武技辞典ー波天流ー
マジックルネッサンスに始まる大冒険時代、戦場では、長大な詠唱を行う際、無防備な魔砲士の護衛として槍兵がつくのが主流だった。やがて魔晶石起動式から回転起動式更に自動起動式の開発を経て、剣と魔法を兼ねた魔封剣が誕生し、魔剣術は生まれた。
傭兵も兼ねた冒険者一党や冒険団を通じて多くの流派が興った魔剣術だが、源流を辿れば、三大魔剣術に行き着くと言われる。
影流、天念流、神授流である。ここではその流れを汲む幾つかの流派の型や技について記すので、参考にしてもらいたい。なお、魔封剣犯罪の防止や咒猟免許の発行を担う剣邪庁では、彼らが派遣する同門の剣邪技官──〈試剣官〉管轄の下、その級を八つに統一して分けている。
・特級、指南免許
・一級、印可
・二級、免許
・三級、本目録
・四級、目録
・五級、初伝目録
・六級、切紙
・七級、門人(見習い)
波天流は、三大魔剣術の一角<影流>から心影流そして帯射流の流れを引く。
寄せては返す波のように、生体強化術式で寄せて、離れては投射魔術を放ち、体術と剣術と魔術を三位一体として、<波間>即ち間合いを支配する。
更に〈天〉の気──戦いのリズムを生む呼吸を波間と一体化し、戦いの流れ<潮>を支配することで、勝利を引き寄せる。究極的にはあらゆる攻撃を見気り、戦いの気先を制することで、戦わずに勝つ<凪>の境地に至るという。極意は氣先制動。
・打之型
・投之型
・破之型
・絶之型
という四つの型がある。型破りな破之型、肉体強化による打ち込み中心の打之型、投射魔術による投之型、超絶武技と言われる絶之型である。
□《波足》
種類:移動
レベル:切紙=六級
解説:波天流走法其之一。いわゆる抜き足。膝の力を抜く際、前方に倒れる力で、すっと前足を進める。滑る前足をなぞり、後ろ足を引き付け、交互に繰り返しながら、摺り足で進む。氣いわゆる生霊魔法を使わない純粋な技術である。大竜帝国軍隊式<竜刀技>では無蛇足と呼ばれる。
□《踏波》
種類:移動
レベル:切紙=六級
解説:走法其之二。丹田の霊源を起動すると、瞬間的に体を沈めながら、左足を垂直に踏み込む。大地の踏み込みによる接地いわゆる<震脚>を行い、接地した大地の反発力と地下霊気回路網〈地脈〉の霊気エネルギーが左足から右足に流れる。地脈霊気エネルギーを霊気推進力に変換し、高速移動する走法。長距離突進系剣技によく使われる。
□《波風》
種類:移動
レベル:初伝目録=五級
解説:走法其之三。周囲に念気圏を展開し、この念気圏で天地を循環するバイオプラズマの風を受け止め、高速推進する。
□《引き潮》
種類:構え
レベル:切紙=六級
解説:いわゆる霞上段の構え。左肩と左足を前に出し、右足を後ろへ引きつつ、両腕を振り上げ、頭の右後ろに持っていく。水平にした刃を顔近くで寝かせ、照準するように、切っ先を前方へ向け構える。
□《波聞》
種類:構え
レベル:目録=四級
解説:刀を鞘に収めたまま、霊気振動波<霊波>を同心円状に飛ばし、霊位拿網で対象の位置を特定しながら、居合いや居合いと同時に投射魔術を放つ<射合い>を仕掛ける構え。
□《波止め》
種類:構え
レベル:切紙=六級
解説:帯氣剣により武器強化を行い、頭部の上で水平にした刃の峰に左手を添えることで、敵の上段飛翔唐竹割りを受け止める技。
□《波隠れ》
種類:構え
レベル:切紙=六級
解説:ぐっと左肩と左足を前に突き出す。右足を引きながら、右手で握った刀を後ろへ引く。突き出した左半身で刀が隠れ、刀の長さ即ち間合いが読めない。いわゆる脇構え。
□《大潮》
種類:構え
レベル:門人=七級
解説:いわゆる上段の構え。刀を頭上高く掲げる。
