4-2 魔の子守歌
ヴァーナードが就寝する前に使うものと朝起きて使うものを準備しておく。水差しの水をきれいにしたり、入浴の準備を整えておく。実家にもあったが、ここには魔法陣を使って家具がたくさんあって、蝋燭ではなく魔法陣で灯りをともしていた。
「アリアさんに夜番までしてもらう予定はありませんが、そういった仕事があると今晩は経験していただきます」
そう言うと、続き部屋に入る。最初にメイド服に着替えた部屋だ。
スカートの短いメイド服が二着かかったままになっていた。今日は渡された長い丈のメイド服だけど、明日はあっちを使っていいか聞いてみよう。
「基本的に夜中に起こされることはありませんが、暗殺未遂もあるので一人はここにつめています。アリアさんも夜に何かあれば私を起こしてください。仕事ですから、気になさらずに」
「はい」
夜中に起こされるのは腹が立つのに、大変な仕事だ。
次男のアリルド兄がいきなり夜中にピアノを弾き出した時は、母と一緒に殴りに行った。メイドさんは、ご主人様に起こされてもすぐに仕事をしないといけないとは、大変な仕事だ。
「ここで今日は眠ればいいんですねっ」
熟睡させないためか、簡易的なベッドがある。それに、床に毛布が置かれていた。
もうシファヌ先輩は優しい面倒見のいい人だと分かっている。だから、お前は床で寝ろと言う意地悪をされるとは思っていない。
「アリアさんは、ベッドを使ってください」
「大丈夫です! このベッド二人くらい眠れますよ!」
やっぱりベッドを譲られた。想定していたので解決策は考えていた。
「………それは、流石に」
「考えてください。新人メイドが仕事を教えてもらっているのに、先輩を床に寝させられると思いますか?」
「ご婚約者様と一緒のベッドで眠るのもいかがなものかと」
正論で論破したはずが、別視点の正論を投げ返された。
「ぬぐぐ。じゃあ、妥協案ですっ。私が壁際で寝ます」
攻防の末、シファヌ先輩を床で眠らせることはなかった。
隣で寝転がるシファヌ先輩の顔が近くなった。もっとお姉さんかと思ったが、二十代半ばくらいのひとだった。
「おやすみなさいです」
「はい、明日は朝の仕事もしてもらいます。朝が早いですからもう寝てください」
灯りを消すと、月の明かりが小窓から入り込み、薄くあたりを照らしていた。
ヴァーナードが私に意地悪をしていたのだから、メイドの仕事でもきっと色々な嫌がらせを準備しているとわくわく……覚悟していた。
なのに、メイドのお仕事を教えてくれるシファヌはとてもいい先輩だ。
仕事は普通にあるけど、今日もお皿を割ったし水の入ったバケツをひっくり返した。怒られたが一緒に片づけてくれた。
普通に、人手が足りないだけだったのだろうか。実際、私はシファヌ先輩としか会っていない。
うとうとしながら、まだシファヌ先輩が起きているのを感じる。寝付けないのかなと思って、寝ぼけながら子守唄を歌ってあげて、眠りについた。
次に目が覚めたのは太陽の光が起きろと騒ぎだしたからだ。
「んむにゅ。おはようございましゅ」
「ん……」
横のシファヌ先輩が、眠そうに目を擦る。もうちょっと寝ててもよかったのかもしれないなぁと考えていたら、毛布を跳ね飛ばしてシファヌ先輩が飛び起きた。
「っ! 寝坊ですっ。三分で支度してください!」
悲鳴に近い声を受けて、慌ただしくメイド服に着替えた。




