戦車?なにそれ?ネコの事?
・・・こいつの出番が来ませんように・・・
今日は大会の二回戦『東西対決』だ。
「んじゃ行くわよー」
「うーい」
「しっかりしなさいよ!恥かかないでね!」
「うーい」
気のない返事を聞きつつ、ケンとリーベ共に東の控え室に行く。
「まあ、昨日の試合で分かったやろ。補欠が必要な理由が」
「十分にな・・・」
「そうね~。あんなにバシバシすごい試合ばかりだったら、モンスターはもたないわ・・」
「せやねん。一応、試合が終わったら控えの間に復活するんやけど・・・」
「・・・けど?」
「ダーリンは、死んだらそこで終わりやねん」
・・・・・・・・・・・・・は?
「へー。それって普通だろ」
「は?あんた本気で言ってるの?」
「は?当然だろ?俺の世界じゃそれが普通だ」
「せやなー。なっちゃんそうやし。ま、しゃーないな」
・・・そんな簡単に認めていいことなの?・・・
「どした?コニー。いくぞ~」
「まって!!」
あたしは納得できないかった・・・
「あんた!何でそんなに冷静なの?死んだら終わりなのよ!?なのにどうして・・」
「落ち着けって・・・それが『普通』なんだよ。この世界の奴がそうなら、むしろ『やりやすい』だろ?」
「へ?どういうこと?」
「つまりだ・・・ココの奴らは、実質的に『死なない』って事は、だ・・・。本気で掛かってもいいってことだよ」
「なるほど、そうなるんか。ダーリンは優しすぎるわ」
「当然。俺は紳士だぜ!」
「え?・・・つまり、あんたは死んでもいいって事?」
「死ななきゃいいだろ?それだけだって事だよ」
・・・理解できない・・・
「怖く・・・ないの?」
「う~ん・・・怖い・・ねえ・・。うん。怖いな」
「だったら・・」
「でもな~。恐怖は愛でてナンボだぜ」
「ダーリンかっこええ!」
・・・ふぅ・・今は考えるのはよそう・・
「わかった、あんたがそう言うなら。あたしは、何も言わない・・・だけど、覚えておいて・・・あんたが怪我したら・・・あんたが死んだら・・・」
・・・あたしが悲しむって事を・・・
「?どした?怪我がなんだって?」
「なんでもない・・」
そう言って私は歩くのだった・・・
ガチャ と、扉を開けると・・・
「お兄様~!!」
「うお!ヴァイオレットちゃん!」
ヴァイオレットちゃんを始めとして、8人と8体のモンスターが揃っていた・・・8人?
「あれ?一人足りなくない?」
「ああ、ローズは先に行きました。なんでも『登場にはそれなりに準備が要りましてよ!』って言って走って行ったそうです」
「馬鹿ね」「馬鹿ですね」「馬鹿だな」
三段活用も揃い、改めて自己紹介をする・・
「初めまして。補欠のケンのマスターをしてます、コニーです。よろしくお願いします」
「はい!聞いてます!今日はよろしくお願いします!」うれしそうなヴァイオレットちゃん。
他の面々からも「よろしく」と言われて、ようやく安堵した。
東の面々に、あまり大きなモンスターはいない。これは、相手に警戒心を与えないようにと、タイジュのおじさんの考えだった。
しかし・・・これは・・『ネコ』?しかもブクブク太っている。まん丸だ
「なんじゃい小娘!」 ネコがしゃべった!!
「こ~ら!脅かしちゃダメでしょタマ!」
「しかし主。この娘、ワシがあまりに愛らしいからと誘拐を企てておったのだぞ!」
「そんわけないでしょ。んもうタマったら・・ごめんなさい。コニーさん」
「いいのよヴァイオレットちゃん・・・その子・・出場するの?」
ざわ! なぜか一気に周りがざわついた・・・
「そうなんです。一応『Sランク』なんですよこの子」
「そうじゃそうじゃ!強いんじゃぞ!」
「知ってるって、大丈夫よタマ。私は、タマが可愛いだけじゃないって分かってるから」
そう言ってふんわり抱き上げ、ナデナデするヴァイオレットちゃん。
ゴロゴロ言い出すネコ。・・・よくわかんないな・・
「ヘー・・強そうだな・・・」 ケンがそんなことを言う。
「そうなの?私にはわかんないわ」
「だろうな。ありゃ、相当のてだれだぜ」
ネコとヴァイオレットちゃんが仲良くモフモフしている・・・強そうには・・見えない・・
「そろそろ一戦目が始まります。皆さん行きましょう」
そう言って引率するヴァイオレットちゃん・・・少し後、私はケンの言葉の意味を知るのだった・・・
「おまたせしました!二日目、『東の大陸 対 西の大陸』を始めます!!」
ワーーーー!!