□《中潮》
種類:構え
レベル:門人=七級
解説:いわゆる正眼の構え。足を少し開き、柄頭近くに左手の小指をかけ、薬指、中指と言う風に、順番に握りながら、鍔近くに右手をそっと添える。体の正中線──中心に沿って柄を雑巾を絞るように、握り締め、切っ先を相手の目辺りへ向けながら、左足の親指の付け根辺りに力を込め、左足を前に出す。
□《幽凪》
種類:構え
レベル:名人=一級
解説:金剛の構え、印の構えとも呼ばれる。近衛神授流では王冠戴天と呼ばれる。正面を向いた状態で合掌するように柄を握り、切っ先を正眼のように相手へ向けず、真っ直ぐ垂直に立てる構え。
□《波砕剣》
種類:攻撃
レベル:切紙=六級
解説:打之型一式。大潮の構え(上段)から、唐竹割りを繰り出す剣技。超剛筋及び氣動筋による筋力アシストや帯氣剣による武器強化により、その威力は岩をも両断し、一線を画す。基礎にして奥義と言われる。
□《細波》
種類:攻撃
レベル:切紙=六級
解説:波天流打之型二式。腕力による速度重視のコンパクトな突き。牽制や繋ぎの剣技に利用される。
□《高波》
種類:攻撃
レベル:切紙=六級
解説:打之型三式。氣鳴剣を起動後、大潮(上段)に構え、高速突進しながら、真っ正面から斬り降ろす突進剣技。
□《横波》
種類:攻撃
レベル:切紙=六級
解説:波天流打之型四式。足を揃えた状態から右足を引き、体が開くと左足と左肩が前に出た状態──半身になる。すかさず右足で地面を蹴り、重心が移った左足を軸足として、腰の回転力や踏み込んだ前進力を水平に円弧を描く刃に乗せる。すかさず手首を返し、中段水平斬りの二連撃を行う。
□《水薙鳥》
種類:攻撃
レベル:切紙=六級
解説:体を沈ませ、水面を滑空する水薙鳥のように、下段薙ぎ払いを放つ剣技。打之型五式。
□《渦巻斬》
種類:攻撃
レベル:切紙=六級
解説:三百六十度回転し、高速旋回斬りを放つ剣技。打之型六式。
□《突波》
種類:攻撃
レベル:切紙=六級
解説:打之型七式。<氣鳴剣>を起動後、引き潮の構え⇒震脚⇒踏波から諸手高速突進突きを放つ。突進系剣技。
□《大波》
種類:攻撃
レベル:切紙=六級
解説:打之型八式。氣鳴剣を起動しながら上空から飛翔垂直斬りを放つ剣技。
□《打波》
種類:攻撃
レベル:切紙=六級
解説:下段に構え、上段斬りを誘いながら、襲って来た刃をかち上げ、手首を返しながら、がら空きの首へ斬り降ろす剣技。打之型九式。
□《引き波》
種類:攻撃
レベル:初伝目録=五級
解説:鍔迫り合いから氣昇天結いわゆる軽氣功を発動させ、相手の押す力で後方へふわりと引きながら、斬撃を放つ。打之型十式。いわゆる引き技。
□《揚波蝶》
種類:攻撃
レベル:初伝目録=五級
解説:打之型十一式。Xを描くように、逆袈裟斬りの勢いで回転し、飛び上がりながら逆方向から高速飛翔袈裟斬りを放つ型。
□《水切刀》
種類:攻撃
レベル:初伝目録=五級
解説:体を沈め片手下段薙ぎ払い<水薙鳥>と見せかけて、遠心力で刃を低空飛行から迫り上がらせる。浮き上がる体に合わせ、突き上げるように、斜め下から逆袈裟斬に斬り上げ、すかさず両手で正面から斬り落とす剣技。遠心力で水面を石が跳ねる水切りに由来する。打之型十二式。
□《波刀返し》
種類:攻撃
レベル:初伝目録=五級
解説:袈裟斬りを放ち、これを躱した相手が切りかかって来た瞬間、手首を返して、下から逆袈裟に籠手を斬り上げる高速二連撃剣技。打之型十三式。
□《突波咬》
種類:攻撃
レベル:目録=四級
解説:波刀返しの派生剣技。袈裟斬りを放ち、すかさず逆袈裟に斬り上げながら、振り上げた両腕を頭の右後ろに持っていく。水平にした刃を顔近くで寝かせ、照準するように、切っ先を前方へ向ける<引き潮の構え>に移行し、とどめに突きを放つ三連撃剣技。打之型十四式。
