラの体温や幽かに薫る花の香りに温かく溶かされた。

 彼女は人間だ。

 考えたら当たり前のことなのに、その当たり前が王子には嬉しかった。

「それにしても、みなさん親切そうな方で良かったですね。王女とのことにも協力的です。王子は長の知人の息子ということになっているそうなので、王女とマイリさんの前では話を合わせてほしいとケイトさんに頼まれました」

「分かった。だからお前も、僕をうっかり王子と呼ばないように気を付けてくれ」

「はい。王…クレイ様」

「その調子だ、デラ」

 クレイがそう言った時、ノックが聞こえた。

「はい」

 デラが扉を開けると、セレナがいた。

「お茶はどう? ジェスが二人のために特製のパイを焼いたの。サラの気分も良くなったみたいだから、皆でいただきましょう」

「お招きありがとうございます。王…いえ、クレイ様。行かれますよね?」

「勿論。いい匂いがしてきたから、お誘いいただくのを今か今かと待っていました」

 少し芝居がかったクレイの態度にセレナはくすくす笑う。

「では、お二人を食堂まで案内しますわ」

 セレナも芝居口調でそう言うと、二人を食堂に案内した。


狩猟小屋の部屋割りが謎になってきました…。

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