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兄の悲恋と、燃の誓い(夏の終わり、別荘での告白)

「いらっしゃい。これから食事なんです。どうですかご一緒に」

燃とかれんを見るなりシャケが言った。

ここは雷の別荘。燃は約束通りかれんを連れて結果報告にきていた。

「とりあえず泊まって行けば?部屋くさるほどあるし」雷が進める。

「………もう遅い。そうしたほうがいい」

登夢もそう言うので、二人は厄介になることにした。


シャケが釣った鯛を使った豪華な夕食を満喫した後、5人はそれぞれ部屋へ向かう。

かれんは鍵のかかる管理人室。

燃は適当に部屋を決めると、ベットに横になった。


燃は、どれだけ考えてもかれんの夜泣きの原因がわからなかった。


(おばあちゃんのことか? それとも、職員が言った**『もう一人の肉親』**のことか?)


わからん。

わからん。

わからんぞ。

こうなったら直接聞くまでだ。


燃は管理人室に向かった。

扉をノックする。

「誰」

「俺だ。燃だ」

扉が開いた。

かれんは何も言わない。


「また眠れないのか」

彼女は答えず、燃を見つめる。


「また泣いているのか」

今度はピクッと反応した。

すかさず燃は強い口調で言った。

「おまえの眠れない理由って、あのおばあちゃんか。それとも、もう一人の肉親、兄さんなのか。どうなんだ」


かれんは悲壮な顔をして黙っていた。

瞳は人形のようにひらかれたまま、震える唇から何か言葉がこぼれ落ちそうになるのだが、声にならない。


そして声のかわりにこぼれ落ちたのは、大粒の涙だった。


予想外の反応に燃はあわてた。

そして後ろに人の気配。

シャケだった。

「し、失礼しました!」と叫んで、シャケはダッシュで走り去った。

「シャケまて!あとで話すからとりあえずみんなをあつめといてくれ!」

シャケに聞こえたかどうか燃には分からなかったが、今はかれんを何とかしないと。


燃はかれんに話し出した。

「ま、待てよ。なんで泣くんだよ。俺そんなにきついこと言ったのかよ。なあ、泣くなってば」

けれど、一度こらえるのに失敗すると、涙はあとからあとから溢れるように涌き出てくる。


燃は彼女の肩を抱きかかえ、自分に言い聞かすように繰り返した。

「落ちつけよ、落ちつけってば。もう泣くなって。大丈夫、大丈夫だよ」

燃はかれんの頭を引き寄せ、涙を手のひらでぐいぐいと拭いてやった。

彼女の顔が手のひらにすっぽり収まってしまうぐらい小さかったことに驚いた。

とても華奢で弱々しく、壊れてしまいそうだった。


(とにかくかれんを守ってやりたい、誰にも渡したくない)


燃の想いが通じたのか、幾分かれんは落ち着いた。


「お願い。これで最後にするから、おもいっきり泣かせてくれる? もう一人きりで泣くのは嫌なの」

最後の台詞は涙声だった。


燃は、**「俺が全部受け止めてやる」**と心の中で誓い、彼女を強く抱き寄せた。

かれんは言葉通り、わんわん声をあげて泣き始めた。

まるで母親とはぐれてしまった幼い子供のように。


あらかた泣き終わると、燃のTシャツで鼻をかみ、泣きつかれたのかそのまま眠ってしまった。

燃はそっとかれんをベットに運び、その場を去った。


「燃ちゃんやっときたね。待っていたよ。登夢と雷がリビングで待ってる。行こうか」

シャケにリビングに引っ張って行かれた燃は、登夢と雷を前にした。


「みんな相談があるんだ」

燃はそう切り出し、今までのこと、かれんの夜泣き、おばあちゃん、謎のもう一人の肉親(兄)、そしてかれんをつけてここまできたことをすべて話した。


「なんでかれんは泣き出したんだろう。それになんで兄さんのことをかくしてたんだ?」


燃がみんなに聞くと、しばらくしてからシャケが言った。

「ひょっとしてマスターがかれんさんの兄さん」


(なんで? なんでマスターがかれんの兄さんなんだ?)

燃は混乱した。


「なるほど。それでつじつまがあう。杠葉家の近くに店をもっているのもうなづける」

雷が言う。


燃はハッとした。

風見鶏でマスターがかれんにコーヒーを入れてくれた時のことを思い出したのだ。

「俺とかれんにコーヒー入れてくれたとき、マスター馬鹿に丁寧だった。

それにいつもとは違うカップを出してきた。

それにかれんのやつ**『こんなコーヒーを入れてくれる人なら彼氏にしてあげてもいいかな』**て言ってた」


シャケは、いつもからは想像できない鋭い目つきになった。

頭脳がフル回転している時の顔だった。そして結論をだした。


「かれんさん、マスターのこと好きだったんだ。誰にも言えない悩み、一人で夜泣いている悩みってのは、好きな人が兄さんだったてことだ」


燃の頭の中で除夜の鐘が鳴る。

「がーん、がーんと響いてくる」。


(……そうか。『彼氏にしてあげてもいいかな』という、あの一言)

(あれは、俺への『からかい』じゃなかった)

(マスター(兄)への『叶わない恋』を隠すための、彼女の……精一杯の『冗談ブラフ』だったのか……!)


「がーん、て、いつまでもがーんとしとれるかい!」

燃は叫んだ。自分に気合を入れるためだ。

「そうだ、ファイトだ燃ちゃん」シャケが言う。


(そうだ、落ちこんでいても仕方がない!)


「ふっふっふ。マスターがかれんの兄とわかった今、俺の前に立ちふさがるものは何もない。堂々とかれんにアタックしてやる。兄さんなら手出し出来まい。ライバルが一人減った。はっはっはあ!」


「燃ちゃんあんたって人は」

呆れたようにシャケが言う。

「ふっ、お前に言われる筋合いは無い」

「御尤も」と雷も言う。

登夢にいたっては大きく頷いていた。


「ところでどうするの燃ちゃん」

シャケが再び真剣になって聞いてくる。

「だからこれからどうするかだよ。いままで通り生活出来る? だって他人同士なんだし、一緒に暮らすのまずくない?」

燃は全く考えてなかったことを指摘され、途方に暮れた。


「………いままで通りでいい」

悩んでいる燃に向かって登夢が言った。

「そうそう。なんってたって燃ちゃんなんだし。これがシャケなら問題があるがね」

雷が言う。


「………とにかくもう遅い。寝よう」

時計を見ると午前二時を回っていた。


自分の部屋に戻った燃はベットに横になりながら考えた。

(これでかれんの夜泣きがなくなるかな)


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