□《波砕剣・浸刀》
種類:攻撃
レベル:目録=四級
解説:超人派の武僧兄弟団による有流闘羅流聖雲寺拳法やドラグント大竜帝国軍隊式総合格闘技<竜闘技>では、浸透勁と呼ばれる拳技の応用。浸撃により、過負荷の高圧霊流を刀に乗せて対象に通すことで、内部器官を損傷させ、霊気ショックを起こす。打之型十五式。
□《波砕剣・回切》
種類:攻撃
レベル:目録=四級
解説:波砕剣を放つ際、刀と刀がぶつかる直前にピタリと止め、刀の周りを迂回しながら、籠手を切る剣技。打之型十六式。
□《波砕剣・幽太刀》
種類:攻撃
レベル:免許=二級
解説:波砕剣を放つ際、身出氣没を発動し、敵の防御を透過しながら、当たる寸前で、身出氣没を切ることで敵を叩き斬る秘剣。
□《水切継刀》
種類:攻撃
レベル:目録=四級
解説:水切刀の派生剣技。片手下段薙ぎ払い<水薙鳥>と見せかけて、遠心力で斜め下から逆袈裟斬に斬り上げ、すかさず両手で正面から斬り落とす。その途中心臓辺りで刀をピタリと止め、止めに突きを放つ三連撃剣技。打之型十七式。
□《水切連刀》
種類:攻撃
レベル:本目録=三級
解説:水切刀の派生剣技。片手下段薙ぎ払い<水薙鳥>と見せかけて逆袈裟に斬り上げ、垂直に斬り落とした後、再び斬り上げ、斬り落とす四連撃剣技。打之型十八式。
□《揚波蝶・無限》
種類:攻撃
レベル:本目録=三級
解説:8を描くように、下段薙ぎ払い<水薙鳥>の勢いで回転しながら、倒れかかる相手を逆袈裟斬りに斬り上げ飛び上がる。そのまま空中で体を一回転し、落下しながら、袈裟斬りを放つ型。下から回転の勢いをつけた逆袈裟斬り上げと上から回転の勢いをつけた袈裟斬りで8を無限に描く。打之型十九式。
□《波揚刃》
種類:攻撃
レベル:目録=四級
解説:水切刀と揚波蝶の連結剣技。片手下段薙ぎ払い<水薙鳥>と見せかけて逆袈裟に斬り上げ、そのまま斬り落とさずに、斬り上げの勢いで回転しながら、逆方向から袈裟斬りを放つ二連撃の剣技。打之型二十式。
□《連波》
種類:攻撃
レベル:切紙=六級
解説:投之型一式。細波の昇華剣技。三点射の氣裂散弾を連続で放つ乱射撃魔剣技。牽制などによく利用される。
□《波浪剣》
種類:攻撃
レベル:切紙=六級
解説:投之型二式。波隠れの構えから、孤を描きながら、上段から斬撃と共に、氣爆を放つ魔剣技。
□《波閃》
種類:攻撃
レベル:初伝目録=五級
解説:投之型三式。抜き打ちで斬り上げた刃を即座に斬り下ろし、<飛氣斬>を連射する二連撃の射合い。
□《揚波蝶・翔斬》
種類:攻撃
レベル:目録=四級
解説:投之型四式。Xを描くように、逆袈裟斬りの勢いで回転し、逆方向から高速飛翔袈裟斬りを放つ際、同時に飛氣斬を放つことでXの斬撃を飛ばす。
□《水切暴刀》
種類:攻撃
レベル:初伝目録=五級
解説:投之型四式。水切刀の斬撃と同時に飛氣斬を放つ魔剣技。
□《大水薙鳥》
種類:攻撃
レベル:初伝目録=五級
解説:投之型五式。下段薙ぎ払い<水薙鳥>を放つ際、飛氣斬を放つ魔剣技。
□《波嵐》
種類:攻撃
レベル:目録=四級
解説:投之型六式。射合いの技。居合いと同時に、氣爆を放つ。
□《大突波》
種類:攻撃
レベル:本目録=三級
解説:投之型七式。突波咬の三連撃と同時に投射魔術を放つ魔剣技。袈裟斬りと同時に<飛氣斬>を放ち、手首を返し逆袈裟に斬り上げ、再び<飛氣斬>を二連撃で放つ。逆袈裟斬りで振り上げた両腕を頭の右後ろにして、<引き潮の構え>に移行し、諸手突きと同時に光爆嵐氣流を放つ。更に吹っ飛んだ相手目掛けて高速突進しながら止めに<突波>を放つ。
