6-2 候補
「アリア様をスオウ男爵夫人にされるのが、一番安心できると思うのですが……」
以前にも言われたことだが、到底いい案には思えない。
今朝も、アリアの胸の谷間に生唾を飲んでしまうような下賤な事をしてしまった。
「私には、その資格はない」
アリアには、幸せな人生を歩んでほしい。それを傍らから支援することだけが私の使命だ。
アリアは護るべき相手だ。アリアに向ける感情は、恋情と呼べるものではない。だが、それ以上の何かが胸の奥で疼くのを止められない。
「今年の編入生に興味深い人物がいます」
ターリスが微妙な苦笑いを漏らした後、書類を一つ差し出した。
「新年度に、四年生として留学生として来ます。国内でお相手を探した方が、ヴァーナード様が管理しやすいのは承知しております。ただ、ヴァーナード様が希望する条件を珍しく突破していましたので。まだ第一報告ですので、子細は追加で調査しますか?」
ターリスが手渡した書類に目を通しながら、ヴァーナードは思案する。ナツメ・ライラック・ソレイユ。ソレイユ公爵家の名を見た瞬間、一抹の不安がよぎった。
ブルームバレー聖国からの特別留学。歳は十八、婚約者はなし。貼り付けられた写真が本物ならば顔はいい。ここまで条件のいい人物がこうも上手く転がり込んでくる者か?
「ライラック、ソレイユ?」
「はい、ライラック伯爵家の子息として学内では過ごす予定ですが、実際はソレイユ公爵家の長男です。何かあれば国際問題になりますので」
「ソレイユ家か……あの?」
「はい、あの」
ブルームバレー国は聖女が守る国だ。二十年ほど前、新たな聖女が見つかるまでは一時危機があったらしいが、今は聖女の力でもっとも安定した国と言われている。
そして、その国の王族の傍系であるソレイユ家は、魔法の基礎研究に力を入れている。そこから派生した製品で巨万の富を得ていた。似た分野だが、ライバル会社というのも躊躇う相手だ。
「………ソレイユ家か」
人差し指で机を叩く。
サナリア国内では、並ぶ会社は数えるほどしかいなくなった。少し格下程度の会社であれば、こちらが掌握し、いざという時に制裁を加え、アリアを護れるが、格上の相手に嫁ぎ、そこでアリアに何かあった時、助けることは難しくなる。
だが、そこで幸せに暮らせるならば、これ以上ない場所になるだろう。
「調査を続けてくれ。留学の理由も含めて。こんな土地に来るからには、もしかすれば魔法の扱いに難がある可能性もある」
「かしこまりました」
魔法が使いにくい土地と言うことは、他の土地では処分対象になる魔力暴走を起こしやすいものでも暮らせるということだ。
ブルームバレー国は確か魔法を使えることが貴族の絶対条件だったはずだ。
書類に視線を落とす。
この男の横で、アリアがいつものふ抜けた顔で笑う姿を想像した。
前世の記憶にある彼女は、竜王国で王族に見初められながら、権力闘争の犠牲となった。彼女の幸せを願う気持ちは、その記憶と共に深く刻まれている。
王族ではないとはいえ、それに類する権力者にアリアを任せていいのか。
記憶の中にある前世の彼女は、手足すら奪われ自由に暮らせなくなった。それなのに私にふ抜けた笑みを向けていた。
思い出しただけで胸に痛みを感じる。
アリアには幸せになって欲しい。だが、その隣に私がいることは許されない。
あんな状況になった彼女にすら劣情を抱いた私では、到底、似つかわしくない。
手足を失う(物理)ですが、前のアリアは別に困っていないのでご安心(?)ください。
ヴァーナードの記憶の前のアリアはあくまでもヴァーナード視点のアリアでしかありません。




