風の中の始業式
それからいろいろあったが、燃たちは無事始業式、9月1日を迎えることになった。
あの後から、かれんは大きく変わっていた。
どう変わったかというと、なんと朝早く起きるようになったのだ。
朝食もかれんが作っている。
本来ならかれんはまだ夏休み期間だったが、教育実習があるとかで、燃たちよりも先に出かけてしまった。
燃と仁は朝食後、それぞれの学校へ向かう。
仁も朝練があるので出かける時刻は燃と同じだった。
「姉貴の心境の変化についてなんか知らん」
仁が燃に聞いてきた。
「わからんなあ」燃は平然と答える。
「……好きな男でも出来たのかなあ」
首を傾げながら仁は言った。
(好きな男かあ。確かに好きな男がいたのは事実だな)
燃は心の中で呟く。
(心境の変化かあ……まあそのうちかれんの方から話すだろう)
そんなことを考えながら、燃は学校へ向かった。
今日から新学期だが、校舎や生徒たちにあまり代わり映えはしない。
強いて言えば、シャケがバイク通学し始めたぐらいだった。
始業式もいつものように校長の短すぎる挨拶が終わり、生徒たちが帰り支度を始めようとしていると、新しい先生と教育実習生の紹介になった。
新しい先生は英語担当で、谷神未来。
燃が(言わずと知れた谷神姉妹のお姉さんだ)と思った瞬間、雷の**「ぬあぬにぃぃぃぃぃ~」**という叫び声が講堂にこだまする。
続いて教育実習生の紹介になった。
雷の反応に気をとられていた燃はよく聞いていなかったが、女性で担当は美術だそうだ。
燃が壇上から目を離すと、いつの間にか登夢とシャケが近くに来ていた。
「ん、どうした二人とも。お前らもっと後ろの方だろう」
燃が言うと、登夢が問いかける。
「……燃、かれんさんは教育実習生か」
「ああ、今日から実習だって。お前よく知って……」
燃は言いかけて言葉を失う。
女性で美術の実習生……嫌な予感がした。
そんな燃に、シャケがとどめを刺すように言った。
「いま挨拶している人……あれは……かれんさん?」
燃はシャケの言う「あれ」に恐る恐る視線を移した。
するとそこには、挨拶しているかれんの姿があった。
「「「「な、なにー」」」」
燃、シャケ、雷、登夢。思わず綺麗に4人でハモってしまった。
(や、やられた……かれんの言っていた**「びっくりする事」**とはこのことだったのか)
燃とハモっていたということは、登夢や雷もこのサプライズを知らなかったということだ。
「ふっ……くくっ……わっはっはっはっはあ……」 燃の横で、登夢が笑い出した。
「わっはっはっはっはあ……」 いつの間にか燃もつられて笑い出していた。シャケと雷も大笑いしている。
その笑い声に気付いたかどうかは定かではないが、かれんもうふふというあのいたずらっぽい笑みを浮かべている。
どうやら新学期も退屈しないですみそうだ。夏は終わった……でも、燃たちの物語はまだ終わらない。
他の生徒たちのざわめきを気にもせず、燃たち4人の笑い声は快晴の空に響き渡っていた。