「始まったな」
「そうね。ウチのチームには、昨日みたいなすごそうなのはいないけど・・・」
「十分強そうだろ」
「うん」
今日は、ケンの出番は無い。初日に欠場するようなモンスターは、やはり少ない。
「今日は、どんな戦いが見られるかな。楽しみだ」
「そうね」・・・あんたが死ぬかもしれない相手はチェックしとかないと・・・
「それでは、第二回戦第一試合を始めます」
アナウンスが流れる・・
カーン!
開始の音が流れたのだった・・・
・・・覚えられることは何でも、俺の力にする!・・・
カーン!
試合開始の音が流れた・・・にもかかわらず・・・
「出てこないな・・・」
「せやね」
第6試合まで進み、『チャリオッツ 対 ブーヨモノリス』の試合になったのだが・・・自陣のモンスターとマスターが出てこないのだった。
相手モンスター『ブーヨモノリス』一言で言うなら『黒い壁』だ。どうやっているのか、浮いている。時折、顔や手を壁の表面に浮かべている。
「不戦敗?いや、控え室では全員いたしな・・」
「急にお腹が痛くなってトイレにいったんちゃうの?」
「んなばかな」そう言って笑う俺とリーベ。
こうして開始している事を考えれば、審判側は両者が揃っていることを知っているはずだ。てことは・・・
「オーーーーッホッホ!」
・・・やっぱりな・・・
「やっと出て来よった」
「皆さんお待たせしましたわ!私、ローズの華麗なるモンスターの登場ですわ!」
どっかーん!
闘技場の壁の一部をぶち壊して。一体のモンスターが登場した。
モンスター『チャリオッツ』戦車と言うに相応しく、その車体を引くのはドラゴンゾンビだ。それを御者するのはピエロの格好をしたネクロマンサーである。
リーベちゃんの話だと、このチャリオッツは飼うにはとても不向きらしく、制御し自分のモンスターにしている例は極めて少ないのだとか。
「さあ!やっておしまい!」
シャーシャッシャッシャ! グオーー!
チャリオッツが鳴き、ものすごい勢いでモノリスに突っ込んでいく。モノリスは先ほどと変わらず、ただ浮いている。
ドッカーン!
なかなかの音がして・・・モノリスがバラバラになった。
「オーーーホッホッホ!」
ローズの笑い声がこだまする。
「あれ?おわり?」
やけにあっさり決着がついたな・・
「んなわけないやろ。よー見てみ」
みると、モノリスの破片がチャリオッツの足元に移動し・・・破片から、無数の手が伸びていた。
「な!なんですの?」
ローズが気が付くころには、すでに無数の手に絡め取られているチャリオッツ。
シャーー!グオーー!
チャリオッツが暴れるが・・・すでに遅い・・
手はだんだんと壁に戻り始める・・・そして・・・
ガシャン!
と、チャリオッツを内包したまま・・元の壁に戻ってしまった・・・
「キャーーーー!わたくしのチャリオッツがーーー!」
「どっかで見たな。この光景」
「ま、しゃーないな。向こうが一枚上手やったわ」
第七試合が始まる少し前、俺は控え室に呼ばれていた。
「え?チャリオッツがダメ?」
そう、チャリオッツが先ほどの試合で怪我を負ってしまった、と言うことなのだった。
「そうなのよ」と言うのはコニー。
「なんで?死んでも平気なのに怪我は負うんだ」
「えーっとね。ただで復活できるわけじゃないの。ある程度ダメージを負った状態で復活が許される。ってことなのよ」
「せやな。試合以外では、こんなこと(死んでもok)なんてあらへん。せやから、ある程度はリスクを負ってもらうことにしとるんや」
「なるほどね」
「だから、明日の試合以降は、ケンが『ランク3』として出場してもらうことになったから」
「了解、それだけなら早く会場に戻ろうぜ『ナーガ 対 ゴーゴン』が観たいんだ」
そう言って歩き出す俺。
「・・・そうね」と、不安そうについてくるコニー・・・
・・・俺は大丈夫だっての・・・
第七試合は、とっくに終わっていた。なぜかゴーゴンが石になっており、後で誰かに理由を聞く必要がある。
そして、第八試合が終わり。第九試合『サマエル 対 ギルガメッシュ』は恐ろしいことになった。
サマエルは12枚の翼を持ち、それぞれに属性を持たせた恐ろしい天使だ。さらに煌びやかな両手剣を持ち、凄まじい剣戟を繰り出している。
一方ギルガメッシュは12の武器を背中に浮かせ、一本の刃が渦巻く剣を振るっている。その刃は回転するらしく、サマエルの剣を巻き流しながら攻撃をしている。
「せやあ!」
