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白いコート

その日も、いつもと変わらず、少年は由菜が好きだった。


冬休みの一日目、その年初めての雪に、街中が騒がしかった。ホワイトクリスマスだ、と誰もが思った。少年は、騒がしい街の人混みを避けながら、足早に歩いていた。


早く、早く、早くーーー。


高校生になってから2度目のクリスマスだ。去年のクリスマスは、まだ由菜とは付き合っていなかった。家族と食事に行く途中で、たまたま由菜を見かけたが、声はかけなかった。いつもは紺色の制服を着ているのに、その日は私服で白いコートを纏っていた。いつもよりもきれいで、声をかけるなんて、できなかったのだ。


「由菜。」

待ち合わせ場所に決めていた本屋の前で少しうつむいて立っている由菜を見て、今年は、迷わず、声をかける。由菜は少年に気づいて、微笑んだ。由菜は、白いコートを着ていた。

「雪だね。」

由菜が少年に話しかけて、空を見上げた。

「初雪だ。」

少年も答えた。


二人は、商業ビルの中にある、高校生にとっては少し高めの店に入り、晩ご飯を食べた。淡いライトの下で美味しそうに食事をする由菜に、少年は少し心が温まった。



「コートがさ。」

食事と少しのショッピングを済ませ、由菜の家まであと少しと言うところで少年は言った。

「コートが、去年と同じだ。」

「え?」

由菜は首を傾げた。去年…去年のこの日、あなたと会っていたかしら。

「去年、由菜を見かけたんだ。家族でレストランに向かっている途中に。」

「そうなの?」

少年は頷いた。そして思い出す。去年、人混みにぼやけた光の中で、ひときわ輝いて見えた由菜。

そして今日由菜を見つけたときに思ったことを。きれいで、きれいで、だからこそ、脆く壊れそうに見えた。守りたくて、抱きしめたくて、仕方なかった。

「とてもきれいで、忘れられなかった。」

由菜は少し驚いて、そして照れくさそうに笑った。少年は由菜の手をもう一度強く握り返し、呟いた。

「その頃にはもう、すごく好きだったんだ。」

由菜は驚きと照れを隠せないまま少年を見つめた。

「普段、そんなこと、言わないのに。今日は、どうしたの。」

少年は首を傾げた。ああ、確かに普段はこんなことは言わないな。今日までに、何度由菜に好きだと伝えただろう。

「でも、嬉しい。ねえ、私も去年の今頃にはもう好きだったのよ。去年私を見たのね。知らなかった。今言ってくれたこと、全部嬉しくてたまらないの。絶対に忘れない。これから、ずっとよ。」

「記念を、作るの?」

「いいえ、心にずっと留めておくの。」

由菜は少年の手をゆっくりとほどき、そして少年を抱きしめた。

「星降る傘」と同じ二人の物語です。星降る傘は春から夏にかけての話でしたが、今回は冬のお話。

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