13
長の娘達が驚いたことに、エリーの迎えは従者だけではなく国王夫妻も一緒だった。
エリーの出迎えが遅くなった理由は、王妃がどうしても自分も迎えに行くと言ってきかなかったからだった。
生まれてすぐに離れ離れになってしまった娘と、16年の時を経てやっと会える。
早馬の知らせを聞いた王妃は居ても立ってもいられなくなり、王に嘆願した。
最初、王は王妃の希望を退けた。
王妃が出向くとなると厳重な警備が必要となり、ここまで極秘で隠してきた王女にどんな影響が出てくるか分からなかったからだ。
「ならば王も一緒に来て下さい。一刻も早く姫に会いたいのです。この地に到着した姫を、わたくしたちが一番に出迎えないでどうするのですか」
王妃のその言葉で王は落ちた。もともと姫を迎える準備で城内は浮き足立ち、政に手がつく筈もない。それに、最愛の王妃を単独で出掛けさせるなど論外だ。
しかし王も城の外へ出るとなると、それはそれで大事となった。
警備は倍に増やされ、馬車もお忍び用ではなく、通常の豪華なものに変えられた。
城下の者達はこんな時期に何の御用なのだろうかと国王の馬車を見送ることとなった。
先程までの騒ぎを知らない国王夫妻は、馬車から降りるとすぐにエリーの姿を認めた。
長の娘達の中にいても見間違えることのない、エリーの輝く金髪は王妃譲りのものだった。
「…王妃よ。我々の姫は、なんと美しく育ったことであろう」
夫妻は感激のあまり溜息をつく。
「森の女王様から、時々姫の姿を写し鏡で見せてもらっていましたが…。こうして実際に会うと、なんて美しい姫なんでしょう」
二人は、驚いて自分達を見つめているエリーに近付く。
「エルマ」
自分と同じ色の瞳を持つ国王に呼ばれて、エリーは慌ててお辞儀をした。
「は、はい…。初めまして、陛下」
「陛下だと? 余を父と呼んでくれぬのか、姫よ」
憮然としてしまった王を王妃は宥める。
「王。姫は今、初めてわたくしたちの顔を見たのです。昨日までは長が姫の両親だったのです。仕方のないことですわ」
そう言った王妃は菫色の瞳に喜びの涙を湛えている。
「エルマ。わたくしが貴方の母です。やっと…やっと、会えましたね」
美しい王妃にふわりと抱き締められて、エリーに懐かしい匂いの記憶が甦った。
この優しい感覚を、私は憶えている。
「お母様…」
エリーも王妃を抱き返す。
「エルマ。もう離しません…」
感動の母娘の再会に、周りにいた者すべてが涙していた。
マイリがそっとセレナのドレスの裾を摑み、それに気付いたセレナは屈んで優しくマイリを抱き締める。
「エリー…良かったね」
「そうね。マイリも、母さんに会いたくなっちゃった?」
「セレナも?」
「ええ。私も、ケイトもジェスもサラも。会いたいわね」
「うん…」
そんなマイリとセレナを、他の娘達は微笑ましく見つめた。
「長の娘達よ、ご苦労であった」
王妃がいつまでもエリーを離そうとしないことに根負けして、王はケイト達に向かってそう言った。
「今宵は城に招待したい。その間、この小屋に必要なものを運ばせておく。急に姫を迎えに行くことになったので、小屋の準備に手が回らなかったようなのだ。戴冠式まで一月の間、滞在中に不便なことがあれば何なりと申し付けるが良い」
「ありがとうございます、王様」
代表してケイトがお辞儀をする。
「其方の名は?」
「長の第一の娘、ケイトです。こちらから年の順にセレナ、ジェス、サラ、マイリ。エルマ皇女とは村で姉妹として育ちました」
「…長には心から感謝しなくてはな。其方達と同様に、エルマを素晴らしい姫に育ててくれた」
「わたくしからもご両親へ感謝を伝えます。本当に、なんとお礼を言って良いか…」
「必ず父に伝えます。勿論母にも」
「あの…お父様…」
エリーが遠慮がちに話しかけると、国王は目を輝かせてエリーを見た。
「どうした、姫よ」
「ここに…みんなの所に、時々訪ねに来てもいいですか?」
「余は構わぬ。王妃はどうだ?」
「構いませんわ。この森の警備は妖精達のお陰で厳重ですし、エルマにはお城の生活に慣れるまで息抜きをする場所が必要です」
そう言いながらも王妃は、エリーをずっと抱き締めている。
「ありがとうございます。お父様、お母様…」
少し恥ずかしそうに、しかし嬉しそうにエリーはそう言って微笑んだ。
第一章の最終話です。
やっとエリーが王様・王妃様とご対面です。
最初はお城で再会の予定だったのですが、ここにきて、王妃様が勝手に動いてしまいました。
でも、この流れで良かったのかな、と今は思います。