「はあ!」
と、お互い裂帛の気合いと共に攻撃を繰り返していた。
「このままでは決着がつかんな・・」と、サマエル。
「そうだな、ちまちまやってんのは性に合わねえ」返すギルガメッシュ。
『はぁぁぁぁ!』気合を入れあう二体。
「何がはじまんの?」
「まあ観ててみ」
「オドの海に還るがいい!『天下逆輪!』」
「消えされ!『天地乖離!』」
ゴゴゴゴ・・・・
恐ろしい音と共に・・・天と地が・・・世界が割れた・・・
結局・・・二体共消耗しすぎて、引き分けとなってしまった。・・・しかし・・
「しかし、やりすぎじゃね?」
「いいんよ。ここなら世界が滅んだりせんしな」
「そういうもん?」
「そういんもんや」
そして第十試合・・・ヴァイオレットちゃんとネコ?の出番となった・・・
『レヴィアタン 対 タマ』
・・・は?・・・何この表示・・・
「タマ~がんばって~」
「まかしときんしゃい!」
そう言って走って?(超のんびり)行くタマ。
「ついにタマの出番か~。ま、タマの勝ちやろな」
「なんで?」
「あ~・・・まぁ、強いからなぁ」
そういうリーベちゃん。
「あれ?相手いないじゃん」
そう、相手がまだいないのだ。見ると、ホースを持った若い男がいた。
「あれが相手?」
「ちゃうで、よー見てみ」
そう言うリーベちゃん。見ていると、男が水を撒き始める・・・しばらくして、少し大きめの水溜りができた。
「なにやって・・・」
ズゴゴゴゴゴ・・・・・・
水溜りから・・巨大な水龍が現れた・・・
「あれがレヴィアタンや。原初の龍とも呼ばれとる」
「ほへー・・」
でかい・・・全身が出て来れず、水溜りにまだ体が沈んでいる・・・
「これはこれは・・・こんなところで会うとは・・・奇遇ですな」
レヴィアタンが喋ったのか、恐ろしく低い声が会場を包む。
「ニャー。なんじゃお前、まだこんなことしとるのか。難儀じゃなぁ」タマが答える。
「お互い様じゃないですか?まぁいい。始めましょう」
それが合図だったように・・・
カーン!と開始の音が鳴る。
ザーーーーーサパーーン!
いきなりの大津波がタマを襲う!・・・しかし・・
「なんじゃ、いきなりじゃのう」
のんびりとタマは、その場に留まり・・・波が来るに任せていた。
「さすがですな。ではこれではどうですかな?」
ビシッ
一気に水が凍りつく・・・だが・・
「ふう、涼しくなったのぅ」
やはりのんびりとするタマ。
「・・・・むぅ・・・」
何の効果も得られないと見ると、さすがに唸るレヴィアタン。
「はぁ!」と気合を入れる・・すると・・
ボゥ!ゴーーー!
一気に水が燃え上がる・・・しかし・・
「なんじゃ、暑くなりよったわ。餅餅・・おお!あったあった」
・・・餅を焼き始める始末・・・
「どああ!」
ズズン!
ついに体当たりをするレヴェアタン!
「餅はうまいのぅ」・・・なんて聞こえなければすごかったのに・・・
怯むレヴィアタン・・・そこに・・
「そろそろ止めんか?お前じゃワシには勝てんことくらい理解っとるじゃろう」
諭すように言うタマ。
「ええ、分かっておりますとも。しかし・・・ここまでとは・・」
「世界から見れば、おぬしは十分に強い。それでは満足できぬか?」
「いえ、そこまで未熟ではないつもりです」
「では・・もういいか?それとも『結果』が欲しいのか?」
「・・・降参します」
「それでよい」
そう言うとレヴェアタンは、もとの水溜りに戻り消えてしまった・・・
ブルブルっと水を払うと、タマはヴァイオレットちゃんのところに戻っていった。
「タマやったじゃない!」
「当然じゃよ。ワシ強いもん」
・・・どうなってんだ?・・・・
なぜか ポン とリーベちゃんに肩を叩かれ・・・
「がんばりや、ダーリン」
と、言われてしまった・・・
「第二回戦『東の大陸』の勝利です!」
ワーーーー!!
歓声に包まれながら、会場を後にする。
「明日は『北 対 西』か・・・」
「せやね。ダーリンの出番はもちょっと後かな」
「よっしゃ!」
・・・世界はまだまだ広い・・・
あとがきです。
いやー戦闘いいですね。ここまで読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
次回予告!大陸間対抗戦もいよいよ中盤。長いなぁと作者は思う。そこで一気にすっ飛ばしちゃえと考え・・・げへへ
次回!もんすたーにっき「敗者?なにそれ?負債の事?」・・・飛べねえ豚は養殖だ・・・