4-1 魔の子守歌
学校は、秋口から新年度で、冬までが前期、冬休みを挟んで春先から初夏までが後期になる。
今は年度が変わるお休みの期間だ。冬休みも夏休みもそれぞれ二ヶ月あって、前期後期もそれぞれ四ヶ月半ほどだ。
なので私は約二ヶ月、みっちりと修行し、完璧なメイドになってヴァーナードをぎゃふんと言わせるのか目標だ。
そう、これはなぜか婚約破棄するはずがメイドにされた話ではなく、メイドからメイド長へ成り上がる話になるのだ。
「アリアさん、雑巾の絞りがきつ過ぎます」
「しっかり絞れって言われたので」
「普通のご令嬢なら、ここまで絞れないと思うのですが……」
「力だけは誰にも負けません! 鍛えてますから!」
なぜか胸を張ると、先輩が微妙な顔をした。
掃除の基本は上からだと言われて雑巾で上から順に掃除を始めたが、ずっとダメ出しを受けている。
昨日と違ってより細かい仕事をするため、注意事項が多い。メモを取る時間もない。
基本的には掃除がお仕事だが、奥が深い。私は実家では家庭菜園以外は許可されずほとんどしてこなかった。理由は簡単だ。手伝うと仕事が増えるからだ。
「では、昼の休憩です。アリア様、お食事をお運びしますから着替えをお願いします」
「はい」
アリア様と呼ぶ時は婚約者でアリアさんと呼ぶときは後輩メイドとして扱ってくれているようだ。
けれど、あんまり私は使い分けられず、基本後輩メイドのモードになってしまう。
メイド服から婚約者用の部屋に用意されていた服に着替える。
持って来た服は全部洗濯に出されてしまった。用意された服は、多分高い。肌触りが高級だと訴えかけているので、できればメイド服でご飯を食べたい。
「お着替えはお済みですか?」
着替えができるくらい広いクローゼットで着替えて出ると、シファヌ先輩がテーブルに昼食を並べていた。
「ごっはん!」
つい声が弾む。実家なら母に品がないと叱られるところだが、ここにいるのはシファヌ先輩だけだ。急いですまし顔を作る。
「あれ、シファヌ先輩のお昼はここで食べるんじゃないんですか?」
「メイドがご婚約者様と食事の席を共にすることはございません」
「え……」
実家では、結構普通にメイドさんとご飯食べたりしていたのに。普通ではなかったのか。
「えっと、一緒に食べちゃ、いけないですか」
「……」
「その、お仕事中の休憩なら、一緒に食べられるかなって思ってたから」
学校ではぼっちだった。別に一人のご飯が嫌なわけではない。食べ物と真剣に向き合う時間になる。だけど、夏のお休みで実家に帰るはずが帰れなくなって、家族とご飯が食べられると思っていた。家族や誰かと一緒に囲む食卓の温かさを知っていると、一人で向き合うお皿が少し冷たく感じる時もある。
「私の食事は、下に準備されていますから」
「……はい」
わがままを言って困らせてはいけない。
一人でお昼を食べて、休憩時間の間に自分の部屋を掃除して置いた。
長いスカートのメイド服を新しく用意してくれたが、短い方が涼しいし、何よりもものを引っ掛けるリスクを減らせるのではないかと気づいてしまった。
シファヌ先輩ととても根気強く私に指導している。スカートの丈を短くしたのは、失敗を減らすため。優しさだったかの。新人いびりなどと考えたことを反省する。
その後、休憩時間は休憩するように怒られ、午後の仕事を済ませた。
合間におやつの時間があって、また一人で寂しかったが、おやつはとても美味しかった。
「夕食も、一人ですよね」
しょんぼりと確認すると、ため息をつかれてしまった。
「メニューは、使用人のものになりますよ」
「はいっ」
久しぶりに人と一緒にごはんを食べる。些細なことだが、嬉しい。
ご飯を食べた後、お風呂に入ったり、就寝準備をさせられた。だが今日は夜の仕事の説明もあると言うのでこのまま終わりではない。
ふと、シファヌ先輩はいつ休んでいるのか……もしかして、ごはんの時間は休憩時間だったのではとはっとした。これからは、我が儘は言わないようにしよう。
「夜の務めと言っても、ヴァーナード様はメイドに娼婦まがいのことは頼みませんのでご安心ください」
「しょーふ?」
きょとんとして聞くと、シファヌ先輩が咳払いした。
「いえ、気にしないでください。メイドは、メイドの仕事だけすればいいと言うことです」
「はいっ」