□《蹴月》
種類:攻撃
レベル:切紙=六級
解説:波天流打之型無式。後方へ体を倒し、回転しながら、その勢いで蹴りを放つ体術。いわゆる後方回転蹴り。
□《逆波》
種類:攻撃
レベル:初伝目録=五級
解説:破之型一式。<波刀返し>⇒<蹴月>⇒<高波>へと繋ぐ蹴技を交えた連結剣技。<波刀返し>の際、斬り上げた刀をすっぽ抜けたように、上空へ放り投げ、そのまま体を後ろに倒しながら、蹴月を放ち、着地後、幽撃手いわゆる念動力で引き寄せ、高速突進垂直斬り<高波>へと移行する。
□《鮫咬波》
種類:攻撃
レベル:初伝目録=五級
解説:破之型二式。飛び込み前転で、下から潜り込む<潜鮫>から浮き上がる鮫のように、抜き打ち様に逆袈裟斬りを放ち、すかさず斬り落とす。虚を衝いた初見殺しの居合い。
□《跳魚》
種類:攻撃
レベル:目録=四級
解説:破之型三式。片手下段薙ぎ払い<水薙鳥>と見せかけて、遠心力で斜め下から逆袈裟斬に斬り上げる。そのまますっぽ抜けたように、刀を空中へ放り投げる。斬り上げの勢いを利用して後ろ回し蹴りを放ち、更に双掌打で距離を取りながら、飛び上がる。空中の刀を幽撃手いわゆる念動力で引き寄せ、止めに飛翔垂直斬り<大波>を放つ連結剣技。
□《波条光撃・守》
種類:攻撃
レベル:免許=二級
解説:絶之型一式。打之型を中心に繋げた連結剣技の集大成。肉体を霊気抵抗が零で直流の霊気が流れ続ける状態即ち常温超氣導体化することで、霊念力の消費を抑え、神経回路を高速化する<神勁回路>を形成し、覚変モードで使用可能となる。<波揚刃>⇒<波刀返し>⇒<水切継刀>⇒<細波>⇒<横波>⇒<渦巻斬>⇒<大波>と連結する怒涛の十連撃。片手下段薙ぎ払いから逆袈裟に斬り上げ、斬り上げの勢いで回転しながら、逆方向から袈裟斬りを放つ。手首を返して、再び逆袈裟に斬り上げ、相手の頭上で切り返し、垂直斬りを放つ。その途中で、刃を止め、中段突きを放つ。繋ぎとしてもう一回突きながら、突いた刀を引く際、横に払い、中段水平斬りの二連撃を放つ。そのまま回転しながら、回転斬りへ移行。回転の遠心力を跳躍力に変換し、飛び上がり、飛翔垂直斬りを放つ。
□《波条光撃・破》
種類:攻撃
レベル:免許=二級
解説:絶之型二式。剣技に体術を織り交ぜた型破りな破之型を中心に連結させた超絶武技。覚変モードにより使用可能。鮫咬波⇒揚波蝶・無限⇒跳魚の九連撃剣技。飛び込み前転で、下から潜り込む<潜鮫>から逆袈裟斬りを放ち、斬り落とす。勢い良く体を沈めながら、下段薙ぎ払い<水薙鳥>を放ち、そのまま回転しながら、逆袈裟斬りに斬り上げ飛び上がる。空中で体を一回転し、落下しながら、袈裟斬りを放つ。再び片手下段薙ぎ払い<水薙鳥>と見せかけて、遠心力で斜め下から逆袈裟斬に斬り上げる。すっぽ抜けたように、刀を空中へ放り投げ、斬り上げの勢いを利用して後ろ回し蹴りを放つ。すかさず双掌打放ち、距離を取りながら、飛び上がり、空中の刀を幽撃手いわゆる念動力で引き寄せ、飛翔垂直斬り<大波>を放つ。
□《波条光撃・離》
種類:攻撃
レベル:免許=二級
解説:絶之型三式。剣技の斬撃と同時に魔術を放つ投之型を中心に連結させ、完成した連結剣技の集大成。覚変モードにより使用可能。抜き打ちで斬り上げた刃を即座に斬り下ろし、<飛氣斬>を連射後、逆袈裟斬りの勢いで回転し、逆方向から飛翔袈裟斬りを放つ。同時にXを描くように、飛氣斬を放った後、逆袈裟に斬り上げ、逆袈裟斬りで振り上げた両腕を頭の右後ろにして、<引き潮の構え>に移行。諸手突きと同時に三点射の氣裂散弾を連続で乱射しながら、止めに光爆嵐氣流を放つ。




