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招かれざる客

招かれざる客とは俺のことを言うのだろう。

とりあえず家を出て、いく宛もないままぶらぶらする。

道中の可愛い女の子に挨拶をしようと近寄ったり、パンやケーキのいい匂いに惹かれて人の家についふらりと立ち寄ったりしながらどんどん行く。

たいてい、嫌がられる。当たり前だ。俺は招かれざる客。嫌われるのが運命だ。

目的地はないが、お腹が空いてきたから何か食べよう。

どうせ食べるなら素敵な場所がいい。花が咲いていて水が綺麗で風が爽やかな場所。だけど鳥はいなくていい。俺は鳥だけは苦手なんだ。

条件に合う場所がないかないかとどんどん進むと、突き当たりに赤い屋根の広い家がある。庭には花が咲き乱れていて水が引いてある。とても広くて綺麗な家だ。気に入った。鳥もいないし。

玄関に近づくと犬がいた。犬は平気だ。鳥と違ってつついたりしないから。

玄関は開く気配はない。誰かいないのかと、窓を一つ一つ確認する。中を覗き込むと、小学生くらいの男の子がいた。でも窓は開いていない。俺は中に入れない。

他の窓も確認しよう。隣の部屋では女の子がピアノを弾いていた。こちらは多分中学生。新品の制服がまだぎこちなく見える。ピアノの腕前はまあまあだ。何という曲だろうか。とても綺麗な旋律で好感が持てる。

こんな調子で家のまわりをまわっていると、ひとつだけ開いた窓があった。俺は迷わずそこから侵入する。家の中も片付いていて、テーブルの上には庭にも咲いていた花が飾ってある。綺麗だけどかわいそうだな。きっと庭から摘んで来られたのだろう。

さっきの女の子の部屋に行ってみる。半開きのドアからおそるおそる部屋を覗いてみるとさっきと変わらずピアノを弾いていた。でも曲は変わった。俺はこの曲なら知っている。ベートーヴェンだろう?

女の子のピアノに聞き惚れてついピアノに近づいてしまった。女の子は気づいていない。よかった。驚かさないうちに部屋を出よう。

隣の部屋が小学生くらいの男の子の部屋だ。何をしているのか窓の外からじゃよく見えなかったが、今ならわかる。男の子はカードゲームの攻略本をみながら必死にゲームの練習をしているらしい。近いうちに友達と対戦でもするのだろう。ああ、そのカードを動かせばいいよ、と教えてやりたい。俺の声は届かない。それならば、耳元で。



「虫だ!!」男の子が叫ぶ。びっくりした。隣で叫ぶなよ。男の子の手が俺の方に向かってくる。やめろ、と咄嗟に思う。

何をされるのか、想像はたやすかった。やめろ、ともう一度思う。俺はここにご飯を食いにきたんだ。今、今、こんな小さな男の子に………。





平らになった俺の体。そうか、俺はこんな体をしていたのかと自分を見て思う。ああ、綺麗な花なんかに惹かれるんじゃなかった。男の子の手のひらの中で平べったくなった俺。なんて見苦しいんだろう。なんて哀れなんだろう。俺の体は白い柔らかいものに包まれる。もうお腹は空いていない。

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